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第二十五話 破壊者の脅威

 とある日の昼下がり、メリオファス島から程近い海域で、帝国海軍第八艦隊所属、巡洋艦ロプロムス号が定期巡回を行っていた。

 共和国との戦争へ海軍の大部分が駆り出され、すっかり治安の悪化した帝国領海内であるが、この船のように秩序を守る為奮戦する者達も居た。

 だが…… 


「異常なーし」


 高く突き出した見張り台の上では、帝国海軍の水兵が普段通りに見張りを遂行していた。

 波は少し高いものの、周囲に不審な船の姿も無く、平穏そのものといった様子である。  


「なあ、あれ……なんだ?」


 と、隣で同じように見張りをしていた同僚が、訝しげに海上を指差すではないか。


「何も見えないぞ?」

「いや、あそこに……」

 

 指差された地点を見ても、特に異常は無いように思えた。

 何かの見間違いでは、と思いかけた、その時。 


「揺れ……!?」


 突如、船全体を激しい振動が襲ったのだ。

 突発的な大波程度ではなく、海に慣れた水兵達でも今までに体感した事のないような大きさの揺れであった。


「空が……暗く……?」

  

 間の抜けた水兵の言葉を最後に、ロプロムス号は姿を消す。

 その後には残骸すら無く、只青い海が広がるのみであった。


                               ※


 訓練を見学した日の夕刻、俺はメリオファス島の一角にある船員宿舎に呼び出されていた。

 宿舎の大きさはあっちの世界のアパート程度だろうか、決して豪華とは言えないがしっかりした造りの木造建築で、風呂場や食堂なども併設されている。 


「よく来たねカムロくん!」


 宿舎の扉を開けると、待ち構えていたらしき年長の船員に勢い良く手を握られる。  

 照れる間も無く、船員は俺をどこかへ連れて行き始めた。


「き、急にどうしたんですか?」


 そのままぐいぐい手を引かれ、辿り着いたのは食堂だった。

 食堂に入ってすぐのテーブルには、既に山盛りの料理が並んでおり、美味しそうな湯気を立てていた。  

 テーブルの周りには、ほぼ全員揃った女性船員達の姿が。


「カムロ君元気無いみたいだったから、元気付けてあげようと思って」

「美味しい物を沢山食べれば、誰だって元気になるよね!」


 と、エプロンを付けて口々に言う船員達。

 中には派手に服を汚している者もいて、その奮闘振りが伺えた。


「その気持ちは嬉しいんですけど……」


 自分の気持ちが見透かされていた事への気恥ずかしさと同時に、こんな俺を心配してくれた皆の優しさが心に染みる。

 まだ仲間になってからそれ程経っていないというのに、こうやって気遣ってくれる事は本当に嬉しかった。

 だが……


「けど?」

「これを全部ですか……?」


 明らかに一人分を超えた量の料理達に、見ているだけで満腹になり掛ける。

 元々俺は食が細い方であるから尚更であった。 


「皆頑張って作ったから、残さず食べてね!」

「ねー!」


 それを知って知らずか、船員達は期待に満ちた視線をこちらへ向ける。

 この状況で料理を残すという選択肢は、どうやっても選べないだろう。


 そうだ、相棒に幾らか食べてもらえば……!

 相棒はかなり食べるほうだから、その分こっちの担当が減るはずだ。

 咄嗟に思いついた名案に、一筋の巧妙を見出す。


「いないっ!?」


 だが、さっきまで着いて来ていた筈の相棒の姿は、既にどこにも見当たらなかった。

 ポケットの山札デッキに手を触れても存在を感じられない。    


 ……覚悟を決めるしかないようだ。


「い、いただきます!」


 悲愴な決意と共に、一向に減る気配の無い料理達へ挑み始める。

 結局全てを食べ終えたのは、それから数時間後の事であった。


                              ※


 次の日、少し胃をもたつかせたまま目覚めた俺は、起きてすぐアルグネウターの本部へ呼び出された。


「魔の海域?」


 既に待っていたクリスから聞かされたのは、最近起こっている奇妙な事件についてだった。


「ああ、最近連続して海難事故が発生しているらしいんだ」


 なんでもこの近くのとある海域で、不自然な程事故が頻発しているらしいのだ。


「只の偶然ってことは?」

「最初は私もそう思った、だが、沈んだ船にはある共通点があってね」

 

 沈んだ船の中にギルレム海賊団の船は一隻も無く、それどころか、ギルレム海賊団に敵対する者ばかりが被害に合っているらしい。


「ってことは、ギルレム海賊団の仕業か」

「まだ断定は出来ないが……」


 確かに今の所は状況証拠だけだ、ギルレム海賊団が原因だとは言い切れないだろう。


「どっちにしろ、このままにするつもりは無いんだろ?」


 だが、放っておいていい事件でもない。

 このまま放置していれば、いずれアルグネウターにも被害が出るだろう。

 クリスの性格からして、ここで黙っているのは性に合わないよな。

 そんな推測を込めた俺の問いに、クリスは迷い無く頷いたのだった。


                            ※

 

「で、ここが問題の海域か」


 船に揺られておよそ一時間、道中敵の襲撃も無く、あっさりと目的地に到着していた。

 見渡す限り只の海が広がっているのみで、今の所特に異常も無いようだが……


「ようやく現れてくれましたか」


 とその時、前触れも無く脳内に声が響き渡った。


「お前は……!?」


 驚愕をどうにか抑え声のした方を振り向くと、そこには異様な光景が。

 何も無い筈の海面に、怪しげな仮面を付けた男が直立していたのだ。

 その男は押し寄せる波飛沫の中で、海に沈むどころか水に濡れてすらいなかった。 


「貴様、何者だ!」

「これから消え行く者に、名乗っても意味が無いでしょう?」


 クリスの問いに、慇懃無礼な態度で答える仮面の男。


「ですが何も知らないまま死するのも哀れ、一つだけ教えてあげましょう……」


 よく見ると、あの不気味な仮面に見覚えがあるような。

 全く同じって訳じゃないけど、似た物を最近見たはず。

 確か……


「この世界の調和を守る、その為に私は使わされたのですよ」


 俺の思考を他所に、男は大げさな身振りで鷹揚に話す。

 その仕草からは明らかな余裕が感じられ、男の自信と実力を窺わせた。  


「調和だと!?」 

「お喋りは終わりです、そろそろ消えて頂くとしましょう!」


 その言葉を最後に、男の姿は何処かへ掻き消えた。

 直後、凄まじい轟音が辺りに鳴り響き、打ち寄せる大波と共に、巨大な黒い影が海中から姿を現し――

 

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