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第百七話 眩き蒼球

「な、なんすか、あれ!?」

 

 突如現れた肉食恐竜を見て、アメリアが驚愕の声を上げる。

 色々な動物が居るとは思っていたけど、あんなものまで生息していたとは。

 閉鎖空間でも人間が自然に暮らしていくために、ある程度の動物を飼育しているものだと思っていたが、あれは必要なのか……?


「どう見ても友好的じゃないね」

 

 目を血走らせて迫る肉食恐竜は、完全にこちらを獲物としか捉えていない。


「逃げるぞ!」

「戦わないんすか!?」


 一目散に走り出そうとした俺を見て、アメリアが困惑した様子を見せる。


「ここじゃ無理だ!」

「えっ……あっ、そうっすね!」


 俺が見つめる先にあったのは、幾重にも並んだ墓の列。 ここで戦えば、俺達が作った墓所を俺達で破壊する事になってしまう。

 アメリアもすぐに気付いたようで、そのまま俺の背に続く。


 しかし、予想以上に恐竜の動きは速かった。 俺達も必死で走ってはいたが、恐竜との距離はだんだん縮んでいく。

 このままでは追い付かれると判断した俺は、勢い良く体を反転させ、腰の山札デッキに手を伸ばした。 


「俺のターン、ドロー!」


 渾身の気合でカードを引き、即座にその札を恐竜に向ける。


魔法マジック発動! 旋律の波動! 1ターンの間、相手魔物モンスターは攻撃出来ない!」


 半透明の風が恐竜の体を包み、巨体の自由を奪っていく。

 数秒もしない内に、恐竜の体は完全に静止し、轟音を立てて地面に倒れてていた。


「今のうちに!」

ご主人マスター!」


 と、何かに気付いた相棒が、倒れた恐竜とは別の方角を指差していた。

 相棒の視線の先には、凄まじい勢いで迫る何体もの小型恐竜の群れが。 恐らく、今の騒ぎを聞きつけたのだろう。

 鳥の翼に似た羽毛の生えた前肢を大きく振り、先程の大型恐竜より更に早い速度で飛び跳ねるように走っている。

 体こそ補足小さいものの、後肢に付いた鋭い鉤爪や、弓上の頭に先程のそれと同様の鋭い歯を持った外見は、どう見ても草食恐竜ではない。


「まだ来るっすかぁ!?」

「アメリアは先に行ってくれ!」


 瞬時に判断を下し、相棒とアメリアを先行させて一人小型恐竜達へ向かう。


「お前達に恨みは無いけど、少し眠ってもらうぞ!」


 まだ握ったままだった手札を構え直し、小型恐竜達と相対する。


「魔法、物質合成を発動! 手札の闇属性魔物三体を素材に、新たな魔物を呼び出す!」

「夢幻の彼方に住まいし、まろかれの獣よ! ねむりの力操り、我が敵を常夜じょうよの闇に導かん!」


 祝詞を唱えれば、空中に浮かんだ三枚の札が、次第に一つへと合わさっていく。


召喚コール! 睡獣神・獏奇すいじゅうしんばくき


 現れたのは、熊の体に虎の四肢を持ち、頭に長い象の鼻を付けた魔獣。

 体長は15m前後だろうか、有り合わせのものを適当にくっつけたような異様な外見は、恐ろしいというよりむしろ愛嬌を感じる。 


「睡獣神・獏奇の効果エフェクト発動! 相手場フィールド上の魔物は全て行動不能になる!」


 この効果は、相手が調子に乗って大量の魔物を展開した時に使うもの。 本来なら、行動不能にした魔物の分だけ相手の手札を捨てさせることが出来るのだが、残念ながら今は意味が無い。


黒霧夢幻睡こくむむげんすい!」


 勢い良く技名を叫べば、濃霧のような黒い粒子が獏の鼻から一気に放出される。

 黒い霧に包まれ、恐竜達は抗い難い睡魔に包まれていった。


 一匹残らず眠った恐竜達を確認し、攻撃はせずに獏を札に戻す。 先程の大型恐竜と同じく、動きを止めるだけに留めておいた。

 なんとなくだが、ここに残された自然を俺の手で壊したくないと感じていた。 例え自分に襲い掛かったとしても、この場所に必要な役割を持った生き物だと。 

 静かに寝息を立てる恐竜達をそのままにして、相棒とアメリアに追い付こうと歩き始める。

 先程までの喧騒は止み、周囲には草原を揺らす穏やかな風が流れていた。


                            ※


「もう大分歩いたね」


 あれから数十分後、幸い三度目の襲撃は無く、既に恐竜達の姿は水平線の先へ消えていた。

 上を見上げれば相変わらず晴天の空が広がっているけど、外の時間はもう夕方位の筈だ、そろそろ帰ったほうが良いかな。


「ここまで逃げれば……へぶっ!?」


 と、安堵した様子のアメリアが、頭から勢い良く何かに衝突していた。


「だ、大丈夫?」

「いったー……」


 思わずしゃがみ込んだアメリアの顔を、相棒が心配そうに撫でる。

 アメリアが思いっきり額をぶつけたのは、壁に描かれた風景画だった。

 入ってきた場所もそうだったが、壁には一見それと分からないような精巧な風景画が描かれている。 直接触れられる部分だけではなく、天井に至るまでの全てにそれは描かれていた。 

 ここに住む人や動物に閉鎖的な印象を与えない為にだと想像できるが、かなりの手間が掛かっただろうに。


「あった!」

「何がっすか?」   


 突然声を挙げた俺を、アメリアが不思議そうに見る。


「扉だよ」


 答えると同時に、指で壁のある一転を指す。

 入ってきた場所と同じ構造になっているなら、ここにもあっちのような扉があるのでは。

 そう推測し、壁に沿って視線を這わせていたのだ。 


「また通路っすね」


 ぎしぎしと音を立てて開いた扉の先には、丁度人一人が通れるくらいの狭い通路が。


「取り合えず、進んでみよう」


 警戒しつつ、ゆっくりと歩を進めた。 

 薄暗い照明が頼りなく光っているだけの通路を、何度も右折や左折を繰り返して暫く進み、子一時間ほどが経過した頃。


「おっきな扉……」


 通路の先が開け、目の前に巨大な扉が現れた。 高さは10mをゆうに越えており、幅も数mはありそうな大きなものだった。


「どうやって開けるんすかね」


 扉に取っ手等は無く、周囲に扉を作動させる機構も見当たらない。

 何か仕掛けがあるのだろうかと、きょろきょろと周囲を見回すアメリア。 その手が、なんとはなしに扉に触れた、その時。


「ひ、開いたっす!」


 鼓膜を震わせる振動音を轟かせ、重厚な扉はゆっくりと左右に開き出していた。


「どうするの?」


 数秒掛けて扉が開き終わってから、相棒が不安そうに呟く。

 暗闇に包まれ、何も見えない室内を見て、行くべきか躊躇しているようだった。

 確かに不安はあるが、ここで迷っていても仕方がない。

 

「よし、入るぞ」


 意を決して一歩室内に足を踏み入れた、その瞬間。


「うわっ!?」

「眩しっ!」


 丁度先頭に立っていた俺の全身を、眩い光が包み込んでいた。


「ユーザデータスキャン完了、これより起動します」

 

 一面真っ白な視界の中で、耳には無感情な電子音声を思わせる声が響く。


 数秒後、ようやく視力が回復し、部屋の全景が見渡せた。 

 部屋の全体は綺麗な円状で、天井までの高さはおおよそ2、30m程。 床や壁には足場らしき一部を除いて、ケーブルのような細い管がびっしりと敷き詰められている。

 等間隔に照明の付いた足場は、部屋の入り口から中央まで一直線に続いている。 

 

「……太陽?」


 部屋の中央にあったものを見て、アメリアがぽつりと声を漏らす。 確かにそれは、縮小された太陽のようにも見えた。

 中央の台座の上、ぽっかりと浮かんでいたのは、青白い輝きを発する実体の無い球体。

 直径10m程だろうか、少し威圧感を覚えてしまうほどの大きさがある。 しかし発熱はしていないようで、熱さは伝わってこない。


「おはようございます、カムロ・アマチ。 総合環境管理システム、ノアと申します」

 

 戸惑う俺達に対し、再び無機質な音声が響く。 挨拶の言葉を発していたのは、その青白い球体だった。 

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