5話
「や、やっと着いたー…。」
レンシアの街へ辿り着くと、既に日は傾き、夕焼け色になっていた。
夕日に照らされた街並みは少し懐かしい感じがする。
ギルドの中は戻ってきた冒険者たちで溢れているのが、扉の外からでも分かる。
「では、報告を済ませてしまいましょうか。
それから皆でお風呂と食事に行きませんか?」
「そうですね、すぐに終わると良いのですが…。」
中に入ると、思った通り人でごった返していた。
学生用の窓口は長蛇の列。俺達と同じ様に戻ってきた人達だろう。
冒険者用の窓口はそんなに並んではいない。
まぁ、普通の冒険者には学校は関係無いからな。
レーゼ達と別れて冒険者用の窓口に並ぶ。
「譲ちゃん達、並ぶ所間違ってねえか?」
すぐ後ろに並んだパーティの冒険者に声を掛けられる。
「いえ、大丈夫ですよ。」
そう言ってギルド証を見せる。
「ああ、悪ぃな。間違えて並ぶ奴が多いからよ。」
「いえいえ、心配してくれてありがとうございます。」
更にそのパーティの別の冒険者が声を掛けてくる。
「おい、お前『心斬の』じゃねえか?」
『心斬の』とは俺が冒険者になった頃に不本意ながら付けられた二つ名である。
声を掛けて来た冒険者には確かに見覚えがある、というか一度見たら忘れられない大男だ。
何度かパーティを組んでいる。
「あれ…、デック?」
「知り合いなのか?」
「おうよ、セイランに居た頃はこいつの父親と一緒に何度か組んだ事がある。
変な兜被ってやがるから気付かなかったぜ。」
「久しぶり、これは今日の仕事の戦利品でね、嵩張るから被ってるんだよ。」
「久しぶりだな、見ない内にデカく…いや、ちっこいまんまだな、ガハハハッ!」
彼から見れば大抵ちっこい奴だろうが。
「どうしてこんな所まで来てるの?」
「あ、あぁ…、それはな…………深~~~~~い理由があんだよ。」
「コイツ、馬車乗り間違えて今は帰りの馬車代稼いでるんだよ。ギャハハハ!」
「あ、おいテメエ!」
「デックなら馬車代くらいすぐ稼げるんじゃないの?」
「当たり前だろ、もうとっくに稼いでるぜ。まぁ、折角来たんだから楽しんでるって訳だ。
ここは飯も美味いしな。辺鄙な所だと思って足を延ばして無かったのが勿体無いくらいだぜ。
お前こそどうしてこんな所にいるんだ?『土剣屋』はどうした。」
『土剣屋』とは俺の父親、エルザークに付けられた二つ名だ。
折れてしまった剣の代わりに俺の作った土の剣を使っている内、いつの間にかそう決められていたらしい。
「私はお姉ちゃんと魔術学院に通うために来てるだけで、お父さんはこっちには来てないよ。」
「本当かよ、アイツそんな稼いでやがったのか。戻ったら鱈腹奢って貰わねえとな。」
「あー…学費は私のお金だからそれは無理だと思うよ。」
「ホントかよ!?……いや、お前ならやりそうだな、ったく。ま、お前に奢って貰えば良いか。」
「…子供に集らないでよ。」
「いやいや、子供である前に立派な冒険者様だろうが。」
「いつも子供扱いしてた癖に。」
「そうだったか?ガハハハッ!まぁ、向こうへ戻る時にはお前に連絡するからよ、
言伝なりあればその時に聞いてやるぜ。格安でな。」
「ちゃんと戻れるの?」
「当たり前だろうが、同じ失敗は三度くらいしかしねえよ!多分な!」
「…三回失敗するのは前提なんだ。」
ようやく受付の順番が回ってくる。
デック達との会話を終え、完了の手続きを行う。
帰り道にもヴォルフやゴブリンを倒しているので数は問題無いはずだ。
「え…と、失礼ですがこの黒い耳は?形はオークの様ですが…。」
あの黒いオークの耳だ。
「ええ、そうですね。黒い大きめのオークでした。」
「しょ、少々お待ち下さい!」
職員が慌ててギルドの奥に消える。
?マークを浮かべて待っているとドリーグが出てくる。
「またお前か。」
「そっちこそ、実はギルド職員なの?」
「俺もそうなんじゃないかと思ってるよ、書類仕事を出来る奴もやりたがる奴もいねぇんだ。
それで、お前らがこいつを倒したんだな?」
黒いオークの耳を摘まんで見せる。
「うん、採取に向かう途中で。」
「分かった、詳しい話を聞きたい。こっちへ来てくれ。」
付いてこいとギルドの奥へ進むドリーグ。
「ちょっと待って、他のパーティも一緒だったんだけど、そっちは?」
「此処にいるのか?」
「向こうで並んでるよ。」
学生用の受付に並ぶ列を指差す。
「ふむ…、受付の方は何とかするから呼んで来てくれ。」
「それじゃ呼んで来るよ。」
列の中ほどにいるレーゼ達の元へ向かう。
「どうしたのですか?」
「あの黒いオークについての話が聞きたいみたいで、受付の方は何とかしてくれるとの事です。」
「…分かりました、皆さん行きましょう。」
レーゼ達を引き連れてドリーグの元へ戻る。
「これで全員か?」
「うん。」
「それじゃ付いてきてくれ。」
俺はデックに手を挙げて別れを告げ、ドリーグにギルドの奥の部屋へと案内された。
部屋は広い会議室で、席に着くよう促される。
「面倒をかけてすまねえな。とりあえず黒いのに遭った場所と状況を説明してくれるか。」
「それなら私が説明します。」
名乗りを上げたのはレーゼだ。
依頼を受ける所から今までの状況を細かく説明する。
「ハハッ、こいつらが護衛か。そりゃ頼もしいな。」
「ええ、本当に。」
「それで、あの黒いのがどうかしたの?」
「あぁ、そいつは特別討伐対象だったんだよ。」
要は指名手配モンスターで倒せばボーナスが出るヤツの事だ。
「そんな情報出てたっけ?」
ランクD以下の依頼を中心に見ていたので見逃してしまったか。
「いや…、正確にはまだ決定前の段階だったんだよ。」
「なんだ、それなら別にこんな話聞かなくても…。」
「一応確認は、な。倒されたヤツの手配書なんか貼ってたら間抜けだろ?その逆もな。」
「まぁ、それもそうか。」
「それに、情報を持ってきたパーティから聞いてその黒いのを狙ってた奴らも居るだろうしな。」
「なるほど、それで確認はもう大丈夫?」
「そうだな…その兜はどうしたんだ?」
ドリーグが俺の頭に被っている兜を指さす。
「黒いのが使ってたんだよ。ちょっと研究に使おうと思って持って帰ってきた。」
「…そうか、以上だ。」
「この兜がどうかしたの?」
「情報を持ってきたパーティの何人かが戻らなくてな。その内の一人が身に着けてた物だ。」
遺品、というわけか。
「じゃあこれ返した方が…。」
「いや、そいつはもうお前の物だ。取り上げたりはしねえよ。
何に使うつもりかは分からんがその方がアイツも納得するだろう。」
「分かったよ。」
コンコン、と会議室内にノックの音が響く。
全員の視線が扉に集中するとガチャリ、と音を立てて開かれた。
「失礼します。」
入って来たのはギルドの制服を来たクールそうなお姉さんと温和そうなお爺さんだ。
「どうしたんだ、ジイさん?」
「黒いオークを倒した可愛い勇者がいると聞いてな。見に来たんじゃよ。ふむふむ…、確かに可愛い子らじゃのう。」
「あ、あのー…。」
ジロジロと観察される先輩ズ。
「私達は護衛をして貰っただけで、倒したのはあの子達ですよ。」
「それは…真か?」
「一番ちっこいのがこの間ランクCに合格した奴だよ。」
「ほうほうほう、この子がそうかい。」
ズイっとこちらに寄って来る。
「ど、どうも…。」
「とてもそんな風には見えんがのう。」
「俺にだって見えねえよ。邪魔しに来たんなら出てってくれ、ジイさん。」
「つれない奴じゃのお。ホレ、あれを渡してやってくれ。」
爺さんが職員に目配せすると、職員から袋を手渡される。
中には銀貨が20枚入っていた。
「あの…これは?」
「賞金じゃ、特別討伐対象のな。」
「でもあれはまだ…。」
「確かに手配前じゃったが、本来ならその倍以上になっとったんじゃないかの。
こちらとしてはその分経費が浮いとる訳じゃから気にするでない。
倒したのも事実なのじゃろ?」
「それは俺が保証するぜ。」
「分かりました、有難く頂いておきます。」
「そうじゃそうじゃ、遠慮などせんでええ。それじゃワシは戻るぞい。」
カカカと笑いながら部屋を出ていく。
「失礼しました。」
職員のお姉さんも一礼し、爺さんの後を追って出ていく。
「今の人は…?」
「このギルドで一番偉いジジイだ。俺のジイさんでもある。
だからこんな所で扱き使われてんのさ。」
ドリーグも大変なようである。
「ま、とりあえず俺の用事は終わりだ。
後はお前らの依頼を片付けねえとな。依頼書をよこしな。」
俺とレーゼがそれぞれの依頼書をドリーグに手渡す。
「魔物討伐の方は問題ねえだろ。こっちの採取物はどうなってる?」
「は、はい、こちらに。」
レーゼ達が机の上に採取した物を並べ、ドリーグが確認する。
「こっちも大丈夫そうだな。少しここで待ってろ。」
ドリーグが依頼書と納品物を抱えて部屋から出ていく。
「き、緊張しました…。」
「な、なんだか凄い事になっちゃったね。」
「もうミゼルお腹ぺこぺこ~。」
「そうだな、報告が終わればゆっくりしよう。」
先輩ズが雑談を始める。
「とりあえずこれ分けちゃおうか。」
袋から銀貨を3枚ずつ取り出し、フィー達に配る。
「後は報酬の1枚を含めて残り3枚か、銅貨に換えて貰おうか。」
「残りはアリスに預けておいて、必要な消耗品や食材のお金はそこから出すようにしましょう。
今回の準備も殆どがアリス任せだったし、一番適任だと思うわ。」
「ふむ、確かにそうだな。皆が慣れるまではそれで良いんじゃないか。」
「ボクもそれでいいよ。」
「…私も。」
「わ、私…も、それで…。」
「私は構わないけど…でも結構大金だよ?本当に良いの?」
「今回のお金だって貴女が負担してるじゃない。
私達から集めた分だけじゃあれだけ揃えるのは無理だと思うのだけれど。素人目に見てもね。」
確かにちょっと奮発して良い装備を揃えたのは事実だが…よく分かるな。
まだ貯金がかなりあるので特に問題は無いのだが。
「良い物は丈夫で長持ちするしね。迷ったら良い方を買えとお父さんも言ってたし。」
「それで、私達の装備はいくらくらいだったのかしら?」
「んー…一人銀貨10枚くらいかな。」
「じゅっ…はぁ!?」
ちょっと本格的なキャンプ用品や登山装備みたいな感じだ。
そんなに驚く程ではないと思うが。
「少し…いえ、かなり金銭感覚がおかしい気がするのだけれど…。」
「安い装備だと遠征中に壊れたりする確率だって高くなるからね。
ある程度は良いのを使った方が良いんだよ。」
「そうは言っても…最初に集めたお金じゃ銀貨5枚にも満たないわよ?」
「差額を請求したりはしないから、安心してよ。
それに長く使うものも多いし、次からはそんなに掛からないから。」
「はぁ…もう分かったわ。」
そう言ってリーフは銀貨を1枚袋に戻す。
「リーフ…?」
「み、皆のために使うお金なのだったら私だって…そ、その…少しは協力したいわ。」
「フッ、そうだな。」
「じゃ、ボクもー。」
「…皆のため。」
「わ、私…も。」
皆が袋に銀貨を入れていく。
「って、全部は止めなさいフラム。」
三枚全部を入れようとしたフラムの手をリーフが止める。
「でも…わ、私は何も…。」
「貴女だって役割は果たしたんだから、ね。」
フラムの手から1枚だけ抜き取り袋へ入れ、残りはフラムに握らせる。
「折角なのだし、貴女の好きな事に使えば良いと思うわ。」
「す、好きな…事…?」
「そうよ、何か無いの?欲しいアクセサリとか。」
「と、特には…。」
「うーん、それじゃあこんなのはどうかしら。」
ゴニョゴニョとフラムに耳打ちする。
またこの展開か。
「う、うん…そう、する…。」
「ふふっ、頑張ってね。」
「待たせちまったな。」
ドリーグが部屋に戻ってくる。
「こっちが魔物討伐の報酬、そんでこっちが採取依頼の報酬だ。」
「ありがとう、ドリーグ。」
「ありがとうございます。」
それぞれの依頼完了の手続きを終え、会議室を出る。
「長々と悪かったな、助かったぜ。」
「いえ、こちらこそ助かりました。まだ並んでいたでしょうから。」
「ハハッ、今日は込むからな。」
「それじゃあまた、ドリーグ。」
「おう、次に会うのはランク試験か?ハハハ!」
「考えとくよ。」
ギルドの外に出ると陽は既に落ち、薄暗くなっている。
「さて、これからどうしましょうか。」
「ミゼルお風呂入りた~い!」
「だねー、あと荷物重い…。」
「寮に荷物を置いてから大浴場にするか?」
「そうですね、まずは荷物を置いてからにしましょう。
アリスちゃん達もそれで構わないですか?」
「はい、こちらも荷物はどうにかしたかったですし。」
「それじゃあそうしましょう。貴方たちは大浴場の場所分かりますか?」
フィー達は皆首を横に振る。
「すみません、分かりません。」
「いいのですよ。荷物を置いたら貴方たちの寮の前で待っていて。」
「分かりました。」
学院まで戻り、レーゼ達と別れて自分たちの寮へ帰ってくる。
「…皆並んで。」
寮に入る前にフィーを除いたメンバーが横一列に並ぶ。
「…”洗浄”。」
フィーが魔法を唱えると、汚れが付いていた服や靴がすっかり綺麗になる。
これで寮内を汚す心配もないだろう。
「ふぅー、やっと帰って来たー。」
「もう、邪魔よニーナ。」
部屋に戻り、畳の上をゴロゴロ転がるニーナをリーフが蹴って退かしている。
「いたーい。」
「先輩方を待たせては悪いし、荷物を置いたらさっさと出ましょう。」
「うむ、そうだな。」
各々荷物を置き、ゆっくりする間もなく部屋を出て寮の前に集まる。
レーゼ達はまだ来ていないようだ。
「先輩方はまだみたいね。」
「寮が離れてるし、もう少しかかるんじゃないかな。」
「それもそうね、少し待ちましょう。」
暗くなった空を見上げると沢山の星が輝いている。
その中に見知った星座は見当たらない。
(…つっても北斗七星とかしか分からんけど。もう少し勉強してても良かったかもな。)
たまにふと前の世界の事を思い出す時がある。
これがホームシックというやつだろうか。
「おまたせー。」
故郷に思いを馳せていると、マルネ達がこちらへやってくる。
「少しお待たせしてしまったみたいですね。」
「いえ、お気になさらず。」
「早く行こ~よ~。お風呂~。」
「さっきからうるさいぞ、ミゼル。」
「うふふ、そうですね、アリスちゃん達も準備は大丈夫ですか?」
「はい、大丈夫です。」
「それじゃあ行きましょうか。」
レーゼ達に連れられて学院の敷地内の奥へと足を運ぶ。
(こっちの方へは来た事無いな。)
舗装された道を進んで角を曲がると長い煙突が刺さった建物が目に入る。
煙突からは煙が吐き出され、夜空に溶け込んでいく。
「あの建物ですか?」
「ええ、そうですよ。ただ寮にも大きいお風呂があるうえにお金もかかるので
生徒はあまり来ないようですけどね。」
「え、お金掛かるのー?ボクの財布のお金で足りるかな…。」
「一人銅貨二枚だけですけどね。
それに今日は私達の奢りですから安心して下さいね、ニーナちゃん。」
「それぐらいでしたら自分たちで…。」
言いかけてレーゼの指で口を塞がれる。
「少しくらいはお姉さんぶらせてくれませんか、アリスちゃん?」
「そうだぞ、君達のおかげで思ったよりも稼げたしな。」
「あはは、お姉さんだよ~。」
「ちょ、ちょっとミゼル先輩!?」
「こらミゼルちゃん、リーフちゃん嫌がってるよー。」
「…分かりました。お言葉に甘えさせていただきます。」
「うふふ、アリスちゃんは固いんですから。」
でん、と構える大きな建物とそれに聳え立つ長い煙突。
広い玄関口には温泉マークの描かれた暖簾。
(どう見てもスーパー銭湯です。本当に(ry)
暖簾をくぐって中に入ると、銅貨一枚で鍵の掛かる靴箱がずらっと並んでいる。
銅貨は返却式のようで、ほとんど鍵が付いたままだ。
「寮と同じでここも異国情緒溢れる景観になっているわね。」
「やはり私の国と似ているが、少し違う雰囲気だな。」
そんな話をしながら靴を脱いで上がる。
ポケットから銅貨を一枚取り出して靴箱のスリットに投入、鍵を回す。
カチリ、と音がして鍵が掛かる。
「銅貨を入れると鍵が回せるようになっているのね、面白いわ。」
「流石に私の国にもこんな物は無かったな。」
「開けたらちゃんと戻ってくる!すごーい!」
「…銅貨いるの?」
「あるよお姉ちゃん、はい。」
「…ありがとう。」
「ほら、フラムも。」
「ぁ、ありが…とう。」
靴箱の鍵を仕舞い、中へと足を進める。
謎のお土産販売所、休憩スペースに併設された食堂。
自販機まで設置されている。
極めつけはゲームコーナー。
見た事あるような無いような筺体が置かれ、
どこかで見たようなデモプレイ映像が映し出されている。
(よく作ったな…こんな所。)
歯ブラシですら銀貨十枚するのだから、採算度外視で作られたのは分かるが。
懐かしい雰囲気ではあるが、案内板からゲームに至るまで全てこちらの世界の文字で書かれているため
嫌でもここが異世界であるという現実を突きつけられる、何とも奇妙な感覚だ。
「………別の世界に迷い込んだようだわ。」
言い得て妙である。
入浴料を払い、脱衣所へと侵入。
慣れたとは言え、赤い暖簾をくぐるのには未だ抵抗がある。
鍵付きのロッカーが並び、扇風機に体重計、ドライヤーが設置されている。
勿論自販機もだ。
「寮でも見た事無い物があるな。」
「そうね、あの鏡の前にあるのは何なのかしら?」
「んー?何も動かないよー?」
ニーナが持つドライヤーのコードの先は、銅貨を入れるスリットの付いた箱へ繋がっている。
「その先から温風が出るようになってて、それで髪を乾かすんだよ。」
「詳しいのね、アリス。」
「ええ、本当に驚いたわ。
大抵の人は手間取るのだけれど…、実は来た事あるの、アリスちゃん?」
「あー……っと、一応これでも魔道具科ですから。」
こんな言い訳にも使える魔道具科。入ってて良かった。
「へー、意外だね。アリスちゃんなら魔法騎士科でも入れそうなのに。」
「そういえばそうだったな、ではあれは何に使うんだ?」
ヒノカが指差す先には自販機が鎮座している。
「あれは飲み物を買えるんだよ。お金を入れて飲みたい物を選べばいいんだ。」
「ほう………。」
スタスタと自販機の前に立ち、にらめっこを始める。
「ふむ………。」
その横にリーフも立ち、同じ様ににらめっこを始める。
「色々あるのね……。」
「二人とも…今飲むの?」
「ダメなのか?」
「ダメじゃないけど…お風呂上がりの方が良いんじゃない?」
「おぉ、それもそうだな。風呂上がりに買ってみるとしよう。」
「そうね、今から何を買うか決めておきましょう。」
「そうだな、ふむ………。」
にらめっこの作業に戻る二人は放っておき、服を脱ぎ始める。
「あ、そうだ。はい、二人とも。」
フィーとフラムに一枚ずつ銅貨を渡す。
「…ありがとう。」
「ご、ごめん…ね。」
「いいよいいよ、良くある事だし。」
「…よくある?」
「あー、大銅貨だけしか持ってないとか、ね?」
脱いだ服をロッカーに押し込み、鍵を掛ける。
「じゃあ先に行くね。」
まだにらめっこを続けている二人の後ろを通り浴場へ突入。
かけ湯を済ませて浴場内を見渡す。
寮にある浴場よりも更に広く、数種類の湯船が設置されている。
露天風呂まであるようだ。
(とりあえずサウナだな。)
ギィィ。
ゆらゆらと視界が揺らめく部屋内に扉の開く音が響く。
「こんな所にいたのですね、アリスちゃん。」
新たな挑戦者はレーゼだ。
既にニーナとヒノカの二人を下している。
が、俺も限界が近い。
「隣、良いかしら?」
「はい、どうそ。」
一枚の布で隠された二つの危険物が俺の隣でゆさりと揺れる。
「この部屋初めて入ったけれど、……すごく熱いのね。」
「ええ、ここは汗を掻くための部屋なので室温が熱くなってます。」
「そうなのね、でも態々汗を掻くための部屋なんて…。」
「えーっとそれはですね…。」
とりあえずサウナについての説明を覚えている範囲でしてみる。
「ろうはいぶつ…?しんちん…たいしゃ?難しい言葉を知っているのですね。」
「まぁ簡単に言うと健康に良いとされてるっていうだけです。
あとはダイエットなんかにも効果があるとか無いとか。」
「だい…えっと…?」
「あー…、痩せるのに効果があるみたいです。」
「そ、それは本当ですか!?」
ガシッと肩を掴まれる。
「…そ、そう言われているのを聞いた事があります。」
「…………。」
「ど、どうしました…?」
「頑張りましょう、アリスちゃん。」
「いや…、私はそろそろ…。」
「がんばりましょう!」
「………………はひ。」
(ふぅ~、酷い目にあった。)
露天風呂の淵に腰かけ、夜風で身体を冷ます。
湯船に浸けた足をゆっくり動かすとチャプチャプと水音が耳をくすぐる。
俺はニーナとヒノカに続いてレーゼを下し、満を持して勇退したのだ。
今はただこの風に身を任せていたい。
「アリスちゃん、レーゼちゃんがごめんねー。…よっと。」
隣に座ったのはマルネだ。
張りのある健康的な肌は水を弾き、キラキラと光っている。
「いえ、しばらく休んでいればすぐに良くなると思います。」
「あ~、アリスちゃん身体真っ赤~。」
ぴとっと白い腕が後ろから俺を抱きしめる。
「あったか~い。」
「もー、ミゼルちゃんってばー。」
「あはは、ごめんごめ~ん。」
マルネと俺を挟むように腰をおろすミゼル。
その白い肌はマルネとは対極の美しさを醸し出している。
着痩せするためか、服を着ている時には分からなかったが、
レーゼにも劣らぬ程の凶器をお持ちだ。
「ふぅ…全く、レーゼのやつめ…。」
「あれ、レーゼちゃんはどうしたの、テリカちゃん?」
「どうもこうも…な。這ってでもあの部屋に行きそうだったから気絶させてきたよ。」
ダイエットの話題は厳禁だな、こりゃ。
テリカはそのぶっきらぼうな言葉遣いとは裏腹に、上品な所作で向かい側に腰かけた。
適度に付いたしなやかな筋肉は、その所作を一層精錬させている。
実は良いとこのお嬢様だったりするのかもしれない。
「き、気絶って…、レーゼちゃん大丈夫かな…。」
「ま、大丈夫だろう。風邪はひくかもしれんがな。」
マルネ達と別れ、ぶらぶらと広い浴場内を見て回っているとフラムを見つけた。
「どうしたの?」
「ぁ…あれ…。」
フラムの示す方には薔薇風呂とかいうものが構えていた。
浴槽には薔薇の花弁が浮かべられ、周りは薔薇の造花で彩られており、
中心にある台座の上には何故かベンチが置かれている。
(綺麗に飾られてはいると思うが…、これは…。)
『やらないか』とでも言わせたいようだ。
「…入りたいの?」
「だ、ダメ…だよね?」
「大丈夫だよ、行こう。」
「ぇ…ぁ…。」
フラムの手を握って浴槽の近くまで連れてくる。
薔薇の香りがする湯船に手を浸けてみると少し温い程度。
中に入ってみるが、俺には少し物足りない温度だ。
「フラムもおいでよ、全然熱くないから。」
「ぅ…うん。」
フラムがそっと足を浸け、ゆっくりと浴槽に入ってくる。
「わぁ…、綺麗…。」
どうやらお気に召したようで、フラムの笑顔も薔薇の装飾に負けないほどキラキラとしている。
俺の穢れた心が浄化されて消し飛びそうな程だ。
ちなみにこの湯は月替わりで来月は百合らしい。
どうせならそっちの方が良かったな…。
浴場から出るとフィーが扇風機の前に陣取っていた。
「お姉ちゃんももう上がるの?」
「…少し休憩中。」
「そっか、私は先に上がってるよ。」
「…うん、分かった。」
魔力を使って身体に付いた水分を蒸発させて服を着る。
(魔法マジ便利だわー。)
普通の人が見ればくだらない事に魔力を使うなと呆れられてしまうだろうが。
ロッカーから戻ってきた銅貨を手に取り、自販機の前に立つ。
(やっぱコーヒー牛乳だな。)
銅貨を投入し、背伸びを………ジャンプをしてボタンを押す。
ゴトッと取り出し口が振動し、ピピピピピと電子音が響く。
(当たった試しがねえな。)
液晶に778と表示されたのを見届けてからコーヒー牛乳を取り出す。
ストロー付きの四角いパックだ。
成分表も賞味期限も印刷されていないが、デザインだけはそれっぽくなっている。
(飲んでも大丈夫だよな…?)
まぁこうして置いてあるのだから大丈夫だろう。多分。
「お姉ちゃんも何か飲む?」
「…うん。」
フィーに声を掛けるとトテトテとこちらに駆けてくる。
自販機を見上げ、ラベルをじっくりと見ていく。
「…よくわかんない。」
「お姉ちゃん苺好きだったよね、あれがいいんじゃない?」
いちごミルクと書かれたパックを指差す。
「…じゃあそれにする。」
銅貨を投入し、フィーがボタンを押す。
フィーが取り出し口を探っている間に液晶の表示が止まり、外れた事を告げる。
(やっぱ当たらんな。)
ストローを取り外し、パックに刺す。
茶色の蜜を吸い上げると、コーヒーの香りと懐かしい独特の甘さが口の中に広がる。
(これだ…この味だよ。良い仕事してるな。)
完璧に再現された味を堪能しているといちごミルクのパックが差し出される。
「…どうやって飲むの?」
飲み方を教えるとよっぽど気に入ったのだろう、
空になったパックがズゴゴゴと悲鳴を上げている。
「あー…もう一本いっとく?」
ベコッ。
あ、潰れた。
半分ほど飲んだコーヒー牛乳も取り上げられ、脱衣所を後にする。
向かう先はゲームコーナーだ。
STGに格ゲーレースゲームガンシューティング、果ては脱衣麻雀まで。
一通りのジャンルを作ってみました。と言ったようなラインナップになっている。
実際その通りなのだろう、全てのゲームの題材に『勇者ティグルー』が使われている。
おとぎ話や絵本に出てくる人物で、この世界では一番有名な『勇者』だ。
俺もいくつか本を読んだ事がある。
とりあえず一番端にあるシューティングの筺体にコイン(銅貨一枚)を投入する。
勇者ティグルーが魔王討伐に向かう王道のストーリーだ。
空を飛び敵の攻撃を掻い潜り、剣の形のショットを放ち敵を屠って進んでいく。
何故敵が戦闘機や戦艦なのかはこの際置いておこう。
三面ボスの巨大ロボットの攻撃で撃沈し、ゲームオーバーとなった。
場所を移動し、次は格ゲーにコインを入れる。
勇者ティグルーが魔王討伐に向かう王道のストーリーだ。
キャラ選択などは無く、勇者ティグルーのみが操作可能らしい。
パンチ、キック、必殺技の魔法で戦い、何故か手に持った剣は断固として使わない。
不殺でも貫いているのだろうか。
三戦目、エルフの女剣士のレイピアによる一突きで死亡し、ゲームオーバーとなった。
絵本ではこの女剣士は仲間だった気がするが…気にしたら負けだろう。
次はレースゲームの筺体に座る。
シートの位置を調整し、コインを投入する。
勇者ティグルーが魔王討伐に向かう王道のストーリーだ。
F1カーに姿を変えた光の剣を駆り、魔王の元へと急ぐ。
決められたコースのチェックポイントを時間内に通過していくタイプだ。
ちなみにコース上に現れる魔物を轢き殺すとタイムボーナスが貰える。
その際に筺体がゴトリと動き、妙に生々しい。
三面のコース途中でクラッシュし、ゲームオーバーとなった。
ガンシューティングの筺体からガンコンを抜いてみる。
ガンコンにはブローバック機能が付いているようで、
パカパカとスライドするようになっている。
コインを入れるとムービーが流れ出した。
勇者ティグルーが魔王討伐に向かう王道のストーリーだ。
光の剣の先から出る謎のビームで、現れる魔物達を次々と撃ち果たしていく。
ブローバック機能は壊れており、うんともすんとも言わなかった。
2P側でやるべきだったか。
三面の途中で村人を誤射し、ゲームオーバーとなった。
ボタンがズラリと並んだ筺体へコインを入れる。脱衣麻雀だ。
オープニングムービーが流れ始める。
勇者ティグルーが魔王討伐に向かう王道のストーリーだ。
魔族の女幹部達と対決し、次々と脱がしていく。
最初の配牌が終わり、点数を確認すると1000点しかない。そういうタイプか。
安手の早上がりで順調に脱がしていったが、
三人目の女幹部に跳満で逆襲をくらい、ゲームオーバーとなった。
ゲームオーバーの画面を見届けてから席を立ち、次のゲームを探す。
ゲームコーナーの真ん中にでん、と並んだ8つの筺体。
色褪せた新台入荷のポップが侘び寂を感じさせる。
ベルトスクロールアクションで横一列の4人で同時協力プレイが可能らしい。
しかも操作キャラを4人のキャラから選べるのだ。
俺は銀貨を両替え機に突っ込み、コインを10枚ほど積み上げる。
1枚投入し、ゲームスタート。
キャラ説明をじっくりと読み、キャラクターを決定。
ステージが始まると光の剣を掲げた勇者ティグルーが現れる。
ソロで進められそうなのがバランスの良いコイツしかいなかったのだ。
剣と魔法で敵を倒し、順調にレベルを上げつつ進んで行く。
遂にステージ1のボスへと到達するが、圧倒的パワーにゴリゴリと体力を削られる。
ボスの体力を半分も減らせずにゲームオーバーとなった。
「えー…、強すぎんだろ。バランスおかしくね?」
悪態を吐きながらコインを追加してコンティニュー。
ステージの最初からになるが集めた経験値やアイテムはそのままだ。
一度通った道をサクサクと経験値を稼ぎながら進んで行く。
「そこは進んじゃダメ。」
ポンと肩を叩かれ、キャラの歩みを止める。
後ろを向くとフィーやニーナくらいの年頃の女の子が三人立っていた。
似ていないので姉妹ではないだろうが、揃って血のような赤い瞳が印象的だ。
「そこで待ってると敵が一杯湧いてくるから、時間ギリギリまで稼ぐんだよ。」
「私達も手伝うねー。」
三人が席に着き、慣れた手つきでコインを積み上げエントリーする。
画面には戦士、魔術師、ヒーラーがそれぞれの武器を掲げて現れた。
これで全キャラ集合だ。
間もなく雑魚敵が画面両端からワラワラとやってくる。
戦士と魔術師の強力な攻撃で現れては無慈悲に狩られていく雑魚敵達。
「『加護』を切らさないようにお願いね。」
「まぁまぁ、まだ一面だし『加護』無くても余裕じゃん。」
「だからでしょー。今の内に立ち回り覚えて貰えば後々楽だしねー。」
「分かった。使う時は声掛けるから集まって。」
『光の加護』、勇者ティグルーのみが使えるスキルで武器に光の力を纏わせる事ができる。
要は攻撃力の上がる魔法なのだが範囲内に入る味方にも適用されるため、
多人数プレイでこそ輝くスキルだ。
4人でサクサクと進めていき、先程コテンパンにしてくれたボスの登場だ。
流石に多勢に無勢なのか、取り囲んでの攻撃であっさりと倒せてしまった。
「次が大変なんだよねー…。ま、頑張ろう。」
彼女の言う通り、ステージ2の敵が異様に堅い。
「なんか…敵の体力多くない…?」
殴っても敵の体力が余り減らない。
「ステージ1で武器買ってないからね。ここのショップで武器買うまでは大変だよ。」
「店なんてあったっけ?」
「途中の木の裏にね。2面で強い武器が買えるくらいに貯められそうだからスルーしたけど。」
「なるほどね、防具はどうするの?」
「最終面で余ってるお金で買える物を使う感じかな。それまでは初期装備で。」
「ふぅん、詳しいんだね。」
「まぁ、ね。そっちこそ慣れてるね、ゲーム。」
「いや…普通くらいだと思うけど。」
「”向こう”ではね。」
「あー、やっぱり”お仲間”なんだね。」
「そういう事。こっちの子はゲームなんかにお金使わないしね。
物珍しさに1コインっていうのはたまに居たけど。キミはこっちに来たばかりみたいだね。」
「うん…まぁ、そういうことになるかな。そういうのって分かるの?」
「見た事無い顔だしね。それに…っとヤバッ!」
敵に掴まれたのをレバガチャで振りほどく。
「ふぅ…そうそう、私はガイナ。そっちの二人はオルチカとマッシェ。」
「何そのニアミス。」
「私達三人が揃った時はそれはもう盛大なセレモニーが開かれたよ。
コレがその時に貰ったやつ。」
ガイナが足元を指差す。
そこには紫色のルーズソックス。他の二人も穿いているようだ。
「…私はアリューシャ。残念だけど踏み台には出来ないね。」
「あははっ、それじゃあ踏み台にはなってあげられないな。」
「アリューシャってことは…”アリサ”って呼べばいいん?」
オルチカがこちらを向いて話しかけてくるが、キャラはしっかりと仕事をしている。
「その子の国だと…”アリス”なんじゃない?多分だけどー。」
マッシェも会話に混じってくるがその手捌きは衰えない。
「国によって違うんだ?」
「国というか地方というか…。いくら共通語で統一されてるからって言っても、
この大陸だけでも結構な広さがあるからね。地方独特の言い回しがあったり訛ってたり…って具合かな。」
小さい島国の日本でもそうだったしな。
「そんなに広いんだ。」
「学院を卒業したら旅でもしてみるといいんじゃない?
ティグルーみたいに魔王を倒す旅って訳にはいかんけど。」
「じゃあドラゴンでも探してみるよ。」
「ドラゴンならどこかに居ると思うけどー、捕らわれの姫はいないよー?」
「まぁ…居てもお楽しみ出来ないし…。」
「確かにそうだね。」
「それにしても随分寂れてるよね、このゲーセン。」
「昔はちょっと流行ったんだけどねー、勿論”お仲間”の間だけだけどー。」
「何かあったの?」
「いや、というよりこの世界自体が所謂VRMMOみたいなもんじゃん?私らにとっては。」
「あー、確かに…。」
「それに自分たちで作るしかないからね、今でも細々と活動はしているみたいだけど。
あ、この岩陰にショップがあるから。」
「了解、一番強い武器でいいんだよね?」
「うん、しばらくはこれで。」
全財産をはたいてショップに並んでいる一番高い武器を買い、試し切り。
あれほど堅かった敵の体力がモリモリと削れる。
「おぉ、強いね。」
「次のステージ用の武器だからね、これでこの先の湧きポイントでギリギリまで稼ぐよ。」
黙々と、時折声を掛け合いながらステージを進めていく。
ゲームコーナーにはゲームのBGM、SEとボタンを叩く音が木霊していた。
どれほどの時間が経っただろうか、何度か全滅を繰り返し、
遂に魔王の元へと辿り着く。
「やっと着いた、この扉を開けば魔王戦だよ。」
「結構掛かったね。」
「10コインも使ってないし、上々じゃん。」
「ここで全滅はしたくないねー。」
「蘇生アイテムも残ってるし、大丈夫でしょう。突撃!」
「「「おー!」」」
戦士がダッシュ攻撃で扉を吹き飛ばす。
吹き飛ばされた扉が魔王に当たり、魔王の体力ゲージが削られる。
「よし、決まった!」
玉座の間に踏み込むと「よく来たな、勇者よ。」からの寸劇が始まる。
魔王との交渉が決裂したところで戦闘開始。
さすが魔王というだけあって画面全体を襲うド派手な攻撃に苦戦させられる。
物理攻撃を戦士が打ち払い、魔法使いが障壁を張り魔法ダメージを軽減、
僧侶が傷ついた仲間を癒していく。
「お、またカウンター取れた。今日は調子が良いよ。」
「回復楽でいいわ。暇とも言うけど。」
「じゃあHP変換でMP回復するからヒールよろー。」
「加護掛けるから集まって。」
4人の連携でついに魔王の体力ゲージを削りきった。
が、魔王が変身し体力ゲージがMAXまで回復する。
「あ、やっぱり変身するんだ。」
「お約束だしね。」
更に邪悪な姿になった魔王との戦闘が始まった。
強力になった攻撃を凌ぎ、チクチクとダメージを与えていく。
攻撃が強力になった分隙も大きくなり、逆に最初の形態より弱く感じる。
ゲージを削りきるとまた変身が始まる。
「えー、また?」
「これで最後だからアイテムは温存しなくて良いよ。」
最終形態となった魔王は状態異常攻撃を執拗に行ってくるため、非常に戦い辛い。
僧侶と勇者とで回復に奔走している。
それでも着実にダメージを蓄積していき、ついに魔王を倒した。
エンディングイベントが終わり、ムービーが流れる。
「お疲れー。」
「久しぶりに10コイン以内でクリア出来たね。」
「やっぱ難易度きついわ、これ。」
「ソロだと確実に無理だったよ。ありがとう。」
「それじゃ私らはもう行くよ。後ろで誰か待ってるみたいだし。」
言われて振り返るとお風呂から上がった面々。
「あ、皆もう上がってたんだ。ごめんね、待たせちゃった?」
「いや、いいさ。まだレーゼが休んでいるからな。」
テリカが親指で差した先にはソファーでぐったりと横たわっているレーゼの姿。
「ね、ねぇアリス!」
興奮冷めやらぬといった感じで詰め寄ってくるリーフ。
「こ、これは何!?ティ、ティグルー様が動いているんだけど!」
…様?
リーフの隣には同じ様子のフィー。
「な、何ってゲーム……あー…、玩具だよ。」
「どうすればいいの!?これで動くの!?」
レバーをガチャガチャと弄るが、コインを入れていないため反応は無い。
ポン、と肩を叩かれる。
「後は頑張って、”戦友”。私達はこれで離脱します。」
そう言ってさっさと逃げていく三連星。
ガッとフィーに腕を掴まれる。
「…どうするの?」
「あー、うん、それはね…。」
「うぅ…お金を無駄に使ってしまったわ…。」
「…。」
落ち込むリーフとフィー。
二人に教えてはみたものの、ステージ1のボスも倒せぬまま終わってしまった。
というより6枚目のコインを投入しようとしたのを俺が止めたのだ。
勿論俺も手伝ったのだが、二人のお守りをしながらというには荷が重かった。
「私も見てみたかったですね、アリスちゃんの勇姿を。」
レーゼもすっかり復活し、皆で夜の街を歩いている。
大通りに並ぶ酒場からは光と喧騒が漏れており、静かな夜にはまだ遠そうだ。
「あんなアリスは初めて見たな。」
「ぅ、うん…。」
「そうね、一緒に居た子達とも随分仲が良さそうだったけど、知り合いなの?」
「いや、あそこで会っただけだよ。」
「本当に?それにしては息がぴったりだったというか…。」
「な、慣れたらあれぐらいは出来るんじゃないかな。」
「慣れたらって…アリスはあの玩具で遊んだ事があったの?」
「…あんなおもちゃ、初めて見た。」
「ああいや、あの子たちがね。私は必死に付いて行ってただけだよ。」
「それでも凄いよ、アリスちゃん!私も一回だけやった事あるけど、
よく分からないまま終わっちゃってたし…。」
「ミゼルもあそこにあるの全部よく分かんない~。」
「私も一回やったけどよく分からなかったね。それ以来行ってない。」
随分と不評だな、あのゲームコーナー。
まぁ、仕方ないだろうが…。
「あ、此処ですよ。」
レーゼが1軒の店の前で足を止める。
窓から中の様子を窺うと、学生の姿が多い。
「このお店はお酒は出さないけれど、料理が凄く美味しいのですよ。」
扉を開くと備え付けられたベルがカランカランと鳴り、来客を報せる。
「おう、また来てくれたのかい、譲ちゃん。」
「はい、今日も宜しくお願いします。」
きょろきょろと見回すが、空いている席は無い。
「二階が空いてるからそっちに行ってくんな。」
「分かりました。」
レーゼに続いて木造の階段を上る。
二階は人が少なく、十分席を確保出来そうだ。
「あちらにしましょうか。」
角にある席にテーブルをいくつか繋げて座る。
「よく来てくれたね、レーゼちゃん。今日は随分可愛い子達を連れているね。」
注文を取りに来たおばちゃんに声を掛けられるレーゼ。
「はい、頼りになる新入生の子達です。」
「あぁ、もうそんな時期なんだねぇ…アタシも昔は…。おっといけない、注文はどうするんだい?」
「えっと、それでは―――。」
壁に掛けられたメニューから大皿物や各々好きな物を頼んでいく。
「あいよ、大急ぎで作らせるからね。」
注文を取り終えたおばちゃんは階下へと戻っていった。
「いただきます。」
テーブルにずらりと並べられたパン、スープに肉、野菜、魚料理。
ちょっと多……いや、かなりの量だ。
壁にあるメニューを見る限りでは学食より少し値は張るが、
この量を鑑みれば納得である。
これも学生に人気がある理由だろう。
とりあえず千里の道も一歩から。テーブルに生えた氷山の一つから一角を崩していく。
口に含んだ柔らかい肉からじゅわりと肉汁が溢れ出し、溶ける様に消えてしまう。
「美味しいですね。…何の肉かは分かりませんが。」
メニューには『肉(大)』と書かれている。
「その日に大量に仕入れられる物を使っていると仰ってました。
この間はもっと歯応えのある肉でしたが、この柔らかいものも良いですね。
…何の肉かは存じ上げませんが。」
「まぁまぁ、いいじゃん。美味しいんだしさー。」
「…うん。」
フィーとニーナがひょいひょいと自分の皿に盛っていく。
氷山の一角を崩したと思っていたが、気付けばごっそりと削られていた。
この二人による成果だ。
ガツガツと食べるニーナに対して行儀良く食べるフィーだが、スピードが尋常じゃない。怖い。
「後でお腹痛くなっても知らないからね、もう。」
あくまでもマイペースで食べるリーフ。
「そうだな、よく噛んで食べないとダメだぞ。」
そう言うヒノカも何気にペースが速い。
タイミングを見計らい、手に持った皿に料理を取る。
「はい、早く食べないと取られちゃうからね。」
一通り料理を取った皿をフラムの前に置く。
「ぅ、うん……ぁりが、とう。」
「…やっぱり甘いわね。」
ボソリと呟くリーフ。聞こえてますよ。
放っておいたらパンとスープだけで済ませそうなのだ。
良いとこのお嬢様な筈なんだが、おっかぁの分も食べてええんやで、
とでも言ってやりたくなる。
「賑やかで良いですね。」
「そうかい?いつもはそっちの二人がもっと賑やかだと思うけど。」
「そ、そんなことないよね、ミゼルちゃん?」
「そうだよ~、テリカちゃんひど~い。」
やれやれと肩を竦めるテリカ。
「いつもこうだと良いんだけどね。」
「ふふ、それでは調子が狂ってしまいますよ?」
デザートまで完全に胃に収め店を出る。
結構食べたと思ったのだが支払いは銀貨1枚にも届かなかった。
支払いは俺が出すことに。
兜も貰ったし臨時収入もあったし多少はね?
レーゼ達は流石に渋ったが、儲けの多かった奴が飯代を出すのが冒険者の流儀だと
適当に言って無理矢理納得させた。
まぁ、それで親父に集られていたから嘘ではない。
学院の門に入った所でレーゼ達と別れ、寮の部屋へ戻ってくる。
「ふー、やっと終わったねー。」
「…うん。」
「そうね…、流石に疲れたわ。」
「ゎ、私も…。」
4人が畳の上にへたり込む。
「それだけ充実していたということなのだろう。」
「ヒノカは平気なの?」
「修行で師匠と山籠りや魔物討伐なんかもしていたしな。これぐらいなら問題ない。」
「それならその時に冒険者の資格を取ってれば良かったね。」
「私が倒した魔物の耳なんかを集めさせられたから、
師匠が依頼を受けていたんだと思う。」
「………お互い大変だね。」
「全くだ。」




