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第五十七話 憶測は的外れ?


 目の前に現れたのは、先日墓所で出会った女性だった。

 しかも、この隊の前隊長であり、俺と多少なりとも関わり合いのあったジング・ドルスベイの血縁者らしいのだが……  


 部屋に入ってから無言で周囲を見渡していたたマキヤさんは、少し考え込んでから口を開いた。


「それで……隊長は何処にいらっしゃるのですか?」


 予想外の言葉に、一瞬返答に窮する。

 部屋にいるのは子供が三人だけであり、隊長は別の場所にいるという考えに至るのは確かに分からないでもない。  


「何言ってるのさ、目の前にいるのがそうだよ」

「あなたが……? 冗談はよしてください」


 呆れたように返答する相棒に対し、こちらをまじまじと見つめながらマキヤさんは答える。

 眼鏡の奥から刺すような視線が注がれており、少し怖い。


「カムロ・アマチと言えば、先日の帝国事変でその名を馳せたという天才召喚士」


 この前も言われたけど、天才ってのはどうにも……照れるな。

 言われて気分が悪くなる訳ではないのだけれど、どうにも気恥ずかしいというか。


「その力はまさに人間離れしており、音に聞こえた護将軍を一纏めに葬り、武闘大会では並み居る参加者を蹴散らして優勝し、また押し寄せる帝国の軍勢をたった一人で圧倒したと聞きます」


 エリスを助け出した事と、イルグスクでベルナルドと戦った事、最後は革命軍と帝国軍の戦いを止めた時の事だろうか?

 いずれも衆人環視の状況でかなり派手に暴れたし、噂になっていても仕方ない。  


「ですが……」


 そこまで話してから、一旦言葉を切って逡巡するような表情を見せるマキヤさん。

 何か言い難そうにしているけど……どうかしたのだろうか?


「本人に面と向かっては言えませんけど、戦い方はまさに傍若無人で、敵対するものは塵一つ残さずに消滅させる残虐な人物だそうです」

「しかも性格は非常にだらしなく、各地で様々な女性と関係を持ったばかりか、マーム国のエアリアス女王や帝国のミルグレド皇女までもその毒牙に掛けたとか」


 決意したように開かれた口から、これでもかとカムロ・アマチに対する悪評が湧き出てきたではないか。

 驚愕に思考が停止しているこちらを前に、止めの一言が。


「一言で言えば、女の敵ですね」


 そこまで言わなくても。

 もしかして王宮で邪険にされていたのは、こちらの実力を疎んでの事ではなく、単に関わり合いになりたくなかったからなのか……!?


「も、もう駄目……ぷっ、あははは!」


 黙って話を聞いていた相棒が、堰を切ったように腹を抱えて笑い出した。

 突然の哄笑に戸惑うマキヤさんを前に、床に寝転がりながら相棒は笑い続ける。

 冷静に考えれば自業自得な部分はある。

 とは言え、ここまで散々に言われる謂れは無い。

 後相棒は笑いすぎだ。


「あー面白かった」

 

 五分程しっかり笑い続けてから、相棒は腹を抑えつつ立ち上がった。

 ……そこまで面白かったのか。


「相棒殿、流石に失礼では」

「スミレは面白くなかったの?」


 窘めたスミレに、笑顔で返す相棒。


「……その、多少は」

 

 言い淀みながら答えるスミレも、頑張って口の端を抑えているが、笑みを隠し切れない表情になっていた。

 スミレにまでそんな風な反応をされると、流石に落ち込まざるを得ない。


「ええと……?」


 俺達の反応が全く理解できないという表情をしているマキヤさんに、右手を差し出しながら極めて低いテンションで告げる。


「信じて貰えないかもしれないけど、俺がそのカムロだよ」

「この刻印は……!?」

 

 右手に刻まれた禍々しい六芒星を見て、一瞬で状況を理解したらしい。

 その後、青い顔をして謝り続けるマキヤさんを宥めるのが大変だったが、数刻を掛けて俺がこのカムロ・アマチである事と、この隊の隊長であることに納得してもらえた。


「その、申し訳ありませんでした……」

「いいっていいって、ご主人マスターに原因があるんだし」


 落ち込んだ表情で未だ恭しく頭を下げ続けるマキヤさんに、何故かとても楽しそうに話しかける相棒。


「お前が言うなっての」

「あうっ」

 

 その頭を軽く叩く。


「ふふっ」


 と、マキヤさんの顔に笑顔が浮かんでいた。

 気恥ずかしいが、少しは元気になってくれただろうか?


                               ※


 落ち着いたマキヤさんを交えて、今後のサモニス軍特殊活動攻撃隊の方針を話し合う。

 当面の課題として、ラメイスト襲撃犯であり、伝説の召喚獣強奪犯でもあるあの白髪の男を捕まえなければ。


「転移魔法に、見慣れない服装……ですか」

「すぐ逃げられちゃったから、それ以上は良く分からないんだけど……」


 こちらの話を聞いたマキヤさんは、少し考えこむような動作をしてから口を開いた。


「もしかすると、共和国の者かもしれません」


 共和国か、名前はさすがに知っているけど、内情まではよく知らないんだよな。

 帝国と大陸を二分する勢力を持っている大国……ぐらいしか知識が無い。


「共和国って?」


 そんなこちらの気持ちを察した、訳ではないだろうが、都合良く相棒が質問を出してくれた。


「正式名称は、ルゥシア自由同盟及びサンサラ平和連合共和国」

「帝国が各地の植民地を強大な帝国軍によって一方的に統治していたのに対し、共和国は十数に渡る加盟国が対等な立場であり、協議によって物事を決める合議制を取っているのが特徴ですね」


 成る程、帝国に比べると随分フェアというか、あちらの世界に近い統治機構を持っているのだろうか。   


「しかし……その均衡が、最近崩れ始めているとの噂があります」


 最近起こった情勢の変化といえば……


「帝国が平和路線に行き始めたから?」


 グレン皇帝からミルドに代替わりした事により、帝国の侵略主義は終わりを告げ、現在は革命軍を組織していた旧植民地とも融和的な態度を取るようになったと聞く。 

 その影響が、共和国にも出始めたのだろうか。


「ええ、今まで共和国を形成する諸国は、帝国という共通の敵を持っていたことで纏まらざるを得なかった、ですがその敵が居なければ……」

「他の国に対して有利になる為に、伝説の召喚獣を狙った、と言う事か」

 

 帝国は共和国に対して友好的になったというのに、それが共和国内部での対立を生むとは、皮肉な話だな。


 更なる補足情報として、共和国は工学優先の帝国と比べて魔術研究が盛んであり、転移魔法の使い手も珍しくないとの話もあった。 

 となれば、今回の件に共和国が関わっている可能性は高い。

 けれど……


「……でも、召喚士が居なかったら使えないものを、どうしてわざわざ盗みに来たんだろう?」


 首を傾げた相棒が疑問を投げかける。

 この点は俺も疑問に思っていた所だ、サモニス以外に召喚士が生まれる事は考えにくく、傭兵などで他国に多少は居るかもしれない、がそれも少数だろう。

 加えて、建国の始祖が使った伝説の召喚獣ともなれば、非常に高位の召喚士でなければ使いこなせないと推測出来る。

 そこまでの技量がある召喚士であれば、わざわざ他国に行かずともサモニスで十分な地位を得られる筈なのだけど…… 


「どっちにしろ、ここで考えてても仕方ない、よな」

 

 だが、現状の手掛かりから考えられる犯人の情報がそれしかないのも事実。


「って事は」

「ああ、行こう……共和国へ!」


 問い掛けた相棒に対し、自分自身の戦意を高めるように、敢えて高らかに宣言したのだった。   

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