第一章 プロローグ 運命の勇者との出会い
割り込み投稿の話数を間違えたため、どうしようか検討中です。。。
俺が瞼を開けると、そこは何もない空白の空間だった。
何処までも無機質な白色が続く領域。
「此処が転生後の世界って訳じゃなさそうだな」
人がいる気配どころか文明の残滓さえ感じられない。
世界が滅んだ後か、そもそも世界が存在していない?
「ご推察の通り。此処は世界と世界の狭間だ」
青年が俺の前に歩み寄ってくる。
青年は紫色の燕尾服を身に纏い、スラリとした痩せ型体型。
身の丈は成人男性の中でも頭一つ分大きい長身。
茶髪を真ん中で分け、切れ長の瞳と尖った鼻梁。
「お前は誰だ」
この男の持つ荘厳な雰囲気は常人のそれではない。
魔王の圧力にさえ屈しなかった俺でさえその圧力に目を背けそうになる。
「大体の察しは付いてるだろう?
僕は十二人の勇者の一人。
『運命の勇者』メイガスだ」
「鼠が世界に入り込む前に駆除しようって魂胆か?」
「逆さ。僕は君に忠告しに来たんだよ」
メイガスは人当たりの良さそうな柔和な笑みを浮かべる。
「君は僕達勇者を始末することで世界を救おうとしている。
しかし、世界を救うことの定義とは何だ?」
「世界の崩壊を防ぐことなんじゃないか?」
「質問が解りづらかったね。もっと具体的に質問しよう。
世界を救うということはそこに人類がいる必要がいるだろうか?」
「そんなこと当然だろ」
「普通の人間の感覚ならば、その答えに行き着くだろう。
しかし、神達はそう考えていない。
彼等にとって世界とは空間そのもの。
それが存続さえしていれば、人類がどうなろうが構わない」
「何万人死のうが、世界さえ存続すれば良いって考えか」
「そうだ。彼等は世界の存続を重要視している。
世界は彼等でも創造するのには骨が折れるからね」
「でも、十二人の勇者が存在することで世界は崩壊するんだろ?」
だから、彼等の出した勇者を殺すという選択肢は間違いではないはずだ。
勇者を滅ぼさなければ、そもそもの土台である世界が崩壊するのだから。
「勇者が創造した領域は一つの世界だ。
その領域を潰せば、そこに住む生物も死ぬ。
つまり、十二の世界全てを壊せば、世界には何も存在しなくなる」
「・・・・・・生命の根絶ってことかよ」
人類を選べば、世界は滅びる。
世界を救えば、人類が滅びる。
どうあっても救われない運命。
「・・・・・・何でお前達は神になろうとしたんだよ」
そもそもお前達が神になろうとしなければ、こんなことにはならなかった。
魔王を滅ぼし、平和な世界が訪れるはずだったのに。
「僕達も自らの意思で神になった訳ではない」
メイガスは聞き捨てならないことを言い出した。
「僕達は誰かに神になるように仕向けられたのだ」
「・・・・・・仕向けられた?」
「ああ、異変に気づいた頃には僕達は一介の神様になっていたんだ」
神の言い分を聞く限りでは、勇者の独断専行によって生じた事態の様に思えた。
しかし、メイガスの言い分を聞く限りでは、事態はもっと込み入っているみたいだ。
「誰がそんなことをしたんだよ」
「勇者の中に一人、世界の根源を掌握した者がいたんだ。
その誰かは神の標的になることを恐れ、僕達の位階を神にまで押し上げた」
「世界の根源を掌握すると、何故神に狙われるんだよ」
「世界の根源を独占されては、世界を新たに創造することもできない。
逆に世界を消すことも出来ないからだ」
「なるほどな。そいつの気分次第で世界がどうにでも出来る訳か」
「誰か一人の意思で世界が消えてしまうんだ。危険でしょうがないだろう?」
メイガスが目を細め、肩を竦める。
「僕達としても、全ての世界が緩やかに滅びへ向かっている現状は打開したい。
そういう訳で君を仲間にしようと誘いをかけにきたわけだ」
そういう魂胆で俺に近付いてきたって訳か。
だが、この男は一つ見落としていることがある。
「――――お前が黒幕じゃない保証はないだろ?」
この男の言っていることが全て本当だとしても、この男が黒幕でないことの証明は行なっていない。
「然り。僕が黒幕である可能性も考えられる」
「なら、此処で倒してしまった方が手っ取り早いだろ」
アレスは腰を落として、身構える。
「跪け、ガウェイン」
メイガスの手に人の身の丈を優に超える大剣が虚空より出現。
彼はそれを木剣でも扱うが如く軽々と握る。
俺は懐に潜り込もうと、前傾姿勢で全速力で駆ける。
ギリギリまで腰を落とし進む姿は地を這う蛇に近い。
メイガスは迫り来る敵に対して、大剣を白色の地面へと突き立てた。
(敵を目の前にして武器を捨てるのか?)
相手の目論見は理解できない。
だが、相手は武器を所持していない。この好機を活かす他ないだろう。
俺の拳がメイガスに届こうかという至近距離にまで達した時、大剣から閃光が発せられる。
(何だ、この光は)
眩いばかりの光。それは太陽とも言わんばかりの光量。
直感から発信された危険信号。このままでは不味い。
俺は咄嗟に後退すると、大剣はその熱量から白の空間を赤色に染める。
あのまま攻撃していたら、地面をも焼き尽くす熱に溶かされていたことだろう。
「謳え、ランスロット」
メイガスの手には漆黒の長剣が顕現。
彼は間髪入れず、俺に対して長剣を振るう。
上段からの切り下ろしに対してバックステップで回避。
寸でのところを通った長剣が俺の前髪をはらりと切り払う。
「惜しい、といった所だね」
メイガスは先ほどから余裕綽々な態度を崩さない。
「随分と余裕そうだな」
俺の方は滝の様な汗を流し、肩を上下して呼吸している。
最大限集中しなければ、この男の攻撃の餌食になる。
故にこの短い時間でも身体の芯まで疲弊していた。
「君を仲間に誘うつもりだと言ったじゃないか。
殺してしまっては意味がない」
「そうかよ。そうやって余裕ぶっていろよ」
少なくとも、今の二撃でメイガスの能力に予想がついてきた。
ガウェイン、ランスロット。
どちらも俺の世界に存在していた英雄譚『アーサー王の物語』に登場した人物。
そこから察するに彼は円卓の騎士の力を借りられるのではないだろうか。
「僕は決して円卓の騎士の力を借りている訳ではないよ」
「なッ――――俺の思考を読んだのか?」
「そんな低次元な事はしないよ」
「では、どうやって俺の思考を理解したんだ」
「――――人の心を理解できる人間を読み込んだ。それだけの話さ」
「お前はどんな人間にでもなれるって言うのか?」
「それは転生時に貰ったスキル『万象の担い手』の能力だよ。
今の僕の能力は『歴史の再現』だ。
世界が体験したこと、到達したことは全て再現することが出来る」
・・・・・・これが神の能力って言うのかよ。
一介の人間が勝てる訳がないし、神でもこんな奴の相手をするのは無理だ。
「君この世界に拘束していては話が始まらない。
そろそろ解放するとしようじゃないか」
メイガスは薄く笑みを浮かべ、俺の意識はぼんやりと遠のいていく。
「勇者達もこのまま手をこまねいているつもりはない」
遠のく意識の中でメイガスの声が残響の様に聞こえてくる。
「僕達もそろそろ世界を懸けた戦争を始めるつもりさ。
どの勇者が正しいのか。
証明するには良い頃合いだろう?」
――――そこで俺の意識は無意識の海へと消えていった。