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第四話 希望をこの手に

 突如消えた相棒、そして右手には、色を失ってモノクロになったカードが残されていた。

 まさか、制限効果デメリット・エフェクトか……!?


 相棒こと暴君タイラント・大災害龍ディザスター・ドラゴンには、あまりに強すぎる力を抑えるための制限が幾つか設けられている。

 手札、フィールドにこのカードしか無い場合で、相手のフィールドに三体以上の魔物モンスターが存在していなければならない事。

 そして、フィールドにこのカード以外の魔物モンスターが存在する時、このカードは破壊される事。

 後者については、いつも相棒を呼び出してから速攻で直接攻撃ダイレクト・アタックを決めて勝利していたので、全く意識を向けていなかった。

 恐らくサモニス軍に協力した時点で、サモニス軍が味方と判断され、相棒が破壊されてしまったのだろう。

 かといって、ここでいきなりサモニス軍に敵対する訳にも行かないよな……


 そんな思索をよそに、動き出した量産型召喚獣はこちらへの距離を詰めていた。

 じりじりと近づいてくる物言わぬ魔獣の群れは、俺達に狙いを定め、その不気味な赤い目を光らせる。

 と、学校の地下室から拝借した召喚札カードの束が、ズボンの右ポケットで眩しく光り始めたではないか。

 まさか、と思いその束を確認すると、カード達の背には見慣れたM&Mのロゴがはっきりと刻まれている。

 あの時相棒がドロー出来たように、もしかすると……

 

「召喚士殿! 敵がそこまで」


 顔を青褪めさせてジングが叫ぶ、最早迷っている暇はない。

 俺は瞳を閉じ、深呼吸してからゆっくりと召喚札カードの束に手を伸ばす。

 自分の周りの音が消え、一瞬世界が全て静止したような錯覚に陥る。

 この感覚、自分の命が危ういというのに、あの頃と全く変わらずゲームを楽しんでいた。

 その事実に、思わず口元が緩む。

 そして、烈帛の気合を発し、右手を勢い良く振り抜く。


「俺のターン! ドロー!」


 右手には、想像通りM&Mで俺のデッキに含まれていたカードの姿があった。

 ベストとは言えないが、この状況をどうにか出来るカードを引けたことに、少し安堵する。


「手札から、大地の白狼を召喚コール!」


 カードを翳すと、目の前に猛々しい鬣を備えた白い狼が現れた。

 予想していた事だが、実際こうやって目の前に実体が現れると、やっぱり新鮮な驚きがあるな。 


召喚コールに成功した時、山札デッキから地属性の同ランクモンスターを、自分の場に呼び出せる!」


 続けざまに、口から軽快に言葉が発せられていく。 

 M&Mのルールでは、一ターンに手札から呼び出せる魔物モンスターの数は一体のみ。

 しかしこの大地の白狼の様は、自身の持つ効果エフェクトによってその制限を破れるのだ。


「もう一体の大地の白狼を召喚コール!」

 

 右ポケットのカードの束が一瞬光り、右手にカードが自動で現れる。

 先程と同じように、白い狼を召喚コールした。

 これで条件は整った、二体の大地の白狼のクラスは同じ4、属性も同じ地属性。

 M&Mには、同じ属性、同じクラス魔物モンスター複数体の力を合わせることで、新たに強力な魔物モンスターを呼び出す召喚法がある。


「其は鋼! 其は戦人いくさびと! 鉄血の誓いと成りて守護の力を我が元に!」


 祝詞を唱え始めると、二体の魔物モンスターが光の粒子に分解され、ゆっくりと混ざり合い始める。


重想召喚コネクティブ・コール!」


 重想召喚コネクティブ・コール、一体一体は弱い魔物モンスターでも、力と想いを合わせれば強大な敵に立ち向かえる、と言った所だろうか。 


「クラス8! 偉大なる防人ペルグランデ・スクーツ!」


 光の粒子が完全に一つになった瞬間、白銀の重鎧を眩しく煌かせて、巨大な盾を備える騎士が姿を現す。 

 普通の騎士とは違い、その騎士には生身の体は無く、只鈍く輝く鎧だけが、その存在を示していた。

 確か設定では、伝説の騎士が使っていた武具が、騎士が死した後にその魂を受け継ぎ武具だけで戦うようになった。

 ということなのでこれで正しいのだろうが、実際鎧だけが動いているのを見るのは何だか不気味だな。 

 

偉大なる防人ペルグランデ・スクーツ召喚時効果コール・エフェクトにより、相手のフィールドの敵はニターンの間、行動を封じられる!」


 白銀の騎士がその大盾を振り翳すと、眼前の敵に、天空から音も無く光の矢が一斉に降り注いだ。

 矢は漏れなく全軍を射抜き、全ての敵がその場に静止する。

 これで、暫く時間を稼げる。 

 

「今の内に、サモニス軍は退却を!」

「り、了解した!」


 慌てた様子のジングが駆け出し、時を置かずに残りのサモニス軍は撤退していった。

 サモニス軍を撤退させたのは、別に彼らの身を案じてという訳でもなく、こちらの都合が大きい。

 俺の戦方は、基本的に窮地からの逆転に重きを置いている。

 周りに味方が居ると、色々と不都合が多いのだ。 


 俺の周囲からサモニス軍が居なくなった丁度その時、召喚札カードの束が、先程のようにまた光り出した。

 敵は動けないままだし、もう一ターン経過したのだろうか。


「俺のターン! ドロー!」


 慣れた手付きでカードを引く。

 手にしたカードを見て、この戦いの勝利を確信した。 

 

「疾風の使者を召喚コール!」


 眼前に、翠の羽を持った可愛らしい小鳥が現れる。

 見た目は愛くるしく、ペットとして飼うには丁度良いサイズかもしれないが、クラスは3で攻撃力パワーも低く、このままでは頼りない。

 だがこのカードは、その身に大きな可能性を秘めているのだ。


「自分の場に他属性の魔物モンスターが存在し、相手のフィールド魔物モンスターの数が自分の場より多い事により、覚醒条件成立!」


 覚醒、それはカードが持つ能力を引き出し、新たな力と姿を得る事。

 M&Mのルールでは、各カードが持つ固有の覚醒条件を満たした時に、山札デッキから対応したカードを上に積む事で、覚醒状態へと変化していた。


「吹きすさぶ悠久の風よ! 秘められし力、覚醒めざめさせ、心無き者達を戒めん!」


 祝詞と共に、小鳥の内部から眩い翠光が放たれ始める。


覚醒召喚アウェイキング・コール!」


 そして、その光が頂点に達した瞬間。


「クラス9! 疾風の支配者トランブ・ゲネラール!」


 空中で閃光が弾け、全長100mはあろうかという長大な翼を持った巨鳥が、天空に姿を現した。

 全身くまなく美しい翠の羽に覆われた姿は、一つの宝石のようにも見える。

 あっちでは只札カードを重ねるだけだったけど、実際目の前でこうやって進化を目の当たりにすると想像以上の迫力と衝撃だ。

  

疾風トランブ・支配者ゲネラールの、効果エフェクト発動!」


 巨鳥が嘶きを揚げると、その体を翠の風が包み込んだ。

 同様に、鎧騎士の周囲にも風が集まっていく。


「このターン、俺の魔物モンスターは、相手の場の魔物モンスター全てに攻撃することが出来る!」


 居並ぶ人造召喚獣を眼前にして、最早興奮が最高潮に達した俺は、声高らかに宣言した。

 いくら相手が大勢居ても、この効果ならば関係無く勝負を決められる。

 相手の数がこちらより勝っている時限定の、圧倒的不利な状況でこそ輝く効果であった。


「二体の魔物モンスターで攻撃!」


 左手が敵に振り翳され、それを合図に二体の魔物モンスターが一斉に敵へ突撃を始めた。

 

運命断裂剣アエテルヌム・グラディウス!」

 

 命無き鎧騎士が振りかざした大剣で、地上の蜘蛛は残らず斬り裂かれ。


優雅なる旋風アーデル・ヴィント!」


 覚醒めざめし巨鳥が旋風を纏った突進を繰り出すと、空中のエイは全て撃墜された。

 二体の魔物モンスターが通り過ぎた後には、倒された人造召喚獣の残骸が転がるのみ。

 遠くで様子を伺っていた帝国軍は、その光景を見て一目散に撤退していた。

 こうして、後に『第一次ラメイスト防衛戦』と呼ばれる事になる戦いは、サモニス軍の圧倒的勝利で幕を下ろしたのだった。


                 ※


 戦いを終えた俺は、先程会ったジングという軍人にラメイスト城へ案内され、その中でサモニスのお偉いさん達の歓迎を受ける事になった。

 城に着いた頃には、既に中では戦勝パーティが行われており、城内は帝国軍を撃退した事ですっかり浮かれているようだった。

 さっきまで滅亡の危機だったというのに、呑気な事だな。   

 ボロボロだった服を無理やりお着せの礼服に着替えされられ、俺もその宴に参加させられてしまった。

 その中で俺が何者なのか、どうしてあれ程の召喚術を使えるのか、等と度々質問を受けたが、どれも適当な事を言って受け流しておく。

 名前も、元のオーランド・デュランではなく、カムロ・アマチと名乗っておいた。

 素性を知っているものがいたら面倒くさいということもあったのだが、記憶を取り戻した時から意識は完全に前世のものとなっており、今更オーランドの名を名乗ることに違和感を覚えるようになっていたのだ。

 本当の事を言っても信じてもらえないだろうし…… まあ、実の所は自分にも良く分かってないんだけど。


 その最中、俺の右手を見た、確か……召喚術の学者だったかが、気になることを言っていた。

 

「こ、これは……至高の六芒星サプレマシー・サークル!?」 


 そういえば右手の紋章、いつの間にか禍々しい六芒星に変化していたんだよな。

 学者は酷く驚いた様子で、何度も信じられないと呟いていたが、この紋章がどうかしたのだろうか。

 特に大きな出来事もなく宴は終了して、俺の今回の褒章や後の処遇等については後日決まることとなり、今日は案内された城の一室に止まる事となった。


 そして、翌日の朝。

 寝なれない枕に違和感を覚えたのか、自然に何時もより早く目を覚ました。

 だが、違和感の原因は別にあったようだ。 

 何か体に柔らかい物が当たっているような、押し付けられているような…… 

 思い切って布団を捲ったそこには、全く予想外の光景があった。

   

「お……女の子!?」


 俺の胴にしがみ付いて眠っていたのは、見知らぬ紅い髪の美少女で―― 

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