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第七十一話 暴かれた影

 アリムやドワーフ族と共に森の奥を訪れた俺は、そこで森の民ことエルフ族と出会っていた。

 予想通りと言うべきか、両者の心象は最悪であり、出会ってから数刻も経たずに激しい口論が始まっていた。

 このままでは、取り返しの付かない事態に発展するのも時間の問題だろう。

 

 どうにかしてこの場を収めなければいけないが、一体どうすれば……

 最終手段として召喚獣を使っての強攻策も検討し始めた時、背後に人の気配を感じた。

 アリムかマキヤさんだろうか? と思い振り向いたそこにいたのは、薄紫色に染まる髪の少女。


「スミレ!? こっちに来てたのか!?」


 小柄な体格に軽装姿、凛とした端正な顔立ち、見間違える筈も無い。

 それはまさに、あの遺跡以来暫く合っていなかったスミレだった。

 心なしか緊張した面持ちで、体の陰に隠れるようにようにこちらの背中に頭を押し付けている。


「シッ…… 敵に気取られてしまう」

「わ、分かった」


 スミレの言葉を受け、視線は正面に向けたまま、極めて小さな声で俺達は会話を始めた。  

 

 スミレは、俺達とも相棒達とも離れた場所に飛ばされていたそうだ。

 合流しようと周囲を探索していた所、かつて自分も所属していた組織独特の気配と、組織で使われていた術の痕跡を感じ取り、そこからは単独で組織の目的と送り込まれた人員を調査していたとの事。

 驚いた事に、組織はこの場所へ何度か人員を送り込んだ事があるらしく、スミレも数回だがこの近辺を訪れた事があった。

 得体の知れない組織だと思っていたが、まさか召喚獣の世界にまで手を伸ばしていたとは。

 スミレが何故俺達に合流しなかったかと言えば、こっちに来てすぐに目立つ戦闘を行った俺と相棒は敵に認知されている可能性が高く、自分の存在を気取られるかもしれないとの判断だった。 

 結果的にはそれが功を奏し、スミレは今までの一週間程で敵の存在と目的をある程度把握出来ていた。


「つまり、今回の一件に仮面の組織が関係してるって事か?」

「断言は出来ないが、その可能性は高い」


 組織はエルフ族とドワーフ族を互いに争わせ、その力を削ぐことを当面の目標としているという。

 その後本格的に両者を滅ぼすのか、それとも他に何か目的があるのかははっきりしないものの、今まさに始まろうとしている争いに関わっている事は間違いないらしい。


「そして、エルフ側に相棒がいる……か」


 続いてスミレから告げられたのは、これも驚くべき事実。

 あちらに相棒たち三人がいるということは、どうやらあそこにいた全員がこの場に飛ばされたようだ。 


「ああ、カムロ殿と同様に相棒殿達も、あちらで信頼関係を築いたようだ」

「何はともあれ無事で良かったよ」


 見知らぬ土地に飛ばされていながら、全員怪我も無く五体満足でいられた事に、まずは安堵。


「なら問題は、黒幕をどうやって叩くか……だな」


 目線の先を見遣れば、既に両者の緊張は臨界へ達そうとしており、まさに一刻の猶予も無い状態だった。 

 その点はスミレも承知しているらしく、作戦はもう考えてあるとの事。

 スミレと数十秒程の簡素な打ち合わせを終え、急増だがそれなりの策を考え出した。

 後は、実行するのみ。

 

「まずカムロ殿は、奴の注意を引いてほしい」

「分かった、丁度良い時分みたいだしやってみる」


 その時、族長とエルフの男の会話が途切れ、両者の間に暫しの沈黙が訪れていた。 

 肌を刺すようなぴりぴりとした緊張感が漂う中、その発生源へ歩みを進める。


「ちょっと待ってくれ、やっぱりこの戦いは……」

  

 さて、これから何を話そうか?


                        ※


 周囲一体を舐めるような熱風と振動が襲った後、俺達の目の前に現れたのは、黒い外套を身に纏う異形の仮面を身に付けた男。


「恐らく奴の目的は、ここでエルフ族とドワーフ族の争いを起こす事、その邪魔をすれば必ず奴は行動を起こす」


 俺がドワーフ族とエルフ族の間に立った時、スミレの言葉通り敵は急激な反応を見せた。

 自身が操る傀儡を使用し、一気に俺を両種族の敵として葬り去ろうとしたのだ。

 しかし、魔法マジック真実の輝きトゥルーシャイニングによって、傀儡達は真の姿を表していた。

 この魔法の効果エフェクトは、フィールド全体に掛かっている補助サブ効果エフェクトを打ち消すもの。

 それによって敵の術は効果を失い、本来傀儡が持つ土塊の体が顕になったのだ。


「奴の使う術は二つ、まずは人に似せた土塊を操る傀儡術」

 

 既にスミレから族長がそうである可能性を聞いていたが、実際にさっきまで話していた人間が目の前で土に変わる瞬間を目撃すると、流石に驚きを隠せない。

 この術を使って二つの種族を意のままに操り、争いを起こさせようとしていたのだろう。

 今考えれば、荒野で俺達を襲った襲撃者も敵の創り出した傀儡だろうな。


「次に、自身の姿を隠す隠形術」

 

 敵の傀儡術には射程距離のようなものがあるらしく、少なくとも傀儡が見える範囲にいなければならないとの事。

 そこで俺は、こっちに来ている相棒達の手を借りることにした。

 カードの効果範囲に敵がいない事も想定し、常人より遥かに目の良いスアレに周囲の状況を観察して貰っていた。

 自身の術が破られ動揺した敵の隠形術に乱れが生じてスアレに発見され、そこを相棒がすかさず叩いたのだ。


「排除対象だけでなく、裏切り者まで現れるとは……!」


 火球の直撃を受けたにも関わらず、仮面の男に目立った外傷は無いようだった。

 羽織っていた外套を脱ぎ捨て、忌々しげにこちらを睨みつけている。


蛭子ひるこよ、既に貴様の負けだ!」

「だが考えようによっては、一石二鳥と言えるやもしれぬ」


 スミレの言葉にも動じる様子を見せない蛭子は、樹上から勢い良く着地し、俺達と相対する。


「既にお前の術は破った、大人しく投降すれば悪いようにはしない」

「笑止、我らに降伏など有得ぬ」


 すんなり話し合いで解決できる訳がないと心の何処かでは思っていたが、やはりそうなるか。

 諦めにも似た感情と共に、目前の蛭子に向き直った。


「この地に解き放たれし魔の者達よ! 今こそ我の命に従え!」


 天を仰いだ蛭子が懐から取り出したのは、幾重にも重なった数十枚のM&Mカードだった。

 勢いよく空中にばら撒かれたそれらは怪しく黒色に輝き始め、蛭子の周囲を衛星のように円を描いて周回し始めたではないか。


「矢張り魔物騒ぎも貴様の仕業だったのか」


 スミレの言葉にこちらが答える間も無く、周囲一体に耳を劈くような獣の咆哮と、地鳴りのような振動が一斉に起こっていた。

 地響きと唸り声は次第にその大きさを増し、全方位からこの場を囲むように接近していることが感じ取れた。

 蛭子が召喚していた魔物モンスター達が、一気にここへ集まってきているのだろう。

 不味い、ここにはまだアリムや村の皆がいる、このまま戦場になれば犠牲者は避けられない。


「マキヤさん、アリム! 皆をここから退避させてくれ!」

「了解しました」

「ちょ、ちょっと待っとくれ、わしには何が何だが……」


 直ぐに事態を把握したマキヤさんと違い、アリムはまだ状況を把握しきれていないようだ。

 まあ、ここ数分で起こった事を考えれば無理もないけど。


「後で必ず説明する、だから今は俺を信じてくれないか?」

「むう、分かった」


 渋々といった様子で納得してくれたアリムとマキヤさんにドワーフ族の方は任せ、後はエルフの人達を……と思ったが、既に相棒やレラ達に促され避難を始めている所だった。

 どうやら相棒達も、ここに迫り来るものの気配を感じ取ったらしい。


「ご主人マスター!」


 次の瞬間、聞き慣れた声と共に、赤い影が勢い良く突進して来た。

 ほんの数日合わなかっただけなのに、その声と姿を見ただけで、欠けていたものが埋め合わされたような安心感を覚える。


「悪いが再会の挨拶は後だ、行けるか相棒?」


 弾丸のような突撃を慣れた手つきで抱き止める。

 互いに色々積もる話はあるが、いまは目の前の敵をどうにかしなければ。 


「うん、任せて!」


 勢い良く頷き、カードにその身を変える相棒。


「主上様より賜ったこの力を持って、貴様達を葬ってくれよう!」


 不気味な闇光を放ち、言いようのない威圧感を向ける蛭子。

 それに呼応するように、集結した魔物達が気勢を上げる。

 全周囲を囲んだその数はゆうに十を超え、その中にはゲームだったころに戦った強敵の姿も見える。


「ここが正念場だ、決めるぞ!」


 だが恐れはない。

 それよりも、ようやく大切な人達と再会出来た嬉しさと、ドワーフ族やエルフ族ではない、本当に倒すべき敵と戦える満足感が心を満たしていた。


「俺の先攻! 俺のターン!」


 裂帛の気合で札を引き、充満する敵意と対峙する――   

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