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21話

 本部の中にある、少しだけ大きな一室。

 ここは今日から杖姉による文字の読み書きや算数を教える教室となっている・・・のだが。


 何やら中が騒がしい。

 まぁ、大体お察しの通りだ。俺の昨日の今日で変われるとは思っていない。

 勢い良く扉を開けて中に踏み込み、暴れている不良生徒を触手で締め上げる。


 「ぐぁっ!!」「はぐぅぅっ!!」「ぎぃぃ~~っ!!」


 「ひ、姫騎士・・・さま?」

 「杖姉、名簿とペンを持ってこい!」


 「は、はい・・・!」


 杖姉が名簿を抱え、懸命に杖を動かして俺の元へ移動してくる。

 名簿を受け取ってページを捲った。


 「こいつらは?」

 「こ、この人と・・・この人と・・・この人です。」


 杖姉が指し示した名前の横の空いているスペースに線を一本ずつ引いていく。


 「お前らに一点ずつやろう。三点溜まれば褒美にその勉強に邪魔な身体を取っ払ってやる、いいな!」


 首を締められている三人は声にならない声を上げてコクコクと首を縦に降る。


 「そうか、そんなに嬉しいか。それなら他の奴が暴れた時にも、お前らに一点ずつやる事にしよう。」


 カエルが潰れたような悲鳴を上げる三人。


 「聞いていたな、杖姉。授業態度の悪い奴には一点ずつ入れていけ。三点溜まれば俺か中ボスに報告しろ、いいな!」

 「わ、分かりました・・・!」


 「それから、お前たち姉妹に手出しする奴がいれば、そいつも報告しろ。処刑する。」

 「そ、そんな・・・・・・!」


 「お前たち姉妹は俺の所有物だ。忘れたか?」

 「い、いえ・・・!私達の全ては姫騎士様に・・・!」


 「それを傷付けるということは、俺に刃を向けるということだ。それは、この【猫耳自警団】全ての団員に刃を向けるということだ。

そういう輩を何と呼ぶ?敵だ。敵は殺す。それだけだ。異論は無いな、中ボス。」


 「全て団長の仰る通りでございます。」

 「俺が居ない時は中ボスが執行しろ。許可する。首は広場に晒せ。」


 「はっ、一切の手心も加えません。」

 「聞いていたな、3バカ。お前たちが周知をサボればそれだけ早く褒美が貰えるぞ。分かったな?」


 モゴモゴとくぐもった声しか上げられない三人。触手を口に突っ込んでいる所為だが。


 「返事も無しか。失礼な奴らだな。杖姉、一点ずつ加算しろ。」


 名簿とペンを杖姉に手渡す。


 「ぁ・・・・・・の・・・・・・でも・・・。」

 「聞こえなかったか?」


 「ぃ・・・ぇ・・・・・・。」


 ガタガタと震える手で二点目を示す線を書き込んでいく。

 作業が終わったのを確認し、三人を解放した。


 「お前らはさっき言ったことを走って全員に伝えてこい。次に加点される奴らは3点だとも付け加えてな。」

 「「「わ、わわ分かりやした!」」」


 三人は教室を飛び出し、脱兎のごとく駆けて行った。

 たまに抜き打ちで来る必要があるかも知れないな。


*****


 授業の時間が終わり、次の授業まで休み時間だ。

 本来の予定では朝、昼、夕の3回だが、足の事もあるので慣れるまでは朝夕の2回にしている。

 ただ、空いた時間は杖妹の勉強を見たり、歩行練習をしたりと、暇になることはない。

 授業内容は問題無かった。幼稚園児や小学校低学年程度の内容だが、連中のレベルには丁度良いだろう。


 ケイティが腕に抱きついてくる。


 「旦那さま、来てくれて嬉しい!」


 ドキリと心臓が反応した。

 困惑して頭を抱えるリーフ。


 「だ、旦那さま?い、一体・・・どういうことなのかしら?」


 リーフ達を見て首を傾げるケイティ。


 「あの・・・この人達は?」

 「寮で同室の仲間だよ。あと三人いるんだけど、今は広場の方であいつらを鍛えて貰ってるんだ。」


 「そうなんだ、じゃあご挨拶しておかないとね。えと・・・アタシはケイティです。昨日、旦那さまに愛人にしてもらいました。よろしくおねがいします。」


 頭を下げるケイティ。


 「ちょ・・・・・・っと、・・・待って・・・・・・あい・・・じん?」


 フラフラとする体を机に手を着いて支えるリーフ。


 「説明・・・してもらえるのよね・・・、アリス?」


 こわい!


 「えっと、それは~・・・・・・―――」


 どう釈明しようかと考えを巡らせた時、先ほどからソワソワとしていたサーニャが、尻尾をピンと立て、毛を逆立たせてケイティを睨みつける。


 「フーッ!!」


 驚いたケイティが俺から離れてサーニャとの距離をとった。


 「・・・っ!あ、あの・・・?」


 威嚇を続けるサーニャに声を掛ける。


 「どうしたの、サーニャ?」


 ケイティから視線を外さずにサーニャが答えた。


 「こいつ・・・・・・魔物の感じがするにゃ!」

 「な、何ですって・・・!?」


 リーフは瞬時に頭を切り替え、フラムを護るように構える。

 怯えた様子で更に離れるケイティ。


 「・・・ぇ?な、何・・・?」


 俺はサーニャの言葉にようやく今までの違和感の正体を理解した。


 「あ~~~・・・なるほど、魔物か・・・。」

 「何が『なるほど』なのよ!説明して、アリス!」



 「ずっと何か違和感を感じてたんだけど・・・サーニャに言われてやっと気づけた。確かにケイティの魔力からは微弱だけど、魔物の気配が視える。」

 「あるー、どうするにゃ!?」


 臨戦態勢へと入るサーニャ。


 「どうもしないよ、二人共落ち着いて。」

 「で、でもにゃ・・・!」


 さてどうしようかと頭を働かせる。


 「よく聞いて、サーニャ。サーニャは”ケモノの力を持った人”、でしょう?」

 「・・・そうにゃ。」


 「ケイティは”マモノの力を持った人”なんだよ。一文字しか違わないでしょ?だから二人は仲間と言えなくも無いと思うんだ、うん。」

 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ホントにゃ!!!」


 こいつちょろいわ。


 「じゃあ、けいちーはあちしの仲間・・・にゃ?」

 「きっと仲良くなれるよ。」


 「でも、あちし・・・さっき・・・・・・。」

 「ちゃんと謝ったら許してくれるから、ね?」


 「・・・分かったにゃ。」


 我ながら酷い謎理論だったが、サーニャはこれでOKだ。


 「アリス、私は―――」


 リーフの言葉を遮るように発言する。


 「分かってるよ、リーフ。でもさっき言った事は、あながち間違いでも無いんだ。」

 「どういうことなのよ?」


 「私にとってはどっちも変わらない、大事な子なんだ。だから、リーフ、フラム。ケイティと仲良くしてあげて下さい。」


 「ぅ、うん・・・。サーニャと同じ、なら・・・大丈夫。」

 「はぁ・・・、もうどうでも良くなっちゃったわ。それよりあの子・・・ケイティの事をどうにかしてあげなさいよ。貴女の仕事でしょ、旦那さま?」


 「うん、ありがとう。」


 部屋の隅で縮こまっているケイティに近づく。


 「ご、ごめんなさい、旦那さま。あ、アタシ・・・知らなくてっ・・・そのっ・・・自分が・・・自分がっ・・・・・・ま、ま―――」

 「いいよ、ケイティ。それ以上言わなくて。私もすぐに気づいてあげられなくてごめんね。」


 ケイティの頭を撫でる。


 「私はそれくらいでケイティの事を嫌いになったり、手放したりしないから。むしろ絶対手放さないから。分かった?」

 「はい・・・はい・・・、やっぱり、旦那さまの事・・・好き・・・・・・大好きです・・・・・・・・・チュ。」


 唇に軽く触れるようにキスされる。

 それ以上は堪えるように強く俺の事を抱きしめた。


 リーフが顔を紅潮させて停止する。

 タタタッと駆けて来たフラムが俺の腕を抱くように取った。

 そのフラムの顔を見てケイティが口を開く。


 「ぁ・・・の・・・もしかして、本妻様・・・ですか?」


 フラムは少しだけ固まり、コクンと力強く頷いた。


 「ちょ・・・フラム!?」

 「じゃあアタシは・・・下がらないといけませんね。」


 少し寂しそうな表情でケイティが離れる。

 そんなケイティを見つめて心を痛めたような表情をしたフラムは、

 ケイティの手を掴んでそっと俺の手を取らせた。


 「ぁ・・・アリスの事・・・好き、なの・・・・・・私も・・・・・・分かる、から。」

 「本妻様・・・、ありがとうございます。」


 「で、でも・・・!」


 ガシッとフラムが俺の頭を掴んでロックする。


 「え・・・?」


 そのままギュッと目を瞑ったフラムの顔が近づき、俺とフラムの唇が―――――衝突した。


 「いっつ~~~・・・。」

 「ひゃぅぅっ・・・!」


 前が見えない状態で突っ込んで来たらそうなるわな・・・。


 「大丈夫です、本妻様。アタシが手解き致します。一緒に旦那さまを虜にしましょう。」

 「ぅ、うん。」


 ケイティの言葉にハッと我に返るリーフ。


 「ちょ、ちょっと!!フラムに変なこと―――」

 「リーフ様もご一緒にどうですか?」


 「―――っ・・・な、・・・・・・何も知らないのに否定するのは・・・良くない事よね。」


 そこは止めて下さいリーフさん。


 「あ、あの・・・けいちー・・・・・・さっきはゴメンにゃ・・・。」

 「ううん、アタシとも仲良くして下さい。サーニャ様。」


 「分かったにゃ!仲良しの握手にゃ!」


 サーニャが手を差し出し、おずおずとその手をケイティが握った。


 「にゃぅぅんっ・・・!」


 頬を赤く染め、艶っぽい声を上げて手を引っ込めたサーニャ。

 その時に爪が当たってしまい、ケイティの手には小さな傷がついた。


 「ご、ごめんにゃ!けいちーの手を握ったらドキッとして・・・・・・ごめんにゃ・・・・・・。」

 「だ、大丈夫、これくらいなら全然平気です!」


 「見せて、ケイティ。その程度の傷ならすぐに治せるわ。」


 リーフが傷を診るためにケイティの手に触れた。


 「ゃんっ・・・!」


 自分の上げた声に顔が紅潮するリーフ。


 「ご、ごめんなさいっ・・・ちょ、ちょっとビックリしただけなの。」


 今度は耳まで赤くしながらリーフがケイティの傷を治療した。


 「ありがとう、リーフ様。」


 「べ、別に大した事をしてないわ。それより、アリスの事は好きに呼んでくれたら良いけど。私達には様付けなんていらないわ。だからその・・・よろしくね、ケイティ。」

 「はい!」


 握手を交わす二人。後でヒノカ達にも紹介しないとな。


*****


 その日を無事に終え、寮に戻った俺はレンシアの部屋を訪ねていた。

 人と魔物の関係について聞くためだ。


 『なるほどな、魔物と同じ魔力を持った人間か。ありえなくは無い。』

 『根拠はあるのか?』


 『オレがこの世界に来るよりも以前、もっと魔物の勢力が強かった頃、人間が魔物に孕まされるといったことは多々あったと聞いている。』

 『魔物とのハーフってやつか。』


 まぁ、よくある話だ。


 『大体は生まれたばかりで殺されたり、体が弱くてすぐに死んでしまってたみたいだけどな。』

 『全部では無いと。』


 『あぁ、生き残った者は魔物の力を持つ者も居たりしたそうだ。魔物との交配実験なんかもやってたらしいぞ?流石にアレだから今はやってないみたいだが。』

 『なるほどな、じゃあケイティは・・・。』


 『多分そういう人間が祖先にいたんだろうな。というか、その子は奴隷なんだろ?』

 『逃げてきた、ね。』


 『ま、その件も含めて奴隷管理局に行ってみればいいんじゃないか?奴隷の詳細なデータならあるはずだぜ。』

 『そんな物あるのか。』


 『一応魔女(オレら)が取り仕切っているからな。ただ、冒険者ギルドと同じで地方や末端までは・・・お察しだ。』

 『それは仕方ないな。』


 数の少ない転生者だけで全てをカバーするなんて事は、到底無理な話だろう。


 『とりあえず明日にでも行ってみるわ。』

 『あぁ、面白い事が分かったらまた教えてくれ、姫騎士アリス。』


 『くっ・・・、殺せ!』


 そんなやりとりをしてレンシアの部屋を後にした。

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