1.リリアンと悪戯好きの魔女
ワケあり三毛猫×冷血(?)王子の恋愛物語、スタートです!
楽しんでお読み頂けたら嬉しいです♪
「は!? 縁談!?」
―――パリーンッ
私の手から紅茶の入ったティーカップが滑り落ちる。
「あぁぁリリアン様!」
何やら私の侍女が叫んでいるが、そんなことなどどうでもいい。
……久しぶりにお父様から一緒にお茶をしようとお誘いがあったことに浮かれて、嬉しくてお気に入りの紅茶やそれに合うスイーツを選んで出してもらったというのに……縁談?
ふふ、聞き間違いかしら?
「……あら、嫌ですわお父様ってば。
ふふふ、ご冗談を」
「……冗談ではない。 これを見なさい」
そう言ってお父様は私に白い封筒を差し出してきた。
私は嫌な予感がしつつも、その封筒に付いている封蝋を見れば……。
「……! こ、こここれって……お、お父様、これは、王家の、紋章……」
「……そうだ。 その中にお前に婚姻を結ぶようお達しが来たのだ」
「う、嘘よ……」
婚姻? お達し……?
(この私が、婚姻……!? しかもお相手は、この国の王子様……!?)
私は嘘だ嘘だ、嘘であってくれと願いながら、震える手で既に空いていたその封筒の中身を取り出して、書かれていた文字を読む。
「……」
黙り込んだ私を見て、お父様は一言、残酷な言葉を私に突きつけた。
「……王家の命令は絶対だ。
諦めて王城に向かいなさい」
「っ、嫌……!!」
「っ、リリアン!!」
私はその手紙を投げ捨て、汚れた服に構わずにその場から走り去る。
(……私は男性が苦手なの、お父様も知ってるくせに……!)
私、リリアン・マレットは大の男性嫌い。
……その理由はこの容姿にある。
至って平凡な顔立ち。 それはまあ、良いとして。
問題は、髪と瞳の色である。
髪の色は、貴族では珍しい……というより平民の方に多い茶色。
そして瞳の色は、その真逆で殆どいないと言われているオレンジ色。
……どちらにしても悪目立ちするこの色は、今は亡き私の父方のおばあ様から瞳を、そして同じく髪の色は私の母方のおじい様から受け継いだもので。
断じて恨みがあるわけではないが、何もそこで隔世遺伝をしなくても……とは思った。
そしてこの瞳と髪の色の影響で、私は散々周りから虐められた。
特に男の子からは平民だと髪を引っ張られたり、瞳を見て気味が悪いと言われたりもした。
……唯一昔、家族以外の誰かに褒められたことがある記憶があるにはあるが。
それっきりである。
(……私自身、この髪と瞳の色は嫌いではないのに、周りは放っておいてはくれない……)
そうして悪口を言われるだけならまだしも、髪を引っ張られ、しまいには大人の男性にまで誘拐されかけた結果、本格的にお父様以外の男性が駄目になった私は、いつしか男性を避けるようになった。 大人になっても、今まで物珍しさからかたくさん来ていた縁談も全て断ってもらっていた。
そうして、私は結婚はせずに一人で生きていくんだ、とそう決めていたのに。
(……どうしてよりにもよって、断れない王子様からお達しが来るのよ……!)
王家からでは断れない。
そんなことをしようものなら、何が起きるか分からない。
(……だからって、お会いしたことも、お話したこともない人と結婚するなんてごめんだわ……!)
……それに、王子様にはあまり良い噂……いや、はっきり言って悪い噂しか聞いたことがない。
冷血非情な一匹狼……とにかく怖い方だと言う話ばかりを御令嬢方の噂伝に耳にしていた。
(……そんなの、嫌に決まっているわ……!)
結婚するのも、男性と一緒にいるのも、私には耐えられない。
……耐えられるわけがない。
(トラウマを植え付けたような方々と、一緒になるなんて考えられないわ……!)
逃げ出したかった。
何処か遠くへ。
とにかく、ここからいなくなれればそれでいい。
いくら王子様でも、絶対に嫌。
(これが悪い夢なら覚めてほしい)
走って走って気が付けば、森の中にいた。
生温かった紅茶を被ったドレスは、今では冷たく足にまとわりついて気持ち悪い。
息苦しくなった私は肩で息をしながら立ち止まると、背後から綺麗な声がした。
「……あら、お久しぶりね」
「……! オフィーリア様!」
そう私に声をかけてきた主。
それは、この国で一番の魔法の使い手である魔女・オフィーリア様だった。
☆
オフィーリア様に案内されて向かった場所は、昔にも訪れたことのある小さな小屋……オフィーリア様のお家で。
そのお家の中に入らせてもらった私は、オフィーリア様に今日のことを全て話した。
「……と、こんな状況なんです……」
「なるほど、貴女は縁談を今まで断ってきて一人で生きていく覚悟を決めていたのに、王家から嫁ぐようにお達しがあって断れないから助けてほしいと」
「……はい」
自然と、森に足を向けていたのはきっと、国一番の魔女であるオフィーリア様なら、この現状をなんとか出来ると心の中で思ったからだと思う。
オフィーリア様は私のことをじっと、頬杖をついて見ていたと思ったら、ふふっと微笑んだ。
「貴女も、もう19歳になるのね。 私の元に初めてきた時は、まだ7歳で、本当にまだ幼いお姫様だったのに」
「……結婚なんて、したくないんです」
「あら、どうして? 一度会ってみたら良いのに」
案外良い人かもしれないじゃない、それに王子様よ、とオフィーリア様が言う。 私はそれに全力で否定させて頂いた。
「嫌です! そんなの!!
……だって、王子様は怖い方、なんでしょう?
王子様直々の手紙で私に婚約を求めていらっしゃって、そこに私が断りを入れることなんて出来ないです」
「……あら? 彼の方はそんな方ではないのだけれどねぇ?
……それに、」
「え……?」
オフィーリア様は何かを言いかけたが、「いや、やっぱり何でもないわ」と言うと、少し考えた後、口を開いた。
「……ねぇ貴女、本当にこのままでは嫌なの?」
「はい、勿論です!」
私はその言葉に全力で頷けば、オフィーリア様は苦笑いした後、「なら、こんな方法はどう?」と提案してきた。
「貴女が、彼の方……王子と結婚して一緒に居て幸せになれるかどうか、その目で確かめるの」
「?? どういうことですか?」
私が首を傾げると、オフィーリア様はふふっと笑って言った。
「要するに、貴女が王子の側で王子自身が本当に“冷血非情な一匹狼”かを見極めるの。
そうすれば、貴女も男性が本当に嫌いかどうか、それに王子様の噂が本当かどうか、確かめることが出来るでしょう?」
「……えっ」
私は嫌な予感がした。
(……そ、そういえば、忘れていたわ)
「ま、やってみたほうが早いわね」
あ、この後のことはきっちり貴女のご家族に上手くお話しておくから任せて頂戴、とオフィーリア様はにっこりと笑ったかと思ったら……。
「!?」
私の周りが黄色い光に包まれる。
フワフワと、浮いたような感覚。
私は次第に、眠くなっていって……微睡みの中で、オフィーリア様の言葉が頭の中で響く。
「私が貴女と王子様の本当の望みを、叶えてあげるわ。 ……ふふっ、ここから先は、目覚めてからのお楽しみね」
その言葉に、私はオフィーリア様の性格を思い出した。
……あぁ、この方そういえば、悪戯が好きだったなと。
気がついた時にはもう、時すでに遅し。
私の意識は、そこで途切れてしまったのである。




