9話
夏休みの話は外伝に切り分け(学院編終了後に再開予定)
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夏休みが終わり、授業が再開した。
とは言ってもまだまだ暑い日が続いている。
空調も止まっているのではと思うほどだ。
教室内の空気も緩みきっている。
まぁ、その最たる原因は教鞭を取っているアンナ先生だったりするのだが。
「え~~っとぉ、とりあえずぅ~この問題を~~解いて~くださ~い。」
黒板にふにゃふにゃの文字で問題を書き、
ふらふらと自分の席へ戻るアンナ先生。
「ふぃ~~~~~~~。」
机に置いてあった俺作の『手乗り扇風機』で涼み始める。
その名の通りに手に乗せると回り出し、
氷と風の魔法を組み合わせた涼しい風を送ってくれる代物だ。
その分魔力は使うが…。
「あるー…、分かんないにゃー…。」
「うん、ちょっと待ってね。フラムは大丈夫?」
「ぁぅ…、お、ぉ願い…。」
「リーフとお姉ちゃんは?」
「問題無いわ。」
「…大丈夫。多分。」
「分かった。そっちはお願いね。」
俺はさっさと問題を終わらせ、二人の面倒を見る事にする。
周りのグループでも同じように教えあったりしているため、
教室内が少し騒がしい。
アンナ先生はそんな事は気にも留めずに涼んでいる。
「なんだとコラァ!俺の計算のどこが間違ってるって!?」
「全部だよ全部!ハッ!これだから田舎出の冒険者は!」
とある冒険者グループの二人が胸倉を掴み睨み合っている。
このクソ暑いのにお熱いことで。二人の周りに薔薇のフレームでも飾ってやろうか。
いつの間に近づいたのか、その二人の側にアンナ先生の姿があった。
「はいはい、喧嘩はダメだよ、二人とも。」
そう言って二人の腕を捻り上げる。
「「いてててててっ!!!ま、参った、参ったよ先生!!」」
大人しくなった二人を離すとその二人の解答を見比べる。
「ふむ…、二人とも不正解。やり直しだね。」
「なっ…そんな!」
「ギャハハ!やっぱり間違ってるじゃねーか!」
「てめえもだろ!やんのかコラ!?」
「んだとコラ!」
「はいはい、さっさと頭を動かした方が良いんじゃないかな、二人とも?」
「「ひ、ひゃい!先生!!」」
二人が大人しくなると、席に戻って再び扇風機を使い始めた。
「ふぃ~~~。」
鐘が鳴り響き、授業の終わりを告げる。
サーニャは最後まで問題を解けなかったが、
そもそも基礎が出来ていないので仕方ないだろう。
まずはそこからだ。
「あー、皆すまないね。一つ連絡事項を忘れていた。
知っている者もいると思うが、
来週はパーティ課題という名のボランティア活動の時間だ。
内容は北の森の魔物討伐。
戦闘系の学科を取っている者は張り切ってくれたまえ。
日頃の成果を存分に発揮して活躍してくれる事を期待しているよ。」
『オオオォーーー!!』と教室内から歓声が上がる。
「そうでない子たちも、魔物への対処法をしっかりと学んでくるんだよ。
まぁ、そんなに怖がる必要はないさ。
希望者には上級生の子達が援護についてくれるからね。」
特に女子グループからホッと安堵した空気が流れる。
戦術科にいる女子もいるし、魔術科には比較的女子が多いが、
魔物との戦闘を経験しているのはその中でも一握りなので当然だろう。
俺達のパーティがやり過ぎなだけなのだ。
「それでは解散だ。貴重な昼休みの時間を使ってしまってすまなかったね。」
空気が弛緩し、喧騒を取り戻す。
「いよいよ来週ね、パーティ課題。」
「私達であれば特に問題も無いとは思うが、北の方へは行った事が無いな。」
「ギルドの依頼が少ないからね。主要な街道も無いし。」
「そうね、そこだけは少し不安だけれど。
引率の先生や先輩方も居られるし、北の方を探索する良い機会だと思いましょう。」
パーティ課題当日、太陽が大地を照らし始めた頃。
俺達はレンシアの街にある、普段は使われていない北門に集まっていた。
一年生全員に引率の先生が十数名、支援要員の上級生が百名ほど。
それに荷物を載せた馬車数台を加え、総勢五百名を超える大所帯だ。
先生からの説明も終わり、いよいよ出発となる。
先生を半分ずつを先頭と殿に据えて上級生達から北門を順番に抜けていく。
北門を出ればすぐに森になっており、
馬車一台がやっと通れる程の道が奥へと続いていた。
この道を進んで行くと、森の中に広場が作られていて、
そこを拠点としてパーティ課題を行うらしい。
「次、40から50番のパーティ出発して!」
俺達のパーティは46番、やっと順番が回ってきたようだ。
一年生は全員自分のパーティの番号が書かれたゼッケンを着けている。
傍から見ると小学校の行事にしか見えない。
「私達の番よ、行きましょう。」
リーフの号令に従い、俺達のパーティも北門を抜けた。
前のパーティに続き、早朝でまだ薄暗い森の中へ入っていく。
道は一本道で迷う心配はないが、所々に先に出発した上級生が二人一組で配置されていた。
魔物が現れた時の事を想定しての事だろう。
年齢層の低いパーティなんかは上級生の居る場所で休憩を取っていたりもしている。
「思ったよりも歩きやすいな。」
「そうね、森の中にしては道も広いし。」
「学校の行事で使うからある程度は整備してあるんだろうね。」
「でもまだずーっと先みたいだねー。」
「…人が道になっているみたい。」
「ほんとにゃ。蛇みたいだにゃ!」
「フラム、まだ休憩取らなくて大丈夫?」
「ぅ、うん……まだ、平…気?」
「何で疑問形?」
「ぁ…ぅ…ご、ごめん。」
「いつも貴女達に引っ張られているんだもの。そりゃあ体力も付くわよ。
自分では気付いていないだけでね。」
「そ、そうなの…かな?」
「ええ、そうよ。とは言え、無理は禁物。疲れたらちゃんと言うのよ?」
「ぅ、うん…ありがとう。」
「他の皆は聞くまでも無いわね。」
辿り着いた広場には参加者全員がゆったりと休憩できる程の広さがあり、
中心には石造りの建物が構えられていた。立派な造りで砦と言っても遜色は無い。
その砦には先生や救護要員が詰めることになっている。
全員が揃った
ところでその建物の前に集合し、先生から説明を受けた。
慣れていない者は広場周辺の森で魔物を討伐して夜は広場での野営訓練。
慣れている者は自由行動で、四日後の正午までに広場に集合。
当然俺達は後者を選択した。
「さて、此処からどこへ向かう?」
「うーん、やっぱり北?行く機会あんまり無いだろうし。」
「そうね…、真っすぐ北へ進んで、二泊したら折り返して戻ってくるのはどうかしら?」
「ボクはそれで良いよ。」
「…私も。」
「も、問題ない…と、ぉ、思う。」
「行きのペースを落として戻りのペースを上げればちょうど良さそうだね。」
「あるーが良いならそれでいいにゃ!」
「ふむ、それで決まりだな。もう少し休憩を取ったら出発しよう。」
方針が決まった所で二人の上級生から声をかけられる。
「やぁ、キミたちが46番の子達だね?また会えて嬉しいよ。」
「幼子が多いな。もう一人か二人回して貰った方が良いかもしれん。」
二人ともイケメンだが…はて、どこかで会ったっけ…?
「えーと…、支援要員の先輩…で宜しいでしょうか?」
「あぁ、すまない。僕はレイソール、こっちの無愛想なのがバルド。
キミ達の支援要員として選ばれたのが僕等二人だ。」
「申し訳ありませんが、私達は要請を出していないのですが…。」
「えっ!?そうなのかい?確かに46番と聞いたのだが。」
「先生は46番と仰っていたぞ。」
「そ、そうだよね、バルド!」
「先生に確認を取った方が早いのではないでしょうか。私達も窺いますので。」
「すまないね、そうして貰えると助かるよ。」
先生の元へと移動する最中コソコソと話す。
「レイソール先輩ってどこかで会ったっけ…?」
「初対面よ。」
「ふむ…、私は覚えていないな。」
「…私も。」
「し、知らない…人。」
「ちょ、ちょっと!覚えてないの!?
リーフ達と出会う前に、ボク達四人が初めて食堂に行った時にお茶を奢ってくれたじゃん!」
「あー……、そんな事もあったね。」
「ケーキを食べたのは覚えてるんだがな。」
「ケーキ!食べたいにゃ!」
「………うん、思い出した。…と思う。」
「よく覚えていたわね、ニーナ。」
「だってー、かっこいいしー…///」
「それくらいに私が教えた勉強の事も覚えて欲しいのだけれど…。」
広場の中心にある砦の周囲には日よけのテントが張られ、その下で先生達がお茶をしていた。
レイソールはそのテントの傍らに悠然と立っている老騎士に声をかける。
「先生。」
「どうしたのだ、レイソール。」
「46番の彼女等なのですが、支援要請を出していないとの事でして…。
確認をしていただけないでしょうか?」
「少し待っておれ。」
老騎士は手に持った名簿をパラパラとめくる。
「確かに要請は出しておらんようじゃな。」
「そうでありましたか。すまなかったね、キミ達。
どうやらこちらの手違いだったようだ。」
「バカモン!」
カツン!と音が響く。
「っ~~~~!!!」
鞘で打たれた頭を抑え、うずくまるレイソール。
「見れば幼子ばかりではないか、
このような者らだけで森に入らせる訳にはいかんであろう!」
「し、しかし先生…。」
騒ぎを聞いていたテント内でお茶を飲んでいた先生がこちらへやってくる。
「どうした、何を揉めてんだ爺さん?」
「ム…、ジローか、この子らのパーティに支援要員を付けようと思ってな。」
「あん…?なんだ、ヒノカとフィーティアじゃねぇか。コイツらにはいらねえよ。」
ジロー・アズマ。ヒノカと同じアズマの国出身で戦術科の講師を務めている。
「腕は立つのかもしれんがの、森での野営となれば話は別じゃろうが。」
「あー…爺さんは知らねえんだったな。
森で黒いオークを倒したのはコイツらだ。だからそっちも心配いらねえ。」
「フム、こやつらが…。」
「あの一番ちっこい奴ですら冒険者だ。ランクもCときてる。
そっちのお坊ちゃんの方が足手まといになるんじゃねえか?」
「ジロー先生にそのような話をした覚えはないのですが…。何故知っているんですか?」
「…私も話してない。」
「おいおい、情報収集も戦術の要だと教えただろ?
あんまりセンセーを見くびっちゃいけねえな。」
「オヌシが言うのであれば事実なのであろうが…。本当に大丈夫なのか…?」
「まぁ…、爺さんの言いたい事も分かるがよ。こいつらなら問題ねえだろ。」
「…分かった。その言葉を信じるとしよう。時間を取らせてすまなかったな。」
「い、いえ…ありがとうございました。」
「ジロー先生のおかげで何とかなったな。」
「今度お礼を言っておかないとね。」
「さて、気を取り直して課題の方に集中しましょう。」
「えっと、北に向かうんだったよね?」
「…うん。」
「早く、早く行くにゃ!」
サーニャに急かされながら歩みを進め、広場の北端に到着する。
眼前には鬱蒼と茂る森が立ち塞がっていた。
「ここからは道らしき道は無さそうだな。」
「目印を付けながら行った方がいいね。」
俺はナイフを取り出し、手頃な木に近づく。
「あー…、これはダメかも…。」
「どうかしたのか?」
リーフとヒノカが俺の後ろから覗き込んでくる。
「これは…別の方法を考えた方が良いかしら。」
俺が目を付けた木には既に大きく×印が彫られていた。
去年か、もっと前に付けられたもののようだ。
よくよく見渡せば他にも別の柄が彫られた木があったり、
白い布が括られた枝などが見受けられる。
「考える事は皆同じみたいだね。」
「どうする?」
「もう少し目立つ印が欲しい所だけれど…。」
「まぁ、方角くらいなら大体分かるし、
古い目印を上書きしながら進もうか。」
木に付けられた×印の上からナイフでなぞる。
「そんなので大丈夫なのかしら?」
「方角さえ分かれば先輩達の残した目印を辿るだけでも良いわけだしね。」
最悪俺が触手を伸ばして空から見ても良いしな。
まぁ、それは最悪の場合の緊急手段として使うだけだ。
あまりチートに頼るのも良くない。
いきなり使えなくなってしまう可能性だってあるのだ。
「ふむ、それもそうか。どの道この広場へ続いているだろうからな。」
「そういうこと。」
ザクザクと柔らかい腐葉土を踏みしめながら森の中を進む。
ヴォルフの遠吠えが彼方から耳に届く。
他のパーティが戦っているのだろうか。
「こちらの方もあまり変わり映えはしないな。」
散策をしながらゆっくりと歩いているが、
見つけた薬草や木の実は他の場所で採る事が出来る物ばかりだ。
「それはそうでしょう。来た事がないと言っても
街の周辺に広がる森林地帯の一角に過ぎないのだし。」
「それにしても何も起きないねー。」
「…うん。」
「で、でも…怖いのは……。」
「あちし、狩りに行きたいにゃ!」
「野営場所が決まってからよ。それまでは我慢してくれるかしら。」
「あうー、分かったにゃー…。」
「確かに拍子抜けだな。もっと魔物が跋扈しているのかと思ったのだが。」
「少し前に先輩方が同じように課題をやっていたみたいだから、
私達はその残党狩り、という具合だと思うわ。」
「ふむ、そうだったのか。」
「それに私達みたいにギルドの仕事をこなしている子達ばかりではないのだし、
まずは様子見と言う事でしょう。」
「そういえばギルドで同じクラスの冒険者以外の子はあまり見かけないかもー。」
「この課題が終われば増えるかもしれないわね。」
「…魔物がきたよ。」
「ヴォルフだな…2頭いる。」
音も無く森の中を駆けて来たヴォルフは距離をとってこちらを窺っている。
ウオォォォ――――――……ン
1頭が遠吠えを上げる。こちらの数が多いので仲間を呼んだみたいだ。
武器を構えて距離を詰めようとすると、同じ分だけこちらから離れていく。
「”氷矢”!」
リーフの魔法がヴォルフ達の立っていた場所に突き刺さり、地面を凍らせる。
2頭のヴォルフは悠々とした態度だ。
「さすがにこの距離では避けられてしまうわね。」
「仲間が集まるまで待っているようだな。」
そうこうしている内に1頭、また1頭とヴォルフ達が合流を始める。
そして、あっという間に十数頭の
ヴォルフに囲まれてしまった。
「こうも手際が良いとはな。すっかり囲まれてしまったぞ。」
「まだ襲って来ないみたいね。」
「ど、どうする…の?」
「こっちから行くしかない…かな。」
「だが近づいたら離れてしまうぞ?」
「同時に四方に向かって突撃で。」
「こちらの人数を分けるのか?」
「うん、そのまま離れて行くなら包囲は分断できるしね。
お姉ちゃんとニーナ、リーフとサーニャ、私とフラム、
ヒノカは一人で大丈夫だよね。」
「無論だ。」
「それじゃ行くにゃー!」
「あ、コラ!待ちなさい!」
サーニャを皮切りに、各々が背中を合わせてヴォルフとの距離を詰めていく。
一瞬ヴォルフ達の足並みが乱れるが、こちらを迎撃するようだ。
包囲を崩して2~3体の塊になり、こちらへと襲い掛かってくる。
俺は腰の鞘から一本、地面から二本の刀を抜いて構えた。
地面から抜いた刀は二本の魔力の触手が握っている。
先端部が手の形になっており、こうして武器を握ったりする事も可能なのだ。
俺はこれを『魔手』と名付けている。そのまんまだが。
制御が難しくてまだ二本しか操れないが、
いつかは千手観音くらいには増やしたいと思っている。
飛び掛かってきたヴォルフに魔手の持つ刀で斬りつけた。
「ギャウン!!」
悲鳴を上げて転がっていったヴォルフは間もなく息絶えた。
首を切断したつもりだったが、刃は中ほどまでしか届かなかったようだ。
刀を振るい、こびり付いた血を払う。
一瞬たじろいだヴォルフ達だったが、今度は一斉に襲い掛かって来る。
俺は魔手の操る二本の刀でそれらをいなし、突き、斬り、払い、ヴォルフ達を屠っていく。
こちら側のヴォルフを殲滅したのを確認し、魔手の持っていた刀を土に還した。
「ど、どうして…剣が、浮いてた…の?」
「ふふふ、秘密。」
魔力視の出来ない人が見れば空飛ぶ剣が戦っているように見えた事だろう。
「こちらも終わっているようだな。」
「うん、他の皆もね。」
「さて、そろそろ行こうか。」
「そうね、野営の出来る良い場所が見つかればいいのだけど。」
「もう日が傾き始める時間だからね。」
倒したヴォルフ達の毛皮を剥いだりしている内にすっかりいい時間になっていた。
手に入れた物は土で作った荷車に載せている。
さらに北へと歩みを進めると木々の中にぽっかりと開けた場所が見つかった。
古いものだが、野営を行った痕跡もある。
「この場所にしましょうか。」
リーフの言葉に反対する者はいない。
早速野営の準備に取り掛かった。
結界を張り、少し大きめの簡易テントを組み立てる。
大きめと言っても、さすがに七人もいれば窮屈だが。
並行して火を熾し、夕食の準備に取り掛かる。
今日の夕食は携帯食料にサーニャが捕って来た…ヘビ×2だ。
「これだけしか捕れなかったにゃー…。」
「ひぃぃ…っ!」
サーニャが掴んでいるヘビを見て、涙目で後ずさるフラム。
「ヘビ、ね…。一応は捌けるけれど…、調味料はあったかしら?」
「塩なら持ってきてるよ。」
「ならそれを使いましょうか。ナイフを貸してくれる?」
リーフが受け取ったナイフを使い、ヘビを手際良く解体していく。
「ほう、鮮やかなものだな。」
「そ、そうかしら。私の村では皆出来るわよ?」
出来あがったものはヘビの蒲焼きとでも言えばいいだろうか。
開いて塩を振って火を通しただけの簡素なものだが、携帯食だけよりは華がある。
「意外と美味いな。」
「香辛料が他にもあれば良かったのだけれど。」
「生で食べるより美味いにゃ!」
「ボクは初めて食べたけど、美味しいよ。」
「…うん。」
「アリスは…口に合わなかったかしら?」
「あぁいや、美味しいよ。お父さんが料理した時は酷かったなと思って…。」
「食べた事あったんだ、アリス。」
「…いつ食べたの?」
「お父さんとギルドの仕事をしていた時にだよ。
野営をする時にたまに狩りもしてたからね。リーフは随分手慣れてたみたいだけど。」
「私の村は食べ物が少なかったから自然と、ね。」
「そっかー…、大変だったんだね…。」
「そうでもないわ。飢えて困るという程ではなかったもの。
ただ、保存食を節約するために食べられる物は何でも食べるっていうだけね。
…あら、大丈夫?フラム。」
隣を見るとフラムが青い顔でヘビの蒲焼きと睨めっこしている。
先程ヘビの姿を見てしまった所為か。
いや…、むしろ普通の女の子がヘビを前にしたらそうなるのが当然な気がしてきた。
「無理しなくても良いのよ。私の村にだって苦手な子はいたから。」
「ぅ…、ううん…た、食べる……。」
とは言うものの箸がなかなか進まない。
「そうね…、貴女が食べさせてあげなさいな、アリス。」
「いや、私は別に構わないけど…。」
「…………。」
「フフ、ちゃんと言わないと分からないわよ?」
「ぅ………ぉ…お願…ぃ………します。」
ナイフを使ってヘビの肉を一口サイズよりもう少し小さく切り分ける。
「はい、あーん。」
「ぁ…ぁー…ん。」
顔を真っ赤にして小さく開いたフラムの口の中に、小さな欠片を運ぶ。
「……は…む。」
「お口には合うかしら?」
「ぅ…うん。美味しい…。」
「そう、それなら良かったわ。」
夕食が済んだ頃には森の中は闇で満たされ、焚火の灯りが届かない場所は一寸先も見えない。
お腹が膨れたサーニャは既に満足そうに寝息を立てている。
俺達は見張りの順番を決めてからそれぞれ床に入った。
「…起きて、アリス。」
身体を揺すられて目を開くと眼前にフィーの顔が現れる。
「……………ん、どうしたの?」
「…交代。」
「……………あぁ、そっか。」
そうだ、見張りの交代の時間だ。
フィーと交代でテントから出ると焚火の前にはリーフが座っていた。
今日の見張りの相方だ。
「おはよう。こんな中途半端な時間だと流石に眠いわね。」
「そうだね、早く帰ってゆっくり寝たいよ。何か変わった事はあった?」
「いいえ、ニーナ達の方は何もなかったみたい。」
「そっか、こっちも何も無いといいね。」
「そうね…。」
俺は少し間を空けてリーフの隣に腰を落ち着けた。
パチパチと火が弾ける音だけが辺りを支配する。
手持無沙汰に負け、俺は魔法の鍛錬を始めた。
魔手を二本創り出し、ジャンケンをさせてみる。
ここまでは問題無い。
更に三本目を創ってジャンケンに参加させる。
どうも上手く動いてくれない。
唯の触手とは違って動きが複雑だからだろう。
二本であれば右手と左手の感覚で動かせるのだが…。
昔、子供の頃に友達の真似をして耳をピクピクと動かそうと練習していた時のような、
むず痒い感覚だ。
ついには叶わなかったが。
とりあえず三本目を出しっぱなしにして二本の魔手で地面から刀を引きぬく練習に掛かる。
抜いては壊し、の繰り返しだ。
「な…何をしているのかしら?」
「暇だから魔法の練習。」
「普通、こういう時にするようものではないのだけれど…。」
「まぁ、いつ魔物が襲ってくるか分からないからね。」
「そうよ、その状態で魔力を無駄に使うのは命取りだもの。
でも…貴女には関係ないのでしょうね。羨ましいわ。」
その無駄に膨大な魔力の所為で魂を抜かれて転生させられたんだけれども。
俺にとっては嬉しい限りだが、そうでない人も……いるのかも?
妻子ある身とかなら………いや、そもそも対象外だなそりゃ。
魔法の鍛錬を続けていると再びリーフが声を掛けてくる。
「ねぇ、魔法は誰に教えて貰ったの?」
「うーん…、綺麗なお姉さん、かなぁ。」
「はぁ…言いたくないのならそう言ってくれれば良いわ。」
「あぁいや、そうじゃなくて…本当に名前も知らないんだよ。
魔法を見せて貰ったのも一回だけだったし、
それ以降会ってないから私の魔法が正しいのかも分からないんだ。」
「そう…だったのね。…当たってしまってごめんなさい。」
「ううん、まぁ…普通じゃないのは自覚しているしね。
だから私はリーフ達が使っているような魔法は使えないんだよ。」
「魔法の基礎の授業では使えているわよね?」
「あれは何て言えばいいかな……そう、再現しているだけなんだ。」
「…再現?」
「例えば……”火弾”。」
目線の先にある森へ手を翳して呪文を唱える。
「ちょっ……!!」
慌てて身を竦めるリーフ。
「………あれ、出ない…?」
「そう、出ないんだ。で…。」
魔力を操作して掌に火の玉を作り出す。
「それは…。」
「まぁ、授業ではこんな感じで自分の掛け声に合わせて
魔力を操作して同じ効果を発生させてるんだよ。」
「そっちの方が凄いと思うのだけれど…。」
「そうでもないよ。咄嗟に使う時なんかはリーフの方が断然速いだろうしね。」
「良く見ているのね。」
「それも勉強の内だよ。」
見張りの時間が終わり、ヒノカ、フラムと交代してテントの中で寝転ぶ。
外からボソボソと聞こえる二人の話声を聞きながらまどろみに落ちて行った。




