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第二十七話 交差する運命達

 帝都近郊に位置するコントウナ平原、かつて小国だった頃の帝国が外敵と何度も戦いを繰り広げたとされる古戦場であり、少し掘り返せば朽ち果てた武具の残骸が今でも見つかるという。

 現在ではのどかな草原が広がっており、平時であれば様々な動植物を見物することも出来ただろう。

 しかし今、ここは革命軍と帝国軍がぶつかり合う戦場になろうとしていた。

 

 マーム独立を契機に各地で勃発した抵抗運動は帝国全土に広まり、その勢力も日を追うごとに増大していった。

 やがて抵抗勢力は一つに纏まり、帝国打倒を目標にした革命軍と名乗るようになる。(帝国側はこの名前を認めておらず、主に反乱軍と呼称していたが)

 事はマーム一国の問題に留まらず、帝国そのものを揺るがす段階にまで進展していたのだ。

 平原から少し離れたルミレース城には、各地の革命軍が決戦へ向け集結していた。

 破竹の勢いで進軍を重ねた革命軍は、既に帝都目前まで迫っていたのだ。

 しかし帝国軍も只で帝都を明け渡すはずもなく、共和国戦線から相当な戦力を引き戻し、何としても帝都を死守する体勢に入っていた。 

 革命軍はほぼ全ての戦力を動員してこれを突破、一気に帝都を制圧し、帝国という国そのものを崩壊させようとしていた。


 ルミレース城の最上階、かつての城主である帝国貴族が住んでいたそこに、反乱軍盟主となったエリスの姿があった。

 カムロがマーム国を去ってから数ヵ月後、マーム女王となったエリスだったが、今だ戦いの真っ只中に身を置いている。

 エリスは最初に独立を達成し、また帝国が誇る護将を打倒した英雄として祭り上げられ、反乱軍盟主の座に据えられていたのだった。


                  ※


 書類に目を通し、問題が無ければペンを動かしてサインをする。

 言葉にすれば単純極まりない作業でも、実際にやると途轍もなく面倒です。

 特にこの頃は慣れない椅子と机に座っているせいか、目に見えて速度が落ちているように感じます。  

 帝国貴族の流行かは知らないのですが、机や椅子をゴテゴテと飾り付ける事に意味があるのでしょうか。

 いちいち作業の邪魔になる事この上なく、威厳が薄れるという部下の意見で質素な机に交換もさせてくれないのがもどかしい所ですね。  


「エリス様、無理はなされないで下さい、今日はもうお休みになられては……」


 と、傍らに立つ部下が心配そうにこちらへ視線を向けています。

 作業に夢中になっていて気が付かなかったのですが、既に窓からは月明かりも差し込んでおり、いつの間にか夜も更けていたようでした。

 昼食を取ってからすぐに作業を始めていたので、夕食を食べ逃した事になります。


「ええ、そのように」


 書類を片付けながら、今日の夕食はどんなメニューだったのだろう、と考えていました。

 決戦を前にした革命軍の調整作業はもとより、共和国やサモニスとの交渉などもあり、一向に仕事は減ってくれません。

 器用な人ならば上手に誰かに任せることも出来たのでしょうが、まだまだ新人女王である私にはそれも難しく、結局自分が請け負う作業ばかりが増えていく結果になっていました。 


 部屋を出て、自室へと続く廊下を歩いていると、そこで意外な人物と出合います。


「エリスお姉ちゃん」

「イェン、眠れないのですか?」


 それは寝巻き姿のイェンでした。

 イェンはかつて抵抗組織レジスタンスで私達と共に生活していた少女。

 独立達成後すぐにイェンは平穏な家庭に引き取られる筈だったのですが、本人の希望で私達と行動を共にしていました。 

 物心付いた時から戦場に身を置いていたイェンにとっては、革命軍の生活が性に合っていたのでしょうか。

 只私達を慕って付いて来てくれたのなら、とても嬉しいのですけど。


「うん……お姉ちゃんも?」

「私はこれから眠るところですから……そうだ、今日は私と一緒に眠りませんか?」


 この城は豪華ですが、マームの建物と比べどうも無駄な飾り付けが多く、気が休まらないと感じてしまいます。 

 多分それはイェンも一緒なのでしょうね。


「お姉ちゃんと?」

「はい、きっとよく眠れますよ」

「本当?」


 可愛らしく首を傾げるイェンを連れ、二人で寝床へと向かったのでした。


 次の日、まだ減る気配のない書類の束と格闘していると。


「エリス様、大変です!」

 

 部下の一人が書類を持って駆け込んできました。

 その手に持っていたのは、一枚の薄い紙。


「これは……チラシですか?」

「ええ、ですが只のチラシではないのです」


 ここまで慌てた様子で駆け込んでくるとは、相当な出来事が発生したのでしょうか。

 決戦前の大事なこの時期に、不測の事態があることはなんとしても避けたいのですが……

 慌てた様子の部下からチラシを受け取ります。


「手配書のようですが」


 長方形の薄い藁半紙には。


『この者、皇女誘拐犯』


 と大きな字で書かれており、その下にかなり高額の賞金額が続けて記されています。

 誰かは知りませんが、帝国の皇女を拐かすだなんて余程命知らずの者なのでしょう。

 そう思って人相書を見ると、そこに描かれていた人物は――    


「カムロ……さん!?」


 金と黒の入り混じった髪色と、同様の配色をした虹彩異色症オッドアイ

 それはまさしく、数カ月前に颯爽と私達の前に現れ、そしてまた唐突に姿を消したあの少年、カムロ・アマチの顔でした。  

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