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第二十二話 邂逅、隻眼の覇者

 帝国とも共和国とも知れない未開の地の、更にそこから常人であれば数ヶ月は掛かるであろう険しい場所の奥地。 

 そこに、柱に至るまでの全てが透き通った水晶で構成された、幻想的な神殿が建立されている。

 カムロが見ればRPGのリアルなムービーか、ファンタジー世界を舞台にした大作映画だと思っただろう。

 

 カムロが海に沈んだ頃、そこに不可思議な者達が集まっていた。

 何処かの王室の謁見の間を思わせるその部屋の中央奥、高い階段によって隔てられたそこに、絢爛な装飾に包まれた椅子がある。

 そこに座る年老いた老人の姿は、純白の神御衣かむみぞに包まれており、言い知れぬ威圧感を感じさせる。

 隣に立ち、睨みを利かせるように鋭い視線をぎらつかせているのは、同様に神御衣かむみぞを纏った中年の男。

 階段を降りた部屋の前部には、白いローブを身に纏い、怪しげな仮面を付けた者が二名、頭を垂れて畏まっていた。

 それは、かつてカムロを襲撃した謎の人物の格好であった。


櫛名田くしなだよ、使命を果たせなかったようだな」

「我が力及ばず、慚愧の極み……」


 櫛名田くしなだと呼ばれたその人物は、頭を下げたまま答える。  


「此奴には過ぎた任だった、それだけのことでしょう」

饒速にぎはや、貴様であれば可能だったと?」

「敢えて申し上げるまでも無く」


 櫛名田くしなだの隣に立つ饒速にぎはやは、皮肉を隠そうともせずに口を開いた。


「そこまで言うのであれば、この一件貴様に任せるとしよう」

「主上様!?」

「貴方はここで、私の活躍を指を加えて見ていることですね」


 驚きを隠せない様子の櫛名田くしなだに、饒速にぎはやは挑発するかの如く更に話続ける。


「……貴様ァ!」


 瞬間、櫛名田くしなだは右手に光球を発生させ、饒速にぎはやに今にも襲いかからんとした、が。


「主上様の御膳であられるぞ、二名とも控えられよ」

「ハッ!」

「も、申し訳……」


 主上と呼ばれた老人の隣に立つ男に叱責され、再び頭を垂れる両名。

 だがその間には、隠しきれない険悪さが渦巻いていた。


「全ては、我らが神の御心のままに……」


 そんな中、厳かに発せられた老人の言葉だけが、静寂に包まれる神殿に響き渡っていたのだった。


                             ※


 感じたのは、冷たく硬い床の上に寝かされている事、そして、一定のリズムを保ちながら大地が揺れていること。

 その振動に気付いてから程なくして、自分が海の上にいる事に思い至った。

 確か、海賊を撃退した後船が燃えて、それから…… 


「目が覚めたようだね」


 未だ覚醒しきらない意識に、落ち着いた口調で話し掛けられる。

 抑制された高音を保って響くそれは、調律された弦楽器の如く。


「私はクリストファー・ギレイン、この船の船長をやっている」


 ぼんやりとした視界の中に、眩しく光る金の髪が揺れる。

 歳は二十くらいだろうか、嫉妬する気も起こらないくらいの整った顔立ちの中で、左目を塞ぐ眼帯が異彩を放っている。

 服装も派手派手しく、真紅の半ズボンには目立つ飾り帯を着け、その上に豪華な外套を羽織っていた。

 まさにお伽話の中からそのまま飛び出してきたような海賊の姿と言えるだろう。 


「貴方は確か……武闘大会で活躍していた召喚士殿かな? その髪に見覚えがある」


 一日で二度も同じ話をされるとは思わなかった。

 今まで自覚していなかったが、俺はあの大会で相当目立っていたらしい。 

 

 それを聞き流しながら、現在の状況を確認する。

 ここは倉庫だろうか、かなり質素な作りの狭い部屋で、周りには無造作に樽などが転がっている。

 明かりは頭上の頼りないランタンのみで、今が昼か夜かもわからない。

 服装は平時のままだったが、必ず身につけている筈の山札デッキの感触がポケットに無かった。

 取り上げられてしまったのだろうか、まさか、海に落ちた時に流されて……

 途端に不安に襲われるが、考えても仕方がないと無理やり内心を納得させる。

 両腕は縄で後に縛られており、例え持っていたとしてもどうにもならなかっただろう。


「フッ……そう警戒しなくても、別に取って食ったりはしないさ」


 そう言って髪を大げさに掻き揚げるクリストファー。

 さっきから感じていたけど、クリストファーはいちいち動作が大仰で、一つ一つが芝居掛かって見える。

 整った顔立ちと相まって、まるで舞台役者のようだ。


「海賊に襲われて、海賊に拾われるとは皮肉だな」


 このまま黙り込んでいても事態は進行しないと判断し、渋々口を開く。

 が、海賊相手にまともな対話など出来るのだろうか。


「私達は堅気を襲わない」


 憎まれ口に気分を害するのではなく、淡々とした口調でクリストファーは返す。


「狙うのは無法者と、帝国軍だけだ」


 しっかりとこちらを見据えて告げられるその声からは、海賊らしからぬ誇りが感じられた。

 その言葉が本当だとすれば、交渉の余地も有りそうだけど。


「貴方さえよければ、私達に力を貸してくれないだろうか?」


 暫しの沈黙の後、予想だにしなかった提案をクリストファーは持ちかけて来た。


「知っての通り、今この海は荒れに荒れていてね、猫の手も借りたいほど事態は切迫しているんだ」


 驚くこちらを知ってか知らずか、クリストファーは表情を変えずに話し続ける。


「勿論、報酬その他は保障するよ」


 そこまで話し終えてから、こちらの出方を伺うように黙り込むクリストファー。

 

 もしこの提案が本当ならば、願ってもない話だ。

 クリストファーの態度には高潔さが備わっており、先程襲い掛かって来た海賊達とは明らかに違うものを感じる。

 只1つ気に掛かるのは、海賊稼業の具体的な内容が分からないということだが。

 流石に無辜の民を相手に犯罪行為をするのは気が咎める。

 先程の話通りなら、海を荒らす輩としか戦わないらしいけど…… 


「あんたらに協力してもいい」


 悩んでいてもどうにもならない、それに、このままここに閉じ込められていては気が滅入る。

 というか、既に船酔いが体を蝕み始めていた。


「本当かい! 助かるよ」


 そう言って喜ぶクリストファーの顔からは、邪なものを感じなかった。

 それだけで信用する訳にはいかないが、取り敢えずは安心出来るかもしれない。 


「但し……一宿一飯の恩を返すまでだ」


 例えここの居心地が良かろうと、いつまでも長居する気は無い。

 そもそも、エリスの指輪を取り戻す為にレラ達と別れたのだ。


「それから先は、私達の態度次第、と言った所かな?」


 そう言って軽く笑うクリストファーに、肯定も否定もせずに曖昧に頷き返す。 


「どうやら丁度到着したみたいだね」


 と、船が一際大きく揺れてから静止し、船内が俄に慌ただしくなり始めた。


「ここは私達の拠点、メリオファス島さ」


 聞いたことのない名前だが、クリストファーの組織は一つの島全体を拠点にする程強大な力を持った海賊なのだろうか。 

 と、部屋に入ってきた船員によって、縛られていた縄が手早く解かれた。

 手首の滲むような痛みを感じつつ、立ち上がってクリストファーと相対する。   


「ようこそ、我らアルグネウターへ!」

 

 爽やかに差し出された右手を、少し躊躇してから敢えて力強く握っていた。

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