17話
俺達は参道を進み、聳え立つ神殿を見上げる。
「ここだけ少し…雰囲気が違うわね。」
「明らかに建物の造りが他と違うな。これが遺跡、ということか。」
「中は自由に見られるみたいだね。行ってみよう。」
開放されている入り口から神殿の中へ足を踏み入れた。
中は大きな一室になっており、奥の中央の祭壇に大きな黒いモノリスが立っている。
あれが魔道具【トコナツ】であろう。
他の参拝客たちに混じり、奥へと進んでいく。
ガラガラと神殿の中に鈴の音が響き渡る。
先にいる参拝客が鳴らしたものだ。
モノリスの前には大きな鈴が吊るされ、その鈴から垂れ下がった鈴緒を引いて鳴らしている。
立派な鈴の下には賽銭箱。
(…何故置いたし。)
外を神社風にしたからだろうが…。大丈夫なのか?
モノリスの根本には酒樽や食物などのお供え物が、上部には注連縄が締められている。
見上げるとなんとなく神々しい…ような気がする。
順番が進んでいき、俺達の番が回ってきた。
俺を真ん中に、フラム、サーニャと並んでモノリスの眼前に立つ。
賽銭箱の隣に立てられた小さな看板に従って参拝。
鈴を鳴らし、賽銭を入れ、二礼二拍手一礼。普通の神社と変わらない。
妙に納得いかない気持ちで俺は参拝を終えた。
ガラガラガラガラッ!!
けたたましい鈴の音が響く。
「にゃはは、面白いにゃ!」
「ひぅ…っ!」
隣にいるサーニャの揺れる鈴緒を見る瞳が完全に猫のそれとなっている。
「こら、サーニャ、行くよ。」
触手で暴れるサーニャを縛り上げる。
「に゛ゃう゛っ!」
「もう、後でお説教ね…。」
「先に外に出て待ってるよ。行こう、フラム。」
「ぅ、うん。」
「あぁ、私達も終わればすぐに行く。」
後ろに並んでいるリーフ達に手を振り、サーニャを引きずって神殿の外に出た。
他の参拝客の邪魔にならないように入り口から少し離れて皆を待つ。
「ご、ごめんにゃ、あるー…。離して欲しいにゃ…。」
「もう暴れちゃダメだよ?」
「分かったにゃ~…。」
反省した素振りのサーニャを触手を消して解放してやった。
程なくして神殿から出てきたヒノカたちとの合流を終える。
「よし、では次の場所は……まぁ、決まっているか。」
「そうね、ここまで来たら一つしか無いでしょう。」
「ねぇ、どこ行くの?」
「勿論、温泉だよ。」
海の近くにあった温泉とは違い、少々ボロ…趣のある老舗の風格漂う建屋。
だがこちらは源泉かけ流しとなっており、
檜…っぽい木材で造られた浴槽には白く濁った湯が絶えず送られている。
更に浴場内のガラスの向こうには青空が見える露天風呂。
かけ湯を済ませ、早速外へとつながる扉を開いた。
浴槽の縁へ座り、足だけ湯につける。
「あぁ…ええのう…。」
「ふふっ…アリスったら、お婆さんみたいね。」
「ふっ…だな。だが………分からんでもないな。」
濁った湯船に沈んだ二人の肢体は窺い知ることが出来ない。少し残念だ。
「あ…の、アリス…。」
「あぁ、フラム。隣においでよ。」
後から居たフラムの為に少し端へ寄る。
フラムは湯船にそっと足とつけて俺と肩をくっつけるようにして座った。
「アリスは…入らないの…?」
「後でね。今日はじっくりと堪能しようと思って。」
何せ海の近くの風呂屋は人も多かったしな…。
「あるー!」
サーニャに背中から抱きつかれる。
「どうしたの、サーニャ。」
「お風呂上がったら牛乳飲みたいにゃー。」
「分かってるよ。ちゃんと大人しくしてたらね。」
「任せろにゃ!」
「サーニャ、貴女身体は洗ったの?」
「ふぃーに洗って貰ったにゃ!」
サーニャが指した方ではフィーがニーナを洗っている最中だ。
「そう、それならこっちにいらっしゃいな。気持ち良いわよ。」
「でも…熱そうにゃ。」
「それなら私みたいに足から馴らしていけばいいよ。」
「分かったにゃ。…………あぅ!やっぱり熱いにゃ!」
「だ、大丈、夫…?」
「じっくり温まったあとの牛乳はきっと美味しいよ。」
「うぅ…頑張るにゃ…。」
青い空を見上げる。白い雲が太陽を遮ると同時に風が身体を冷ましてくれる。
目を閉じ、源泉が流れ落ちる音に耳を傾ける。
水と水がぶつかり合う音が耳をくすぐる。
あぁ…やはり温泉は良いものだ。
今度来る時はこの辺りで宿を取るのも良いかもしれない。
学生達は殆ど海の方へ行っているみたいだしな。
「うわっ、こっちも熱そう!」
浴場内へと繋がる扉からニーナの声。
ニーナがフィーの手を引いて外まで出て来たようだ。
「…そう?」
「そうだよ、だってほら、アリス達も足しか浸けてないじゃん。」
「…熱いの?」
「ん~、ちょっと温度高めかな。温泉ならこれくらいがちょうど良いと思うけど。」
フィーがそろそろと足を浸ける。
「…うん、大丈夫。」
「本当に?………熱っ!大丈夫じゃない!」
「最初はお湯を掛けてからにするといいよ。」
「別にボクは…。」
「まぁまぁ、美容効果もあるって書いてあるから入っておかないともったいないよ。」
「美容…?そんなのどうでも…」
ザバァッ!と音を立ててリーフが立ち上がり、縁に座る。
「どうした、リーフ。のぼせたか?」
「い、いえ…折角の温泉だし、長く楽しめるように少し身体を冷まそうと思って。」
「ふむ…、確かにそうだな。私も付き合おう。」
ヒノカも立ち上がり、リーフの隣に腰を落ち着けた。
二人の肌は上気し、うっすらと湯気が立ち上っている。
その湯気が風で流される。
「良い風だな。」
「そうね、明日もまた来たいけれど…。もう一週間経ってしまったのよね。」
「あーあ、ほんとに。あっという間だったなぁー。」
「今度来る時はこの辺りで宿を探そうよ。」
「えぇー、海遠くない?」
「でもこの辺の方が落ち着くと思うよ?」
「今取っている宿の辺りも少し賑やかだものね…。」
「うーん、そうかなぁ?そんな気しないけど。」
「…それはニーナがうるさいから。」
「そ、そんなぁー。」
「ふふっ、それなら前半は海の近くで、後半はこの辺りで宿を取るのはどうかしら?」
「あっ、それなら賛成ー!」
「海で遊んだ後はゆっくり温泉…か、悪くないな。」
「あちしはもっと美味しいものいっぱい食べたいにゃ。」
「この辺りなら海の方とはまた違った美味しい物が食べられるんじゃないかな。」
主に和食っぽいものが中心になりそうだが。
「それなら良いにゃ!」
「あぁ、そうだ。アンナ先生のお土産買ってかなきゃ。」
「お土産?」
「うん。まぁ、お世話になっているしね。お菓子でも探そうかな。」
「ふむ、なら私達もそうしようか、フィー。」
「…うん。」
「私もそうするわ。…でも、何を買えば良いのかしら?」
「アイヴィ先生なら……、何でも食べそうだね。」
「そうなのよねぇ。」
「まぁ、じっくり探せば良いんじゃないかな。
土産屋もたくさんあったし、ゆっくり回ろうよ。」
「店をたくさん回ればまた汗を掻いてしまいそうだな?」
「その時はまた別の温泉だね。」
「ふふっ、そうね、そうしましょう!」
七日目。最終日。
宿で朝食を摂った俺達は宿をチェックアウトし、
荷物を持ってあまり人気のない広場へ来ている。
周囲には俺達と同じ様に荷物を持った学生達がちらほらと。
彼らも俺達と同じく、今日戻るのだろう。
この広場は帰還用の転移スクロールを使う為の場所で、
観光客が来ないようになっている。
まぁ、何もないから来ないだけなんだが。
遠くに居た一組が転移用の魔法陣に乗って消えていく。
俺達の時間ももうすぐだ。
「皆、そろそろだよ。準備は出来てる?」
「もう、サーニャ。ちゃんと暖かい恰好をしないとダメじゃない。」
「う~、でも暑いにゃ~…。」
「戻ったら寒いわよ。だから少しだけ我慢しなさい。」
「分かったにゃ~…。」
リーフがサーニャに毛皮の外套を着せ、ボタンを留める。
そして俺が手に持っていた巻物が光を放ちはじめた。
「時間だね。」
巻物を広げると魔法陣が地面に浮かび上がる。
同時に巻物がぼろぼろと崩れ、塵となって散っていった。
荷物を持って、全員で魔法陣の上に立つ。
俺は頭上を見上げ、最後に青い空を見納めた。




