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第四十八話 乱戦突破

「狙いは正確に、弾を無駄にするなよ!」


 クリスの号令と共に、甲板に並べられた太砲から何発もの砲弾が勢い良く打ち出されていく。

 その内の幾つかは目標へ的中し、派手な縛炎が挙がる、

 業火に包まれて焼失していくそれは、小船ほどある体を紅く染め、断末魔の咆哮も出さずに只燃え尽きていった。

 しかし喜んでいる暇は無い、何故なら、たった一体倒しても俺達の周囲には数え切れない程の敵がひしめいているのに変わりはないのだから。 

 エメンアンキ島へ向け帝都を出航してからほんの子一時間で、俺達は見たことも無い人造召喚獣の群れと交戦を開始していた。

 恐らく新型であろうそれは、一言で言えば水母くらげ型人造召喚獣とでも現せるだろうか。

 半透明の外皮に覆われ、ゆらゆらと所在無さ気に漂うその姿は、今が非常時でなければ可愛らしいものに映ったかもしれない。

 だが、水母の触手に似た刺突兵器を持ち、圧倒的な大軍で押し寄せるそれは、こちらへ死を齎す異形の怪物そのもの。

 しかも、その水母達は海面だけでなく、宙に浮遊してこちらへ襲い掛かってきているのだ。

 海面のみならず、ある程度の高さの空中をもその活動範囲とした人造召喚獣らしい。


 こちらも既に召喚獣を出して戦闘に加わっているが、今の戦況は……

 と、不意に甲板で所在無さ気に立ち竦んでいる少女の姿が目に入った。


「大丈夫か、ミルド?」


 大きく揺れた船体から弾き飛ばされそうになった体を抱え、気遣う声を掛ける。 

 

「はい、なんとか……」


 姿勢を立て直したミルドは、不安そうに顔を青褪めさせていた。

 いくら格闘術を会得していたとしても、自身の何倍もある大きさの敵、しかも場所が空中や海中相手とあってはどうしようもない。

 今のミルドは、忙しく動きまわる船員の邪魔にならないようにするのが精一杯の様子であった。


 そんなミルドを庇いつつ、押し寄せる海上の敵に向け操る魔物モンスターに指示を出す。 


電光審判撃ディーン・バラック!」


 宣言と共に、上半身を海面から出した眩い巨人がその体を震わせる。

 光の巨人から放たれた稲光が一直線に伸びた矢となって奔り、一瞬正面の進路が開ける。

 だが、こちらが先に進む前にその道も敵が充満し即座に塞がれてしまう。


「数が多すぎる……」


 海賊団の奮戦もあり、数の不利を受けながら今の所どうにか均衡状態を保っていた。

 しかし、エメンアンキ島への航路を塞ぐように配置された水母達を突破する事は未だ叶わず、このまま消耗戦に持ち込まれればこちらに分が無い事は明らか。

 相棒で一気に蹴散らす事も考えたが、殲滅の虐殺獄炎砲ジェノサイドインフェルノは威力が高すぎて、この船まで巻き込まれかねない。


「カムロさん、あれを!」


 そんな思考を唐突に耳へ届いたミルドの叫び声が中断する。

 ミルドが指差した方向に現れたのは、遠く離れていてもそれと分かるほど眩い光。

 まだ距離があるせいで完全に把握は出来ないが、それはある一点に光が収束しているようにも見えた。


「まさか、また……!?」

 

 頭に浮かんだのは、帝都で見たあの閃光。

 どこが標的なのかは分からないが、どちらにしてもあんなものをもう一度撃たせる訳にはいかない。 

 そう焦る気持ちとは裏腹に、一向に戦況は好転してくれない。 

 このままでは……


「……ここは私達に任せて、カムロは行ってくれ」

「クリス達だけじゃ無理だ!」


 異変に気付いたのか、こちらに駆け付けたクリスから告げられた言葉に、反射的に否定の言葉を返す。

 目の前を囲む敵は一向に減る気配を見せず、贔屓目に見てもやや不利と言えるこの状況で戦力が減れば、あっという間に水母の波にアルゴー号は飲み込まれてしまうだろう。


「侮ってもらっては困る、これでもそれなりに腕の立つ海賊団として有名なんだがね」


 そう軽口を叩いておどけてみせるクリス。

 言葉とは裏腹に、両手に一丁ずつ長銃を持ち話している間も絶え間なく乱射しているその姿は、どう見ても無理をしているものだった。

 やはりここを放棄する訳には……


「私も残ろう」


 そんな逡巡を、上空から投げ掛けられた声が掻き消した。

 目を遣るそこにいたのは、丁度真上から軽業師の如く回転しつつ落下するスミレの姿。

 落下中に投げられた短刀が、的確にこちらの背後に迫っていた水母の核を貫いて破壊していた。

 しかも同時に三体。  


「貴方の大切な人達を守る、それも私なりの恩の返し方」

 

 構造を保てなくなった水母が爆炎を挙げて四散する光景を背に、着地したスミレは全く平時と変わらない口調でそう告げる。

 透き通った目でこちらを見つめるスミレの迷いの無い顔に、こちらの惑いもふっと消えていった。  


「分かった……頼む!」


 取るべき行動を決めた以上、時間を無駄にしている暇はない。 


「俺のターン! 疾風の使者を召喚コール!」


 勢い良くカードを引き、そのままの流れで鳥型の魔物モンスターを召喚。


「自分の場に他属性の魔物モンスターが存在し、相手のフィールド魔物モンスターの数が自分の場より多い事により、覚醒条件成立!」


 既に疾風の使者の覚醒条件は満たしているので、即座に魔物モンスターを新たな姿へ変化させ始めた。


「吹きすさぶ悠久の風よ! 秘められし力、覚醒めざめさせ、心無き者達を戒めん!」


 祝詞と共に、鳥の内部から眩い翠光が放たれ始める。


覚醒召喚アウェイキング・コール!」

「クラス9! 疾風の支配者トランブ・ゲネラール!」


 視界を覆う程の翠光が消えた後、長大な翼を持った巨鳥が上空に姿を現す。 

 その衝撃で旋風が巻き起こり、船を取り囲んでいた水母達が何体か巻き添えを食って爆散していた。

 風が止んだ後、帆柱を駆け上ってこちらを待つ巨鳥へ乗り込む。


「行くよ、ミルド」


 共に巨鳥の背にしがみついたミルドの無言の頷きを合図に、勢い良く巨鳥は飛び立つ。

 海上に昇り立つ眩い閃光を目印に、一気に目的地へ向け加速。

 道中空中に浮かぶ水母達を蹴散らしつつ、向かう先は視界の先で強さを増す光の元。

 そこで待ち構えている者は、恐らくこれまでの戦いの全てを仕組んできたであろう、全ての元凶。

 逸る気持ちを抑えつつ、心中にはこれまで感じたことの無い不安と期待が渦巻いていた。 

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