14話
転移先の扉を開くと、そこは夏の楽園だった。
アズマの国より遥か南の海にあるリゾー島・観光都市『トコナツ』
島の中心部にある古代遺跡。そこにある魔道具の名を付けられた都市だ。
島は魔道具から展開される結界に大きく覆われ、その中は一年中温暖な気候に保たれている。
だが結界の外側はその温度差で波が激しく荒れており、船で近付く事は不可能に近く、付いた名称は「海魔の領域」。
実質、学院からの転移でしか行けない場所だ。
最初にこの島を見つけたのは魔女の一人で、空から侵入したという。
遺跡に書かれた碑文によれば、神様はどうやらハワイ的なものを作りたかったらしい。
しかし、先述したとおり結界の外は常に荒れているため、長い間その目的が果たされていなかった。
現在は混雑を避けるため、学院関係者または卒業生とその家族までが転移可能となっているが、
それでも多くの人が訪れてきている。
まぁ、全部レンシアの受け売りなのだが。
今はちょうど冬休みなので、学生がかなりを占めているようだ。
俺達は荷物を手に、白い石畳で出来た通りを歩く。
電話予約なんてものはないので、まずは宿探しから。
しかし、今はどこも一杯。
汗だくになりながらも、やっとの思いで浜から少し離れた場所に一軒の宿を見つける。
少々予算オーバーなちょっとだけお高い宿だったが、即決。
全員で部屋になだれ込んだ。
「あっつ~~…。」
「こ、こんなに暑いなんて聞いてないにゃ~…。」
「もっと涼しい恰好でくればよかったねー。」
「それだと向こうに戻った時に大変よ?」
「ふむ、確かにそうだな…。」
「戻る時は転移する直前に着替えよう。」
「…それがいいかも。」
「き、今日は…これから…ど、どうする…の?」
「少し休んでから海…かしらね?」
「これが海!?ボク、初めてだよ!」
「…すごい。」
「私もそうね。村は内陸部だったから。」
「私は海を渡って来たからな、これで二度目だ。」
「私もはじめてかな(この身体では)。ギルドの仕事で海岸部のものは見かけたけど、
遠かったから結局行かずじまいだったなぁ。」
「ゎ、私…も。初めて。」
「あちしもそうだにゃ~。変な臭いがするにゃ。」
「磯の香りとか潮の香りとかいうやつだね。」
「皆、海にはあまり縁がないのね。それなら早速涼しい恰好に着替えて海に行きましょうか。」
「その前に一つ寄りたい所があるんだけど、いいかな?」
「どこ行くにゃ?」
「それは行ってのお楽しみだよ。」
漂ってくる潮の香りを浴びながら通りを歩き、とある場所を目指す。
この島へと渡ってくる前にレンシアに教えられた店だ。
少々奥まった寂しい場所。人通りは少ない。
『水着専門店・人魚の社交場』そこにはでかでかと看板が掲げられていた。
「水着とは何だ?」
「ん~、泳ぐ時に着る専用の服…かな。」
「へぇ…そんな物があるのね。身体に布を巻くだけだと思っていたけど。」
むしろこの世界ではそっちの方がスタンダードだろう。
浜辺を歩いていた観光客もその割合が高い。勿論水着を着ている者も居たが。
店の扉を開けると涼しい風が肌を撫でる。
「いらっしゃいませ~!」
店の奥から俺達を迎えたのはフィーと同じ年頃の女の子だ。
土地柄、日に焼けるのか肌は健康的に焼けており、
短く切りそろえたピンク色の髪に、大きな紅い瞳が輝いている。
「子供…?」
「お母さんのお手伝いをしてます!」
「そう、偉いのね。私達は水着を見に来たのだけど…。色々と教えて貰えるかしら?」
「えへへ、かしこまりました!」
個人店にしては広い店を思い思いに見て回る。
「なぁ、アリス。この水着とやら…高くないか?それに………下着のような物しかないのだが。」
確かに高い。値段は一律銀貨10枚だ。
触ってみた感じ、手触りは元の世界のそれと同じだ。
デザインもビキニやセパレート、競泳型、ひらひら付きやパレオ、様々だ。
値段はやはり手間や技術が必要だからだろう。
元の世界の物を再現した品物は得てして高い。
だがここまで来たからには値段などは関係ない。
折角の海だ。水着回にしたいじゃないか。
「多少装飾が付いてるのもあるけど、基本は泳ぐ為の物だからね。
水の抵抗を抑えるようになってるんだよ。これなんかは特にそうだね。」
掛けてあった競泳水着をヒノカに手渡す。
「ふむ、確かにそう言われればそんな気もするな。」
「お金は私が出すから気にしないで、好きなのを選んでよ。」
「しかし…流石に高いぞ、これは。」
「いいの。これは『絶対に』必要な物だから。」
「ぜ、絶対…なのか?」
「うん。ヒノカならスタイルも良いし、これなんかも似合うと思うよ。」
今度はビキニタイプの物を手渡す。
「い、いや…これは…布が少なすぎないか…?」
「きっと似合うよ。まぁ、他にも色んなのがあるからちゃんと見てみるといいよ。」
「う、うぅむ……。」
悩み始めたヒノカを余所に俺は店内を物色を再開する。
「ある~、あちしよく分かんないにゃ~…。」
「ん~、ちょっと待ってて、サーニャ。」
店内を見回し、目的の人物を探す。
「あ、いた。」
サーニャを連れ、レジカウンターでリーフ達と話し込む店員に声を掛ける。
「あのー、店員さん。」
「あ、はい!何でしょうか?」
「あら、アリス。どうしたのかしら?」
「少し聞きたい事があって。邪魔してごめんね。」
「いえ、構わないわ。私達も自分のを見てみようと思っていたから。ありがとうね、店員さん。」
「いえいえ、ごゆっくりご覧になって下さい!」
「それじゃあ私達も探しましょうか。」
「…うん。」
「ボクは可愛いのがいいなー。」
「こ、こんなの…着れない、よぉ…。」
「お金はまとめて払うから決めたら待っててね。」
「えぇ、分かったわ。」
リーフ達が連れだって店内の物色を始めた。
「それで、どういったご用件でしょうか?」
俺は声を潜めて店員に耳打ちする。
『………は、あるか?』
俺の言葉に店員が眉を顰める。
『…お前が着るのか?』
『いや、そっちの猫耳だ。』
『ファッ!?猫耳!?…………………本物?』
『正真正銘のモノホンだよ。尻尾も付いてるぞ?』
『マジだ………。レンシアが言ってたのはこれか……。』
『あぁ、そのレンシアに言われてこの店に来たんだ。』
『そう言う事か。まぁ、少し待っててくれ。』
「ど、どう…?似合うにゃ?」
今サーニャが着ているのはスク水だ。
それもただのスク水ではない。
上下に分かれている、所謂旧スク水。
分けられた部分から尻尾を垂らしている。
色はその髪に負けない白。ゼッケンも勿論付いている。
白旧スクと白ニーソの間に生み出された領域は褐色なのにその輝きで目を焦がす。
『この世界の神にありがとうを言いたい気分だ。』
『全く同感だ。神様ありがとう。ありがとう神様。』
「ダメ…かにゃ?」
「そんなことないよ!すごく似合ってる!」
「そうですよ!ちょっと見惚れていただけです!」
「あるーがそう言うなら…、これがいいにゃ!」
「ありがとうございます!ありがとうございます!」
サーニャの水着を用意してもらってレジカウンターまで戻ると、すでに皆決めているようだった。
「あら…、アリスはまだ選んでないの?」
「あー…サーニャのを選んでてすっかり忘れてたよ。」
「ごめんにゃ…、あるー。」
「あぁ、いいんだよ私のなんて何でも。さっと見てくるよ。」
「お客様のサイズでしたらこちらがよろしいですよ。」
「ありがとう、店員さん。」
案内されたのは子供用のコーナーだ。
その中から適当に選ぶ。
『あ、初代じゃん。これでいいか。』
『他の人気作もあるのに初代を選ぶとは。』
『まぁ、他のも好きだけど。』
俺が選んだのは、白い衣装と黒い衣装を着た少女二人が描かれたアニメ柄の水着だ。
『しかし、こんなものまで…。』
『全然売れねえけどな。』
『そりゃこっちで放送なんてされてないし。そもそもテレビがねぇ。ラジオもねぇ。』
『馬車ならそれなりに走ってるけどな。それに決めるのか?サイズはピッタリだと思うが。』
『サイズがいけるならこれでいいや。』
『まいど。』
選んだ水着を持ってレジカウンターまで戻る。
「早いわね…アリス。もっとゆっくり選んでも良かったのよ?」
「ちょうど良いのがあったし、大丈夫だよ。あぁ、ついでにあの辺りのも買っておこうか。」
俺が指差したのはパーカーや麦わら帽子、サンダルなどが並べられた一画だ。
スペースは小さいが、これだけあれば十分だろう。
「必要なのか?」
「私達の宿は浜辺からそんなに離れてないからね。
部屋で水着に着替えてこの上着を羽織って行けばいいと思うよ。」
「そういえば…宿の近くの通りにもそんな感じの恰好の人が居たわね。」
「これだけ暑いとね。それに海で泳ぐなら結局着替えなきゃだし。」
「ふむ、それもそうだな。」
それからまた時間を掛けてそれぞれが気に入った物を選ぶ。
俺は早々に選び終わったので店員と雑談しながら皆を待つ。
水着よりも品数は少ないはずなのだが…、なんでこんなに時間が掛かるんだ?
ともあれ、その選別も腹の虫が何度目かの訴えをした頃に終わった。
「お会計お願いできますか?」
「はい、少々お待ち下さい。レンシア学院の学生さんですよね?学生証はお持ちですか?」
胸に下げていた学生証を取り出して店員の前に掲げる。
「これでいいですか?」
「はい、確かに。この店では学生さんは半額なんですよ。」
「随分と大盤振る舞いですね…。」
「色々と提携してまして。……ってお母さんが言ってました!」
確かにこんな商品はあっちの関係からしか仕入れられないだろう。
この店員もズバリ関係者だが。
それぞれ包んで貰った袋を抱えて店を出る。
少し陽は傾いているが、その熱はまだ失われていない。
「こんな時間だし、少し遅めの昼食とお茶にしましょうか。」
「そうだな、海は明日でも構わないだろう。」
「ボクもうお腹ぺこぺこだよー。」
「あちしもいっぱい食べるにゃ!」
「ダメよ、サーニャ。夕食があるんだから、少しだけにしなさい。」
「そんにゃー…。」
「良い宿が取れたし、きっと夕食は美味しいものがでるわよ?」
「う……が、我慢するにゃ!」
「ボ、ボクもお茶だけでいいよ!」
「もう、二人とも極端なんだから。…いいわ、三人で分けて食べましょ?それならお腹いっぱいにならないでしょ?」
「賛成にゃ!」
「そ、そうだよね。お腹いっぱい食べなかったら大丈夫だよね!」
フィーがリーフの裾を引く。
「あら、どうしたの?」
「…わ、私も…リーフ……ぉ、姉ちゃんと一緒に…。」
「ぁぅ…………も、勿論よ!ふぃ、フィーも一緒に食べましょう!?」
顔を赤く染めたままフィーの手を優しく握る。
「ふっ…。」
「ん、どうしたの?ヒノカ。」
「いや、最初は「子守りなんて」と言っていたリーフが結局子守りをしているな、と思ってな。」
「…あはは。自分で分かってたんだと思うよ、放っておけないの。性分なんだろうね。」
「性分…か。」
「本当に手の掛かる子だったら自分の勉強も放り出しちゃいそうだし。」
「確かにそうだな。」
俺の中身がこんなのでなければ相当苦労するだろう。
まぁ、そうじゃなければ学院には来てないと思うが。
「それに危険も……あったしね。」
「……。」
この間の事態は中級者のパーティでも全滅するような事だったのだ。
仕方が無いとは思う。
運が悪かった。
俺達のパーティが欠ける事がなかったのは幸運だった。
ただ、それだけの事。
理屈では、分かっている。
ポンポン、と頭を撫でられる。
「すまんな。」
「ううん、忘れちゃいけないと思うから。」
「そうか…、そうだな。だから私達は研鑽を続けるのだと、思う。
次も小さな幸運を零さぬようにな。」
「うん、そうだね。次も…。」
近い未来にも遠い未来にも、その"次"はいくつも待ち構えているのだ、この世界には。
はしゃぐリーフ達を余所に、俺とヒノカの間には沈黙が訪れる。
少しの間。
俺は後ろを歩いているフラムの手を取る。
「ぁ、アリス…?」
「フラム、私達も一緒に食べよう?」
「ぅ、うん…!」
「私だけ仲間外れなのは少し寂しい気がするのだがな?」
「あはは、勿論ヒノカも一緒に!」
「ぐっ……不覚…。」
宿の部屋。
皆が倒れ、苦悶の声をあげている。
いや、一人だけは幸せそうだ…。
「はぁ~~~、おなかいっぱいだにゃぁ~~~。」
結局あの後、あれもこれもと皆で分けて食べている内にお腹いっぱいになり…、
少しの時間を挟んで豪華な夕食となったのだ。
結果はこの惨状。
もう動きたくない。
「うぅ……やっぱりお茶だけにするべきだったかしら…。」
「でも…けーき、おいしかったし…。」
「………二つで止めておくべきだったわ…。」
「…ぱふぇも。」
「………二つで止めておくべきだったわ…。」
それでもちょっと多くないですか。
「とにかく…、今日はもう動けそうにないな…。」
「そうね…このまま休んでしまいたいわ…。」
「ん~、でも近くに温泉があるって聞いたよ?」
「くっ…どうやら休ませてはくれないらしい。いけるか?」
「えっ…えぇ。何とか…!」
ヒノカとリーフがゾンビの様に立ち上がる。
「いや…、閉まるまでまだ時間あるだろうし、もう少し休んでからにしようよ…。」
「そ、そう…ね、一理あるわ…。」
「腹がいっぱいでは戦はできぬと言うしな…。」
崩れ落ちる二人。
その後しばらく、俺達の苦悶の声が部屋を支配した。
「ふぅ………、やっぱりお風呂は良いわね…。」
「あぁ…、心まで溶けてしまいそうだ。」
ようやく動けるようになり、宿の近くにある温泉へとやってきた。
少し遅い時間だというのに、まだ客足は途絶えていない。
やはりここでも学生が多いのだろう、若い少女が大半を占めている。
貴族と見られる人間もちらほらと、あの縦ロールは貴族に違いない。
「ほら、流すよサーニャ。目をつむって。」
「ある~…あちしは魔法で綺麗にしてくれたらそれで良いにゃ~…。ひゃうっ!」
サーニャの頭の泡をシャワーで洗い流す。
ここの温泉は学院の系列らしく、その設備は寮のそれと遜色ないのだ。
「ダーメ、ちゃんと洗うの。」
「にゃう~~…。」
隣ではフィーとニーナが洗いっこしている。
「もー、くすぐったいよフィー。」
「…ふふっ、ごめん。」
手早くサーニャを洗ってやり、リーフ達の元へ送り出す。
「はい、終わり。向こうの二人と待ってて。」
「分かったにゃ!りーふーっ!ひのかーっ!」
「終わったのね、サーニャ。ゆっくり入るのよ?」
「分かってるにゃ……、ひぃぃっ、熱いにゃ!」
「もう、だからゆっくりって言ったのに…。」
俺はサーニャを見届け、フィー達のさらに隣へ移動する。
「ごめんね、フラム。お待たせ。」
「ぅ、うん…!」
サーニャと同じ様にフラムも洗ってやり、リーフ達の所へ合流させる。
「はぅ~~…。」
「きもちいいにゃ~~…。」
最後は自分だ。フラムが座っていた椅子に腰かける。と、正面の鏡にフィーが映る。
「お姉ちゃん…?」
「…ぁ、アリスは私が洗うから。」
「うん、お願い。お姉ちゃん!」
「…うん。」
フィーに背中を預ける。こういうのも悪くないな。
ごきゅ…ごきゅ…ごきゅ…。
瓶に詰まっていた真っ白な液体はみるみる内に体積を減らしていく。
「ぷはーっ!やっぱお風呂上がり牛乳は最高にゃ!もう一本いくにゃ!」
「ダメよ、サーニャ。お腹壊すんだから。」
「にゃうー…。」
「私の半分いる?」
「う~、コーヒー牛乳はいらないにゃ…。」
「そう?美味しいのになぁ。」
「もう、アリス!サーニャを甘やかさないの!」
「ご、ゴメンナサイ…。」
お風呂を上がり、休憩所で茹った身体を冷ましている。
窓から吹き込む風が心地良い。
「少し休憩したら宿に戻って今日はもう休みましょう。」
「そうだな、もう夜も遅い。」
壁に掛けられた時計を見るともうすぐ23時。
いつもなら俺以外は皆寝ている時間だ。
フィー達も船を漕いでいる。
「ふぁ~い…。」
宿に戻る頃にはあれだけ賑やかだった通りも、ひっそりと波の音が響くだけになっていた。
照りつける太陽がジリジリと肌を焼く。
視界には陽炎がゆらゆらと揺れている。
「ふぅ…。」
くたくたになったリーフがシートに座りこむ。
「おかえり。」
氷水の入った水筒を手渡す。
「ありがとう、とてもあの子達にはついて行けないわね…。」
フィー、ニーナ、ヒノカ、サーニャの4人は激しいビーチバレーを繰り広げている。
俺は皆にルールを教えた後、早々にパラソルの下へと避難した。
今はフラムと一緒に買ってきた海の家のグルメを堪能中だ。
「はい、あーん。」
「ぁ、あーん…。」
「おいしい?」
「ぅ、うん…!」
「もう、こんなに買ってきて…。」
焼きそばにたこ焼き、フランクフルト、焼きとうもろこしにから揚げなどなど。
つい懐かしくなって買ってしまったのだ。
「まぁまぁリーフも、あーん。」
「…はむ。…………うん、おいしいわね。」
俺も紅しょうがを絡めて焼きそばを口に運ぶ。
ソースの甘みと辛みが広がり、紅しょうががピリッと舌を刺激する。
傍らに置いてあった瓶を掴み、その中の液体をソースの余韻が残った口に流し込んだ。
シュワシュワと弾ける泡が口内を叩いていく。
瓶を元の位置に戻すとカラン、とビー玉が音を立てた。
はぁーっ、うめぇ…。
「ひゃうぅぅぅっ!」
同じ様にラムネを飲んだフラムが悲鳴を上げる。
「フラム、炭酸苦手なら無理しなくても…。」
ふるふると涙目で首を横に振る。
「が、…がんばる。」
「何を飲んでいるのかしら?随分綺麗な瓶ね。」
「ラムネだよ。飲んでみる?」
リーフにラムネの瓶を差し出す。
「いえ、フラムの方を手伝うわ。あなたのを少し分けて貰えるかしら?」
「ぁい…。」
フラムの瓶を受け取り、リーフがその中身を少しだけ口に含む。
「~~~~っ!!……な、何なのよこれ!?」
やっぱりこうなったか。
「あーっ!なんか食べてるにゃ!そっちの魚がいいにゃ!」
サーニャにキラキラした瞳で飛びつかれる。
「はいはい、あーん。」
リクエストされた魚の塩焼きをサーニャに食べさせる。
「ん~~、んまいにゃ!」
「随分と買い込んだな。」
「つい、ね。ヒノカ達も食べなよ。足りなかったらまた買ってくればいいし。」
「そうだな、頂くとしよう。」
「…うん。」
「ちょうどお腹空いてたんだ。ありがとね、アリス!」
肉体派たちが凄い勢いでB級グルメ達を平らげ始める。
この分だとまた買いに行く事になりそうだ。
「ここ、学生も多いけれど…小さい子も多いわね。フィーやニーナくらいの。」
学生の客達に混じり、2~3人の少女のグループなんかがちらほらと散見される。
「そう言われれば…多いな。親の姿が見えないが。」
「地元の子にも見えないし…どこかの貴族の子かしら?お付きの人がいないのも変だけれど…。」
貴族の子が海の家で枝豆片手に黄金色の泡立つ液体を飲んだりはしないと思う。
言うまでもないが、ほとんどは魔女だ。
結界でこの世界の人間が近づけないのを良い事に、魔女達でこの島を私有化していると言ってもいい。
俺は特に文句はないが。
ここまで元の世界に近づけるのに相当苦労しただろうし、俺はその恩恵に与ってるだけだしな。
この世界の文明度を上げる事は不可能ではない。
むしろそれを避けている。
かと言ってわざわざ下げるようなこともしていないが。
要は自然に任せているのだ。
中には例外もある。米とか米とか米だ。
食い物は譲れなかったらしい。頑張って普及させたようだ。おかげで俺も助かっている。
レンシアの店には時折転生者向けの便利なものも並ぶ事があるが値段は高い。
どうして技術を広めないのかと言われれば簡単である。
この剣と魔法のファンタジー世界を少しでも長く楽しむためだ。
とは言っても元の世界だってやはり恋しい。
そこでこの島だ。
外界から隔離されたこのリゾー島に技術をつぎ込み、魔女達の憩いの場としたのだ。
学院から来れるのはただのオマケである。
学院にも転生者はそこそこいるようだし。
まぁ、ここで使われている技術なんかが広まってしまう可能性もあるのだが、
そこまでガチガチに縛っている訳ではないらしい。
その時はその時、ということだ。
「あるー、食べ物なくなっちゃったにゃ。」
気付けばあれだけあった食料が綺麗に消失していた。
「ん、分かった。じゃあ一緒に買いに行こうか。」
「行くにゃー!」
結局、昨日の教訓が生かされる事なく、またも苦しい夜を迎えた。




