20話
「うっ・・・ごめんなさい、旦那さま・・・。こんな、エッチな子で・・・。まだ小さい旦那さまに・・・あんな事。」
ケイティの瞳からはまだ涙が溢れ続けている。
「どうしても・・・うっ・・・止まらなくて・・・止められなくて・・・・・・。あんなの・・・初めてでっ。」
動けなくしていた縛めを解いてやる。
「ぁ・・・旦那さま?」
「もういいよ、私は怒ってないからさ。」
膝を抱えてうずくまるケイティ。
「でも・・・っ・・・・・・でもっ・・・とんでもない事・・・。」
「まぁ、ちょっとビックリしたけどさ。ケイティの事を嫌いになったりしてないよ。」
また新しくケイティの瞳から涙が流れる。
「チュー・・・しちゃったんだよ・・・?旦那さま・・・女の子なのに・・・・・・初めてなのに。」
「あ~・・・確かにそうか・・・人生初か・・・・・・・・・。」
そう考えると中々に感慨深いものがある。
「ねぇ、ケイティは私の初めての相手で嬉しい?」
「そんなの・・・・・・嬉しいに決まってるよ・・・っ。」
「そう、ケイティが嬉しいのならそれで良いよ。この話はこれでお終いね。」
ポンポンとケイティの頭を撫でた。
「どうして、そんなに優しくしてくれるの・・・?アタシ・・・こんなにエッチでダメな子なのに。」
「ん~・・・私はさ、実は中身がおじさんなんだよね。だからエッチで可愛い子は大好きなんだよ。」
一瞬止まったケイティが笑い出す。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ふっ・・・ふふっ・・・あははっ!やっぱりヘンな女の子だよ・・・旦那さま・・・・・・ふふっ。」
なんとか雰囲気が柔らかくなったところで話を仕切り直す。
ケイティの隣に座って極力優しく話しかけた。
「ねぇ、ケイティ。ちゃんと愛人にしてあげるから、聞かせてくれるかな?何故逃げて来たのか。どうやって逃げて来たのかを。」
「・・・・・・・・・・・・・・・うん。」
「アタシは森の奥でお母さんと暮らしてたんだけどね、ある日捕まったの。それから奴隷として売られて・・・、ある男の人に買われたんだ。」
「それが・・・前の主人?」
ケイティは俺の問に答えてから言葉を続けた。
「うん、そうなるの・・・かな?その人は私を買ったその日、馬車で帰る途中で襲われて・・・殺されちゃったの。」
ケイティの表情が少し暗くなるが、話はまだ続く。
「その時、私の他にも買われた奴隷達が散り散りに逃げて行ったんだけど、私だけ逃げ遅れて咄嗟に馬車の下に隠れたんだ。でも、襲ってきた人達が逃げた奴隷達を追いかけて行った隙に、なんとか逃げられたの。」
「他の奴隷達も殺されたの?」
「分からないけど、奴隷は生け捕りにしろって叫んでたから。大丈夫じゃないかな?」
狙いは奴隷か。ケイティを狙った?
・・・いや、確かに可愛いけど、それだけでそこまでするか?
そういうのが目的なら他の奴隷でも良い訳だしな。
実はどこぞの王族が混じってた、とかか?ファンタジーなだけに。
・・・ケイティがとてもそうとは思えないが。
「ん~、相手の目的はちょっと分からないね。それからどうしたの?」
「それから、森の中を歩いたり、荷馬車に忍び込んだりして、何とか辿り着いたのがこの街だったの。」
「それから娼婦として食いぶちを稼いでいたのか・・・。」
「うん・・・、これで・・・良いかな?」
「大丈夫、何とか出来るか調べておくよ。」
「ありがとう、旦那さま。」
俺は立ち上がってケイティの頭をもう一度撫でる。
「私はもう少し調べたい事があるから戻るよ。それが終わったら寮へ帰る。ケイティはもう眠ると良いよ。寝床はあるの?」
「うん・・・、その・・・旦那さまが「俺の女だ」って言ってくれてから、すぐに中ボスさんが部屋を用意してくれて。」
中ボス有能過ぎんだろ・・・。
俺はまだ皆が騒いでいる広場に戻り、娼婦達が集まっている場所へ足を運んだ。
「おい、この中にケイティと関係を持った奴はいるか?」
何人かの顔がサッと青ざめる。
「あぁ、待て、勘違いするな。別に過去の事で怒りに来た訳じゃない。彼女の情報が必要なんだ、協力してくれ。」
数人から聞き取りしてみたが、結果は全て同じだった。
<もの凄く気持ち良かった事は覚えているが、事の最中の記憶が無い。>
言葉尻は違えど総括するとこうなる。
金に余裕のあった娼婦達は金銭を払い、彼女と寝ていたという。
娼婦だけで予約が埋まる事も多々あったそうだ。
(あいつ・・・ホストかよ。)
着ている服は確かにボロボロだったが、他の娼婦達より健康状態が良かったのはその所為だ。
食費まで削ってケイティと寝ていた娼婦は自業自得だが。
ハゲを含めた部下達にも聞き取りをしてみたが、こちらも結果は同じだった。
これらの情報から得られた回答は一つだ。
どうやら、俺はとんでもないヤツを【俺の女】にしてしまったらしい。
俺は中ボスに後の事を任せ、寮へと戻る事にした。
時間的にもう皆寝ているかもしれない。
寮の廊下をそろそろと進み、そっと扉を開く。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ゴメンナサイ。」
リーフが仁王立ちしていた。
こってりと絞られた後、あれやこれやと、根掘り葉掘りと聞き出される。
「・・・・・・意味が、分からないわ。」
「ネコミミっていうのは猫の耳の事だよ。」
「そうじゃない・・・そこじゃないの・・・そんな事じゃないの。」
リーフが頭を抱えてブツブツと呟いている。
「そもそもどうして裏通りなんて行ったの?」
「通った事のない”道”があったから・・・かな。そしたら裏通りに出て、いきなり絡まれたんだよ。」
リーフがため息をつく。
「はぁ・・・、貴女は賢いのにどうしてそう・・・。フィーだって心配していたのよ?」
赤い目をしたフィーと目が合う。
柔らかい拳で頭をコツンと小突かれた。
「あいてっ。」
「・・・ばかアリス。」
「ごめんなさい、お姉ちゃん。」
こほん、とリーフが咳払いをする。
「それで、女の子を助けるのが・・・どうしてそんな事態になるのかしら?」
「助けた後、私が居なくなったらもっと酷い事をされる可能性があったから、連中を更生させるのが一番手っ取り早いかなぁと思って。」
リーフが頭を振って話を仕切りなおす。
「もう・・・分かったわ。とにかく、もうそんな所に近づいちゃダメよ?」
「あ~・・・明日も行かないと・・・。」
バンッ!とリーフがテーブルを叩いて身を乗り出す。
「ダメよ!そんなの!」
「ま、まだダメなんだよ。ちゃんと回せるようにしないと元に戻っちゃうし。」
中ボスなら何とかしてしまうかも知れないが。
それに、まだケイティの事が残っている。
「で、でもそんなのアリスが責任を持つ事じゃないわ!それに心配じゃない!フィーだって今日ずっと・・・!」
「じゃ、じゃあリーフも一緒に来てよ。その・・・・・・手を貸して下さい。お願いします。」
頭を下げる。
「ふぅ・・・、もう、分かったわよ。・・・最初から素直にしなさいよね。」
ぷいっと顔を背けるリーフ。
「ヒノカにもお願いしようと思ってたんだ。」
「む、私か?」
突然話を振られ、ヒノカが顔を上げる。
「うん、選抜者25人の稽古をつけて欲しいんだ。」
「ほう・・・、”稽古”を?」
稽古という単語に目を光らせるヒノカ。
「目標は五日後に誰か一人が冒険者試験に合格すること。」
「ふむ、構わんぞ。」
妙な気迫をヒノカから感じる。
「し、死なない程度にお願いします・・・。」
くいっと俺の服の袖がフィーに引かれる。
「・・・私もやる。」
こちらも気合いが入っている。
「お、お願いします・・・。」
「二人とも今度から後輩が出来るから、張り切っているのよ。ふふっ。」
「予行演習って訳だね・・・。」
もうすぐ二年生、か。戦術科には三年生も含め、沢山の後輩が入ることだろう。
・・・魔道具科に後輩は出来るのだろうか。
フィーと反対側の袖をフラムが摘まむ。
「フラムも来てくれるの?」
「ぅ、うん。」
更にニーナとサーニャが名乗りを上げた。
「面白そうだからボクも行く!」
「あちしも行くにゃ!」
「結局、皆来てくれるんだね。」
「暇だからにゃ!」
「それは言わない約束よ、サーニャ。」
翌朝、本部近くの広場へと赴く。
本部というのは元アジトの事だ。
自警団なのにいつまでもアジトと呼ぶのはあれだしな。
【猫耳自警団本部】が正式名称である。
複数個所にある小さいアジトは詰所と呼ぶようにさせた。
巡回に出た団員達が休憩を取ったりする場所だ。
到着した広場ではまだ食事を配っている。
団員達に挨拶を返しながら広場を進み、中ボスの姿を見つけた。
「団長、おはようございます。・・・・・・そちらのお嬢様方は?」
「あぁ、紹介する。俺のパーティの―――。」
一人ずつ紹介を行う。
「ヒノカ様、リーフ様、フラムベーゼ様、フィーティア様、ニーノリア様、サーニャ様ですね。私は猫耳自警団の主に事務方を担当させて頂く事になりました。中ボスと申します。以後、お見知り置きを、お嬢様方。」
一発で覚えるとは流石だな、中ボス。
中ボスにしておくのが勿体無い気がしてきた。
対してハゲは―――
「こんなお譲さんがアイツらの稽古なんて―――イデデデデデデッ!!!!」
触手でハゲの腕を捻り上げる。
「まだ見た目で判断してるのか?ハゲは。」
「す、すいやせんでした、姐さん!イデデデデッ!!!」
「学習能力が足りませんね、【ハゲ魔人隊長殿】?」
「お、お前がその名で呼ぶんじゃねえ!」
【ハゲ魔人隊長殿】は部下達が呼ぶ時の役職名である。
流石に部下達にハゲ呼ばわりだと締まらないからな。
【ハゲ魔人様】か【ハゲ隊長】どちらが良いか部下達に尋ねたところ、
激論が交わされた末に何故か融合され、【ハゲ魔人隊長殿】案が浮上し、面白かったのでそれで決定とした。
本人が気に入っているようでなによりだ。
ちなみに中ボスは普通に中ボス様と呼ばれている。
「よし、てめぇら!並べ!」
食事が終わり、片付いた広場にハゲの号令で選抜者25人が並ぶ。
「こちらのお三方がテメェらを鍛え上げて下さる先生方だ!失礼の無いようにな!」
「「「へい!!」」」
ハゲを後ろから蹴って部下達の方へ飛ばす。
「いでぇ!!な、何するんですか、姐さん!!」
「お前も一緒に鍛えて貰え。」
「アッシも、ですか?」
「部下だけ冒険者になったらお前はどうだ?」
「・・・・・・が、頑張りやす。」
「よし、お前ら!五日後に冒険者になれたら俺から銀貨1枚くれてやる!死ぬ気でやれ!」
部下達のテンションが一気に沸き立つ。
「じゃあ三人とも、お願いするよ。」
ヒノカとフィーの二人には殺る気オーラが満ち溢れている。
「あぁ、任せておけ。死なない程度に戦ってやれば良いのだろう?」
「・・・うん、大丈夫。・・・死なせない、多分。」
控えメンバーの選出を急いだ方が良いかもしれない。
「ボ・・・、ボクは普通にやろうかな。」
「うん、ニーナの思う通りにやってよ。いつか私達に教えてくれたみたいに。」
「りょうかい!」
ふと見るとフラムが怯えている様子。
「どうしたの、フラム?」
「ぁ、アリスが・・・怖いよ・・・?」
フラムの目の端には薄らと雫が溜まっている。
「あー・・・そっか、怖がらせてごめんね、フラム。彼らはああいう言葉しか通じないんだよ。」
フラムの頭を撫でていると中ボスが口を開く。
「団長、伝え忘れておりましたが・・・。彼らは通常の共通語も理解する事ができます。」
「あ、そうなの?」
「はい、ですので普通に会話して頂いて問題ありません。」
(ひでぇ・・・。)(俺ら、もはやヒトとして扱われてねえぞ・・・。)(中ボスの野郎ぉ・・・!)
「杖”妹”に読み書きを教わる事をお勧めしますよ。【ハゲ魔人隊長殿】。」
「な、何だとてめぇーーー!!」
顔を真赤にして怒り出すハゲに対し、中ボスは冷静に挑発を続ける。
「ちなみに貴方に生えていた髪の毛は5本ではなく、4本です。計算・・・・・・いえ、まずは数字から覚えた方が良いでしょうね。」
「うがぁぁぁぁーーーっ!!」
暴れ出しそうになったハゲを押さえる部下たち。
「ハゲ魔人隊長殿、落ち着いてください!」「ハゲ魔人隊長殿、抑えて!」
ハゲの首を触手でキュッと締め、通常の共通語で優しく諭してやる。
「ぐぉぇっ!!」
「すぐ挑発に乗っちゃダメだよ。」
だがハゲは怯えた様子。
「ひぃっ・・・!す、すいやせん・・・・・・姐さん。」
(な、なんだ・・・団長、いつもより怖ぇぞ。)(あ、あぁ・・・すげぇ迫力だ。)(ひっ!こっち見たぞ!)
・・・・・・普通に喋っただけなんだが。とりあえずしばいておいた。
「申し訳ありませんでした、団長。彼らにはまだ人語は早かったようです。」
中ボスが深々と頭を下げた。




