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第九十九話 辿り着いたそこは

 大渦を越えた俺達の眼の前に現れた、巨大な機械仕掛けの海獣。

 何本もの触手を振るい、船を押し潰そうと襲いかかる。

 船はアメリアの危なっかしい操縦で、どうにかそれを避け続けられていた。


「アメリア! 出来るだけ揺らさないでくれ!」


 船が回避運動を取る度に、激しい水飛沫が時折船体を越えて体に当たり、押し流されそうになるのをどうにか堪える。

 甲板には固定するものもなく、足の力のみで踏ん張っていた。


「そんな、事、言われたっ、てぇ!?」


 操舵するアメリアは攻撃を避ける事に精一杯で、こちらに気を向ける余裕は無さそうだった。

 これは、早めに勝負を決めないと。


「手札の魔物モンスター礫土応現れきどおうげん効果エフェクトを発動!」 

 

 この魔物の効果は、自分のドローを二回飛ばす事で山札デッキから進化先の魔物を呼び出せる。

 どうせこのターンで決めるつもりだ、次のドローは無くても構わない。

 右手に握られたカードが消失し、空中に空柴色(うつぶしいろ) の渦を巻き起こしていく。


「強堅なる大地の開顕かいけんよ、往古の流れから身を起こし、現世うつつよの澱みを押し止めん!」


 それは円筒の上空で次第に大きさを増し、成長する積乱雲の如く拡大する。


覚醒召喚アウェイキングコール! クラス9、泰山聖霊曝露たいざん・しょうれいばくろ!」


 祝詞が唱え終えられた後、重厚な岩石を思わせるごつごつとした体皮を持つ巨獣が、目下の孤島を遥かに超える体長を空中に表出させた。

 外見を見ただけでそれを生物だと思うものはいないだろう、余りに巨大な体と無骨な外見は、悠揚と聳え立つ霊山をそのまま切り出したかの如く。

 一つの山脈と見紛う程の雄大さを誇る鈍色の巨獣は、その巨大にして重厚な四肢を広げ、大の字になって海獣を押し潰した。


「うわぁぁっ!?」


 凄まじい轟音と共に背丈を超えるほどの激しい波が巻き起こり、体を伏せて甲板にどうにか張り付く。

 ひっくり返りそうになる船の中で、アメリアが素っ頓狂な悲鳴を上げていた。

 

 揺れが少し治まってからどうにか顔を上げれば、海獣完全に体を押さえつけられていた。

 触手を巨獣に絡みつかせて抵抗しているものの、岩のように硬い皮膚にはまるで手が出せないようだ。


「止めだ!」


 勢い良く動き出した巨獣は、凄まじい膂力で巻きつく触手を全て引きちぎり、頭だけになった海獣を口で咥えてから天空へ放り投げる。


噛砕擂潰葬ごうさいらいかいそう!」


 一旦空中に浮かんだ海獣の頭が、頭を上げた巨獣の口の中へと吸い込まれていく。

 数秒のごりごりという粉砕音の後、巨獣は欠伸をするように大きく口を開ける。 その中に、海獣の姿は一欠片も残されていなかった。

 あまり美味しくなかったのか、巨獣は一瞬不満そうな顔をし、光の粒子となって札に戻っていった。


「な、何なんすか今のは……」


 揺れの収まった船内で、半ば放心状態のアメリアが大きく息を吐き出す。


「多分、この大陸から外に出るものがいないかどうか見張ってたんだろう。 あの大渦を越える奴がいたら、問答無用で倒す為にな」


 二重の柵とは、余程ここから先には進んで欲しくないと見える、それ程重要なものがこの先にはあるのか。


「あれも驚いたっすけど、あんなのをさっくり倒すカムロっちにも驚いたっすよ……」


 恐らくこちらが先だろうが、戦法や特性は以前戦った人造召喚獣と似ていて、足場意外ではそこまで苦戦する事も無かった。

 初めて召喚獣の戦闘を目にしたのだから、驚いても無理は無いけど。 

 後、カムロっちって何だ。


「ご主人マスターは凄いからね!」


 俺の膝に座った相棒が、何故か胸を逸らして威張っていた。


「まだ敵がいるかもしれない、警戒しつつ船を進ませよう」


 二人が無言で頷くのを確認し、慎重に船を発進させる。

 

                                   ※


 大渦での戦闘からは襲撃もなく、船は順調に進んでいた。

 そして、船を奔らせたまま数時間がたった頃。


「陸地が見えてきたっすよ!」


 視界の先に、白い砂浜が見え始めていた。


「近づいたらいきなり襲われるとか無いよね……?」


 上陸出来ると油断した所を狙われる可能性を考え、更に周囲を警戒しつつ船を進ませる。

 

 が、何も起こらずに船は陸地へと到達していた。

 辺りには波の音が響くだけで、何かが襲い掛かってくる気配は感じられない。 


「……着いたな」

「つ、着いたっすね」


 あまりにあっさりと到達してしまった事に拍子抜けしてしまい、アメリアと顔を見合わせた。


 さて、これからどうするか。

 少なくともこの周辺は安全なようだし、一気に外に出るべきか。 でも、船から出た無防備瞬間を狙っていないとも限らないし…… 

 いや、ここが新大陸にせよ、ただの孤島にせよ調べてみないことには何も始まらない。 何かあったのなら、その時はその時だ。

 

「よし、上陸しよう」


 意を決して操舵室の扉を開ければ、海辺特有の潮風の匂いと、波の打ち寄せる音が流れ込む。

 特に変わった所は見られない、普通の海岸だった。

 砂浜に降り立った感触も平凡なそれであり、とりわけ気になる点は無い。


「ここが、新しい大陸なの?」


 続いて降りて来た相棒が、拍子抜けしたように呟いていた。


「取り合えず、この辺りを探索してみよう」


 ここで突っ立っていても仕方がない、取り敢えず危険はないようだし、まずはこの砂浜を調べるか。


「なんだかワクワクして来たっすね!」

「アメリアはここで、船を見ててくれ」


 意気揚々と後に続こうとしたアメリアに、制止の言葉を掛ける。 


「な、何でっすか!?」


 扉に手を掛け、半分身を乗り出した姿勢のまま止まるアメリア。


「船が流されでもしたら大変だし、もし戦闘になったら、アメリアは戦えないだろ?」


 この船が無くなったら大変だ、食料も載せているし、何より帰る手段がない。

 それに、アメリアを庇いながら戦闘する事にも限界がある。 敵の戦力や規模、そもそも敵がいるのかどうかすら分からないのに、無茶は出来ない。


「た、確かにそうっすけど……」


 アメリアは頬を尖らせ、不満を露わにしていた。

 無断で乗り込む程に新大陸への思い入れが強かったのだ、すぐに納得出来ないのも当然だった。


「何もずっとここにいろって訳じゃない、安全かどうか分かったら、すぐに戻ってくるから」


 俺達がいない間にアメリアが危険になるかもしれないし、あまり遠出をするのもまずい。

 何かこの場所について分かれば、すぐにでも戻ってくるつもりだった。


「……分かったっすよ」


 渋々頷いたアメリアを船に残し、俺達は砂浜を歩き出した。


                               ※


「にしても、何も無いな」


 歩けど歩けど、一面白い砂浜が広がるのみ。


「建物もないし、人もいないよね」


 あちらの世界の砂浜にある監視塔や海の家は当然ないが、足跡を含め人がいた痕跡は全く感じ取れない。


「……あるのは、これだけか」


 小一時間探索を続けて、発見できたものは一つのみ。 

 砂浜から少し離れた、普通の土と砂との境目付近にそれはあった。 


「何だろうねー、これ」


 高さは1,2m程、灰褐色のくすんだ色で、均等に間隔を開け立ち並んでいる。

 幅は50~60cmくらいで、細い岩のようにも見えるし、立ち枯れた植物のようにも見える。

 近づいて良く見ても、さっぱりそれが何かはわからなかった。

 少なくとも、普通の海岸にこんなものは生息していない筈だったが……


「触っても何にも反応しないしなぁ」


 首を傾げながら、ぺたぺたと謎の物体に触れる相棒。


「危ないぞ、どんな成分か分からないんだから」

「うーん…… うん?」


 こちらの言葉が耳に入っていないのか、相棒は耳を謎の物体にくっつけている。


「しょうがないな……」


 脇の下に手を入れ引き離す。

 好奇心が強いのはいいが、全く未知の場所に対する警戒心も持っておかないと。

 と、腕の中の相棒がきょとんとした顔でこちらを見つめていた。


「どうかしたのか?」

「ううん、なんでもない……と思う」


 こちらの問いかけに、相棒は少し戸惑った様子で首を振る。

 何か気付いた点があったのかな? 話さないってことは、確信がある訳でもなさそうだけど…… 


「これからどうするの?」


 取り敢えずは近場からと砂浜を調べていたが、何かが見つかる気配すらない。


「あの丘を越えてみるか」


 視線の先にあったのは、砂浜とそれ以外を分けるように存在する小高い丘。

 多少危険は増えるかもしれないが、行ってみる価値はある。


 丘はそこまで高いものでもなく、十数分程で軽く越えられた。 丘の頂上に登りきった所で、丘で遮られていた視界が開ける。

 目の前に広がる光景を見て、無意識に声が出ていた。


「これは……!?」


 眼下に見えるそこは盆地になっており、丁度見下ろす形で景色がよく見渡せる。

 まず目に入ったのは、地平線の先まで広がる荒野だった。 草木は一本も生えておらず、赤茶けた土が顕になっている。

 荒涼としたそこに動くものはなく、生命の気配がまるで感じられない。

 

 一面の荒野に一箇所だけ、他とは違った景色を発見し目が止まる。

 鈍い灰色の角ばったビルや、何段もの高架状になった道路。 あちらの世界で見慣れていたものと少し形は違うが、間違いなく人工物に見える。

 だがそれらは、いずれも原型を留めてはいなかった。 

 ビルはどれもが倒壊しており、真ん中から半分に折れているものや、真横に倒れているものもある。 道路も同様で、高架は完全に崩落しており、もはや通行は不可能であろう。

 それは、滅んだ都市の光景だった。 

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