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第五十話 討究者は語る

 エメンアンキ島の地下、崩落によって辿り着いた遺跡の中で、俺は人造召喚獣の開発者であるベルナルドと相対していた。

 瞬時に戦闘態勢に入ったこちらに対し、争う気は無いと告げたベルナルドだったが……


「そう警戒せずとも、今更争う気などありませんよ」


 未だ右手を山札デッキに翳したままのこちらに対し、全く戦意を感じない気の抜けた立ち姿で話しかけるベルナルド。 

 周囲に俺達以外の気配はなく、何か罠を仕掛けた様子も感じ取れない。

 まだ信用出来た訳ではないが、姿勢を緩めて少しだけ警戒心を解く。 


「さて、私の話ですが……ここまで来れば貴方にも察しが付いている事でしょう」


 立ち並ぶ遺跡群を見渡しつつ問いかけるベルナルド。


「昔栄えていた文明の遺産が、人造召喚獣やあの巨大兵器って事か?」


 今までのベルナルドやミルドの話から、何と無く予想は付いていた。

 この世界の文明の発達程度からして、これまで戦った人造召喚獣やさっき破壊した巨大兵器は明らかに違和感がある。 


「それを理解しているのなら話が早い」


 手を打って感心したような動作をするベルナルドだったが、その声に感情は乗っていない。

 人を食った動作がどことなくこちらを苛つかせるけど、意図しての事なのだろうか。


「あれらは全て、ある敵を倒す為に作られた……と推測されています」


 あれ程の戦闘力を持つ兵器を使わなければならない敵?

 普通の人間を遥かに超えた力を持つ相手と言えば……


「まさか……召喚獣!?」

「ご名答、流石ですね」


 確かに理屈は通っているが、遥か昔にも俺達と同じような戦いが繰り広げられていたとは。

 もしその推測が本当だとすれば、何か皮肉なものを感じてしまうな。 


「この大陸に分布する遺跡に残された痕跡や、残された伝承を紐解いて得られた考察です」


 そこまで話し終え、一呼吸置いてから。  


「さて、話は変わりますが」


 余りに唐突に話題を切り替えるベルナルド。 


「はぁ!?」


 思わず口から出た驚きの言葉を気にも止めず、咳払いをしてから滔々と語り始めた。


「至高の六亡星スプレマシー・サークルと言う言葉を聞いた事はありますか?」


 その言葉に、思わず右手に刻まれた異様な星型に視線が向く

 最初はサモニスの学者に言われて、それからも時々その言葉を投げ掛けられていたから、気にはしていたんだよな

 学校で習った知識にこんな物の事は無かったし、他の術師の右手に刻まれた印はこんな形をしていなかった筈。


「ご想像通り、貴方の右手に刻まれた印を指す言葉です」


 態々個別に名称が付けられているとは、余程この刻印は特異な物なのか?


「余りに時を経ている為に、前述の戦いを記録した文献は極めて少なく、またその解読も困難なものでした。 未だ、その内容の大半は謎のままとなっています」


 レラの所に世話になっていた際に知ったが、この世界の考古学は未だ発展していないようで、せいぜい数百年昔の出来事を推測する事しか出来ていないらしかった。 


「辛うじて判読できた内容として、全ての文献中に共通する記述がありました。 圧倒的な能力を持つ召喚獣を自由自在に操り、敵対するものを尽く滅ぼした原初の王」


 語られた内容はまるで、最もよく知る誰かを表したような。


「一説には、今のサモニスを気付いた始祖とも言われています。 そして……その者の右手には、通常の召喚士とはまるで異なる禍々しき印が刻まれていたとも」

「それが、至高の六亡星スプレマシー・サークル?」


 そこまで聞いて、何故俺の刻印を見た者の数人が怯えたような、何か信じ難いものを見たかのような態度を取った訳がようやく理解出来た。


「つい最近まで、只の与太話でしかなかったのですがね」


 元々殆ど解読できていない古文書の一節であり、そこに描かれている内容も余りに荒唐無稽なものであれば、まともに取り合われないのも当然だろう。


「そう、あなたが現れるまでは」


 だが、実際に伝承通りの刻印を持ち、凄まじい召喚獣を操る者が現れて、その与太話を信じざるを得なかったのだろう。


「それを俺に伝えて、どうするつもりだ」


 ここまでの話は確かに驚くべきものであり、こちらの世界に来てから俺が感じていた、言いようのない違和感に一つの答えを齎すものだった。

 だが、それをベルナルドは何故俺に伝えたのだろう、結局何が目的なのだろうか?


「別に、どうもしませんが」

「……何を考てるんだ、お前は」


 相変わらず飄々とした様子で返され、こちらとしては呆気に取られてしまう。


「最初に言ったでしょう? ただあなたと話したかっただけですよ」


 そんな戸惑いを意にも介さず、ベルナルドはこちらへ視線を向けたまま語り続ける。

 いつの間にか、最初の人を小馬鹿にした態度は消えていた。


「私は一介の科学者です、野心も野望もありませんし、世界の行く末に興味もありません」


 それは恐らく、ベルナルドの本心なのだろう。

 碌に手入れもせず汚れ放題の白衣や、荒れっぱなしの埃を被った髪がそれを良く表している。


「今まで尽く私の自信作を破壊してくれたあなたが、この事実を知ってこれからどう行動するのか……それに興味が出ただけです」

「お前……」


 そんなベルナルドの言葉に、俺はどう返していいか分からなくなってしまった。

 目の前の男が太古から蘇らせた兵器達によってサモニスやキルストは壊滅した、それは頑然たる事実。

 だが……  


「きゃああっ!」


 悶々とした思考を、絹を引き裂くような悲鳴が打ち消した。


「ミルド!?」


 一瞬響き渡った聞き覚えのある透き通った声は、確かにミルドのものだった。


「どうやら、あちらの話も終わったようですね」


 ベルナルドはそれを知っていたらしく、全く動じる様子も見せずに呟いた。

 時間稼ぎにまんまと引っ掛けられた事について一言言ってやりたいが、今はそれどころではない。

 直ぐ様ベルナルドに背を向け、悲鳴の聞こえた方向を探り始める。


「私をこのまま放っておくつもりですか?」

「……別に、お前を憎んじゃいない」


 背中越しに掛けられた問に、振り向くこともなく答える。


「包丁で殺人があったからって、鍛冶師が悪い訳じゃないだろう」


 あちらの世界のダイナマイトを例にすればよく分かる、道具やそれを作り出したものに罪がある訳ではない。

 本当に罪を負うべきは、本当に憎むべきは――


「もし後ろめたく思っているのなら、これから世のため人のためにその頭脳を使うんだな!」


 最後にそう告げ、俺は全速力で走り出した。

 向かうは、危機に陥っているであろうミルドの元。

 既に、ベルナルドの事など頭中に一欠片も残してはいなかった。

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