表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
伝説の勇者、転生して異世界の破壊者になる。  作者: 五目時五目
プロローグ
1/8

プロローグ



廃墟と化した宮殿の中で少年と少女が剣を交える。


一太刀毎に衝撃波を生み、周囲の調度品を破砕する。


重厚な鎧を纏った少年は何千年に一人の才能を持った勇者。


勇者の名前はアレス・カナン。


人類最強の一角を担う存在。


黒のドレスに身を包んだ少女は何千年と語り継がれてきた伝説の魔王。


個人で世界を滅ぼすことができると言われた人類の脅威。


人類最強の勇者と人類最悪の脅威。


二人の力は拮抗しており、それぞれが全身に裂傷を増やしていく。


「これで終わりにしよう」


アレスは自らの持つ剣に全ての生命力を注ぎ込む。


アレスの剣が少女の胴体を両断。


少女は鮮血を撒き散らしながら、倒れ伏した。


「まさか人の身でありながら、魔王を倒そうとはな」


少女は口から鮮血を零しながら、顔を歪ませて笑う。


「世界を呪った者から、とっておきの呪いを与えよう」

 

魔王の宣告にアレスは最大の注意を払い、周囲を見渡す。


魔力の流れに変化はなく、魔法が発動する気配はない。


「――――貴様にも、世界の歪さを、見せてやる」


少女は息も絶え絶えに最後の言葉を口にする。


アレスが注意を払っていると、魔王の魔力が完全に消失した。


「ただのブラフか」

 

気を抜いた途端、アレスの意識はぷつりと途切れた。


彼の右手の甲には黒色の刻印が刻まれていた。



アレスは手首と足首にひんやりと冷たいものを感じた。


彼が瞼を開くと、冷たいものの正体は四肢を拘束している枷だった。


枷を繋ぐ鎖はがっちりと繋がれており、四肢をぴくりとも動かすことができない。


前方には鉄格子、光源は鉄格子の向こう側にある松明が二本のみ。


薄暗く湿気を含んだ空気。


(どうやら此処は地下の牢獄ってところか)


「漸く目覚めたか」


聞き覚えのある声が鉄格子の向こう側から聞こえてきた。


松明に照らされ、三人の青年の容貌が露わになる。


それぞれ長身でいて目鼻立ちが整っている男達。


彼等はアレスと共に旅をしてきた仲間達だ。


「どうして俺は鎖に繋がれているんだ?」


「何、実に簡単なことさ」

 

金髪の男はくつくつと哄笑を漏らしながら、アレスの疑問に応じる。

 

「魔王を倒せる勇者なんて、人類の脅威でしかないだろ?

 お前を止められる者は存在しないのだから、当然の措置じゃないか」


「俺は仮にも世界を救った勇者だぞ!

 恩を仇で返すつもりか!!」


アレスが両腕に巻き付いた鎖を引っ張り、怒りのままに叫ぶ。


「お前は何の為に世界を救ったんだ?」


「皆の笑顔を護る為だ」


アレスは彼の質問に真っ直ぐな瞳を向ける。


「そうだ。お前は見境なく弱者を救おうとする。

 奴隷まで救おうとするお前の在り方は危険なんだよ」

 

「弱い者の味方をすることの何処が間違ってるんだよ」


「それはお前の勝手な正義観でしかない。

 王もお前の考えを危惧していたくらいだからな」


「つまり、こうなることは最初から仕組まれていたってことかよ」


「そうだ。お前は魔王を倒す為の捨て駒でしかなかった」


(本当に俺は間違いだったのか?)


 アレスは絶望のまま俯き、物思いに耽った。

 




 一夜明け、アレスの処刑日が訪れた。


街の広場に聳え立つ木造の断頭台は罪人の首を呑み込む様に真ん丸とした穴が空いている。

それは何人もの血を振り下ろしてきたことを示す様に至る所に血痕が散りばめられている。


 空は鈍色の雲が覆い尽くし、今にも雨が降り出しそうだ。


 気温も肌寒く、石畳は氷の様に冷たい。


 裸足のアレスにとっては徒歩すら顔を歪めるほどの苦行。


 アレスが手錠の鎖を力任せに引っ張られ、断頭台まで連れてこられた。


 アレスは断頭台に首を固定され、兵士が淡々と架空の罪状を読み上げていく。

 

 アレスの額に石礫が投げられ、額から血が流れる。


 彼が石の投げられた方向へ視線を向けると、石を投げたのは薄汚れた衣服を着た少年だった。


 少年の表情は剥き出しの憎悪に染まっていた。


 彼はアレスが奴隷商から解放した奴隷の一人だった。

 

 アレスは群衆を見回すと、何人も自分が救ってきた人達を見かけた。


 彼等は少年同様にアレスに対して怒りを向けていた。


「そうか、間違っていたのは俺の方だったのか」


 救った者に裏切られ、あまつさえ自分の尊厳を踏みにじられた。


 きっと何百年と自分の悪評が世界に刻まれていくのだろう。

 

 そして、それが故郷の幼馴染の耳朶を打つことが何よりも悔しい。

 

 アレスは幼馴染の少女の笑顔を護る為に旅を始めた。


 少年にとって誰よりも大切な人。


 その少女に失望されることに比べれば、額の傷は些末事でしかない。


 アレスが自らの顛末に絶望しかけた時、少女の声が木霊する。


「アレスは何も悪いことをしていない!! 皆の為に戦ったのよ!!!」


 少女は混じりけのない銀髪。腰まで伸ばした銀髪は誰もが一度は瞳を奪われるほどに美しい。

 

 少女の名前はイリス・カナン。アレスの幼馴染だ。


 アレスに掛けられた世界に呪われる呪いにさえ彼女の想いは打ち勝った。


「・・・・・・イリス」


 アレスは彼女を見て、一縷の涙を浮かべる。


(そうだ。世界に疎まれようが、彼女さえいればそれで良い)


 それだけでアレスは戦える、また立ち上がれる。


 イリスはアレスを解放しようと、人波を掻き分けて断頭台へ駆ける。


「貴様、何者だ!」


 槍を構えた数人の兵士達がアレスの前に陣取り、イリスと相対する。


 イリスは腰に構えていた長剣を抜き、兵士達に剣を向ける。


「安心なさい、命までは獲らないわ」

 

 イリスはアレスの幼馴染でありながら、剣の師匠であった。


 兵士数人を相手取るのは造作もないこと。


 兵士達も彼女の実力を知っていたからこそ、額に汗を滲ませる。


 だが、イリスの剣が兵士達に届くことはなかった。


 イリスは背中に走った激痛で呼吸を忘れる。


「な、何が――――」


 イリスが振り向くと、短剣を持ったみすぼらしい少年。


 アレスが救った少年が彼女に牙を突き立てたのだ。

 

 イリスに生じた硬直を兵士達は見逃さず、彼女の胸に長剣が突き刺さった。


 兵士が長剣を引き抜くと、鮮血が大量に零れだした。


 少女の下半身を真っ赤に染め上げ、少女は崩れ落ちた。


 少女はそれでも幼馴染の元へ向かおうと、這いつくばりながら前進する。


「・・・・・・アレス」


「イリス」

 

 アレスはまだ現実を受け入れず、ただ瞠目しているだけ。


「今まで、言えなかったけど・・・・・・」


 イリスは最後の力を振り絞って笑顔を作る。


 彼に看取られる時は笑顔が良いと想ったから。


「貴方のことが好き」

 

 最後の最後にイリスは自分の想いを伝えて息絶えた。


「――――――――」


 叫ぶことが出来なかった。

  

 未だに目の前の光景が受け入れられず、アレスは少女の亡骸を見つめる。


 アレスにも唯一つだけ理解したことがある。


「こんな世界に救う価値なんて存在しなかった」 


 勇者は世界を呪い、ギロチンが勇者の首を撥ねた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ