断章・光の射さない舞台裏
今、伝説の勇者アレス・カナンが十二の勇者が救う世界へと解き放たれた。
《どうやら無事に転生を果たしたようね》
何もない漆黒に少女の声が響く。
《首尾は上々の様じゃないか》
厳めしさを滲ませる壮年男性の声が響く。
《彼も例の剣も無事に辿り着いた様です》
《まさか君があの剣を人間の手に託すとは・・・・・・》
心底、呆れた様な口調で男は言葉を紡ぐ。
《あの切り札をこのまま腐らせるのは惜しいですから》
少女は男の意見を全く意に介していない。
《アレは言ってしまえば、最後の手段なのだ。
少々、性急な判断だと言わざるを得ないな》
《貴方は彼等の力を舐めないことです。
彼等は人類を守護する最後の英雄達。
自分達の存在理由を理解しているが故に彼等は理を超越する》
《確かに、勇者とは理を超越する者達だったな》
《ええ。だからこそ、同位存在である彼にあの剣を託したのです》
《だがしかし、彼に全てを伝えていない辺り、君も性格が悪いな》
《性格が悪い。何のことですか?》
《勇者は人類の守護者だ。
その勇者を滅ぼすということが何を意味するか、教えるべき事柄だろう》
《彼ならば十字架を背負えますから》
少女の言葉は確信に満ちていた。
彼に対する絶対の信頼。
しかし、男はその信頼の根源が理解できない。
――――その答えは少女だけが持っている。