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第百三話 奇機会怪

「なんでここにいるの!?」


 がらんとした廃墟の中で、相棒の声が反響する。 

 突如俺達の前に現れた男、付けた仮面に刻まれた刻印は、紛れも無くあの集団のものだ。 

 まさかこんな所にもいるとは、一体何の目的で、そもそもどうやって来たんだ。


「あの方は……殿の知人で御座るか?」


 傍らに立ち、警戒心を露わにするキカコ。

 武装こそ展開していないものの、今すぐにでも戦闘に入れる体制を取っている。


「あいつ個人と面識は無いけどな」


 組織と何度も戦ったとはいえ、別にあいつに個人的な恨みは無いのだが、先方はそうも行かないようだ。


「我らが祝福を、邪魔立てなどさせぬ!」


 憎しみを顕にし、凄まじい殺意を隠すことも無くこちらを睨み付けていた。

 正直な所、何故ここまで恨まれているのか疑問になってしまう。


「我に、怨敵を討ち果たす力を!」


 絶叫と共に、仮面の男は召喚札を翳す。

 札から放たれた閃光に目が眩んだかと思った瞬間、眼前に巨大な化け物が現れていた。 

 全長は30m程だろうか、二本の雄々しい角と、張り出した鼻を持つ顔は、よく見知った牛のもの。 だがその下の胴体は、六本の足を持つ蜘蛛のものだったのだ。

 巨体が一瞬で現れ、衝撃で周囲の空間が揺れる。 剥き出しになった骨組みがぎしぎしと唸り、崩壊した建物の破片が幾つも宙に舞った。


「やっぱり召喚術か……!」


 上空から降ってくる瓦礫を避けつつ、山札デッキへと手を伸ばす。

 理由が何にせよ、ただやられるつもりは無い。  


「殿、拙者も共に!」


 キカコの全身が駆動音を発し、肩や腰、腕部の武装が展開する。 大きく弧を描いた両腕部の刃、長い砲身が2つ並んだ肩部の連装砲に、脚部には誘導弾のようなものまで見える。

 全身に火器をこれでもかと配置したその姿は、全身で戦意を表す針鼠のようだ。

 突進する化け物に向かって、牽制とばかりに連装砲が唸りを上げる。 光弾が連続で直撃するも、化け物の進撃は止まらない。 


「俺の先攻、俺のターン!」


 だが、俺がカードを引く時間は稼げていた。   


「相手の場にのみ魔物が存在する場合、この魔物は手札から条件を無視して召喚コール出来る!」


 宣言を唱えつつ、札を化け物へ向け翳す。


「黙示録の果て、奈落の底より来たりし者、祖は黒き滅びの使徒! クラス7、滅亡の破壊獣ポトシー・アポリュオーン!」


 現れたのは、馬の体に黒い翼と蠍の尾を備えた魔獣。

 大きさこそ人間と左程変わらないが、発せられる威圧感は、明らかに普通のそれと異なっている。


「アポリュオーンの効果エフェクト発動! 相手魔物モンスターを任意の数場フィールドから取り除く! 黙示録の祝福アポケリプシー・エヴロジア!」


 振りかざされた化け物の足を俊敏に避け、魔獣は鋭く尖った毒針を胴体に突き刺す。

 白と黒の斑模様だった化け物の体が毒々しい紫に変色し、一瞬で泡を吹いて仰向けに倒れた。 

 

「この効果を使った場合、アポリュオーンは墓地に送られる……」


 化け物と魔獣が光の粒子となって、ゆっくり消滅していく。  


「こうなれば、貴様だけでも!」


 と、剣を構えた仮面の男が、こちらへ向け飛びかかってきたではないか。 


「殿に歯向かうものは、拙者が断つ!」


 丁度俺と男の間に、キカコが立ち塞がっていた。 振り翳された刃が、キカコの体に当たって真っ二つに折れる。


「殿、拙者から離れて下され!」


 キカコの胸部装甲が展開し、内部構造が顕になる。 驚く間もなく、胸部中央の赤い球体が輝き始めた。


「秘剣、玄冬の残月!」


 輝きが臨海に達した球体から、凄まじい轟音と共に閃光の柱が放たれた。

 閃光はとてつもない勢いで建物の外壁を破壊し、遥か彼方へと消えていく。


「約束の地に辿り着きながら、逝く事になるとは……」


 末期の言葉を放った仮面の男は、そのまま光の中へと消えていった。

 ……助けられた身分で言うのもどうかと思うが、どこが秘『剣』なんだ。


「これで、終わったか」

「いえ、まだで御座る!」


 武装を収納することなく、警戒したままのキカコの言葉に周りを見渡せば、そこには新たな脅威が。

 耳障りな機械音を響かせ、何体もの戦闘機械が建物を取り囲んでいたのだ。

 その数は数十機を超えており、大きさこそ数m単位で、以前戦った二脚型より小さい。 

 が、肉食獣のような四脚型の形状を持ち、平になった背には、凶悪な口形の速射砲が取り付けられていた。


「恐らく今の戦闘に、警備機構が反応したのでは」


 服に付いた煤を払いながら、辺りを見回すキカコ。


「俺のターン、ドロ……っ!?」


 もう一度札を引こうとした、その時。 足元が不意にぐらつき、平行感が失われた。 

 恐らく、元々腐食しかかっていた所に、先程の戦闘で止めを刺されたのだろう。

 気付けば雪崩のような低い音と共に、地面が跡形も無く崩れ去っていたのだ。 

 突然の事態に反応が遅れ、受身も取れずに暗い穴の底へと落ちていく。

 数秒たっても落着する気配はない。 多分10m以上か、今落ちている穴の深さと、訪れる激しい衝撃を覚悟し、祈るように目を閉じる。


「大丈夫で御座るか!」


 が、背中に感じた痛みは、予想よりもずっと少なかった。

 ごつごつとした何かに当たり、多少の衝撃はあったものの、怪我を負うようなものではない。

 恐る恐る目を開ければ、一足先に着地していたキカコが、俺を両手で受け止めていた。


「助かった、ありがとう」

「も、勿体無きお言葉を、せ、拙者当然の事をしただけで……御座る」


 照れたように目線を逸らし、途切れ途切れの言葉を発しながら顔を俯かせるキカコ。 

 その肌は相変わらず真っ白だったが、もし普通の人間だったら顔全体が真っ赤になっていたのかも。      


「ここは……」


 横幅は20m程、縦には相当な長さが続いているが、暗くてよく見えない。 俺達が落ちてきた大穴はともかくとして、壁や床は隈なく人工的な物質で覆われていた。 更に、掠れてはいるが、あちこちには注意書きのような文字が描かれている。

 ここは自然に出来たものではなく、人為的に作られた場所のようだ。 恐らくは、過去に使われていた地下通路か。


「キカコ、ここの事覚えてる?」

「申し訳ない、何も」


 思わぬ展開だが、ここを調べれば何か見つかるかもしれない。 通路の奥の探索を始めようとした、その時。

 駆動音を何重にも響かせて、上空から何体もの黒い影が落下してきたではないか。

 

「追ってきたか……!」

 

 四肢で衝撃を和らげ、器用に着地した獣達は、あっという間にこちらを取り囲んでいた。 

 突然目の前から消えた事で逃してくれればよかったが、そこまで甘くはなかったらしい。  


「考えてる暇は無い……か!」 


 幸いにも握ったままだった札をもう一度構え、迫り来る機械の獣と対峙する。


「こちらは拙者にお任せを!」

「分かった!」


 火器を乱射しつつ、敵の群れへ突っ込んでいくキカコ。

 両腕の刃が煌き、獣達を膾切りに引き裂いていく。 時折放たれる敵の砲弾も、キカコの素早い動きを捉えられていないようだ。

 

「俺のターン、ドロー!」


 こちらも負けてはいられない、素早く札を引きつつ、全速力で駆け抜ける。


魔法マジック発動、冥界王のちぎり! 手札のクラス8以上の魔物二体を墓地セメタリーに送り、山札から指定の魔物を召喚する!」

「生と死のはざまに存在せし、瞑眩の知者よ! 現世に降り立ち、その叡智を我が元に!」


 祝詞を唱えれば、翳された札から禍々しい黒い光が溢れ出す。

 その瘴気に当てられたのか、機械の獣たちの動きは、いつの間にか止まっていた。


「クラス8、幽幻伝道者バシレイデス!」


 現れたのは、血の色のような真紅の外套を身に纏う幽鬼。 実際の体は持たず、鬼火のような儚げな影が服の中に揺らめいている。 

 M&Mの設定では、かつて高位魔術者だった男が、遙かなる時の果てに不死者となった成れの果て、らしい。


「バシレイデスの効果発動! 相手の場にいる魔物が、自分の魔物よりも多い場合、自分の魔物の数と同数になるまで破壊出来る!」 


 幽鬼が手に持つ魔杖が赤く輝き、魔力が収束していく。


「理光雷!」

 

 魔杖から紅い雷が唸りを上げて炸裂し、獣達は一瞬で粉々に破壊された。 残っているのは、キカコの正面に位置した二体のみ。

 

「拙者の一撃で、お陀仏に御座る!」


 両腕の白刃が煌き、二体はほぼ同時に両断されていた。 

 激しい爆風の中、誇らし気なキカコの姿だけが、赤い炎に照らされていた。   

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