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第三十七話 激戦の中で

 革命軍と帝国軍が雌雄を決するコントウナ平原で、鋼鉄の百足むかでと相対する。

 平時であれば青々とした草が生い茂る長閑のどかな場所だったここも、突如現れた巨獣によって蹂躙され、彼方此方から火の手が挙がっている。


 長大な百足の体の至る所に備え付けられた銃火器が火を吹き、色取り取りの魔力弾が四方八方に乱射される。

 地面に衝突して花火のように弾けるものや、ワイヤーの如く曲線を描いてこちらを追尾するもの、機関銃の如く連射されるものなど種類は様々で、そのどれもがまともに喰らえば致命傷であろう威力を持っていた。

 召喚した狼型の魔物モンスターに乗り、命を奪わんとする幾つもの殺意の間を擦り抜けていく。


「原初に生まれし雷よ、古の数秘術ゲマトリアに導かれ、神の法の執行者となりて降臨せよ!」


 祝詞が唱えられると、翳したカードから放たれた光の粒が、次第に巨大な人の形を成していく。


召喚コール、クラス9! 真理の導雷者エメト・ラアム・ネヴイム!」


 攻撃の間隙を縫うように呼び出したのは、機械仕掛の輝く巨人。

 ここまでの戦いで壁役に消費した魔物モンスター達が墓地セメタリーに送られており、条件は既に満たしていた。


電光審判撃ディーン・バラック!」

 

 真理の導雷者エメト・ラアム・ネヴイムから放たれる龍の如き雷が、百足の伸びきった胴体に炸裂し、巨大な爆炎を上げて鋼鉄の巨体が弾け飛ぶ。 

 だが。


「この程度、何の問題もありませんね」

 

 灰色の煙が収まった後に現れたのは、先程迄と全く変わらないように見える百足の姿。 

 何事も無かったかのように、敵は元通りに体を構成し直していた。


達磨だるま落としかよ!?」


 何個ものブロック単位で構成された体は、一部を破壊してもまるで効果が無いらしい。

 恐らく瞬時に損傷した部位を切り離し、無事な部位と取り替える事が出来るのだろう。


 驚く暇も無く、お返しとばかりに放たれた光弾の嵐で真理の導雷者エメト・ラアム・ネヴイムが一瞬の内に消滅した。

 

 再びこちら目掛けて放たれる豪雨の如き火線から逃げつつ、この状況を打開する手段を模索する。

 末梢を狙っても効果が無いのなら。


「一気に頭を狙えって事だろ!」


 覚悟を決め、一気に相手の懐へ白狼を飛び込ませる。

 その動きが予想外だったのか、光弾の何割かは見当違いの方向へ飛んで行く。

 狙いを定めるのは、上空からこちらを見下ろす百足の頭部。


「俺のターン、ドロー!」


 至近距離で炸裂した爆風に白狼が吹き飛ばされ、大きく体が宙へ飛ばされる。

 混濁する意識の中、どうにか受け身を取って着地し、体を跳ね起こして胴体を狙った光弾を回避。


「相手のフィールドにのみ魔物モンスターが存在し、自分の墓地セメタリー五体以上魔物モンスターが存在する時、この魔物モンスターは墓地の『深緑の元核』に重ねて召喚コールできる!」


 右手で翳すカードから魔法陣が体の前面に展開され、迫り来る幾つもの魔力弾を弾いていく。

 目の前に現れたのは、深緑に輝く巨大なさなぎ


「重ねよ、眩光げんこう鐘鳴しょうめい! 眠りし力解き放ち、歯向かう全てを躯に変えよ!」  


 言葉が紡がれる度に、ゆっくりと蛹がその殻を開いていく。

 光弾が魔法陣とぶつかり合って放つ目も眩むような光の中で、俺の口は冷静に祝詞を紡いでいた。


覚醒召喚アウェイキング・コール! クラス7、制覇の角騎士ヘラオス・ウィンケル・リッター!」


 口上を唱え終わると共に蛹は完全に消え、薄い翠色に輝く甲虫がその姿を表す。

 その大きさは20m位だろうか、巨大な甲虫はYの字型の角を雄々しく輝かせて、目の前の百足と相対する。


野蛮なる憤怒ヴィルデ・ツォーン!」


 甲虫の角が眩く輝き、深緑の閃光が頭部を目掛けて炸裂する。

 頭部を狙い放たれた必殺の一撃は、空を切ってあっさりと消えた。

  

「それが本気ですか?」


 なんと敵は、瞬時に体を分割して回避してみせたのだ。

 バラバラになった体のパーツ達は滞空し、長方形の部分それぞれが独立して行動し始める。 

 虚を疲れた格好になった甲虫は、そのパーツ達から放たれた光弾の雨を受け爆散した。


「終わりです!」


 驚く暇もなく一瞬で周囲全てを取り囲まれ、それぞれのパーツから回避しようもない必殺の攻撃が放たれようとした。

 その時。


「自分のモンスターが、戦闘または効果によって破壊された時、ライフ半分を代償リスクにこのモンスターは召喚コール出来る!」

「これは……!?」


 再び展開される魔法陣に、ベルナルドの驚愕した声が響く。


「轟火! 招来! 裁きの炎を纏い、怒濤と成りて大地を奔れ!」


 祝詞が告げられ、カードから眩い光が放たれ始める。

 この前闘技場で戦った際の経験から、このくらいの隠し球は予想していた。

 備えとして真理の導雷者エメト・ラアム・ネヴイムの効果に使わず手札にこのカードを残していた甲斐がある。

 

召喚コール! クラス8、北聖神炎馬ノーディック・スレイプニール!」


 光が集まったそこに、白い炎に包まれた神々しい馬が現れる。


「終わるのは、お前だ! 威信の審判インフルーエンス・ジャッジメント!」


 無防備に空中を漂っていた頭部目掛け、白炎を纏った神馬の突撃が命中し、その体が跡形もなく爆散する。 


「ここまでの力とは……完敗ですよ」


 頭部が破壊された事により、漂っていた体のパーツは動きを止め全てが落下していた。

 いつの間に脱出したのか、目の前に現れたベルナルドは焦げ跡の付いた白衣を身に纏い、少し疲れた様子で両手を上に挙げて戦意の無い事を見せていた。

 流石にこの男もを腹を括ったのだろう。


「潔く投降したい所なのですが、私にはまだやることが有りますのでね!」


 と思った瞬間、ベルナルドの全身から勢い良く煙が吹き出し、たちまち視界は白煙に包まれた。


「待て!」


 こんな手を使ってくるとは、あいつは手品師か何かなのか?

 立ち上る白煙を両手で振り払おうとするものの、勢いが凄まじくまるで追いつかない。

 煙が晴れたそこにベルナルドの姿は既に無く、後にはエリスの指輪が戦利品代わりに残されていた。 

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