最終話 そして、また始まる
「あー、やっぱり家が一番だよねー」
「昼間からだらしないぞ、相棒殿」
干物のようになって床に突っ伏す相棒を、スミレがマッサージしながら窘めていた。
「何事も無いのが一番ですよ」
「確かに、平和が何よりじゃのう」
「森の暮らしも悪くないが、こういう生活も中々よいものだな」
上品に紅茶を飲むマキヤさんの言葉に、机を囲んで座ったアリムとディーレットさんが同意する。
召喚獣の世界などではなく、単に別の大陸に住んでいただけだと分かった今、普通の人間とエルフやドワーフとの交流が始まろうとしていた。
二人は皆が本格的な交流を開始する前に、縁のある俺の家を訪れていたのだ。
「なんかさ……人多くない?」
前述の二人と、相棒、マキヤさん、スミレ。 俺も合わせて六人でもかなり多く感じるのだが、今家にいるのは……
「気のせいじゃないっすか」
だらりとソファーに寝転がったアメリアが、仰向けになって答える。
「いや、明らかに多いって。 そもそも、何で皆俺の家に」
改めて確認してみると、今この家には十人以上の人間がひしめいていた。
そこまで広くない家の許容人数ぎりぎり。 というか、多分越えている。
「一緒に来たいと言った皆を抑えたんだ、むしろ感謝して欲しいな」
口火を切ったのは、相変わらず派手な船長服で着飾ったクリス。 確かに、船員の皆が来れば更に大変だったとは思うけど。
「わ、私は今日で帰りますから……」
と言いながらも、エリスはしっかり数日分の着替えを持ち込んでいる。
「……お兄ちゃんに……会いに」
エリスの腕に抱かれるイェンは、こちらをじっと見つめている。
「帝国も共和国も調べたし、これからはサモニスを調べようかなって」
それは結構なのだが、俺の家は別に調べなくてもいいのでは。
「メイドが旦那様と一緒にいるのは当たり前です」
どこから取り出したのか、手に箒を持ち、はりきって掃除をしているスアレ。
「お忍びの外出って、いけない事だけにわくわくしますよね!」
ミルドはすっかり浮かれているようで、せわしなく部屋の中を歩きまわって落ち着きが無い。
「共和国が落ち着いたので、遊びに来たんです」
「シィルが危険な目に合わないように、護衛だ」
どこから持ち込んだのか、真っ昼間からワインをラッパ飲みしているイスク。 少し申し訳無さそうなシィルも、頬が少し赤い。
「我がどこにいようと勝手であろう?」
ずい子は我が物顔でクッションを一つ占領し、部屋の隅に陣取っている。
「置いてきぼりになっちゃったし、カムロっちから色々聞かせてもらわないと割に合わないっすから!」
「拙者もいるで御座るよ!」
勝手に店のお菓子を食べているアメリアと、一緒になって騒いでいるキカコ。
あまりに自由過ぎるめんめんに、もはやツッコむのも面倒になってしまった。
というか、エリスとミルドは勝手にここに来て大丈夫なんだろうか。
「皆心配してたんだよ。 ご主人がいなくなってさ」
「そりゃ、ありがたいけど」
大陸の外に言ってから一ヶ月近く何の連絡も無かったのだ、気をもまれても仕方ない。 それに、こうして態々様子を見に来てもらえるなんて、恵まれているよな。
「今日の夕飯は、豪華なものを作るっすよ!」
「スアレも手伝いますね」
「人数が多いし、皆で分け合えるものが欲しいな」
こちらの気持ちを知ってか知らずか、和気藹々と喋り出すみんな。
「共和国とはどんな所なのじゃ?」
「俺としては、そちらのほうが気になるんだが……」
こうして平和に過ごせているなんて、学校が襲われた頃からは想像もできなかった。 たった一年しか立っていないのに、あの日がもう随分と昔のように思える。
「今日は難しい話を無しにして、一緒に楽しみましょうね」
「は、はい。 よ、よろしくお願いします」
「お姉ちゃん、大丈夫……?」
今ここにいるみんなも、一年前と今では色々なことが変わっている。
「ずい子、レラが質問だって」
「我に何用だ」
「あなたが知っている歴史について、聞きたいんですけど」
神威嚆矢の計画は終わり、この世界も一応は安定を取り戻している。 けれど、それは薄氷の上に乗っているもので、何かあればまたすぐに崩れてしまうものだ。
「ご主人、何ぼーっとしてんのさ」
「いや、ちょっとな」
でも、きっと大丈夫。 俺達の先祖は、一度世界が終わっても諦めなかった。
もし何かあれば、俺は全力で戦う。 俺の大切な人達と、大切な世界を守るために。
「隊長、大変です! 大陸の外から、新たな敵が!」
一旦城に戻っていたマキヤさんが、顔を青くして家に走り込んだ。
「行くぞ、相棒!」
「うん!」
考えるよりも先に、体は走り出していた。
家から飛び出し、巨大な龍になった相棒の背に乗って、裂帛の気合で札を引く。
この先に何があっても、それは変わらない。 どんな相手だって、絶対に負けない。
「俺のターン、ドロー!」
世界を変える程の力、M&Mが、強い想いが、俺の中にあるから!
カードゲームではよくあること、この話で完結です。 今まで読んで頂きありがとうございました。
自分の趣味を全面に出した作品だったのですが、予想以上の評価を頂いて、本当に驚いています。
感想をくれた方、ブクマ登録、評価をして頂いた方、本当にありがとうございました。
読者の皆様が、少しでもこの作品を読んで楽しんでくれたら幸いです。