2話
「う…ん……。」
朝日の光に目が覚める。
時計を見ると時刻は九時半。いつもなら授業が始まっている時間だが、
今日と明日は休日、もっとゆっくり―――。
(っと…いかんいかん、今日はギルドに行くんだったな。)
のそのそと布団を抜けだし、居間へ足を向ける。
「起きたか、朝食は置いてあるぞ。」
「ぁーぃ…。」
席に着くといつもの味噌汁の香りが鼻腔をくすぐる。
「おはよう、アリス。貴女朝は弱いのね。」
向かい側に座っているのはリーフだ。
今では箸を持つ手がすっかりサマになっている。
他の三人はまだまだだが…。
朝食を終えるとすっかりと目が覚め、ギルドへ行く準備を整えて部屋を出た。
ギルドへの道を六人で歩く。
「ギルドに行くのは初めてだから、少し緊張するわね。」
「わ、私…も。」
「そんなに怖い所じゃないから安心していいよ。特に此処のは建物も綺麗だしね。」
「確かにそうだな、私の国にあるギルドはもっと雑多な感じだった。」
「セイランにあるギルドもそうだったよ。」
「へぇ、そうなんだ。みんな此処のギルドみたいなんだと思ってた。」
「そっか、お姉ちゃんとニーナはセイランのギルドには行ってなかったね。」
「…アリスだけ、ずるい。」
「そうだよー、ずるい!」
「でも二人ともギルド証はもうあるのだし、どこのギルドでも行けるのでしょう?」
「それはそうだけどー…。」
「そういえば、リーフとフラムはギルドの試験受けるのか?」
「…魔法だけの試験なら良かったのだけれどね。」
「ゎ、私…には、無理…。」
「なら二人は見習い登録にして依頼をこなそうか。」
「それが良いだろう。この前のようなのは簡便だが。」
「あはは、確かにあれは酷かったねー。」
「…臭かった。」
「どんな依頼だったの?」
「えーと、確かヴォルフ10頭の討伐だったっけ?」
「うむ、そうだった。」
「その魔物なら私の村の周辺でよく見かけたわね。それがどうしたの?」
「次から次に現れてきて最終的に全員で80頭ほど倒してたんだよね。」
「は、80!?」
「す、すご…ぃ。」
「それからその80頭分の毛皮を剥いだりしてな…。」
「あれは大変だったよー…。」
「出来れば今日はもっと別なのがいいね…。」
「そ、それ貴女達四人でやったの?」
「うん、そうだよ。」
「呆れるしかないわね、もう。それで今日はどんな依頼にするの?」
「この街周辺の地形を把握しておきたいから、それのついでに出来そうなのかな。」
「そうなると、採取系の仕事か?」
「どうだろう、採取だと見つけられないかもしれないしね。とりあえず掲示板を見て、かな。」
通りを曲がるとギルドの建物が顔を出す。
「あ、見えた。あのでっかいのがギルドだよー。」
「あれがギルドだったのね、何度か前を通ったことはあったのだけど、知らなかったわ。」
俺たちはギルドの中へと足を踏み入れる。
ピークの時間帯は過ぎているが、それでも人は多い。ほとんどが学院生だが。
制服を着ているため、学院生だと分かるのだ。
学院製の制服は丈夫で動き易くて、激しい戦闘でなければ十分に耐えられるため使い勝手が良く、
学院に通っている冒険者も軽い依頼であれば制服でこなす者が多い。
かくいう私もその一人だ。
「私はリーフとフラムの登録に行ってくる。アリスは依頼を探してくれ。」
「よ、よろしくお願いするわ。」
「ぉ…お願ぃ、します。」
「うん、分かった。お姉ちゃんとニーナはどうする?」
ニーナがカフェスペースを指さしながら言う。
「ボクたちは向こうで席を取っておくよー、依頼はアリスに選んでもらった方が良いと思うしね。」
「…あれ、おいしそう。」
さっき朝食を食べたのにもうお腹が空いたのだろうか。
「ほどほどにね、お姉ちゃん。」
「なら、終わればフィーとニーナの所へ集合だな。」
「そうだね、それじゃあ行ってくるよ。」
それぞれの目的のために別れる。
俺は人の群がっている学院生用の依頼掲示板を素通りし、冒険者用の掲示板へ向かう。
冒険者は早朝のうちに依頼を受けるので、今の時間帯であれば人はほとんどいないのだ。
俺はランクDの依頼を眺めていく。
(うーん、やっぱり討伐系かな…。)
レンシアの街は辺鄙な場所にあるため、街道を外れれば森か山ぐらいしかない。
まだ周辺の土地には明るくないので、採取系は時間が掛かるのだ。
運が良ければすぐに見つかるかもしれないが。
その反面魔物は多く、少し奥に踏み入ればDランクの依頼の魔物であれば簡単に見つけられるだろう。
危険は少々高いが、今のパーティなら問題ないはずだ。
目的は周囲の地形を覚えることで、依頼はあくまでもついでだと思っている。
なので時間が取られるような依頼は避けたい。
ランクEの依頼も眺めてみる。やはり殆どが簡単な採取の仕事だ。
(この薬草は前の依頼の時に見かけたけど、同じところに行ってもな…。)
ランクFの依頼へと目を移す。
(ほぼ街中での雑用か…、パスだな。)
目を惹くような依頼がなかったため、もう一度ランクDの依頼書を確認する。
「ま、安いけどこれでいっか。」
ぴょん、とジャンプして依頼書を一枚剥がす。
内容は魔物20頭の討伐。報酬は銀貨一枚。依頼主はギルド。
所謂害獣駆除のような仕事だ。
こなしても次の日には同じ依頼が張り出される。
魔物の指定は無いが報酬も激安価格になっているため、受ける人は稀だ。
セイランでも同じ様な仕事がずっと残っていたのを覚えている。
とりあえず皆に相談しようとカフェスペースに足を向けるが、前に人影が立ち塞がる。
「おい、一年。その依頼書こっちによこしな。」
10代前半の少年。背丈は俺の二倍くらいか。
首からは学院証が誇らしげにぶら下げられている。
その後ろには何か言いたげなパーティメンバーと思われる少年が三人。
(あー、面倒そうなのが来た…。)
まぁ、いつかは絡まれるだろうとは思っていたが。
「はい、どうぞ。」
俺は素直に依頼書を渡す。
「へへっ、分かってるじゃねーか。おい、お前ら行くぞ!」
俺の手から依頼書を奪うと、メンバーを引き連れて受付まで向かって行った。
「ね、ねぇ、大丈夫?あの子いつも乱暴なの…。」
おずおずと声を掛けて来たのは上級生の女の子だ。
リボンの色が同じなので先程の少年と同級生なのだろう。
絡まれていたのを心配して声を掛けてくれたのだろう。
「あー、はい。問題ないです。」
「で、でも依頼書が…。」
「大丈夫です、もうすぐ戻って来ますから。」
「え…?」
「おい、テメェ!よくも恥を掻かせてくれたな!」
顔を真っ赤にして再度俺の前に立つ少年。
依頼書を握る手はワナワナと震えている。
受付で断られたのだろう。
学院証だけでは冒険者の依頼は受けられないのだから。
「じゃあ依頼書返して貰えます?」
「て、テメェ、馬鹿にしやがってえーーー!!」
「きゃっ!?」
俺が女の子の手を引いて少し下がると、俺のいた空間を少年の剣が叩き切った。
さすがに不味いと思ったのか少年のパーティメンバー達が止めにかかる。
「あ、相手は小さい女の子ですよ!?お、落ち着きましょうよ!」
「うるせぇ!邪魔するんじゃねえよ!」
「ぁぐっ!」
少年はパーティメンバーを殴って制止を振りほどき、血走った目で俺に剣を突き付ける。
「決闘だ!逃げるんじゃねえぞ、一年のガキが!」
「ひっ…!」
俺の腕を掴む手が震え、周囲の空気が張り詰める。
ふと見るとカフェスペースでニーナがこちらを指差し、慌ててフィーの肩を叩いている。
フィーは興味無さそうにこちらを一瞥した後、目の前のパフェに視線を戻した。
食い下がるニーナにフィーが何かを呟き、ニーナは少し考え込んだ後、パフェを突き始めた。
『フィー、アリスがなんか大変なことになってるよ!?』
『……………はむっ。』
『ちょ、ちょっと助けに行かなくていいの!?』
『…アリスなら大丈夫。』
『……………それもそっか。冷たくておいしいよね、これ。』
そんな会話が聞こえてきそうである。
「おい、余所見してんじゃねえぞ!」
「…はぁ、それ本気で言ってます?」
「当たり前だ!剣を抜けよ、一年!」
何を言っても聞く耳持ちそうにないな、こりゃ。
「あ、あの…そ、そんなの可哀想だよ…。」
「うるせぇ!女は黙ってろ!」
「ひぃっ…!」
「大丈夫ですので、少し下がってて貰えますか?」
「で、でも…。」
「大丈夫ですので。」
「ぁ…ぅ…はい…。」
女の子は腰を抜かしたままズリズリと後ろへ下がる。
「えーと、ここでやるんですか?」
「そうだ、さっさと剣を抜け!」
「はぁ…。」
腰に下げた剣をスルリと抜いた瞬間、野次馬達が固唾を飲む。
「そんなおもちゃで…俺を舐めてんのか!!」
魔力で土を固めて作った刀なのでおもちゃと言われればそうなのだが、注文の多い人だな。
「おもちゃが相手だと怖いですか?」
「このぉぉぉぉぉおお!!」
少年の繰り出す剣を最小限の動きでかわす。
学んでいるであろうその太刀筋は素人のそれではない。
が、それだけだ。はっきり言って強化魔法を使っていないフィーやニーナの方が強い。
魔力での強化が無くても勝てる相手だろう。
「くそっ!くそっ!」
ブンブンと振り回される剣を避け続ける。
疲れて来たのであろう、徐々に斬撃に力が無くなってきている。
同時に俺が反撃できないのだと見た少年は油断して攻撃が大振りになり、隙も大きくなった。
その隙をついて俺は刀を走らせる。
ゴトリ。
少年は油断していたため俺の反撃に目を剥き、後ろへ跳んで距離を空けるが、
今まで握られていた剣は無い。
「え…?あ…?」
剣のあった場所からは血がドボドボと流れ、床を染めていく。
「あ…ぁ…腕…あれ…?」
俺の足元には彼の剣と彼の一部が転がっており、同じ色に床を染め上げる。
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛っ!!!!腕っ!!!腕がっ!!!!
あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛っ!!!!!!」
少年の絶叫に我を取り戻し、何が起きたかを理解した野次馬達はそれぞれ悲鳴を上げ、
ショックのあまりに嘔吐する者も現れる。
「ぐぞっ!!ぐぞっ!!!ぐぞぉぉぉぉおお!!」
少年はショックから怒りで立ち直り、俺に向けて無事な方の手で魔法を放つ態勢をとる。
俺も魔法へ対抗するべく身構える。
「おっと、そこまでだぜ。」
「ぐあっ!!」
颯爽と現れ、少年の腕を捻り上げて彼を取り押さえたのはドリーグ。
冒険者で、このギルドの試験官の一人だ。
「そういう訳だ、簡便してやってくれや、譲ちゃん。」
俺は何も答えない。
「あー…、剣を納めてくれると助かるんだがな。」
「まだ終わってませんので。」
「まぁ…、そうだよな…はぁ。」
ドリーグは少年の懐を探り、取り出した財布にこちらの足元に投げる。
鞘や腰に付けていた短剣も同様に扱う。
「や、止めろ!!何すんだ、ドリーグさん!!」
「おいボウズ、分かってんのか?お前は今命乞いをしてるんだ。」
「え…あ…あ…ぁぁぁ……。」
彼は俺と、俺の足の下にある彼だったモノと、それがあるべき場所とを見比べる。
「あぁぁ……だ、出せ…おい、お前らも出せ!!」
彼は自分のパーティーメンバー達に命令するが―――。
「…………い、嫌だ…。な、何で僕がお前なんかの為に…!」
その少年は自分の財布を守るように抱える。
「そ、その子にこ…殺されれば良かったんだ!も、もう僕はパーティー抜けるし、か、関係ない!」
「て、てめぇ…っ!」
少年は駆け出し、ギルドから飛び出していく。
「俺も…パ、パーティー抜けるから…。」
「ボ、ボクも…。」
残った二人もギルドから出ていく。
「ク、クソがぁっ!!」
そんなやり取りをしている間もドリーグは淡々と指輪やブレスレットを剥ぎ、こちらに転がす。
「あ…そ、それは…!」
首から下げた高価そうな銀細工のロケットも外す。
「中々良いモンだなこれは。ほら、受け取れよ。」
それは傷が付かないようにか、直接投げ渡された。
左手でロケットを受け取り、確かめる。
なるほど、細かい細工が綺麗に施されており、一目で高価な物だと分かる。
ロケットの中には優しそうな女性の絵が納められていた。
「これで全部だ…それで、その足に敷いてるモンをこっちに渡しちゃくれねえか?」
俺は「それ」から指輪とブレスレットを抜き取り、ドリーグの側に蹴り飛ばした。
「ひ…っ!」
転がってきた自分のモノを目の当たりにして少年が気絶してしまったのを確認し、刀を納める。
剣を納めたのを確認したグリードは少年の傷口をきつく縛り、転がっている少年の一部を布で包んだ。
魔法できちんと治療すれば問題無くくっつく筈だ。
「すまねえな、こいつはちゃんと絞っておくからよ。」
「治療費もね。」
「ガハハッ、バレてたか!まぁオレのパーティの治癒師は一流だからよ!」
俺はロケットをドリーグに投げて渡す。
「それは売っても二束三文にもならないから返すよ。」
「あん?そんな筈はねえだろ、これは…。」
ドリーグはロケットを開き、中を確認する。
「……ああ、そうだな。俺の鑑定眼もまだまだだな。こいつは返しておく、ありがとよ。」
俺は足元に散らばった貴金属をひょいひょいと摘まみ上げて袋にまとめる。
「なぁ譲ちゃん。」
「はい?」
「おめぇさんはとんだ甘ちゃんだが。俺は好きだぜ、そういうの。」
「ロリコン?」
「あん?なんだそりゃ。」
「幼女趣味ってことだよ。」
「ガハハハッ!そうか、そうかもしれねえなぁ!おめえさんに惚れちまってるからなぁ!ガハハハハッ!それじゃあな!」
ドリーグは少年を担ぎあげてギルドの奥へと進んで行った。
そちらに医務室があるようだ。
(こいつは凄惨な現場だな…。)
ギルドの床には大小二つの血溜りが出来て、所々に血が飛び散っており、
野次馬達の居た辺りは吐瀉物で彩られている。
とりあえずは、と、へたり込んでいる女の子に手を差し出す。
「えっと…怪我とかはありませんか?」
「う、うん…、ありがとう…でも、ごめん…立てないや、ははは…。」
「…”洗浄”。」
フィーの声に振り返ると、先程までの凄惨な現場は綺麗さっぱりと消えていた。
「あ、お姉ちゃん。ありがとう。」
「…ころさなかったの?」
「あー…、うん…。ルーナさんに怒られちゃうかな。」
例え相手が人間だろうと手心を加えないようにと、口を酸っぱくして言われたものだ。
(特に決闘を仕掛けてくるような相手には、か…。)
ルーナさんの経験からの教えなのだろうが…、でもまぁ流石に子供相手じゃ…ねぇ。
ドリーグが止めに入らなければ俺はどうしていただろうか。
(殺すつもりなら最初に首を落としてたか…。)
実際にそれは可能だった。それでも俺は―――
「…責任は自分で取りなさい。」
フィーの言葉で沈んでいく思考が停止する。
「言われそう…。」
面倒事にならないよう祈るばかりだ。
「…どうしたの?」
「この人が腰抜かしちゃったみたいで。」
「…そう。」
フィーがスタスタと女の子に歩み寄って抱き上げる。お姫様抱っこで。
「え?あ、あの!?」
「…席、取ってるから。」
顔を真っ赤にした女の子を抱きながらカフェスペースへと歩いて行った。
「あー…、依頼書…。」
俺はすっかり目的を忘れていたのだった。
依頼書をドリーグから取り戻し、カフェスペースへと向かう。
「大変だったみたいだな。」
「うん、稼ぎはその分良かったけどね。」
巻き上げた金品をテーブルの上に並べていく。
財布の中には銀貨30枚ほど入っている。
彼の持っていた剣や短剣も柄や鞘に宝石が使われたりと、結構値打ちが高そうだ。
貴族かそれに近い人間だったのだろうか。
「でも…金品を奪ったりしていいのかしら?」
「決闘を仕掛けて来たのは向こうだしね。それに奪ったのは私じゃないし。」
「ドリーグさん…だったかしら?」
「うん、私達の試験官をしてくれた冒険者の人だよ。
命の代わりにお金で手打ち、ってことでしょ。」
「でもアリスは命まで奪う気は無かったんでしょう?」
「うん、でも…元通りにくっつく事は無かったかもね。」
「どういう事かしら?」
「最後に撃とうとした魔法に投げ付けるつもりだったから。
火の魔法だったらこんがり焼けちゃってたね。」
「ぅ…。」
想像したのかリーフが顔をしかめる。
「だからドリーグが止めたんだろうけど。」
「まぁ、高い授業料になってしまったという訳だな。」
「学院よりは安いよ。」
「ハハハッ、確かにそうだな。」
「ふぅ…まぁ、いいわ。それで、フィーが連れて来たこちらの先輩は…?」
「えーっと、さっきの人に絡まれた時に声を掛けてくれたんだけど…巻き込まれ損、…的な?」
「あぅ、酷くない!?でも…その通りかも…、はぁ。」
「私もいきなり斬りつけてくるとは思わなくて。
咄嗟に腕を引いたんですけど、本当に怪我はないですか?」
「うん、ありがとう。あなたが助けてくれなかったら大怪我してたと思う。
あ、そうだ。自己紹介がまだだったね、私はマルネリッタ。三年で十五歳よ。マルネって呼んでね。」
「私は一年のアリューシャです。それからパーティメンバーの…。」
「…フィーティアです。」
「ニーノリアです、ニーナって呼んでください!」
「ヒノカ・アズマです。」
「ぁ…ふ…フラム…です。」
「リーフです。よろしくお願いします、マルネ先輩。」
各々が自己紹介を終える。
「それで、どうして決闘なんてことになったのかしら?」
「私が持ってた依頼書を渡せって絡んできたんだよね。」
件の依頼書をテーブルに広げる。
「魔物討伐20体…銀貨一枚か、報酬がかなり安い気がするが、どうしてこんなものを?」
「たぶん私が持ってたから簡単な依頼だと思ったんじゃないかな。
渡したら内容も見ずに持って行っちゃったし。」
「あー…、確かにそれはありそうね…。」
「あなたたち、これは冒険者用の依頼で、学院生じゃ受けられないよ?
依頼なら学院生用の掲示板から探さなくちゃ。」
「いえ、私達は冒険者の資格も持っていますので。…”情報”。」
ギルド証の情報を表示して見せる。
「えっ…ランク…C!?それじゃあ他の子たちはもっと…?」
「いえ、ランクCはアリスだけで、残りはFと見習いです。」
「それでも、冒険者の子がいるのね…。凄いわね、私のパーティには一人も居ないわ。」
「冒険者の資格は取らないんですか?」
「何人か挑戦したけど無理だったって。
あなたたちならパーティ課題も問題無いでしょうね。」
「パーティ課題って何をするんですか?」
「大体はこの依頼書と同じ内容よ。魔物の討伐。この辺りは魔物が多いから。
違うのは報酬が無いってところね。要は魔物の駆除を授業と称してやらされるって訳。」
「それだと戦闘の出来ないパーティは大変なのではないですか?」
「そこはチームを組む高学年のパーティで調整されるのよ。
目標は学科ごとに決められているしね。例えば料理科だと料理でパーティの支援を行え、とかね。」
「随分大雑把なんですね。」
「目的は魔物の駆除だからねぇ。でも冒険者任せだとお金が…ね。」
「自分で持ってきておいてなんですが、よっぽどじゃないとこんな安い依頼は受けませんしね。」
「うーん、そうだねぇ。これなら学生用の依頼の方が割が良いよ。どうしてこの依頼を受けようと思ったの?」
「街周辺の地形を見るついでに出来そうな依頼で、一番楽そうなのがこれだったので。」
「ええー…。薬草探しとかの方が楽だと思うけど…。」
「この辺りだと指定の薬草とかを探すより、魔物との遭遇率の方が高いと思いまして。」
「それはそうだけど…、危ないよ?採取なら魔物が出たら走って逃げればいいし…。」
「街の近くじゃなければ、走って逃げた方が危ない気がしますが…。」
「そ、そうなの!?」
「例えば…ヴォルフと森の中で駆けっこして勝てますか?」
「無理よそんなの。」
「…勝てる。」
「いや、お姉ちゃんはそうだろうけど。」
「…アリスも勝てるよ?」
「うん、そうだけど今は一般的な人の話だからね?」
「森の中、というのが少々厄介だな。」
「走って音を立てれば他の魔物にも気づかれてしまうものね。
村では目を逸らさずゆっくり後退しろと教えられたわ。」
「そんなのでいいの?」
「相手が弱い魔物なら、ですけどね。」
「強い魔物だと?」
「祈って走るしかないです。」
「それじゃあダメじゃない!」
「街の周辺ならそこまでの魔物は出ないから大丈夫ですよ。
もし出れば冒険者が我先にと狩りに行くでしょうし。」
「冒険者って変わってるのね…。」
「それより、マルネ先輩も依頼を探しに来られたのでは?」
「いけない、そうだったわ!」
「学生用の依頼…もうほとんど残ってないみたいですけど…。」
「っ!!ちょ、ちょっと見てくる!!」
マルネは席から立ち上がると、掲示板前の人だかりに突っ込んで行った。
「…えっと、それじゃあ私たちはこの依頼で良いかな?」
「私はそれで構わない、採取などは正直その…面倒だしな。」
「私も構わないわ。薬草なんかは確認しておくしね。
もし採取の依頼をするなら周辺の探索が終わってからにしましょう。」
「…それでいい。」
「異議なーし。」
「ぉ…お任せ、します。」
「じゃあここで待ってて。依頼を受けてくるよ。」
依頼の受注を済ませ、席へ戻ってくると、もみくちゃにされたマルネが座っていた。
「うぅ~どうしよ~。」
「ど、どうかしたんですか?」
「出来そうな依頼がもう残って無いの…。」
「どんなのが残ってるんです?」
「採取の依頼なんだけど、どれも危険なのばっかり…だから残ってるんだけど…はぁ…。
またテリカちゃんに怒られる~…。」
「そんなに危険な依頼なんですか?」
「何箇所か回らないといけないんだけど、魔物が出易い所を通らないとダメなの。」
「場所は分かってるんですか?」
「それは大丈夫なんだけど…。やっぱり危ないかなぁ…。」
「なら私達が護衛でついて行きましょうか?」
「いいの!?」
「は、はい。そこには行ったことは無いと思うので…。」
「依頼受けてくる!」
マルネは人がまばらになった掲示板から吟味して一枚剥がし、受注手続きを行うため受付に向かった。。
「周辺の探索は良いのか?」
「それはまた別の機会でもいいかなと思って。
行った事の無い場所だろうし、目的から外れてるとも言い難いしね。
それに、ついて行けば採取場所も分かるから。」
「そうね、白紙の状態で探すよりも効率的だわ。」
受注を済ませたマルネが息を切らせて戻ってくる。
「う、受けて来たわ…。ちょ、ちょっと待ってて、私のパーティの子も呼んでくるから!」
そしてそのままギルドを飛び出して行ってしまった。
「…もう少しゆっくり出来そうね、飲み物を買ってくるわ。」
フィーが三つ目のパフェを注文しようとした時、ギルドの入り口からマルネが姿を現す。
「ごめんね、遅くなっちゃって。」
マルネの後ろには女の子が三人。彼女らがパーティメンバーのようだ。
「この子たちがマルネの言ってた護衛?」
「うん、そうだよ。この子たちすご…あいたっ!」
マルネの頭頂部にゴンと拳が振り下ろされた。
「本っ当にごめんなさいね、あなた達。マルネが無理に頼んでしまったのでしょう?」
マルネに拳骨した子とは別の女の子が頭を下げる。
拍子に育った果実がゆさゆさと揺れた。
「いったーい、テリカちゃん何するのー!」
「マルネ、あんたこんな子達を護衛にしようって何考えてんのさ!」
「だ、だからぁ…。」
「そうですよ、マルネ。よく見れば一年生の子たちではないですか。」
「うぅ…レーゼちゃんまで…。」
「あ、あのー…?」
「ごめんなさいね、マルネがご迷惑をお掛けして。こちらの依頼は破棄させます。」
再度、揺れる。
「い、いえ、そうではなくて…。」
事情をかいつまんで説明する。
「それでは…本当にあなた方が護衛を…?」
「はい、提案もこちらからですので、その…。」
こめかみグリグリから解放されるマルネ。
「だ、だから最初に言ったのにぃ~。」
「一年生の子だなんて聞いてないよ。」
「そうですよ、一年生の子を危険に晒す訳にはいきません。」
「そんなに危険なんですか?」
「ええ、何度か行った事がある場所なのだけど、魔物に遭わなかった事は無かったですわ。
それで危険なので其処には行かないという事になったのですが…。」
「遭遇した魔物っていうのは?」
「ゴブリン、コボルド、ヴォルフ…それにオークなんかもいました。」
どれもランクDの依頼で見かけた魔物だ。
「それくらいなら問題ありません。」
「それくらいって…どれも冒険者の方が相手にするような魔物ですよ!?」
「あ~…、レーゼちゃん。その子、冒険者なんだよ。ランクCの。」
「嘘…ですよね?」
「い、いやいやホントだって!あれ見せてあげてよ、アリスちゃん!」
「…”情報”。」
ギルド証の情報を表示し、全員に見えるように見せる。
「ランク…C…間違いない、ですね。」
「こんな小さな子が…かい?」
「ほらー、言った通りでしょ!ミゼルちゃんも何か言ってあげてよ!って何食べてんの!?」
ミゼルと呼ばれた女の子はフィーと並んで座り、いつのまに買ってきたのかパフェを突いている。
「パフェだよぉ~。おいしい~。」
「そうじゃなくてぇ!」
「…なんの話だっけ~?」
「マルネ…ややこしくなるんだからミゼルに話を振るんじゃないよ。ミゼルはパフェ食って黙ってな。」
「うぅ…。」
「ふぁ~い。ぱく。」
「えーと、それで依頼はどうするんだい?」
「破棄しましょう。いくら冒険者とはいえ一年の小さな子に危険な事はさせられません。」
「…そうだねぇ、やっぱり破棄するしかないか。」
「で、でもそれじゃあお金どうするの?」
「別にあと半月くらいは大丈夫だろう?」
「心許ないのは確かですが、命には代えられません。」
「あのー、いいですか?」
「どうしたの、アリスちゃん?」
「どちらにしろ私達はこの依頼をこなすつもりなので、魔物と遭遇できるなら大歓迎なのですが。」
自分達の受けている依頼書を見せる。
「随分安いの依頼じゃないか。こんなの受けたのかい?」
「周辺の探索ついでに気軽に出来そうなのがこれだったので、
先輩方に案内して貰えるなら心強いです。」
マルネ達は顔を見合わせる。
「申し出は有難いのですが、その…失礼ですが…本当に大丈夫なのですか?」
「はい、もし先輩方が危険だと判断されれば、その時は引き返します。」
「…分かりました。それでは準備をして学院の門の所で落ち合いましょう。」
こうして俺たちは準備のために学院寮へと戻った。
部屋で各々準備を進める。
「少し揉めていたみたいだけど、丸く収まって良かったわ。」
「うん、皆良い人そうだったね。」
「リーフとフラムは大丈夫なのか?」
「私は村で魔物討伐隊に参加していたから、ヴォルフくらいなら問題ないわ。」
「ぇ…ぁ…わ、私…は…………ご、ごめん、なさぃ。」
「気にしないで。フラムのフォローには私が入るから、ヒノカ達は好きに戦ってくれたらいいよ。」
「ふむ、ならこちらは役割を決めて動いてみようか。」
「役割…ね、フィーとニーナが前線、ヒノカが私の守りで私は魔法で前線を援護、というところかしら?」
「それが最善だろうな、私としては前線に立ちたいが。」
「そんなことしなくてもボク達なら大丈夫じゃない?」
「だからこそ、だ。普段から出来ていなければ、いざという時にも出来ないだろう?」
「…連携は大事。先生が言ってた。」
「よし…っと、皆忘れ物は無い?」
「大丈夫よ。」
「問題無い。」
「…うん。」
「準備完了だよ!」
「だ、大丈夫…です。」
「じゃあ待ち合わせ場所に急ぎましょう。」
学院の門の近くにはすでにマルネ達が待っていた。
「お待たせしてすみません。」
「ううん、私達もついさっき来たところだよ。」
「日も高くなってきましたし、少し急ぎましょう。」
「レーゼちゃん、その前に忘れてる事があるよ。」
「あら、何か忘れていましたか…?」
「自己紹介だよ!」
「うふふ、そうでしたわね。私はレミューゼ。レーゼと呼んで下さいね。」
「アーテリカ。テリカと呼んでくれ。」
「ミゼルはミゼルだよ~。」
こちらも各々名乗り、自己紹介を終える。
「それでは皆さん、少し急ぎ足で参りましょう。
最初の採取場所までに休憩出来るところがあるので、お昼はそこで。」
「「「「「はーい。」」」」」
全員で街道を進む。
道は舗装されて歩き易いが、少し外れるとそこはもう森の中だ。
太陽が真上を過ぎても街道を歩き続けると、休憩所が見えてきた。
「お昼はあそこで摂りましょう。」
休憩所に着くと全員で腰を下ろす。
「ふーっ、やっと着いたー。やっぱ馬車欲しいよねー。」
「そうですけど、お金が掛かってしまいますからね。」
「ですよねー。」
そんな会話をしながら昼食の準備を行う。
と言っても俺達はカロリー棒を取り出すだけだが。
「貴方達…お昼はそれだけ?」
「そうですよ。荷物が嵩張ると動き辛くなってしまうので。」
「ダメよ、そんなのじゃあ!私達のを分けてあげるから一緒に食べましょう?」
「それだと先輩達の分が…。」
「うーん、それならその携帯食を分けてくれればいいわ。そうしましょう!」
「そうだよ、こっち座りなよ。」
「じゃ、じゃあお願いします。」
皆でシートの上に座っていく。
俺も座ろうとシートに足を踏み入れるとむんずと腕を掴まれる。
「うふふ、アリスちゃんはこっちよ。」
「え…?え…?」
そのまま引っ張られレーゼの膝の上に座らされた。
「あ、あのー…?」
後ろからギュッと抱きつかれ二つの柔らかい塊に埋もれそうになる。
「やっぱり可愛いわー、アリスちゃん!」
広げられたマルネ達のバスケットには色々なサンドイッチがギッシリと詰まっている。
四人で食べるにしても量が多い。
「お弁当はいつもレーゼちゃんが作ってくれるんだけど、なんか今日は量が多いような…。」
「いや、明らかに多いな…。」
「ミゼルは多い方が嬉しいな~。」
「うふふ、今日は可愛い子が沢山いるから張り切りすぎてしまいまして。」
赤らめた頬を両手で隠すレーゼ、だが俺の身体はしっかりとホールドされている。
フィー達の方に目を向けるが、巻き込まれない為にか、誰も目を合わせてくれない。
「それじゃあアリスちゃん、どれが食べたい?」
「え、えっと…玉子のを…。」
レーゼはバスケットからたまごサンドを取ると俺の口元へ運ぶ。
「はい、あーん。」
「………………………………………ぁーん。」
(美味いけれども…。なんだ、なんなんだこの仕打ちは。
…我々の業界ではご褒美と言われればそうだが…!………なんかもうしにたい。)
ギッシリと詰まっていたバスケットも空になり、昼食の後片付けを行う。
休憩所はすっかり元通りの姿に戻った。
「さて、そろそろ行きましょうか。ここからは森の中を進んで行きますよ。」
レーゼは休憩所の奥へ進み、簡易な柵に沿って何かを探し始めた。
「えっと…あ、ありました。この獣道を辿って行きます。」
レーゼの示した場所を見ると、確かに獣道が森に飲み込まれる様に続いている。
俺達はレーゼの案内で森の中へと足を踏み入れたのだった。




