11.5話
私に馬乗りになっている魔物の喉奥から刃が飛び出し、鼻先でピタリと止まった。
魔物の血が刃を伝ってポタリと私の鼻頭に滴り、頬を一筋に流れ落ちて汚す。
「…ぇ?」
魔物からはだらりと力が抜け、事切れているようだ。
スッと刃が引っ込み、魔物の死体が蹴り飛ばされた。
その刃は時折月の光を受けて煌めきながら次々と魔物を屠っていく。
咄嗟の事で動けなかった魔物達はあっけなく斬り伏せられた。
私の身体が血溜りから抱き上げられる。
「よぉ、生きてるな?」
聞き覚えのある声。
「……じろ……せん、せ…?」
「おう、お前の先生様だ。」
「…みん、な…を…。」
動かない身体の代わりに視線を私が来た方向へ向けた。
剣で斬られ、白い幹を剥き出しにされた木が点々と奥へと誘っている。
「あぁ、分かった。」
ガサガサと草むらを掻き分けて老騎士が現れる。
「遅ぇぞ、爺さん。」
「全く、いきなり走り出すんじゃないわい。」
「こいつを頼む。」
「もっとレデーに気を使わんかい。」
老騎士は真っ白いマントを外すと露わになっていた私の肌を覆い隠す。
白いマントは私の血を吸って赤く染まってしまった。
「……ご……めん…な、さ…ぃ。」
「気にせんでええ。しかし……、酷い傷、じゃの。」
「死なせるんじゃねえぞ?」
「保証は出来ん。まぁ、どちらにせよこの場所では本格的な治療は無理じゃ。
応急処置だけして砦に連れ帰るぞ。専門家もおるしの。」
「いや、俺はこいつのパーティの所へ行く。頼まれたからな。そっちは任せたぜ、爺さん。」
「一人で大丈夫なのか?」
「あぁ、三日丸もあるしな。サル程度、蹴散らすぐらいなら問題ねぇ。」
そう言ってジロー先生が懐から黒い丸薬を取り出して口に放り込み、顔をしかめる。
「うげ、相変わらずクソ不味いな。じゃあ行ってくる。」
ジロー先生は駆け出し、あっという間に闇に飲まれて見えなくなった。
「やれやれ、殺気を抑えきれておらんぞ。さて、こっちはお前さんの治療じゃな。しばらく眠っておるとええ。」
老騎士は小瓶を取り出して中の液体を私の口に流し込んだ。
甘い香りが広がり、瞼が急に重くなる。
私はそれに抗う事無く目を閉じた。




