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第百話 機械人形

「誰もいないね……」


 地面を埋め尽くす瓦礫の間を歩く相棒が、ぽつりと呟いた。

 岩と砂の荒野に周りを囲まれ、取り残されたように存在していた街。 

 この大陸、あるいは島の手掛かりがあるかと一縷の望みを掛けて訪れたが、人間どころか動くものは何一つ見当たらない。 

 倒壊した建物や、掘り返されたように出鱈目な方向を向く道路に、硝子の散乱した歩道。 この街は、見渡す限り全てが破壊しつくされていた。


 それらのデザインは、前世で見たものとは少しずつ異なっていた。 例えば、ひっくり返っている車らしきものは、記憶にあるものより流線型で、何に使うのか良く分からない部品が後部に設置されている。

 建物や歩道も同様で、全く読めない字で書かれた見慣れない標識が倒れていたり、人の大きさほどの球体が建物の入り口と思わしき場所に置いてあったり。

 何かの装置だろうか? 今はもう破損して触れても反応しなくなっているので、それが何なのかは想像するしかないが。 


 ここは恐らく、前世の現代社会とはまた違った形の高度な文明を築いていたのだろう。

 人造召喚獣やスアレの存在から何となくは察していたけれど、実際この目で見ると流石に驚く。

 分からないのは、何故進んだ文明を持っていた古代人がこの街のように滅んでしまったのか。 

 ベルナルドの話によれば、かつて召喚獣を用いた大きな戦争があったらしいのだが……

 

「……日も暮れてきたし、そろそろ帰るか」


 探索に夢中で気が付かなかったけど、既に日は丘の向こうに消えかかっており、街は暗闇に包まれようとしている。

 子一時間ほど歩き続けていたが、廃墟意外には何も見つからなかった。

 建物の中に入って更に調べれば何か発見出来るかもしれないが、暗くなってからでは危険過ぎる。

 一旦船に戻り、また明日探索を……


 と、街を後にし始めた時。

 前触れも無く、周囲に何かが崩れる音が響き渡った。


「何だ……!?」


 振り返って音のした方を見れば、土台から斜めに傾いていて、辛うじて安定を保っているように見えた建物が、横倒しになって完全に崩壊していく光景が見えた。

 鼓膜を震わせる鈍い重低音と同時に、粉塵が辺りに撒き散らされる。


「ボク達が何かした訳じゃないよね?」 


 遠くから観察はしたが、傾きかけた建物の中には一切入っていない筈。

 腐食等で自然に倒れたのだろうか。 ……でなければ、何者かがあれを。


「逃げるぞ、相棒!」

「えっ? うん!」


 不穏な気配を感じ、俺達は一目散にその場から立ち去ろうとした。

 だが、俺達の後方から、建物のそれとはまた違った音が響き始めた。

 金属に金属を打ち付けたような、何か大きな機械の動作音は、次第にその音量を増していく。

 そして、もうもうと立ち込める粉塵の中から、黒い影が飛び出した。


「あれは……!?」


 敢えて例えるなら、巨大な鋼の駝鳥ダチョウだろうか。 

 体長は10m程全身は灰色で、くまなく硬い装甲に覆われており、細い二本足の上に卵の様な頭部がそのまま乗っかっていた。 

 駝鳥は逆間接の足を滑らかに動かし、凄まじい速度でこちらに移動して来る。


「誰か乗ってるのか! 答えてくれ、俺は外の大陸から……」


 意思を持つ何者かが乗っているのなら、この惨状について聞く事が出来るかもしれない。

 が、こちらの問いに対する返事は無い。 はっきりと姿が確認出来る距離まで接近し、頭部に直接付いた赤い目をこちらに向けた駝鳥は、返事の変わりにそこから真っ赤な光線を放った。


「問答無用か!」


 駝鳥から放たれた光線を、横に飛んでどうにか避ける。 そのまま後方に逸れた光線は、立ち並んだ廃墟をそのまま横薙ぎに貫いていた。

 まるで豆腐を箸で切り分けるように、何の抵抗も無く硬い金属が溶けている。

 恐らく、触れれば人間の体など一瞬で蒸発するだろう。


「俺のターン、ドロー!」


 廃墟の中を駆け抜けながら、カードを勢いよく引き抜く。

 相手がどういう意図で仕掛けて来たにせよ、このままではやられるだけだ。

 ひとまずここは、生き抜くことを考えなければ。


「手札の魔法マジック、物質合成を発動!」


 発動宣言と共に、目の前に暗色に輝く光の渦が生まれる。

 手札に持った三枚のカードがその中に吸い込まれ、渦の中で黄金色の光が煌めいていく。


「この魔物モンスターは、手札の光属性魔物モンスター三体を素材にして山札デッキから召喚出来る!」

「鳴り響け雷鳴よ! 漂う迷霧を斬り裂き、鋭きえい牙で悪意を穿うがて!」


 眼前に現れた光に戸惑うように、駝鳥はその動きを止める。


合誓召喚ユニオン・コール、クラス8、電閃雷虎!」


 周囲一体を薙ぎ払う稲光を纏って現れたのは、眩い鮮黄色の雷を纏った巨大な猛虎。


 突如現れた猛虎に向かって光線を何度も放ちつつ、駝鳥は何度も飛び退いて距離を取る。

 凄まじい勢いで駝鳥へと突進する猛虎に、光線は狙いが定まらずにあらぬ方向へと飛んでいく。


 廃墟を背にし、追い詰められた格好になった駝鳥。 その脚部が左右に展開し、機銃と誘導弾を猛虎へ乱射する。 

 だがその全ては、地面や廃墟に当たって無駄な破壊を引き起こしていた。 猛虎は、既に遥か十数m上空へ跳躍していたのだ。  


猛焦万雷牙もうこばんらいが!」


 鋭く円弧を描いた雷虎の牙、その二点に雷を収束させ、刹那の速さで雷虎はその体を駝鳥へ向ける。

 それが鋼鉄の体へ直撃した瞬間、視界を包む稲光が発生して視力を一瞬奪われる。

 光が収まった時、駝鳥の体からは白煙が上がり、完全に動きを停止していた。

 激しい電流を受け、駝鳥は短絡してしまったようだ。

 

 と、静止したままの駝鳥の頭部が上に開き、中から何かが転がり落ちた。 

 

「ご主人マスター!?」

 

 その姿を見て、俺は反射的に走り出していた。 落下する瞬間に見えた何かは、人間の形をしているように見えたのだ。

 立ち込める土煙を掻き分け、二脚戦車の残骸へと走る。 残骸の前で、うつ伏せになって倒れていたのは。


「女……の子?」


 一見それは、鮮やかな銀色の髪の少女に見えた。 だが近付いてみて、それが人でなく、人を模した機械であることに気付いた。

 人の形を取ったその機械は、完全に人間型で肌の質感まで人と全く同じだったスアレとは全く違っていた。

 顔こそ美しい少女のものだったが、人形の様な球体間接に、分割線の入った体の部品や、各部に取り付けられた武装。 辛うじて女性らしい体型をしていたものの、それはまさに機械だった。

 だが、全く飾り気の無いその体には、機能美というのだろうか、無駄の無い美しさがあるように思えた。

 用途からすれば服を着ていないのが当たり前なのだろうけど、露になった胸や尻を何故か直視出来なくなってしまう程に。


「気絶してるのかな」


 追いついて来た相棒が、目を閉じたままの少女の顔を不思議そうに覗き込む。

 体を持ってゆすってみても、呼び掛けてみても反応しない。 先程の攻撃を受け、完全に機能を停止しているのだろうか。

 と、何かに気付いた相棒が声を上げた。

    

「何か光ってるよ!?」


 胸部の中心に存在する、宝石の様な球体が赤く点滅し始めていたのだ。

 しかも点滅はだんだん間隔を増し、光の強さも次第に高まっている。

 

「まさか……」


 光の点滅は、非常事態を知らせる警告のように見える。

 こういう場面でよくあるのは、任務に失敗した機械が、自身を巻き込んで――


「逃げるぞ!」

 

 咄嗟に叫び、少女を置いてその場から退散しようとした、その時。

 アラーム音の様な高い電子音が鳴り、眩い閃光が視界の全てを覆っていた。

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