この広い幻想郷で
これは東方projectの二次創作です。
前半で霊夢がかなりキツいこと言ってると思いますが、冗談半分くらいに思って下さい。作者も非リアなんです(泣。
「なあ霊夢ぅ」
「甘ったるい言い方ね。私に封印されたいのかしら」
「そんな訳ないぜ」
冬。
寒さに負けじと魔理沙と二人、縁側に並んで茶を飲んでいた。
話も詰まり、無言で湯のみを傾けるに至ったころ魔理沙が“らしくない”猫撫で声で私を呼んだ。
「何」
「こう寒いとさ、人肌恋しくなるよな」
「家帰ればいいじゃない」
「魔法の森は寒いんだぜ?」
「私が言うのは、実家よ」
「お前は時々ルナティックな弾幕を平気で放つよな」
反省はしない。魔理沙とのやり取りはこれくらい鋭角じゃないとすぐに調子に乗らせてしまう。
「今更どのツラ下げて帰れるんだよ」
「…………人肌恋しいの?」
「この前人里降りたんだよ。冬だぜ?寄り添う男女のカップルが跳梁跋扈していんだ」
「跳梁跋扈て………。満ち足りないものの僻みじゃない」
「うるせぇ。でな、まあ有り体に言えば、羨ましかったんだ」
気持ちは分からないでもない。
寄り添い分かち合える他人がすぐ側にいるのは、おそらく素晴らしいことなのだろう。
でも、だ。
「恋愛ってね、結局は性欲なのよ」
「また身も蓋もない」
「そうでしょう?ヤることは同じなのよ。生殖本能にほだされた、繁殖行為」
「いやちょっとそこまで言われると、引くぜ?」
「まあ聞きなさい。博麗の巫女のありがたいご高説よ」
「いやまあ、聞くけどさ」
私はお茶を一口飲み、口の中を先に湿らせておく。
湯のみを傍らに置き、一つ咳払いをしてから私は語り始める。
「恋愛ってね、極論を言えば性欲なのよ。その性欲は生殖本能によるものだけれど、相手に惹かれる、好きになる、それは生殖行為を行い繁殖を効率化するために後付けされたものに過ぎない」
「お、おう………」
「男でも女でも、よく好きになった人にアピールをするけれど、それって単なる求愛行動なのよね、魚と同じよ。恋とか愛とか、聞こえの言いように付加価値をつけてるだけで、本質は変わらない」
「……………」
「生殖行為に伴う快楽は、まさしく繁殖を効率化するためのものよ。繁殖は、種にとって最重要項目。それに快楽が伴うのは当然でしょうね、他に変わる気持ちいいことがあったら、繁殖できず種は滅びてしまう」
私はそこで一区切り置き、一口またお茶を啜った。
「さて、恋愛がただの付加価値に過ぎないと言ったけれど、まさしくその通りだと思っているわ。恋愛の最終到達地点は、おそらく生殖行為に辿り着くでしょう。でもそれだと、さっきも言ったけれど、魚やその他の下等生物がへこへこしているのと変わらない。恋愛という複雑な感情の振幅、隆起、そういうので美化して高等生物たるに相応しいものに当てはめているのよ」
「お前は真顔でとんでもないことを言えるよな」
「長所だと思っているけど」
「そう思えるのがお前のいいとこだ」
「まあ話を戻すけど。人間含め、動物の本当の存在理由は、繁殖にあると考えるわ。魚たちを見ても生存競争に文字通り命を賭けている。人間も一緒よ。どんな生き方をしようが、それは付加価値に過ぎない。結局子供作って後代を残せば同じなのよ」
「いやでもそれは、あまりにも人間を機構的に見過ぎだろう?」
「あら違うのかしら」
「違う………と思ぜ」
「まあ長い前置きはここまでで」
「えっ!?」
驚いた表情をする魔理沙。無理もない、これだけ盛大にハッタリをかましたのだ。
私の言いたいのはここからだ。饒舌に語り過ぎた、お茶を一口飲んで私は間を置く。
「なにも本気で思ってる訳じゃないわ。今のは暇なときに思いついて考えが芋づる式に出てきただけ」
「なんだ、そうかよ」
「だってそうでも考えないと、こんな寂れた神社でひとり寂しく生きてられないわ。私は生殖行為をするために生まれたんじゃない。もっと別のことに意味を見出したんだって」
「ははぁん?お前も僻みじゃねぇか」
「悪い?」
「悪くねえよ、私も一緒だ」
二人で湯のみを傾けた。
「魔理沙が魔法に没頭するのは?あなた人生それに捧げたんでしょう?」
「まあそのつもりだ。霧雨家も飛び出して、私は一つの個体として魔法研究に生きる」
「だったらいいじゃない。人里の春色にアてられて余計な雑念入れるんじゃないわ」
「ああ、そうだな。ならお前はどうなんだよ、霊夢」
「私は………」
さてどうなんだろう。
巫女という大役を授かった身であるけども、それは自分で選んだ道じゃない。気づけば、私は巫女だった。
「お前のことは分かってるつもりだぜ?」
「あら、じゃあ言ってみせてよ」
「お前には生きる目的がある。いやむしろ存在自体が意味を成している。私たちなんか一人二人いなかったところで変わりはしない、けれど、お前は違う。博麗の巫女はお前しかいないんだ、いなきゃ困る」
「………それで?」
「でもそれは、お前が選んだものじゃない。ひょっとしたら、生まれる前から約束されてたのかも知れん。お前は、霊夢、お前が選んだものでもない生き方を強制されているのに不安があるんだ」
「うん」
魔理沙の言ったことが、すうっと私の中に溶けていく気がした。
さすが、長い付き合いだ。
魔理沙の表情は穏やかだ、またお茶を啜って話を続ける。
「正直に言うとな、私は羨ましいぜお前が」
「どうして?」
「役割が約束されているじゃないか。お前は間違いなく幻想郷に必要な存在だろう。でも私は違う」
否定、をできたらどれだけ良かったろう。でも私にはそれを出来ない、してはいけない気さえした。
「さっきも言った。私たちなんか一人二人いなかったところで幻想郷は変わりはしない。異変なんかお前一人でも解決できるんだ。私たちはな、勝ち取らなきゃならないんだ、生きる理由を」
「………………」
「私が存在する理由は、誰も与えてなんかくれないんだ」
「……………、ごめん、なさい」
そこまで言われて、私がどれだけ贅沢な悩みを抱えていたかを思い知らされた。
だから自然と、そんな言葉が出ていた。
「おい謝らないでくれよ」
「だって…………」
「お前の気持ちだって、想像はつくんだぜ?」
「え?」
「お前は、まあ一応は人間の味方だけど、幻想郷のバランスを保つのが役割だろう?それは………、それこそ単なる機構だ。巫女は必要でも、霊夢である理由は、ない」
ああそうだ、そこなんだ。
私には役割がある。私が当代の巫女を務めている間は、他の人には務まらない大役が。
けれど、それを“私”が務める理由はない。
「泣いていい?」
「この流れで泣くのは勘弁してくれガチすぎる」
「分かった………我慢するわ」
「でも、私はお前で良かったぜ。お前じゃなきゃ、多分こんなちょっかい出したりしない」
「でも、そんなの分からないでしょう?比較のしようなんてないんだから」
「比較できないならそう思うしかないだろう?私たちの存在なんざ、いつだって不安定なんだ」
私は、多分自分の存在に確固たる確信が欲しいんだ。
この時代を、私が、他の誰でもない私が生きたんだと。単なる機構に過ぎない巫女の一人でなく、霊夢が生きたのだと。
「私が私である理由は、多分一生賭けたって分かりゃしないぜ。お前の言ったように、私たちは誰かの生殖行為の結果なんだからな」
「いやもう、その話はなかったことにしてくれていいわ」
「理由はなくても、いいじゃないか。ここは長命の妖怪どもが跳梁跋扈する幻想郷だ。みんなお前が好きで、お前の存在はきっと誰も忘れやしない」
「そう……………かな。でも、魔理沙は?」
「私は、まあしがない魔法使いだからな。新しい魔法でも作ってパチュリーとアリスあたりにでも自慢できりゃ、充分だ」
そう言って笑う魔理沙は、また湯のみを傾けた。
「でもやっぱり、寂しいもんだぜ。あの森に籠ってずっと勉強と実験の毎日は。煮詰まってくるとどうしても気分も沈む。励ましてくれる人もいない」
「それで人里に降りたらそんな風景見せられた訳ね」
「やっぱり、何やってんだろうって思ってしまうぜ。同じ年の女は男作って楽しそうにしてるの見ると」
「だから私のような考えに至るのよ」
「違いない。でも、それはそいつらなりの人生なんだ。私はあえてそうしないことを選んだ。まあ最初から決められた人生のお前には酷かも知れんが」
「そんなことないわ」
「ほう?泣きそうだっじゃないか」
「……忘れてよ、もう」
湯のみを傾ける。もうお茶はなくなっていた。
「役割とか、生まれた理由とか、それはどうでもいいのよ」
「ほう」
「大事なのは、どう生きるかだと思うわ。私は博麗の巫女という役割の中で、あなたは、一つの個体として」
「ああ。違いない」
「私が私であった理由、魔理沙が魔理沙だった理由は、たぶんそこで見つけられるわ」
霊夢と魔理沙、少し思うところがあって私の思いを語ってもらいました。




