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伝説の勇者、転生して異世界の破壊者になる。  作者: 五目時五目
第一世界:絶対運命牢獄(アカシック・パノプティコン) 運命に支配された世界の中で
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第五話 追憶、二人の道程

 

 少年は少女に手を引かれるがまま、少女の家へ入った。

 

 玄関口を直進すると、調理場のあるリビング。


 リビングには円卓と三人分の椅子。


 三人分の椅子があるが、内二つは埃が積もっていた。

 

 埃が積もっているのは、両親を失った時から手をつけていないことが原因だった。


 この椅子を撤去することで最後の絆が断たれる様で何も出来なかったのだ。


「君の名前は何て言うの?」

 

「僕の名前はアレス」


「家名とかはないの?」


 イリスが眉をつり上げ、困惑気味に問い返す。


「僕は物心つく前に捨てられたから」


 少年は表情一つ変えず、端的に告げた。


「アレスはそれを辛いことだと想わないの?」


「いないことが当たり前だから」

 

 アレスは最初から家族という形を知らなかった。


 だから、それを辛いとさえ想えない。


「君を見ていると、僕よりも君の方が辛そうに見えるよ」


 イリスはアレスと違い、家族から愛と幸福を与えられた。

 

 幸福から不幸になったのだから、最初から不幸な人間よりも辛いはず。


「辛いと思うことに大小なんて存在しないわ」


 少女は嘆息して、自身の見解を述べる。

 

 イリスは何かを考え込み始めたようで視線を落とす。


(何か気分を害する様なことを言ってしまったのだろうか)

 

 此処でまた何か発言をすれば、泥の上塗りになるのではないか。


 アレスが黙り込んでいると、イリスは何か思いついた様で顔を上げた。


「私、決めたわ。

 今から貴方を私の家族にする!!!」


「か、家族って・・・・・・」


 イリスの予想外な宣言にアレスは言葉を失う。


「親にも捨てられて、村の子供からは虐められて・・・・・・そんなのおかしいじゃない!」

 

 少女は双眸に涙を浮かべ、腹の底から怒鳴る。


「貴方はもう十分耐えてきた。

 だったら、貴方に手を差し伸べる人間がいなきゃ可笑しい!!」


 不幸な人間は幸福になるべきだ。


 不幸な人がそのまま不幸のまま終わってしまうのは間違っている。


「嬉しい・・・・・・嬉しいんだけど」


 発言とは裏腹に彼の表情は曇っている。


「何か問題でもあるの?」


「さっきも言ったけど、僕と一緒にいると君も虐められるよ?」


「そんな奴等、私が返り討ちにしてやるわよ」

 

 イリスは瞑目し、そんなことを心配するなと言わんばかりに呆れている。


「イリスは強いの?」


「私は父から剣を教わっていたし、今も修行しているから」


 イリスは齢八歳でありながら、既に剣の腕ならば大人にも匹敵する。


 天性の才能もあるが、毎日欠かさず血の滲む努力をこなしてきたからだ。


 何の鍛錬もしてきない子供達では彼女を打ち負かすことは先ず不可能。


「アレスが強くなれば、誰も攻撃しようとは思わないんじゃない?」


 良いことを思いついたと言わんばかりに身を乗り出してくる。


「強くなるって、どうするのさ」


「私が剣の師匠になってあげる」


 少女は壁に立てかけてあった木剣をアレスに放る。


 木剣は放物線を描き、アレスの掌に収まった。


「今から森に来なさい。私が稽古してあげるから」


 整備されていない凸凹な道をひたすらに直進する。

 

 植物は鬱蒼と生い茂り、視界の大半を埋め尽くす。

 

 イリス達は蔦を腕で掻き分け、慎重に歩を進めていく。


 数十分と歩くと、拓かれた場所に行き着いた。


「此処が私が何時も剣の鍛錬をしている場所よ」


「こんな場所があったなんて・・・・・・」


「それじゃ、剣を構えなさい」


 剣を構えろと言われても、アレスに剣を握った経験がない。


 故に彼は彼女の構えを真似て中段に構える。


「それじゃ私に剣を打ち込んできなさい」


「そ、その怪我とか大丈夫なの?」


「素人の剣筋くらい全部処理してやるわよ」


 イリスは眉間に皺を寄せ、唇を尖らせる。

 

「そ、それじゃ・・・・・・行きます」


 アレスが少女に向かって踏み込み、剣を振り下ろす。


 それをイリスが欠伸混じりに横へはじき返す。


 アレスはそれにもめげず、剣を振るい続ける。


「まだまだ心に迷いがあるわよ」

 

 少女は少年が剣を振るう時に一瞬躊躇うのを見抜いていた。


 一瞬動きを止めてしまうから、剣筋を見極めるのが極めて容易になる。


(これも貴方の持つ優しさなんだろうけど)


 それはアレスの長所なのだが、闘いの中では決定的な隙でしかない。


(一度厳しくしてみましょうか)

 

 イリスはアレスの剣をはじき返した直後、前に出て剣を振るい始めた。


 左右からの剣筋にアレスは剣を合わせるのが背一杯。


 何度も受けていく内に手は痺れ、一分も経たずに剣が弾き飛ばされた。


「・・・・・・・・・・・・ッ!」


 少年は痙攣する腕を見て、唇を噛みしめる。

 

 初めて経験する悪意など介在しない純粋な痛み。


「どうしたの、もう辞めてしまうの?」


 アレスに剣を向け、問いかける。


「まだ、やれる」


 少年はその言葉通り、陽が落ちるまで彼は剣を振るい続けた。


 特筆すべきは彼の執念。


 何度倒れても少年は立ち上がってきた。

 

 正に不撓不屈。


 決して諦めることをしなかった少年を見て、少女はその姿に憧憬を覚えた。


「アレスは、強いね」


 イリスが微笑む。


「・・・・・・負けっぱなしじゃないか」


 アレスは彼女に褒められると思わず、照れ臭さを紛らわす為に頬をかく。


「それじゃ帰りましょう」


 二人が村へ戻ると、折り悪く同年代の子供達に遭遇した。


 彼等はアレスをいじめていた少年達だ。


「おい、どうしてお前がイリスといるんだよ!」


 丸刈り肥満体型の子供がアレスを見て、喚き散らす。


「何、私がアレスといることが問題なの?」


 イリスがつっけんどんな言動で少年を威嚇する。


「お前だって、そいつがどういう奴か知ってるだろ」


 肥満少年も負けじとアレスのことを責める。


 ――――アレスは勝手に流れ着いた厄介な余所者。


 大人達の間でもそれは共通認識だった。

 

「別に、彼をどう思うかなんて私の勝手でしょ。

 私は彼と仲良くなりたいから一緒にいるの」


 イリスの発言が俯いていたアレスの耳朶を打つ。


(――――友達がいるのって、こんなに嬉しいんだ)


 アレスの胸に灯った心の炎。


 まだか細い炎であるが、少年の世界を明るく照らす。


 少年が顔を上げ、ある答えに行き着いた。


「僕は、アレス・カナンだ。

 文句があるならかかってこい」


 木剣を中段に構え、肥満少年をにらむ。


 武器を持っていない為、分が悪いと悟ったのか肥満少年は子分達を引き連れて踵を返す。


「あ、アレス・・・・・・」


 イリスはアレスの言動が信じられなかったのか、硬直している。


「僕を、イリスの家族にしてください」

 

「う、うん・・・・・・!」


 イリスが天真爛漫に笑う。


 その日、一人と一人が二人になった。


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