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第三十二話 再び来る者は

 燃え盛る館での戦いを終えた俺達は、ミルドから自信がドルガス帝国の皇女であるという事実を告げられる。


「成程、皇女だって言うんなら、豪邸に住んでいたのも納得だな」


 ミルドが皇女であるとすれば、必要以上に豪華絢爛なミルド邸等に説明が付く。


「それだけ……ですか?」


 こちらが余り驚いていない様子であることに、ミルドは逆に呆気に取られているようだった。

 確かに、普通ならもう少し大仰に驚く場面だろうな。


「大丈夫、別にえらい人だからってマスターは態度を変えないよ」


 戸惑うミルドに、相棒の助け舟が入る。

 その言い方だと単に無礼な奴みたいだが……

 今まで王族には二三回合って慣れてはいるし、そもそも相手の身分がどうとかはあまり気にしない性質たちだ。

 なので、今更ミルドに対する態度を変える理由も無かった。


「ふふっ、ありがとうございます」


 そう言って笑顔を見せたミルドに、少し見惚れそうになる。

 しかし、今はほっこりしている場合ではない。

 事態は既に動いている、出来るだけ速くこれからの事を決めなければ。


「……一つ考えがあります、昔私が住んでいたルミレースの町なら、その頃の知古を頼る事が出来るかもしれません」


 暫し話し合いの後、ミルドから出た案が採用された。

 へはこここから歩いて五日間ほど掛かるが、無謀という程の距離でもない。

 相棒から普通に王都に行って助けを求めるという案も出たが、襲撃犯が単独で無い可能性も考えて却下された。

 何者かが裏で糸を引いている場合、王都へ向かうのは敵の手中に飛び込むようなものだ。


「取り合えず、ルミレースへ向けて出発だな」


 増援の兵が来るかもしれない、足早にこの場を去った方が良さそうだ

 俺達は別に荷物も無いのでいつでも出発できる状態だった。

 が、ここにずっと住んでいたミルドはそうは行かないだろうな。


「すみません、少し待って貰えますか?」


 そう言ってから、ミルドは焼け落ちた家の残骸に入り何かを探し始める。   


「良かった……」


 四半刻経った頃だろうか、ミルドの手にはすっかり煤けて黒くなった表紙の本が握られていた。

 不幸中の幸いだが、中身はどうにか無事らしい。


「その本が……?」


 愛おしそうに本を抱くミルドを見て、先程の話が思い起こされた。


「私が召喚士に憧れるようになった切っ掛け、ですね」


 本を大事そうに懐に入れ、晴れやかな顔でこちらを向くミルド。

 その視線の一部は燃え落ちた舘へ向いており、まだ心残りはあるのかもしれない。

 だが、ここでそれを指摘するのは野暮だろう。


「行きましょう!」


 不安を振り払うかの如く敢えて力強く発せられたミルドの言葉と共に、俺達は歩き出したのだった。 

 

                             ※


 三日程歩いた所で、小さな宿場街に宿を取る事にした。

 ルミレースまでは残り半分程度、襲撃の気配も無く、今の所は平穏な旅路が続いている。

 

 質素な造りの宿に部屋を取り、部屋で休むというミルドを残して俺達は二人で街をぶらついていた。

 見渡す限り長閑な田舎町といった風景が広がる穏やかな街を歩いていると、これまでの動乱が嘘のように思えてくる。

 思い返してみれば、こっちに来てから休む暇もなく戦ってばかりだな……

 夕日に照らされる古びた街並みを眺めながら、年甲斐もなくそんな感慨に耽っていた。


ご主人マスター!」


 と、何かに気付いた相棒が、服の裾を強く引っ張った。

 街の掲示板に貼られているのは、帝国領内で重大な犯罪を行った不届き者の手配書。


「これは……」


 その中央に貼られている手配書は、一際多きな真新しい物だった。

 金額は他の物と比べても飛び抜けて高いものであり、犯した犯罪の大きさを伺わせる。

 罪状は皇女誘拐、人相書に描かれているのは、金と黒の交じり合った髪色をした虹彩異色症オッドアイの少年。

 それはまさしくこの俺、天地冠の姿だった。


 出来るだけ顔を見られないようにして宿に戻り、三人で手配書について話し合う。


「どうしてご主人マスターが誘拐犯なんかに?」

「丁度襲撃に合わせる様に現れたから、一味と誤解されたのかも」


 俺が現れてから間を置かずにあの兵士たちがミルドを狙って現れた。

 状況だけ見れば、事を起こす前の偵察だったと取られてもおかしくない。

 火災を生き延びた使用人が俺のことを話したのかも。


「もしくは、あの兵士達の裏にいる者の……」


 そう言ってミルドが怪訝そうな表情を浮かべる。

 ミルドの生存と俺の存在を何らかの形で知り、次の手を打ってきたと考えられなくもない。


「とにかく、長居はしないほうが良さそうだな」

「ええ」


 まだ真相は分からないが、どちらにしてもここに留まっている訳にはいかないだろう。

 そう結論を出し、明朝すぐに宿を出ることに決める。


 この時、まだ俺達は気付いていなかった、こちらを狙う影が、既にすぐ近くまで迫っていることに。


                            ※


 カムロ達が床に就いた頃、街の見張り台から宿屋を見下ろす黒い影の存在があった。 

 高さは二、三十メートル程だろうか、通常見張りが立っている場所の、更に上の屋根に取り付けられた風見鶏の上。

 普通であれば立っていることすら出来ないであろう不安定な足場に、その影はまるで重さが存在しないかの如く悠然と立っていた。 


饒速にぎはやを葬るとは、やはり危険な存在…」


 漆黒のローブを身に纏い、怪しげな紋様の刻まれた仮面を被ったその姿は、穏やかな宿場街の中で殊更異彩を放っていた。


「今一度、我が使命を果たす!」


 そう叫んだ仮面の人物の上空には、巨大な影が幾つも蠢いていて―― 

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