第二話 転生、神様との再会
目覚めると、俺はベッドの上で寝転がっていた。
「此処は転生後の世界なのか」
俺の独り言に応じる者はいない。
扉の傍には全身鏡が置かれている。
俺の姿形はどうなっているのだろうか。
全身鏡を覗くと、見慣れた顔の男が鏡の中にいた。
上下共に黒色で固めたインナーなども以前着ていたものと遜色がない。
どうやら転生したとはいえ、容姿などは一切の変化がないらしい。
「赤子の頃から始める猶予はないもんな」
世界が破滅するタイムリミットは一年。
赤子の頃からやり直そうものなら成熟する前に世界は滅亡する。
辺りを見回すと、寝床の傍に装備一式が鎮座していた。
見慣れた白銀の金属鎧は傷一つなく真珠の様な輝きを放っている。
白銀の金属鎧に視線を向けると、装備名との表示。
間違いない。装備も前の世界で使っていたものだ。
鋼よりも強固な希少金属で精錬した全身鎧。
何の変哲もない普通の剣ならば、振るった剣が刃毀れを起こす強固な金属だ。
俺自身、この装備のおかげで何度も命を救われた代物だ。
装備と道具の山はどれも見覚えのあるものだけに、どうしても脳裏にへばりついたあの光景を思い出す。
全てに裏切られた処刑台。
世界を、人を呪ったあの光景。
こんな世界なら滅んでしまえ。
「あの時抱いた思いに偽りはない」
だからこそ、世界を滅ぼす旅に加担をしているのだと想う。
「見慣れないものがあるとすれば、この剣だけか」
現在は鞘に収納されている一振りの長剣。
世界を創世することが出来る神器。
その剣の持つ力に触れてみようと、長剣を手に取ってみた。
「何の変哲もない剣だな」
「当然、現在は封印された状態にあるからね」
唐突に響いた少女の声に思わず顔を上げる。
俺よりも一回り小さい少女は金髪碧眼、色素の薄い金髪を腰まで伸ばす。
真ん丸の瞳は硝子玉のように澄んだ色をしている。
薄い桃色の唇は小降りで可憐さを醸し出し、スッと通った鼻梁からは気品を感じさせる。
灰色のワンピースから露わになっている四肢は雪の様に白い。
それは人形と形容していい美しさだった。
「お前は誰だ?」
この部屋には誰もいなかったし、扉が開いた形跡もない。
故に少女が此処にいることは異常な事象なのだ。
「私は女神アテナだよ。
さっきも私と話していただろう?」
確かに神ならば、突然俺の目の前に現れることは可能なのだろう。
だがしかし、解せない点が一つある。
「神は存在するだけで世界の負担になるんじゃなかったのか?」
「そうだね。神は存在するだけで世界の負担になる。
だから、私達は何らかの触覚を使って世界に干渉しているのさ」
「この少女が世界に干渉するための触覚ということか」
「実物の私と同じくらい可愛いから、本当の私にも期待していて欲しいね」
えへんと胸を張る幼い少女。
その姿は子供そのもので神の威厳というやつは微塵も感じさせない。
「俺に何の用があって来たんだ」
俺の目の前に現れた、その意図が解らない。
「君は今、何処を目指していいのか何一つとして知らないだろう?」
アテナが得意顔で身を乗り出してくる。
「確かに何処へ目指していいのか何一つ知らないな」
というか、転生前に教えてくれても良かったと想うのだが。
「それで私がナビゲートを買って出た次第さ」
「具体的には何処を目指せばいいんだ?」
「目的地へ急ぐのも大事だが、君は転生したばかりで身体が鈍っているだろう。
準備運動がてら冒険者ギルドで依頼をこなして欲しい」
「準備運動と言うが、一体何をやろうって言うんだ?」
「――――ドラゴンスレイヤー。
勇者なら狩るべき相手はドラゴンと相場で決まっているだろう」
アテナはニヤリと嗜虐的な笑みを浮かべた。
「・・・・・・ドラゴンか」
その皮膚は鋼の様に固く剣を通さず、その吐息は炎を帯びる。
その爪は如何なる鎧も切り裂き、その瞳は小さな挙動も見逃さない。
縄張りに入った勇者を唯一つの例外もなく屠った魔物。
――――故にドラゴンとは伝説の魔獣と呼ぶに相応しい。