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第四十五話 誠実な心で

 突如降り注いだ閃光によって革命軍が壊滅してから一週間後。

 帝国はこの戦果を自身の新兵器によるものと宣言し、抵抗する者には容赦無く攻撃することを示した。

 それによって各地の反帝国運動は収束を余儀なくされ、それによって独立を達成した大半の国が再び帝国の支配地域に収まるのも時間の問題であった。


 緊迫する状況の中、エリスを連れルミレース城へ戻った俺達は、城の大会議場で今後の戦略を練っていた。

 その席には、帝都から同行してくれているクリスの姿もあった。


「帝国がここまでの力を持っていたとはな……」

「革命軍の戦力はどれくらいなんだ?」

「正直、芳しくはありません」


 帝都攻略の為に集合していた革命軍の本隊十数万が一気に消滅した事は、その数字以上に革命軍に打撃を与えていた。

 いつまたあの攻撃によって我が身が消滅するかも分からない状況の中、革命軍から脱走する兵も後を絶たなかった。  

 共和国も他の周辺国も、自国への被害を恐れて手出しできないらしい。

 あの兵器の射程距離は不明だが、只の大砲などでは無い事は明らかであり、連射が可能か等の性能は未知数であった。

 下手に帝国に手を出せば、自分達の国土が消え失せるかも知れない、と判断したのだろう。


「となると、我々だけでどうにかする他ないようだね」

「いいのか? クリスは無理に……」

「何度も言わせないでくれ、恩人の窮地を見過ごす訳には行かないさ」


 そう言って何でも無い事のように振舞うクリスだが、この状況でこちらに味方するのはかなりのリスクを伴うだろう。

 にも拘らず手を貸してくれる事が、素直に嬉しかった。


「ありがとう」

「私からも感謝を」

「……それで、実際どうするんだ?」


 二人に頭を下げられ、少し照れながらクリスは続ける。


 と、会議場の扉が重々しく開いた。

 全員が視線を向けたそこにいたのは、予想外の人物。


「あの兵器がある場所には、心当りがあります」

「ミルド……!?」


 おずおずと会議場に入ってきたのは、正装に身を包んだミルドの姿だった。


「この度は、何とお詫びをしていいか……」


 深々と頭を下げ、心からの謝罪を告げるミルド。

 自身の親が為した所業に、本当に胸を痛めているようだった。 

 争いを好まないミルドの優しい性格であれば、尚更だろう。


 ミルドは平原での戦いからずっとルミレースに滞在していたらしく、和平に向けて帝国の中でも戦いを望まない派閥と連絡を取っていたとのこと。

 しかしその試みも、あの一撃によって霧散してしまったようだが。


「カムロから話は聞いている、むしろ君はこの事態を止めようとしていたそうじゃないか」

「ですが、わたくしの力は何の役にも立ちませんでした」

「そう気に病まないで下さい」


 そんなミルドに近付き、手を取って慰めるエリス。


「貴女が心から平和を願っている事は、私も良く知っていますから」

 

 ミルドの手を自身の胸に当て、安心させるように告げるエリスからは、ミルドへの深い気遣いが感じられた。

 二人とも随分親しげに話しているけど、ミルドとクリスって知り合いだったのか?


 ミルドが落ち着くのを見計らって、本題を切り出す。


「心当たりってのは?」

「あれ程の威力を誇る兵器を建造するならば、それなりの広さの土地が必要になります」


 実際に見たのはあの時一度きりだけど、凄まじい量と輝きを持った光線が発射されたのは確かに確認出来た。

 流石にあれが個人の力で行ったものとは考えにくく、たとえ兵器だとしても生半可な規模のそれでは不可能な事が想像出来る。  


「ですが帝都近郊には、そんな土地も兵器の痕跡も見当たらなかった筈です」

 

 エリスの話によると、そんな巨大な建造物を構築していれば、事前に革命軍の斥候が察知していたはずだ、との事。 


「余り知られていないのですが、帝都近海には幾つかの無人島が点在しています」


 しかし島々は人が住むほどの規模では無く、また資源なども確認されなかった為に、ほぼ放置状態にあったらしい。

 ――表向きは。


「その内の一つ、エメンアンキ島と呼ばれる場所は、昔から皇帝の直轄領として指定されている場所なのです」


 そう語るエリスの表情は、何処か昔を懐かしんでいるようなしみじみとしたものだった。

 もしかして、その島に行った事があるのだろうか?


「そこには帝国が建国される春か昔から存在すると言われる、太古の遺跡が封印されていると聞きました」

「遺跡か……」

「私の指輪と、何か関係があるのかもしれませんね」


 エリスの言葉に頷く、これまでのベルナルドの言葉を考えれば、あの兵器に使われているのは恐らく古代文明の技術なのだろう。

 もしかすると、この世界の文明レベルにそぐわない人造召喚獣もその古代文明がもたらしたのかもしれないな。


「つまりその島に、あの大破壊をもたらした兵器が建造されていると?」

「確証はありませんが……」


 そうミルドは締めくくり、会議場に沈黙が流れる。

 ミルドとエリスは顔を伏せ、クリスは腕組みをして目を閉じている。

 恐らく、皆迷っているのだろう。

 帝国軍のまっただ中を突破してその島に行っても目的を達せられるかは分からず、例え島に兵器があったとしても、破壊できるかは全くの未知数。

 だが、既に俺の意思は決まっていた。


「ここで待っていても仕方ない、俺は行く」


 椅子から勢い良く立ち上がり、敢えて力強く宣言した。


「島までの足なら任せてくれ」


 腕組みを解き、決意したように目を見開いたクリスも続く。


「決まり……ですね」


 それに促されるように、エリス達もゆっくりと頷いた。


                                ※


「明日……か」


 とうとう決行を明朝に控えた夜。

 ルミレース城内の割り当てられた自室で、俺は一人物思いに耽っていた。

 ベッドからは相棒とスミレ、そして昼間再会したイェンの合計三人の寝息が響いている。

 久しぶりの再会だった相棒は元より、スミレもぎこちなくだがイェンと仲良くなってくれたようで、昼間は三人で遊んでいたようだ。

  

 と、不意に部屋のドアが軽くノックされた。


「はーい」

「カムロ、今大丈夫か?」

「あ、ああ」


 ドアを開けたそこに立っていたのは、軽装姿のクリスだった。


 二人きりで話したい事があるとの事で、城のテラスまで場所を移動する。

 既に丑三つ時を回っており、ぼんやりとした月明かりに照らされたそこは、人気も無くどこか淋しげな雰囲気が漂っていた。 


「どうしたんだ、こんな所に呼び出したりして」

「実は、どうしても話さなければならない事があってな」


 暫し顎に手を当てて考えこんでから、ゆっくりと話し出すクリス。


「……明日の戦い、勝てる見込みはあるのか?」

「正直な所、良く分からない」


 真剣な口調で告げられた問に、こちらも偽りの無い答えを返す。

 頼りない言葉だが、それが心からの気持ちだった。 


「それでも行くのか?」


 続けざまの問いに、自分でも気が付いていなかった胸の奥底が現れ出していた。 


「勝てそうだからとかは関係ない」

    

 勝算で言えば、これまでの戦いも低いものばかりだった。

 でも今までそんなことは考えてもみなかった、何故なら、そもそも勝算なんて気にも止めていなかったから。 


「やらなきゃいけないって思ったから、だから行くんだ」


 俺の性格はかなり頑固というか、悪い言い方をすれば馬鹿と言って差し支えないものだろう。

 それにクリスを巻き込むのは申し訳ないけど、ここで止まる事はどうしても出来なかった。

 ここで止まってしまえば、自分を自分で許せなくなってしまう。


「やはり君は、私の見込んだ通りの男のようだ」


 そんなこちらの答えに、クリスは満足そうに微笑んでいた。

 正直馬鹿にされるか、もしくは呆れられると予想していたので、褒められると照れてしまう。


「話したい事って、それか?」


 それを隠すように話題を切り替える。

 決戦前にこちらの心中を確認しに来たのだろうか?


「いや、ここからが本題さ」


 テラスの外枠にもたれ掛かり、月明かりを背に受けて立つクリスは、一枚の絵画のような幻想的な美しさを放っていた。 

 憂いを帯びた金の瞳で見つめられ、心がざわついてしまう。


「ずっと君に隠してきた事があるんだ」


 そう告げながら、自身の背中に手を回すクリス。  


「私の本当の名前は、クリストファー・ギレインではなく、クリスティーナ・ギレイン」


 するり、と何かの解ける音と共に、目の前のクリスのシルエットが大きく変化する。

 クリスの胸に現れたのは、服の上からでも分かる豊かな膨らみを持った双丘。

 突然の出来事に驚くこちらに告げられたのは、思いもしなかった事実。

 

「私は……女だ」 

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