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14.予期せぬ出来事

(……今日は、素敵な出会いが会ったわ……!)




 私は嬉しくて、街の中を走りながらそんなことを考える。

 この瞳のお陰で、あの素敵なおば様と出会い、素敵な贈り物を選んでくれた上にそのままくれるだなんて。

(本当に、感謝でいっぱいだわ)



 このご恩は必ずお返ししよう。

 私はそう思いながら、一時間というタイムリミットを背負って走っていると、前方に小さな男の子が坂の下を通るのが見えた。

 可愛い、そう思っていた矢先、少し視線をずらすと、何かがその男の子目掛けて転がってくるのが見え……。





(っ、危ない!!)





 私は咄嗟に動いていた。

 幼い男の子の体を幸い捕らえたが、そこから足が動かなかった。




 落ちて転がってきているのは、重そうなワイン樽で。

 ……もう駄目だ、そう思ってその男の子をぎゅっと抱きしめて、衝撃に耐えようとしたその時。

 不意に聞こえた低音の声。 呪文のような言葉だった。




 恐る恐る衝撃に耐えるために閉じていた目を開けてみれば、そこにいたのは……。




「あ……」




 ……風にたなびく白銀の髪。 瞳の色は、特徴的な深い緑色。

 ……紛れもなく、エヴァン王子の姿だった。

 私は驚いて何も言うことが出来なかった。

 それは、王子も同じだったようで。

 少しだけ見つめ合いが続いた後、王子はハッとしたような顔をして、口を開いた。




「大丈夫だったか? 怪我はないか?」

「は、はい。 私は、お陰様で……ごめんね、怖かったでしょう? 大丈夫?」




 私はエヴァン王子に答えてから、抱きしめていた小さな男の子を見てそう声をかけると、男の子はうるうると瞳を潤ませ「うぇーん!」と泣き出した。

 私は少しオロオロとしながら、男の子の頭を撫でていると、お母さんらしき人が声をかけてきて、私達に感謝の言葉を述べてくれた。



 特に隣の方が王子だと気付いた時のお母さん反応は、やはり冷血非情という噂を聞いているのか、一瞬強張った顔を見せたものの、私と王子は大丈夫です、とそう答えると、その子のお母さんは王子の笑顔を見てホッとしたようにして、何度もお礼を言いながら去っていった。

 その去り際、小さな男の子は私を見て、「きれいなおめめ!」と笑顔で言って行ってしまった。



(……瞳のことでこんなに嬉しくなるの、とても久しぶりな気がするわ)




 なんて思っていると、私の腕が不意に引っ張られる。



「……えっ」




 私は驚いてその手の先を辿れば、それはエヴァン王子で。




「……大丈夫か?」




 それだけ言われ、私は「は、はい」とさっきより小さな声で答えれば、王子は「そうか」と一言言い、私の腕から手を離した。




「……た、助けて下さって有難うございます」




 私はそう言って頭を下げれば、不意に頭に手が乗った。

 え、と顔を上げれば、王子はなんとも言えない微笑みを浮かべて、私の頭を撫でて言った。



「……怖かっただろう」

「! ……と、咄嗟、だったので。

…… それでも、エヴァン王子が助けて下さったので、怖くなかったです」



 エヴァン王子の後ろに立っている重そうな樽を見て、エヴァン王子は魔法が使えるんだということを初めて知る。

 そして素直にそういえば、王子は一瞬驚いたような顔をした後、ふいっと顔を逸らし、「いや、俺は大したことはしていない」と言った。 ……その表情は、何処か自嘲めいていて。

 私はその言葉に力強く訴える。




「いえ! 貴方の魔法がなければ、あの子も私も救われなかったわ!!」



 王子の言葉に対し、私は大声で叫ぶように言返してしまい、私はハッとして顔が赤くなる。

(……わ、私は道端で何を叫んでいるの……!)



 私は恥ずかしくなって「あ、有難う御座いました! も、もう行きますね」と言って去ろうとしたが。



「待ってくれ」




 私はその言葉に立ち止まる。 そして恐る恐る振り返ってみれば、王子は微笑みながら言った。




「……昔から君は、少しも変わっていないな。 俺をすぐに喜ばせるようなことを言うところも、優しいその性格も。 ……心から礼を言う。 有難う」

「……!」




 それだけ言うと、エヴァン王子は手を軽く上げて行ってしまう。

 私はそんな王子の柔らかい表情が、頭から離れなかった。






 ☆





「良かったわ。 ギリギリ間に合ったようね」



 急いでオフィーリア様の小屋に戻ると、丁度私の姿が猫になったのを見て、オフィーリア様はそう言ってにっこりと笑った。

 私は頷くと、「実は、城下でエヴァン王子にお会いしたんです」と言うと、オフィーリア様は驚いて目を丸くする。



「は!? あ、会ったの!? 王子と!?」

「はい、色々あってピンチだったところを王子が魔法を使って助けてくれました」




 そう私が言えば、オフィーリア様は嬉しそうに手を叩いた。




「まぁ! あのエヴァン王子が魔法を!?

 凄いわね!」

「はい、私も驚きました。 まさか、魔法を使えるとは思っていなかったので」



 私がそう言うと、オフィーリア様は「いえ、あの子は元々魔力持ちよ」と言った。



「ただ、魔法をあまり使いたがらなくて、ここ数年使っていなかったわ。

 それを貴女のために使ったのよ。 凄いわね!」

「え!? そ、そうだったのですか?」




 私の言葉に、オフィーリア様は嬉しそうに頷いた。

(……じゃああの時、王子が魔法を使ってくれたのは、特別だってこと……?)



「まあ、あの子はそういうピンチの時には魔法を使ってくれる優しい子ではあるけど、貴女にだったらホイホイ使うのではないかしら?」

「え、えぇっ」



 私の反応にふふ、と笑うと、「それで?」とオフィーリア様は話を変えた。



「贈り物は買えたの?」

「! はい! ご縁があって、私のおばあ様と交流があった方のお店で頂いたんです」




 私はお金の袋を返しながら、ハンカチの入った箱を取り出して、オフィーリア様に渡す。



「まあ! それは凄いご縁だわね。

 それに、このハンカチもとても良いものだわ。 きっと王子も気にいるはずよ」

「そのことで、もう一つご相談があって。

 ……私、このハンカチに刺繍をしたいんです。 そうして贈り物をすると良いわよ、とその方に教えて頂いたので」




 私の言葉に、オフィーリア様は「まあ、素敵だわ!」と手を叩いた。



「あ、でも時間がないわね。 どうするの?」




 そう、私が人間でいられる時間はとても限られている。 それに、王子のお誕生日まで後3日しかない。

 私は、「そのことでお願いがあるんです」と言うと、頭を下げた。




「このハンカチをここに置かせて頂けませんか? 私が、週に二回のうちの一度、人間姿になった時の夜の時間、ここに来て刺繍をさせて頂きたいのです」




 お願いします、とそう頭を下げれば、オフィーリア様は「お安い御用よ!」と嬉しそうに言った。




「貴女が人間姿になったら、こちらに来るよう、転移魔法をかけておくわ。 そうすれば、すぐにこちらに来れるから。

 くれぐれも、王子にはバレないようにね」

「! はい!」




 そう言って私の体に魔法がかかったのを見て、有難うございます! とお礼を言えば、オフィーリア様はニコリと笑う。 そして、「さ、もう時間ね」と言うと、私の体が宙に浮いた。




「では、次に貴女が人間の姿になった時、また会いましょう」

「はい! 有難う御座います!」






 そう私が言えば、オフィーリア様は手をひらひらと振り、転移する間際、「こちらこそ有難う」と、そう口にしたのだった。

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