表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/35

12.第二王子との出会い

 次の日。

 私は、朝いつものようにエヴァン王子が出ていくのをお見送りした後、何もすることがなくゴロゴロとしていた。



(……王子、もうすぐ誕生日なのかぁ)




 24歳。 私と5歳違い。

(……王子は、誰にも祝ってもらえないのかな)




 昨日の話を聞いて、ふとそう思ってしまった。

 聞くからに、リネット女王とエヴァン王子はあまり仲良くなさそうだし、エヴァン王子の為の誕生日パーティーも、先日夜会が開かれたばかりだからそういうのもなさそうだ。



(そうなると王子は、お誕生日を祝ってもらう事もない、ということ……?)




 王子には、慕ってくれるジーンさんという従者もいたり、弟のメイナード王子もいるが、それしかいないというのか。

(……エヴァン王子は、そうしていつも、一人で過ごしていたのかな)




 周りからの冷たい言葉を浴びせられ続けた結果、冷たい視線で周りを見るようになり、冷血王子と呼ばれている王子。

 ……私は見ていて心が苦しくなる。

(まるで一人でいるのを敢えて望んでいるように見える……)




 本当の貴方は、そんな人ではないはずなのに。





(……せめて私は、エヴァン王子の味方でいたい。 エヴァン王子が、心から笑えるように……)



 そんなことを考えていると、私はふと思い立ち、バルコニーから外へと飛び出した。





 王子の部屋は2階に位置しているから、猫にとってはギリギリ飛べる高さだった。

 ……怖いと思ったけど、私はここから飛び降りるしか外に出られる方法はない。

 意を決して、ピョンっと降りてみれば、ストンッと地面に無事着地できた。




(……良かった! 下が土で……)





 丁度地面が花壇の上……お花は咲いていなくて、土が積もっていたので、幸いクッションがわりとなってくれた。

 そうして喜んだのもつかの間、ヒョイっと誰かに持ち上げられる。




「!?」





 私は驚いてその人の方を振り返れば、「あ、ごめんね、驚いた?」とにこりと笑う青年がいた。





(……あっ、この方は……)




「君、エヴァンお兄様が最近飼い始めた猫だよね? ……え、まさかあの高さから飛び降りたの?」



 エヴァンお兄様。 そう言った彼は間違い無く、この国の第二王子・メイナード王子だ。 そして彼は、私のことを知っていたらしく、朗らかに笑って言った。



「外に出たかったのかな? ……でも、お兄様は“外には出さない方が良い”って言ってたし……どうしよう」



 そう呟いたメイナード王子の言葉に、私は「にゃ!(嫌だ!)」と少し抵抗してみる。

 それに驚いたメイナード王子は「で、出たいのか」と言って困ったようにオロオロとしている。




(……こうしてみると、メイナード王子はエヴァン王子とそっくりかもしれない)





 顔はどちらかというと、あまり似ていない。

 メイナード王子の方が、歳下だからかまだ幼さがなんとなく残っている気がする。(私より2歳も年上だから失礼かもしれないけど)

 髪の色は金髪で、瞳の色はグレー。

 確か王様の髪は金髪で、瞳の色は深い緑色……だった気がするから、それぞれ違う王様の遺伝子をもらった、という感じなのだろうか。

 顔立ちは似ていないところからすると、こちらは母親譲りといったところか。




 ……話はそれたが、メイナード王子は暫く迷った後、私を抱き抱えて歩き始めた。




「……にゃー?(……何処へ行くの?)」




 心配になってそういえば、メイナード王子は少し笑ってみせる。




「僕が一緒なら、きっと心配いらないでしょう? だから、僕も町へ一緒に行ってあげるよ」

「にゃ!?(え!?)」




 一国の王子が何を考えているの!? と思ったが、王子は全然平気なようで、鼻歌交じりに歩いていく。

 私は大人しくしていながら、少し考えた。




(……メイナード王子が一緒に行ってくれるのは心強いは強いけど、私それでは、人間の姿になれなくなってしまう)





 まだ話していなかったが、私が町へ行こうと思った理由。 それは、王子への誕生日プレゼントを買う為だった。

 それには人間にならなければ行けないのと、お金が必要なのだが、お金の面についてはオフィーリア様の元へ行って借りさせてもらおうと思ったのだ。

 人間になるのには丁度、先週は使うことがなかったが、強く“人間になりたい”と思えば叶うと、そう聞いていたからいけるとおもった。



(……でもこれでは、抜け出すのが難しそう)




 メイナード王子には悪いが、私は脱出するしか他にない。

 そうして抱き抱えられたままチャンスを伺っていると。





「……あら、メイナード。 貴方何処へ行くの?」




 後ろからそう声をかけてきた声を何処かで聞いたことがあった。 その言葉に、メイナード王子はビクッと肩を震わせ、私にもそれが伝わってくる。

(……王子、顔色が悪い……?)





 メイナード王子はまるで、私を庇うかのように後ろ手に持つと、その人を振り返っていった。




「……母上」




 メイナード王子はそう呟く。

 私はその言葉に、ハッと息を飲む。

(母上!? ……ってことは、この方はあの、リネット女王……)




 思い出した。いつも王様の隣にいらっしゃった、女王様。

 ……“リネット女王”。 髪も瞳もグレー色。

 美しく綺麗な女性ではあるが、何処か少し怖いと思うような、不思議な雰囲気を醸し出す女王様……。




(遠くからしか見たことがなかったけど、この方が、エヴァン王子が嫌っている方……)





 そんなリネット女王はメイナード王子から視線を逸らし、私を見た。

 ぱちっと目が合い、私は怯える。

 それを感じ取ったメイナード王子が、私を隠しながら言った。




「……今は仕事をしておりましたが、少し疲れてしまったので散歩をしていたのです」

「……あら、そう。 ……でも変ね、ここは高い城壁に囲まれているから、猫なんて今まで入ってきたことはなかったはずだけど?」



 そう言って私を、まるで汚いものを見るかのような蔑んだ目で見下ろされる。

(……私のことを、知らない? エヴァン王子は、この人に私のことを言っていないんだ……。)

 ……でもこうしてみると、確かにこの人は怖い。 なんとなく、そう思ってしまった。




 怯える私をよそに、メイナード王子は「そうですか? 私はよく見かけますけどね」と淡々と言った。



(……本当にこの人達は、家族なの?)




 冷たい言葉の応戦に、私は驚いてしまう。

 普通家族だったら、もっと穏やかに会話をするものではないのか。

 だけどこの方達から感じ取れるのは、まるで腹の探り合いをしているかのような雰囲気で……。




「……時間がないので、これで失礼しても良いですか。 私はこの子を、城外へ送り届けようと思います」

「あら、貴方随分と暇なのね。 仕事はどうしたの?」

「……本日の分は、とっくに終わらせておりますから。 それでは」




 ちょっと待ちなさい、そう女王様の声が聞こえたが、王子は振り返ろうとはしない。

 そんな王子を追いかけてくる女王様に私は怖くなって震えると、メイナード王子は小さく早口で私に言った。




「……時間がないから、君はこのまま走って逃げて。 あの人に捕まってしまうと大変なことになる。 ……夜までにはしっかり帰ってくるんだよ。

 でないと、エヴァンお兄様が心配するからね」

 決して見つからないように、そう言って王子は私をそっと下ろすと、にこりと笑って見せ、踵を返して女王の元へ歩き出す。





 私はその背中に「にゃー!(有難うございます!)」と鳴いた後、一目散に城外へと駆け出す。




(……やっぱり、エヴァン王子とメイナード王子は似ている気がする。 優しい眼差しも、本当は穏やかな性格も。

 ……メイナード王子なら、絶対にエヴァン王子の味方でいてくれる)





 私は、そう走りながら確信したのだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ