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10話

「くっ、難しいな…。」

「う~、なんでこんなのでつかめるのー?」

「むぅ~…。」

三人は今部屋で箸の練習中だ。

食事のたびに視線を受けるのが流石に辛いので、さっさと覚えるか諦めてもらおうとしている。

練習方法はビスケットを小さく割って小皿に載せ、もう一方の小皿に箸で移す、というよくあるものだ。

ヒノカはともかく、フィーとニーナは覚える必要ない筈なのだが、諦める気配は無い。

現在は練習三日目ということもあり、三人ともなんとか様になってきている。

ヒノカの箸の持ち方も矯正でき、皆あとは慣れの問題だろう。

「皆持ち方もちゃんと出来てるし、あとは慣れだね。というわけで、一応練習は今日で終わりね。」

「はーい。」

「…うん、分かった。」

「うむ、そうだな。世話になった。」

各々片づけを行い、テーブルに着き直す。

「んー、今日はどうしよう?」

退屈そうにニーナが会話の口火を切る。

「ふむ、折角冒険者ギルドに登録できたのだ、依頼を受けてみないか?」

「おお、いいねー!」

確かに、あれからギルドにも行っていないし、ちょうどいいかもしれない。

「そうだね、依頼の確認をして、いけそうなのがあれば受けよう。」

「よっし、じゃあさっそく行こう!」

ニーナがバッと立ち上がり支度をはじめる。元気だなぁ。


「うーん、やっぱり討伐系かな。」

学生用掲示板前には学生だろう人物がちらほらと居る、ほとんどが15歳以上だろう。

冒険者用の掲示板前には人がいない、学院は地理的に僻地なため冒険者が少ないようだ、討伐系の依頼は減っている気配がない。

学生用の依頼は残り少なく、面倒そうなものしか残っていない。

「しかし、討伐系だと私たちのランクが足りないようだが?」

「私がランクCだから、ランクDまでなら皆と一緒に受けられるよ。」

ギルドのランク規定では、ランク混合でパーティを組む場合、パーティ内の最高ランクから1ランク落とした依頼までが受けられるようになっている。

あまりにもランクが離れている場合は受けられない場合もあるが、俺達ぐらいなら問題ない範囲だ。

「ふむ、それならランクDの依頼を見ていけば良いのだな。」

俺とヒノカは掲示板と睨めっこしながら依頼を厳選していく。

ニーナは依頼書の文字を読むのに飽きたのか、早々にリタイアして休憩スペースで焼き串を頬張っている。

フィーはニーナに引きずられていった。


「これがいいかな。」

俺は一枚の依頼書を手に取る。

内容はレンシア周辺の森のヴォルフ10体の討伐。

その名の通り狼型で、長い髭をもった魔物だ。

「アリスはその魔物を知っているのか?」

「うん、お父さんと一緒に狩った事があるよ。」

エルクと狩りを行った時はかなり楽に終わらせることができた依頼で、報酬もよかったのを覚えている。

「ふむ、それならこの依頼でいこう。」

ヒノカの了解も得られる事が出来たので、フィーとニーナを呼び、依頼書を持って四人で依頼を受けた。

「さて、これからどうするんだ?」

「必要なものがあるからとりあえず買い物かな。」

「じゃあ、スーパー行くの?」

「いや、あそこには売ってないと思うから街を回らないとね。」

「…何を買うの?」

「ちょっと特殊な肉を。ヴォルフを誘き寄せるのに使うんだ。」

そんな会話をしながら街を散策し、目当てのものを購入する。

「うわー…、すごい臭い…。」

「ヴォルフがこの臭い好きみたいなんだよね。これを持って森をうろつけばすぐにヴォルフが襲ってくるよ。」

「そこを撃退するのか。」

「そういう事。あとは寮に戻って野営の準備をしてから行こう。明日の朝出発でもいいけど、どうする?」

「こんな臭いの部屋に置いておきたくないし、すぐ行こう!」

「そうだな…。」

「…ぅぅ。」

「分かったよ。準備できたらすぐ行こう。」

俺達は寮へと戻り、それぞれ支度を整え、街から出る。

街門はギルド証があればあっさり通れるので便利だ。

「ふふふ、これから冒険だね!」

「…楽しみ。」

街門を出たところでフィーとニーナがはしゃいでいる。

「すぐに森に入るのか?」

外壁の周りは街道部分以外は木々に覆われており、すぐに森になっている。

「いや、少し街道を進んでからにしよう。街の周りだと迷惑が掛かるかもしれないしね。」

「ふむ、それもそうか。ならゆっくりと進むとしようか。」

それぞれの荷物を背負い、街道を歩き出す。

一時間ほど進み、一度足を止める。

「この辺でいいかな、そろそろ森に入ろう。」

「ああ、分かった。」

「りょうかーい。」

「…うん。」

森の中は視界が悪く、腐葉土となっている足場は柔らかくなっており、足をとられる。

しばらく森を進み、荷物を開けて肉を取り出す。

「うっ、やっぱり臭い!」

鼻をつまんで退避するニーナ。その後ろにはフィーがいる。

「それをどうするのだ?」

俺は近くの木から手ごろな枝を折り、その枝で肉を突き刺す。

しっかり刺さった事を確認して、肉が上に来るように枝を持ち上げる。

「これでしばらく森を歩いていればヴォルフが寄ってくる…はず。」

「ふむ、少々臭うが仕方あるまい。」

肉を掲げたまま更に森の奥へと入っていく。

一時間も経たないうちに俺たちは包囲されていた。

「…少々多くないか?」

見える数だけでも20頭は越えている。森の奥の方は…数えたくないな。

「うーん、ちょっと集めすぎたかも…。とりあえず肉はもう要らないね。」

俺は魔力の炎を操り、手に持った枝ごと肉を消滅させた。

燃え上がった火柱にヴォルフ達は一瞬怯むが、立ち直ると敵意を剥き出しにして徐々に包囲を狭めてくる。

「どうするのだ?流石にこの数は不味いぞ?」

音もなく刀を抜いて構えるヒノカだが、若干焦りの色が見える。

ニーナとフィーはいつも通り、気負った様子もない。

「フフフ、ようやくおばあさまに一歩近づけるね。」

「―――。」

ニーナとフィーは鞘から剣を抜き、正眼に構える。

(あれ訓練用の剣じゃねーか!)

二人とも村から持ってきた訓練用の刃を潰した剣を構えているのだ。

(すっかり忘れてたな…。)

幸い、足元には土が豊富にある。隙を見て創るしかないようだ。

(とりあえずは…!)

俺は地面に手を着き、魔力を操って若干広い場所に土壁を作り出す。

「皆、壁を使って背後を取られないようね!」

そう叫んで俺は壁に駆け寄り、背を付ける。

俺が動いたと同時に三人も動き、ヴォルフ達が一斉に襲い掛かってきた。

もう一度地面に手を着き、今度はドーベルマンのゴーレムを三体作り出して三人のサポートを行うよう命令する。

「ハッ!」

ヒノカが刀を一閃すると、ヴォルフの胴体が綺麗に斬り分けられる。

流れるように身体を捌きヴォルフの攻撃を紙一重で躱し、刃を踊らせる。

ゴーレムはヒノカに向かう敵を減らすため少し離れてヴォルフの相手をしている。

「とりゃ!」

ゴッ!!

ニーナの振るった剣がヴォルフに直撃し、鈍い音を立てる。

「”風切(ウィルディン)”!」

衝撃で大きく態勢を崩したヴォルフに風の魔法で追い打ちをかける。

動けないヴォルフはその身で魔法をまともに受け、首を切り落とされた。

絶命したヴォルフを越え、すぐに次の敵がニーナに襲い掛かる。

爪での攻撃を後ろへ跳ぶ事で躱し、ニーナの居た場所へ入れ替わるようにゴーレムが突撃していく。

「――ッ!!」

ボギィッ!!!

ニーナよりも更に嫌な音を奏でているのはフィーだ。

全身を強化し、風よりも速く間合いを詰めて剣を振るう。

フィーの速度に対応できないヴォルフ達は成す術なく、フィーの剣によって真っ二つに”折”られていく。

地面には数体の折れ曲がったヴォルフの死体が転がっている。

ゴーレムはフィーから離れ、別の群れに対応していた。

皆の戦いを見ながら俺は魔力を練り上げ、フィーとニーナの剣を形作っていく。

見た目は訓練用の剣と変わりないが、刃は鋭く丈夫になっている。

出来上がった剣を適当な場所にに突き刺しておく。

「お姉ちゃん、ニーナ、新しい剣作っておいたから!」

二人に声をかけ、俺も刀を抜いて臨戦態勢に入った。

まだ様子を窺っている群れを見つけるとそこへ突っ込んで行く。

手のひら大に圧縮した魔力の塊を群れへ放ち、爆散させる。

群れに大きな穴が空き、残ったヴォルフ達が一斉に俺に襲い掛かってくる。

中距離から魔力の触手で串刺しにし、撃ち漏らしたものは刀で首を刎ねていく。

「「「ウオォォォーーーーン!!」」」

20頭ほど倒したあたりで何匹かのヴォルフが遠吠えを行う。

それを皮切りにヴォルフ達は反転し、撤退を始めた。

俺たちは群れの撤退を邪魔せず静観し、辺りに気配を感じられなくなったと同時に息を吐く。

「ふぅ…、撤退してくれて良かった。」

「そうだな、あの数は流石に肝が冷えた。」

「あ~疲れた~。」

「…怖かった。」

各々警戒を解き、肩の力を抜く。

「でも大変なのはこれからだよ…。」

「どういう事だ?」

俺は周りを見渡して答える。

「とりあえず耳と牙を集めて使えそうな毛皮を剥がないとね…。」

同じ様に周りを見渡した三人は同時に溜め息を吐くのだった。


日はすっかり落ち、焚き火の明かりが周りを照らしている。

テントと結界を張り、野営の準備は万端だ。

「あ~、もう毛皮なんて見たくもない。」

倒した数は83頭、大体一人20頭倒した計算だ。

その内の半分ほどは毛皮が綺麗な状態だったため、毛皮を剥がし、急遽作った荷車に83頭分の牙とともに載せてある。

「同感だ。」

先ほどまで行っていた作業を思い返し、ヒノカはしみじみと答えた。

「まぁ、みんな無事で良かったよ。まさかあんなに集まるとは思わなかった。ごめんね、みんな。」

「父上とも同じ方法で狩っていたのだろう?それなら仕方あるまい。」

「うん、向こうでやった時は精々15頭ぐらいしか集まらなかったんだよ。」

「まぁいいじゃん。これだけあれば結構お金になるんでしょ?」

「素材を売れば報酬と合わせて銀貨10枚は越えるんじゃないかな。」

「おぉ~、それならまたパーティしようよ!」

「そうだね、報告が終わったらスーパーに寄って帰ろう。」

「またお菓子買わないとね!」

さっきまでのローテンションはどこへやら、ニーナは元気だなぁ。

「…(はむはむ)、おいひぃ。」

フィーはマイペースにカロリー棒を齧っていた。



ざわざわ…。

まだ早朝だというのに、人と荷物で溢れかえっている。

此処はギルドの裏手にある搬入口だ。

納品物が多かったりする場合は此処へ持って来る事になっている。

流石に毛皮40枚は持って入れないので、荷車を引いてこちらに回っている。

「次の方、どうぞ!」

どうやら俺達の番のようだ。

「お願いします。」

依頼書と一緒に荷物を引き渡す。

「ああ、はい。どれどれ…。ヴォルフ10頭討伐ね。こりゃ数えるまでもないね…っと。」

ポンと依頼完了の印を押され、依頼書を返される。

「素材は全部ギルド引き取りで良いかい?」

「はい、お願いします。」

ギルド引き取りは割安だが、自分で売り歩かなくて良い為、こちらを選択する人が多い。

俺も勿論ギルド引き取り派だ。めんどいし。

エルクはコミュ力が高い為、自分で売りに行くことが多く、ギルド引き取りよりも三~四割増しで儲ける事が多かった。

地道な活動が大事なのだそうだ。

「全部で銀貨10枚ってとこだね。問題ないかい?」

依頼報酬と合わせて13枚、予想通りだ。

「はい、ありがとうございました。」

「ああ、また頼むよ。報告は忘れずにね。」


銀貨を受け取った後、俺達は正面からギルドに入った。

朝方ということもあり、昨日よりも人が多い。

学生が多いとはいえ、俺達の年齢だとここでも目立つようだ。

ギルドに入った瞬間から多くの視線がこちらに向けられている。

俺としては慣れたものなので、そのまま無視して受付へ依頼書を提出。

後ろの三人は落ち着かないようで、ソワソワとしている。


「依頼の完了確認しました。お疲れ様でした。」

報酬を受け取り、俺達はそのままギルドを出ようとした時、目の端でこちらへと向かってくる人影を捉えた。

こちらを見下し、高圧的な笑みを浮かべている。

年齢的には14~16といったところか。

絡んでくる気満々のようである。

「おい、待ゴフッ!!」

とりあえず触手で軽く殴って黙らせる。

「お、おい、どうしたんだよ、大丈夫か!?」

突然膝を崩して倒れた学生を支えるパーティメンバーっぽい人。

「ん、どうしたんだ?誰か倒れているぞ?学生のようだが。」

騒ぎの方を気付いたヒノカが心配そうに眺めている。

「さぁ、立ち眩みじゃないかな?」

適当に答えておく。

「ふむ、勉強ばかりではいかんな。私も気をつけねば。」

一人で納得したヒノカはうむ、と頷いている。

「あぁ、すまないな。あとはスーパーに寄って寮に戻るんだったな。」

「…と、その前にお金分けておくね。」

一人銀貨3枚ずつ渡していく。

「余った一枚はパーティーの資金でいいかな?」

「さんせーい!」

「うむ、それが良いだろう。」

「…おなかすいた。」



「ふあ~~…。」

窓から差し込む日の光で目が覚める。

昨日のパーティーで夜遅くまではしゃいでいたため、時間は昼前くらいだろうか。

フィーとニーナはまだぐっすりと眠っている。

ヒノカは…、外から素振りの音が聞こえるので訓練中だろう。

俺は目を醒ますために顔を洗ってから着替え、外に出る。

思った通り、そこではヒノカが訓練中だった。

流れるような足捌きから放たれる力強くも美しい太刀筋は、さながら剣舞のようだ。

「起きたか、アリス。」

音もなく刀を納め、こちらへと向き直る。

「おはよう、邪魔だったかな?」

「構わない。ちょうど終わるところだったしな。」

「そっか、朝から精が出るね?」

「フフ、頑張らねばお前たちに置いて行かれそうだからな。」

楽しげな笑みをこぼしながらそう呟く。

「その割には随分楽しそうだけど…。」

「ああ、楽しいぞ。お前たちを見ていると、私の腕などまだまだだと思えてな。」

「あ、あはは…それは買い被り過ぎだよ…。」

「そうでもない。もしお前たちが大会に出ていれば、私は優勝出来なかっただろう。」

「そ、そうかなぁ…。」

「ああ、私の見立てではアリスが優勝だ。12歳になったら参加してみればいいんじゃないか?」

「え…私は東の国出身じゃないけど、いいの?」

「力を示せば参加可能だ。私の時も他国の者が数人いたぞ。」

「それならまずはお姉ちゃんとニーナだね。」

「そうだな、その時になったら連れて行ってみよう。内緒でな。」

「あはは、きっとビックリするよ。」

「で…だ、これから暇か?」

「うん、今日は特に用事は無いよ。」

「それなら一戦頼めるか?」

手合せしろということらしい、体育会系だなぁと苦笑しつつ承諾する。

それからフィーとニーナの起きてくる昼過ぎまで剣戟が鳴り響いていた。


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