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第十三話 謎の襲撃者

 帝国護将との戦いから一週間程たったある日、既に日も傾いたというのに、マーム城内では忙しく新生マーム政府の職員達が走り回っていた。

 独立を果たしたものの、今だ帝国の脅威は去った訳ではなく、また新しく統治機構を作り直す作業も一筋縄ではいかない物であった。

 目を回すような忙しさの中で、それでも職員達の顔には充実した笑みが浮かんでいる。

 自分達の手で新しい国作りを行える喜びと、まだ見ぬ自由な未来への期待が、全ての職員に共有されているようだった。


 そんな城内の一室、かつて歴代の王達が住まった寝床に、新たなマーム王女、エアリアス・キルト・マームの姿があった。

 かつてレジスタンス本拠地で使っていたのとは比べ物にならない程豪華な机に向かい、感慨深い様子で書き込んでいるのは、いつかの日と同じ、小さく表紙に『日記』と刻まれた簡素な装丁の本。


                               ※


 あれからもう一週間が経ったんですね、なんだか色々な事がありすぎて、日記を付ける暇さえありませんでした。

 帝国護将をカムロさんが倒してから、全てがいい方向に進んでくれたんですよね。

 指揮系統を失い混乱の極みにあった帝国軍は、マーム国民の一斉蜂起を抑えられず、驚くほどあっけなく旧マーム領から撤退していきました。

 程なく私は正式な代二十三代マーム王に即位し、帝国からの独立を宣言したのです。

 それに呼応して周辺の帝国領でも占領された国々による抵抗運動が活発化、帝国はそれを抑える事に精一杯で、私達は今のところは平穏に暮らせています。

 

 あれ程願っていた独立を達成したというのに、私の心にはぽっかり穴が開いたような、達成感と同時に大きな喪失感を感じています。

 これからまだまだ大変だということは分かっているのですが。

 きっとそれは、あの人の事も大きいんでしょうね。

 突然現れて、私達の為に戦ってくれて、あの人がいなかったら、きっと私はここまで戦えなかったと思います。

 でもあの人は―― 


                               ※


 エリスが日記を書いていたのとほぼ同時刻、マームとサモニスの国境付近で、険しい山岳地帯を歩く二つの影があった。

 防寒具をしっかり着込んだ男の方と比べ、その傍を歩く少女の方は見ているだけで底冷えしそうな軽装であったが、まるで寒さを感じていないような表情をしていた。

 それはサモニスへの帰路に付いたカムロと、彼の相棒の姿だった。

 帝国護将を倒した後エリスを救出したカムロは、程なく成されたマームの独立を見届けてから、人知れず姿を消したのだ。


「良いのご主人(マスター)、あっさり出てきちゃって」

「もう俺が居なくても大丈夫だろうし、それにチヤホヤされるのは趣味じゃない」


 それは本心から出た言葉だった、もう大きな戦いはしばらく起きないだろうし、逆にあそこにいた方が余計な騒動が起きるかもしれないからな。

   

「告白とかしないの?」

「こ、ここ、告白!?」


 相棒の予想外の問に、動揺を隠せず思いっ切り狼狽えてしまう。

  

「べ、べべべ別にそんなんじゃないし、好きとかそういうアレじゃないし……」

「ふーん」


 どうにか取り繕うが、相棒の視線は冷たい。

 

 結局エリスへの感情は、自分でも理解出来なかったのだ。

 好きか嫌いかで言えば好きだけれど、告白までかと言えばそれも違う気がする……

 こういう時、普通の男だったらどうするんだろうか?

 考えてもさっぱり結論が出ない。      


「そういえば、あの白い花はなんだったんだろうな?」

「え……」


 不意に、病院でエリスから貰った花が気になった。

 あの花を見て、イェンが何か言い掛けてた気がするんだけど、今までゴタゴタしてて聞き損ねたんだよな。


「イェンは何か言ってたか?」

「う……ううん、なんにも」


 ってことは、只の勘違いかな……


                               ※ 

                              

 カムロはそれ以降花についての関心を失うが、相棒の方は内心とても動揺していた。

 というのも、相棒はしっかりイェンから花について聞き出していたからだ。


 あ、危なかったぁ……

 うっかり本当の事言いそうになっちゃったよ。

 もしあの花のことを知ったら、ご主人(マスター)の気が変わっちゃうかもしれないもんね。


 マスターが帝国のなんとか将軍ってのを倒してから数日後に、イェンとお城の中庭で会ったんだ。

 イェンはこれから新しい生活が始まることを凄く喜んでて、見てるこっちまで嬉しくなっちゃったんだよね。

 色んな話をする中で、なんとはなしにあの花の話題になったんだっけ。


「……エストラリス」

「それが名前?」


 少し戸惑いがちに、イェンは花の名前を教えてくれた。

 なんでも昔からマームで大切にされている花で、よく贈り物にされるんだって。 


「は、花言葉は……」


 そこで一旦言葉を切って、イェンは深呼吸してからゆっくりと僕に告げたんだ。


「永久に、貴方を、想う」

「それって!?」


 もし本当なら、あのエリスって人はご主人(マスター)の事を――


                               ※

 


「これからどうするの?」

「取り合えず、サモニスに帰って報告かな」

「えー! 折角一仕事終わったんだし、観光とかしようよ!」


 こちらの極めて普通の返答に、相棒は不満顔のようだ。

 ここには遊びに来たんじゃないんだけどなぁ……

 そんな取り留めの無い会話をしていると、不意に進路が途切れ、目の前に断崖が現れた。

 どこかで道を間違えたか?


 取り敢えず引き返そうとした、その時。

 

「カムロ・アマチ、我々は貴様を排除対象と判断した」


 俺達の目の前に、突然黒いローブを来た怪しい仮面が現れた。

 背格好は同じくらいだろうか、顔は仮面で見えず、声もくぐもっていて、男か女かは分からない。

 明らかに不気味な人物の登場に、相棒をカードに戻して戦闘態勢を整えようとするが。


 仮面の人物が取り出した小さなカードを見て、思わず動きが止まる。

 なんとその背には、M&Mのロゴが刻印されていたのだ。


 こちらの驚きを他所に、仮面の人物は何かを詠唱し始める。


極めて汚もきわめてきたなきも滞無れば穢とはあらじたまりなければきたなきとはあらじ内外の玉垣清淨と申すうちとのたまがききよくきよしともうす


 魔物モンスターを召喚しようとしているのか!?


「顕現せよ! クラス10、高皇産霊神タカミムスビノカミ!」


 神々しい光りと共に現れたのは、白い神御衣かむみぞを纏った女性の姿。

 放たれる後光で細部は確認できないものの、名称から恐らくは日本神話に出てくる神を模したカードだと推測できる。

 でも、こんなカードあっちにいた頃に見たことも聞いたことも無いぞ……!

 

高皇産霊神タカミムスビノカミの効果発……っ!?」

 

 と、不意に仮面の人物の握ったカードが、激しい光を放ちながら空中へ浮かび上がったではないか。

 それに同調するように、現れた魔物モンスターからも、目が潰れる程の閃光が放たれた。

 その閃光は物理的な衝撃を伴って、無差別に周囲を破壊していく。


「こんな、まさか……!」


 その光は、主であるはずの呆然とする仮面の人物をも捉えようとしていた。


「危ない!」


 咄嗟に体が動き、仮面の人物を庇うように突き飛ばす。

 

「どう……して……?」


 仮面の人物が、呆気に取られたようにこちらを向く。

 自分でも何故と感じるが、勝手に体が動いてしまったのだ。


 向かって来た閃光をどうにか避けるが、足場が全て消し飛ばされてしまう。


「嘘……だろ!?」


 反応も出来ずそのまま体は中空へ投げ出され、底の見えない暗闇へと落ちていった。

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