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16話

「おぉ…これが伊勢エビのステーキ…。」

フィーが倒した巨大伊勢エビの身のほんの一部を使って作られたものだ。

見た目は焦げ目がついた唯の白い塊。高級食材だというのにどこか味気ない。

こうして見ると殻って大事なんだなと思う。あの厳つい雰囲気というか…。

でんと砂浜に横たわる凹んだ伊勢エビを眺める。…やはり伊勢エビだ。

こうしてあのデカイ殻を見ながら食べると良いかも知れない。

ステーキから漂ってくる匂いは本物のそれなのだから。

いや…、本物なんて食ったことねぇけど。

フォークを突き刺して豪快にかぶりつく。

「はむ…。」

うん、美味いな。

戦場となっていた浜辺は一転してお祭り会場へと様変わりしていた。

街の宿や食堂の料理人が総出で積み上げられた海の幸を解体、料理し、

用意された長テーブルにビュッフェ形式で次々に展開されていく。

海の家の方では頭に赤い鉢巻を巻いたままの海ちゃんと水ちゃんが

自らが仕留めた肴を手に呑み交わしているのが見える。

何を呑んでいるかは…まぁ、触れないでおこう。

ウチのメンバー達は思い思いのテーブルを巡り、手にした料理を胃袋に収めている。

サーニャ、ニーナは言わずもがな。

いつもは大人しいフラムも数々の料理に興味津々のようだ。

これは…今夜も苦しい夜を過ごすことになりそうだな。

「うふふっ、アリスちゃーん。」

背後から回された手にがっしりとホールドされる。

後頭部に柔らかい感触。

「ど、どうしましたか。レーゼ先輩。」

「皆忙しそうですから、アリスちゃんに構って貰おうと思いまして。」

マルネ達を探すと、マルネとミゼルは仲良く料理を食べながら移動している。

猛スピードで…。

対するテリカはゆっくりと料理を味わっているようだ。

「テリカ先輩は一人のようですが。」

「あの子はああなっちゃうとねぇ…。」

見れば真剣な表情で口を動かしている。

近寄りがたい雰囲気で、とても楽しんでいるようには見えない。

「料理の味を分析しているらしいの。」

「分析…ですか?」

「えぇ、テリカさんの言う通りに作るとすごく美味しい料理ができるのですよ。」

「…?テリカ先輩が作るんじゃないんですか?」

「あの子が作ると悲惨な事になってしまうのよねぇ…。どうしてなのかしら?

テリカちゃんが不器用という訳でもないのよ。むしろ器用な方だし…。」

「色々あるんですね…。」

「まぁそんな事はいいわ。私やマルネさんが料理すれば良いのですから。

それより一緒に食べましょう。」

「わ、分かりましたから…あの、一人で歩けるので…。」

「うふふ、だーめ。ほら、あちらにも大きいのが居ますわ。」

レーゼの指す方を見れば巨大伊勢エビにも負けない巨体が転がっていた。

伊勢エビよりもスリムで凶暴な挟みが二つ付いている。

あのフォルムはよく知っている。小学生の頃よく捕まえていたっけ。

アメリカザリガニだ。…あんなのまで居たのか。

「挟みが付いている分、あちらの方が強そうですわね。」

確かにそうだが…、食えるのだろうか?

一応食えるという話は聞いた事があるが、実際に食った事はない。

遠くのザリガニをまじまじと見つめる。…美味いのか?

「あら、どうかしましたか?アリスちゃん。」

「あ、いえ…挟みの無い方がここにあるので、食べ比べてみたらどうかと思いまして。」

手に持った伊勢エビのステーキを掲げて見せた。

「良い考えね。そうしましょう!」

レーゼは俺を抱えたまま巨大ザリガニの方へと足を進める。

巨大ザリガニの周りにもテーブルが並べられており、

ザリガニを使ったと思われる料理が所狭しと並べられていた。

「お美しいお姉さまにお嬢様、一皿如何でしょうか?」

巨大ザリガニを背に、恭しく礼をするコック姿の少女。

テーブルには彼女が作ったと思われる品が並べられている。

その料理はザリガニを使った料理だとは思えないほど美しい。

どこぞの料理漫画から出て来たかのようだ。

「これは貴女がお作りになられたのかしら?小さな料理人さん。」

「はい、長年……母が培ってきた技術と知恵の結晶が詰まっております。

味は保証致しますよ。」

「それでは一皿頂きますわ。お願いします、アリスちゃん。」

レーゼに抱えられたまま手を伸ばすと、テーブルに乗せられた小さなプレートが目に入る。

<潮騒のザリガニ~カルナグの風にのせて~>

この料理の名前ということだろう。

ザリガニという単語が全てを台無しにしている気がして止まない。

ザリガニにはとんだ風評被害だろうが…。それでもザリガニはザリガニなのである。

とりあえず一番手前にある皿を手に取った。

ふわり、と皿から漂う爽やかな香りが鼻を通り抜けていく。

これは期待できるかも知れない。

「あのシートが空いていますわね。あそこに座って食べましょう。」

ビーチの所々に設置されたシートはフリースペースになっている。

要はベンチ代わりだ。

レーゼは空いているシートに腰を下ろす。

俺はレーゼの膝の上だ。

言われるまでもなく自然に座ってしまった自分が少し悲しい。

「はい、あーん。」

「あーん。」

もはや躊躇いは無い。

眼前に差し出されたフォークをぱくりと咥える。

ザリガニの身に絡んだよく分からんソースとよく分からんハーブみたいなのが

混然一体となりハーモニーが云々で超うめぇ!

「アリスちゃん、どうですか?」

「おいしいです…凄く。」

「まぁ…アリスちゃんがそんな顔するなんて、余程美味しいのね。私も頂けるかしら。」

皿とフォークを受け取り、食べやすい大きさに切る。

「どうぞ、あーん。」

「うふふ、あーん。……本当…凄く美味しいわ。このソース…、クルーエルを使っているのかしら?

でも、もっと別の…。それにこのカルナグの香り。添えられた葉のものではなかったのね。

乾燥して細かく砕いたものをソースと合わせているみたい。そして噛むたびに溢れてくる肉汁。

野生の獰猛さで口内を駆け廻り私の舌を蹂躙していくようだわ。それでもこの爽やかな味と香りのソースが

肉厚な身を羽根の様に軽くしていくらでも食べてしまえそう…。」

どこか別の世界へ旅立ってしまったようだ。

トリップしたレーゼを余所に、もう一口食べる。

伊勢エビより美味いな…。流石にこれは料理人の差だろうが。

気付けば皿の上には何も無い。

(………もう一皿貰って来よう。)

俺がレーゼの膝から立ち上がると、トリップしていたレーゼが我に返った。

「アリスちゃん?」

「もう一皿貰ってきますね。」

空になった皿を見せる。

「それなら私が行ってきますわ。アリスちゃんは此処で待っていて。」

「分かりました。よろしくお願いします。」

「寂しいけれど、少しの間だけ我慢してね。」

「は、はい。」

レーゼを見送り、シートに腰を落ち着ける。

流れる夜風が少し肌寒い。

「やっほー、アリスちゃん。」

少しの間海を眺めていると、こちらを見つけた隣にマルネ達がやってきて座った。

「あれ~?レーゼちゃんは?」

「今料理を取りに行っています。もうすぐ戻られると思いますよ。」

「そっか、私達もいっぱい持ってきたから食べて待ってよ。」

マルネとミゼルが持っている皿には山の様に料理が積まれている。

さっき結構食べていた気がするのだが…、まだ食べる気なのか。

「そうだね~。ほら、アリスちゃんも食べよっ!」

「は、はい…。いただきます。」

二人が並べた皿に手を付けていく。

…が、一向に減る気配が無い。

「先輩方、私達も一緒に宜しいでしょうか。」

ヒノカの声だ。頼もしい援軍である。

「あ、ヒノカちゃん達!もちろん歓迎だよ!

ちょっと狭くなっちゃうから向こうの敷物とくっつけちゃおう!」

マルネがトテトテと駆けて行き、空いているシートを引き摺ってくる。

そしてそのシートにヒノカ達が持ってきた料理が並べられていく。

…人数で割ってもさっきより多くなってないか?

「あら、随分と賑やかになりましたね。」

「レーゼちゃんおかえり~。」

戻ってきたレーゼの手には沢山の料理が…。

「テリカさんが居ませんわね。」

「あれ?さっき声掛けたんだけど…。あ!まだあんなところで食べてる!ちょっと連れて来るよ!」

テリカの元へと走って行くマルネ。

皿いっぱいに盛って食べている気配はなかったので少しはマシになるだろう。…少しは。

宴はまだ始まったばかりだった。




滞在六日目。

楽しい時はあっという間に過ぎ去り、明日が帰還予定日だ。

今日は街の方を見て回っている。

今までは海で遊んでいたのだが、折角なので島の中心にある遺跡を見てみよう、

という事になったのだ。

宿を出て中心部へ向かって歩いて行くと、

中心へ向かうにつれて街の景色が風情のあるものへと変わっていく。

それに合わせて観光客の年齢層も上がる。

そして漂ってくる湯気と、硫黄の匂い。

そう、島の中心部は温泉街になっていたのだ。

「落ち着くところね。もっと早く来れば良かったわ。」

本来なら昨日に来る予定だったのだが、

まだお祭り状態が続いていたのでそちらで過ごした。

今日もまだ続いているようだったが、明日が帰還予定日なのもあり、

一日遅れではあるがこちらを見て回る事にしたのだ。

「うむ、どことなくアズマの国に似ていて…懐かしい感じがするな。」

「あそこに温泉まんじゅうってのがあるよ。食べよう!」

「あちしも食べるにゃ!」

「もう、静かな所なんだから、あまり五月蠅くしないの。

皆の分を買ってくるから手伝ってくれるかしら?フィー。」

「…うん!」

「あ、アリス……。おんせんまんじゅうって…?」

「ん~、ただのお菓子だよ。」

「ぉ、お菓子…。」

温泉まんじゅうを片手に、案内板に従って遺跡の方へと進む。

そして俺達の前に現れたのは小高い山と、その頂上へ繋がる石段だった。

石段の前には大きな鳥居が構えている。

「………これ、登るのかしら?」

見る限り百段は超えていそうだ。

「これぐらい、リーフなら問題ないだろう?」

「そうなのだけれど、こうして見上げると果てしなく見えるわ。」

鳥居をくぐり、石段の一段一段を踏みしめていく。

頂上へたどり着くと石段から参道が真っ直ぐ伸び、石造りの神殿が構えていた。

パルテノン神殿…そんな言葉が脳裏に浮かぶ。

とりあえず突っ込みを飲み込み、境内を見回す。

ソレ以外は普通の神社と変わらない。

手水舎はあるし、社務所には御守りの販売所もあるし、絵馬だって飾られているし、

巫女姿の少女だって竹ぼうきで掃除している。

参拝客は少なくはないようだ。

「ここでも何か売ってるよ。見てみよう!」

ニーナがフィーの手を取って販売所へと駆けていく。

「あれ?サーニャは行かないの?」

「美味しそうな匂いがしないにゃ。」

まぁ、食べ物は売ってないな。

「これは何かしら?」

リーフが飾られた絵馬を手に取って眺める。

「試験で良い点がとれますように…、皆とずっと友達でいられますように…、

店が繁盛しますように…、病気が治りますように…。」

「願い事が書かれているようだな。読めないのものもあるが…。」

ヒノカが読めないのは日本語で書かれているものだ。

あのアニメの続きが見たい。二期はよ。漫画の続きが、小説の続きが、ドラマの…etc。

大体がそんな感じだ。

それに加えてイラストが描かれた絵馬。

元の世界に帰りたい。というものは見つからなかった。

…帰りたくない。ならあったが。

「私達も何か書く?この板ならあそこで売ってるよ。」

指差した販売所の方ではニーナとフィーが興味津々で売り物を眺めている。

「そうね、面白そうだわ。」

「あの店で売っているのだな。行ってみよう。」

俺達もフィーとニーナがいる販売所へ向かう。

店番をしているのは巫女姿の少女だ。

「この小さい袋みたいなのは何かしら?」

「お守りだね。それは恋愛成就だって。」

「れ…恋愛………はぅ…。」

リーフが手に持っていたお守りをそっと戻した。

「ほ、他には無いのかしら?」

「ん~、健康祈願とか学業成就とか…色々あるよ。」

「剣術が上達するようなものは無いのか?」

「流石にそんなのは…。この諸願成就とか?

あ、勝守ていうのがあるよ。勝負に勝てるように、だって。」

「ほう、それは良いな。」

「ねぇねぇ、皆で何見てるの?」

ニーナとフィーがこちらへやって来た。

「ニーナはこれだね。学業成就。」

「そうね。」「そうだな。」

「え?え?」

「お姉ちゃんは…健康祈願、かな。」

「いいえ!それだけでは足りないわ!この厄除けというのも一緒に買いましょう!」

「…え?…う、うん。」

「あちしは?あちしはどれが良いニャ!?」

「サーニャは…………これかなぁ。」

「金運上昇?サーニャには縁遠いような感じだけれど…。」

千客万来とかの方がご利益がありそうだが。…猫だけに。

まぁ、店なんてやってないしな。

「お金があればご飯がいっぱい食べられるからね。」

「ごはん!?あちし、これが良いにゃ!」

「そういう事ね…。」

「フラムはどれが良いかな…。」

「ゎ、私は…あ、アリスと同じ…ので。」

「ふむ、アリスはどれにするのだ?」

「これかな、家内安全。」

「家族の健康と安全、ね…。貴女らしいわ。……ぁ。」

「か、ぞく………。」

しまった…。家庭の話題は地雷だった…。

「えっと…、私達のパーティはこれからも一緒に暮らしていくんだし…、

きっとご利益もあるんじゃないかと思ったんだけど…。べ、別のにしようかな。

こ、こっちの諸願成就の方が万能そうで良いかもしれないね。」

「そ、それが…いい。」

「じゃあこれを二つにしようか。」

「ち、違うの…こっち…。」

フラムが家内安全のお守りを手に取る。

「でも、それは…。」

「こ、これがいいの!……あ、アリスの事、きっと、守ってくれるから…っ!」

「そっか…、ありがとう。私も同じのにするよ。お揃いだね。」

「ふむ……、それでリーフはどうするのだ?」

「わ、私は…………………が、学業成就に決まってるわ!」

「別に必要ないんじゃないか…?」

「私なんてまだまだだもの。」

「リーフにそれを言われると立つ瀬がないな…。」

「べ、勉強は姿勢が大事なの!…そんな事より早く買うわよ!えま…?を書くのでしょう!?」

全員分の絵馬とお守りを購入する。

リーフが後でこっそりと恋愛成就のお守りを買っていたのは皆に内緒にしておこう。


販売所の近くに設置されたテーブルに買った絵馬を広げる。

「何を書こうかしら…。」

「こうして改めて考えると思い浮かばないものだな。」

「これ、どうすればいいにゃ?」

「願い事を書いてあそこに吊るすんだよ。…爪を研ぐためのじゃないからね。」

「わ、分かったにゃ!」

「…アリスは何を書くの?」

「私は……皆で無事に卒業出来ますように、かな。」

「ふむ…、それが一番かもしれんな。」

「そう……ね。私もそう書くわ。」

「…私もそうする。」

「じゃあボクも!」

「ゎ、私も…アリスと一緒に…する。」

「わざわざ皆同じのを書かなくても…。」

「ふふっ、その方が願いが叶いそうでしょう?」

「あちしもそうするにゃ!」

サーニャは卒業関係ないと思うが…。

でもまぁ、無事に過ごして欲しいという願いは同じだ。

「分かったよ。書き終わったら皆で掛けに行こう。」

かくして、絵馬掛けには新しい願いが一つ追加されたのだった。

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