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第十七話 無垢なる鋼の召使

 廃鉱奥の謎の古代遺跡で俺達が遭遇したのは、カプセルの中で眠っていた少女。

 その服装は遺跡には場違いな程可愛らしい、完璧にパーツの揃ったメイド服だった。

 

 俺はカプセルの中に横たわったままの少女を見つめながら、何故こんな場所にメイドさんが? と頭の上に疑問符を浮かべていた。  

 レラも驚いた様子で、少女に視線を向けたまま微動だにしない。


「メインシステム、通常モードで起動します」


 と、不意に落ち着いた口調の電子音声が流れ、少女が起き上がったではないか。


「レラは下がって!」


 咄嗟にレラを下がらせ、カードを何時でも引ける体勢を取りながら少女と相対した。 

 外見ではただのメイドさんだけど、中からうんにょりしたエイリアンとか出てくるかもしれないからな。


「私の名前は、Special Universe Assistants Robot Earth-type」

 

 そんなこちらの警戒心を知ってか知らずか、少女ははきはきした口調で話し始める。

 なんだかよく分からない横文字がつらつらと聞こえたけど、最後の方はどうにか聞き取れた。

 ロボットって、この子はもしかしてメイドロボなのか?


「略してスアレと申します!」


 とびっきりの笑顔でそう言ったスアレの極めて明るい表情からは、邪な気配を全く感じなかった。   


「俺はカムロ、カムロ・アマチ」「わ、私はレラ・イスルド」


 なんだか拍子抜けして、二人共呆気に取られてしまう。


「宜しくお願いします、旦那様!」


 ツインテールを揺らしながら頭を下げるスアレは可愛らしく、一見只の少女にも見えるが。

 こんな所で寝ていたんだから、普通の女の子って訳じゃないよな……


「それと……奥様でいらっしゃいますか?」

「え? わ、私!?」

 

 と、不意にスアレはレラに問い掛けた。


「いや、違うけど」

「そうですか、失礼致しました」


 変な勘違いされたらレラに迷惑だし、すぐに否定したのだが。


「そんなに力強く否定しなくても……」


 何故かレラは不機嫌そうに頬を膨らませていた。


「スアレ、まず聞きたいんだけど、君は一体……」

「先程申し上げたとおり、私は旦那様の生活を補助するための家事手伝いロボット……所謂メイドロボですね!」


 本当にメイドロボだったのか、外見は普通の人間と全く変わらないようだけど、中は一体どうなっているんだろう。

 

「ロボ……?」


 そもそもロボット自体知らないレラは、俺達の会話を聞いて不思議そうな顔をしていた。


「それで、ここは何なの? どうしてスアレちゃんは眠ってたの?」

「し、少々お待ちください、サテライトリンクによるライブラリのダウンロードを……」


 レラの矢継ぎ早に繰り出される質問に戸惑ったのか、スアレは狼狽えながら頭に手を当てて考え出す。

 それだけならいいのだが、奇妙な駆動音と共に、スアレの全身が発光し始めたのだ。

 この異様な光景を見ると、彼女がロボットだと認めざるを得ないな。

 

「スアレちゃん……?」


 明らかに只事で無い様子に、レラも心配そうに声を掛ける。


「も、申し訳ありません、通信回線の不調でしょうか……」

「いや、そもそも衛星が飛んでないんじゃないか」


 このままでは話が進まないので、助け舟を出す。

 スアレに衛星がもう飛んでおらず、恐らく通信は不可能であるということを伝え、レラにはスアレがずっと眠っていたせいで記憶が不確かになっているのだろうと説明した。


「ええとつまり、スアレちゃんは何も覚えてないって事かな」

「申し訳ありません……」


 悲しそうな表情を浮かべるスアレの頭を無意識に撫でると、嬉しそうな顔でこちらを見つめて来た。

 喜んでいるのか、小刻みに左右に揺れるツインテールが犬の尻尾のようだ。 


「何か覚えてる事は無い?」


 そのままの体制で、努めて優しくスアレに問いかける。


「家事をこなす為の基礎データなら、一通りデフォルトで搭載されているのですが」


 が、スアレは寂しそうな顔で返答するのみ。

 この様子だと、どうやら本当に何も知らないらしいな。

 

 それから俺達は、このままここにいても仕方がないので家路に着くことにした。

 スアレを連れ、最早照明も消えて真っ暗になった遺跡内を慎重に進み始める。


「そういえばランタンは?」


 暗闇の中でここに来るときに持っていたランタンに思い至った。

 しかし、レラも俺も何処に放おってしまったのか全く思い出せない。

 このまま出口まで明かり無しで進むのは、結構厳しいな……


「スアレにお任せ下さい!」


 と、スアレが俺達の前に進み出たかと思うと


「照明機能、オン!」


 なんとスアレの両目から、眩い光が放たれ始めたではないか。

 その明かりは自動車のハイビームの如くしっかりとした物で、これなら帰り道も安心だ。


「凄い……」

「メイドですから!」


 こちらの驚いた様子に、スアレも満足顔で頷いていた。

 ……のは良いのだが、振り向くといちいち明かりがこっちに向いてかなり眩しい。  


「私、メイドさんなんて本でしか知らなかったけど、凄いんだね!」


 と、レラも感心しきりである。

 メイドさんについて変な知識が付いてしまいそうなのは少し心配だけど。


 そんなスアレの活躍もあり、俺達は問題無く丘の上の我が家まで辿り着いていた。 


「おっそーい! ご主人マスター何処ほっつき歩いて……」


 ドアを開けると、待ちかねていた様子の相棒が肩を怒らせて飛び出して来た。


「わふっ!?」


 と、丁度俺の前に立っていたスアレの、その豊かな膨らみに相棒は衝突していた。

 弾力を持った双丘に跳ね飛ばされ、そのまま家の中へ戻っていく。


「この方は……?」

「また乳が増えてる!?」


 そんな相棒を見て不思議そうな顔のスアレと、尻餅を付いたまま怒り出す相棒。

 怒涛の如く追求してくる相棒にどうにかスアレの説明を終えた頃には、家に着いてから小一時間程経っていた。

  

 それから少し経って、俺は食後の一時を居間でソファーに座って寛いでいた。

  

「キミは、何か隠してるよね」

  

 と、隣で同様にリラックスしていたレラが、不意に真面目表情になって問いかけてきたのだ。


「え……」

「あの遺跡に入ってから、何か様子変だったし、それにスアレちゃんの事も何か心当たりがあるみたいで……」


 そう言いながら、じわじわと顔を近づけてくるレラ。

 ロボや衛星について知っていた事で、レラは何かを感じ取ったらしい。 

 自分では意識していなかったが、あっちで見知ったものに出会ったことで、少し浮かれていたのかもしれない。


「……信じて貰えないかもしれないけど」


 ここで白を切っても仕方がない、それにレラならきっと大丈夫。

 根拠はないが、心には確信があった。


「キミの言葉なら、信じるよ」


 期待通りの頼もしい返答に、こちらも頷いて信頼を示す。


「実は……」


 そして、今までの事についてゆっくりと話し始めた。

 前の世界のこと、M&Mのこと、こっちに生まれ変わってからのこと、その他諸々を。


「そっか、大変だったんだね」


 すべてを聞き終えたレラは、その前と同じ優しい瞳でこちらを見つめてくれた。


「嘘だって……思わない?」


 心配な気持ちは拭えなかった、もし同じ立場なら、完全に話を信じてあげられる自身は正直無い。 


「さっき言ったでしょ」

「そっか」


 くどいと言わんばかりの返答に、心からの感謝を言い掛ける。

 けど、ここでそれを言うのは、多分レラに失礼だよな。


「それより!」


 と、こちらの瞳を覗き込みながらレラが更に距離を詰めた。

 顔と顔の間は数センチしかなく、その綺麗な瞳と色っぽい睫毛までもはっきりと見える。

 どうしよう、こんな時ドラマだったらラブシーンに突入するけど……!?

 

「え、エリスちゃんとは、本当に何も無かったの?」


 そんな困惑を他所に、レラは戸惑いがちに辿々しい口調で問いかけた。


「へ……?」


 余りに予想外の言葉に、思わず間抜けな声が漏れる。


「だ、だから、その……綺麗な子だって言ってたし」

「いや、別に何も無かったけど」


 顔を赤らめて恥じらいを見せるレラは、いつもとはまた違った魅力があるな。

 なんて気持ちはおくびにも出さず、努めて冷静に言葉を返した。


 エリスの事は今でも大切に思ってるけど、多分恋とか愛ではない……よな。

 それに、エリスにもそういう素振りはなかったし。 


「そっかー、それならよし!」


 急にいつもの調子に戻ったレラは、再び距離を取って笑い出す。

 何が気になったのか分からないけど、まあ元気になったのならそれでいいか。


「もー! なんでこっちに来てからボクより大きい人ばっかり……」

衝撃吸収装甲アブソープション・アーマーがどうかなされましたか?」


 と、風呂場の方から、相棒とスアレのほのぼのとした会話が漏れ聞こえた。


「でも、まだ安心できないか」

「何が?」


 顎に手を当てて、少しだけ眉間にしわを寄せるレラ。 

 今の話に引っかかる所があったのだろうか。 


「ふふっ、なんでもなーい!」


 そう言って明るくはぐらかしたレラの笑顔は、思わず見惚れる程綺麗だった。

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