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俺は仕方ないなあという態度をとりつつ下心を悟られぬよう建物に入る。こぎれいなビルのロビーに仕切られた一角に案内されソファに腰掛ける。案内してくれたのはこれまた黒の制服がまばゆい、キャリアウーマン然とした綺麗な姉ちゃん。今風に言うところのチャンネー。いや、逆に古いか。
ソファに座って待っているとしばらくお待ち下さいと、その綺麗なチャンネーが目的のドーナツとアイスコーヒーを持ってきてくれた。俺は、あ、ども、と、軽く会釈をしてテーブルに置かれた盆を引き寄せる。どことなく風俗で入室待ちしてる客っぽいかな、と、反省しつつ去り行くチャンネーの尻をさりげなく目で追う。あんなチャンネーがカノジョになってくれれば、俺の人生も一発逆転なんだがな。ありえない妄想に耽りながらコーヒーとドーナツを貪る。
久方ぶりに文明人のスイーツに舌鼓を打った俺の元にチャンネーが再び現れ、盆を下げると同時に筆記用具とアンケートの書類の束を置いた。その物量に思わず俺は、
「うえっ」
と、声を上げた。
「では、ご協力お願いしますね」
チャンネーは極上のスマイルを俺にふりまき、その場を後にした。まさかアンタ、ただでドーナツとコーヒーにありつけるなんて、虫のいいこと考えてたんじゃないわよね? てな心の声が込められているようなスマイルだった。まあ、そうなんだけどね。
仕方なしに俺は舐めきっていたアンケート用紙と向かい合った。
内容は二択の簡単なものだが質問の意味がいまいちよく分からない。
『貴方は戦争の抑止のためなら核の保有を認められますか?』
『死刑制度は残酷だからという理由で反対するのは根拠として成立すると思いますか』
この辺りはまあいい。どことなく宗教入ってる、みたいな。
『未成年の定義をあいまいにした状態での少年法の許容は可能と考えられるでしょうか』
『目には目を、の、間違った解釈を妥当とした場合、存立が脅かされる事態を是と考えることができますか』