表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/48

1話

学院編からでも読めます。

 ―――ふわふわとした浮遊感を感じ、徐々に意識が覚醒してくる。

 目を開くと、周囲は白一色の景色。

 それがどこまでも広がっている。

 上下左右、そんな感覚すら感じられない。


 ここはどこだろう?と考えると同時に、夢だと考えた。

 夢の中なのに意識がはっきりとしている。これは明晰夢というやつだ、きっと。

 それならばと、まずは身体を動かしてみようと力を込めた。


 ・・・あれ?


 身体はピクリとも動かない、声も出ない。

 これでは何も出来ないではないか。

 目覚ましに起こされるまでどう過ごすか思案していると、不意に女性の声が聞こえてきた。


 「こんにちは。」


 振り向くように意識して視線を動かすと、逆さまに立った女性の姿が見えた。


 一言で言うなら、美女。

 さらさらブロンドのロングヘアー。

 出るべきところは出て、引っ込むべきところは引っ込んでいるナイスなバデー。

 スラリと伸びた長い足。

 歳は20を越えたくらいだろうか。

 キリリとした眼差しで手に持った書類とこちらを交互に窺っている。


 そんな彼女を眺める俺にさらに言葉を続ける。


 「ここは夢の中ではありませんよ。」

 (・・・夢じゃない?じゃあここは何処なんですか?)


 俺は反射的に聞き返したが、言葉に出来ない思考になるだけだ。

 だが彼女はそれに答える。


 「そうですね、ここは死後の世界と言ったところでしょうか。」


 死後の世界、確かにそう言った。

 訳が分からない。理解したくない。

 錯乱する俺に彼女は説明を続ける。


 「本来ならもっと時間を掛けるのですが、あなたにはすぐに転生していただきます。」


 混乱状態でも彼女の言葉を思考の片隅で噛み砕いていく。

 それでも、あまりに情報が足りない。

 彼女に聞けば分かるかと、口を開こうとするが、それが叶わない事を思い出す。

 どうすれば会話出来るだろうか。

 そんな俺の思考に彼女は首を傾げながら答えを返す。


 「魂の状態であれば思考を読むことができますので、問題ありませんよ。」


 それなら早速と、情報を聞き出すことにする。

 まず、知りたいのは自分の死因だ。

 持病もないし、そこそこは健康だった、いきなり死ぬほどでは無いはずだ。


 (俺の死因は?車にでも轢かれた?まさか病気とか?)

 「死因はありません。」


 それはおかしい、先ほど死んでいると言ったではないか。

 俺のそんな思考を無視し、彼女は言葉を続けた。


 「厳密に言えば身体は死んで魂はまだ生きている状態になっています。」


 どういう事だと聞き返す前に、彼女が悪びれもなく答える。


 「あなたは特殊転生対象者ですので、寝ているところを魂だけ抜き取ってここに連れて来ました。」


 随分と身勝手な事をしてくれたものだ。

 自然と思考の声も大きくなる。


 (いやいやいや!何それ!何勝手に魂抜いてんの!?)

 「事前告知などすれば抵抗される恐れがありますから。」


 大きくなった思考の声にも平然とした顔で彼女は言ってのけた。

 それはそうだ。殺すと言われれば抵抗する。


 (するよ!全力で!てか今から戻せば生き返れるんじゃないの!?)


 喚く俺に彼女の態度は変わらず、言葉を続けた。


 「私にはそのような権限はありません。それに、もし戻れたとしても障害など残る可能性もありますよ?」


 そう言われては少し二の足を踏んでしまう。

 とりあえず諸々を飲み込み、冷静にと自分に言い聞かせて質問を続ける。


 (その・・・特殊転生とは何ですか?)

 「前世の記憶を引き継いで生まれ変わる事ですね。」


 昔テレビで誰かの生まれ変わりの人間だとかを特集していたのを思い出した。

 だが特別に自分が何かをしたような覚えはない。

 普通より少し下の人間だった。


 (何故その対象が俺に?特に何かした覚えは無いんだけど・・・。)


 俺の問いに彼女は手元の書類を見ながら答えた。


 「魔力過多、ですね。」


 ”魔力”その言葉に黒い歴史が蘇るが、そんなものは持っていない。

 俺には無かったのだ。


 (俺にそんなものはありませんよ?)


 しかし、彼女はそれを否定する。


 「いいえ、かなりの量です。私が担当した方々の中でも多い方ですね。」


 方々、ということはもしかして―――


 (複数いるんですか?俺と同じような人が。)

 「はい、ここ十数年で増加傾向にあります。」


 帰ってきた肯定の返事。

 俺だけではない。悔しいような、嬉しいような感覚。

 もう一つの疑問が湧いてくる。

 何故、魔力を持っていたくらいで殺されなければならない?その彼らも。


 「あなたの魂が亡くなってしまった場合、魂に溜まっている魔力が解放、拡散されます。

それだけならば問題は無いのですが・・・、簡単に言うと今あなたの住んでいる世界に悪影響が出てしまうのです。」


 俺の魂が死ねば、世界に悪影響が出る。

 簡単な答えだ。


 「そのため対処療法ではありますが、魔力を持たせたまま魂ごと別の世界へ転生させるのです。」


 魔力を持ったまま転生?だがそれではその別の世界が危ないのでは?


 「あちらは元々魔力の溢れる世界ですから、問題ありません。受け入れ体制も整っています。」


 彼女の言葉をオウム返しする。


 (受け入れ体制?)

 「はい、マニュアルにはこういう言葉が載っています。

『転生先は剣と魔法の異世界ですよ?』『冒険者ギルド完備!』『魔法学校もあるよ!』

私にはよく理解できませんが。」


 更に彼女は続ける。


 「ですが、特殊転生は強制ではありません。転生しない場合は―――」


 その後の彼女の言葉など耳に届いていなかった。

 俺の答えは既に決まっていたのだ。



*****



 胸躍る感覚。

 剣と魔法の異世界へ転生。一世一代のビッグイベントだ。

 代償は自分の身体だったが、もうどうでも良い。

 俺は必ず異世界で活躍して美少女ハーレムを作る。

 ずっと以前、思い描いていた漆黒の歴史のように。


 今はお姉さんに転生の手続きをして貰っている。

 本来は数十年単位かけて行うものだそうで、その手続きを一気にやっているのだという。

 だが、時折どこからかワープしてくる書類をチェックしてサインしているだけなので、結構暇そうだ。

 そこで気になっていることを聞いてみる。


 (魔力を持った人が増えているのは、何か原因があるんですか?)

 「30歳を越えていて童貞だからです。」


 意味不明な答え。理解するまで数秒を要する。


 (え、それ冗談ですか?30越えて童貞だったら魔法使いになれるって本当だったんですか?)


 それなら俺が魔力を持っているというのも納得できる。

 でもそれは都市伝説どころか、ただのネタではないか。


 「あなたの住んでいた国には言霊というシステムがあるのは知っていますね?」


 それは知っている。システムではないと思うが。

 確か―――


 (言葉が力になるって感じの・・・ですよね。)

 「そうです、その言霊システムを使って神々が広めました。」


 神様が・・・広めた?

 その答えに一瞬言葉を失う。


 (何やってんの神様!何でそんなことしちゃったの!戯れ!?)

 「神魔大戦での戦力確保のためです。」


 どこかで聞いた事があるような単語。自分のノートに書いていた気がする。


 (神族と魔族との戦争的な?)

 「その通りです。ただ、地球から徴兵した者は魔力が扱えなかったため、ほとんど戦力にならなかったのです。」


 地球の人間に魔力があるなんて聞いたこと無いしな。

 超能力とかはあるけど、テレビで見たようなのだと戦えそうにない。


 (それで言霊システムとやらで・・・。でもどうしてそんな条件に?)

 「失くすものは無いだろう、と神々がお決めになりました。」


 なにそれひどい。


 「成果は想像以上のものでした。中でも『竜の化身』、『暗黒閃光騎士』、『紅き勇者』と呼ばれる方々は強大な魔力を軽々と操り、戦果を挙げていました。今では神となって新しい世界を創造しておられます。」


 すごく中二病っぽい方々だ。人の事は言えないか。


 「そして戦争は終結しました。ただ徴兵のために使った言霊は人々に根付いてしまい、消去することができずに今に至るというわけです。」


 という事は・・・だ。


 (全部お前らの所為じゃねーか!!とんだとばっちりだよ!!)


 だが、おかげで異世界転生などというイベントにありつけたのだ。

 ここは感謝しておこう。



*****



 どれほどの時間が経ったかは分からないが、手続きが完了したようだ。


 「準備ができましたのでこちらへ。」


 言われるままに着いて行く。

 しばらく進むとお姉さんが立ち止まり、宙に手をかざすと黒い穴が現れた。


 「では、ここにお入りください。」


 穴の前まで進み、お姉さんの方を見る。


 「どうかしましたか?」


 お姉さんに向かって頭を下げた。つもりだ。


 (色々とありがとうございました。)

 「これも仕事ですので。行ってらっしゃいませ。」


 そう答えたお姉さんの笑みは綺麗なものだった。


 (行ってきます!)


 短く答えて、穴へと飛び込む。

 ぐにゃぐにゃとした気持ちいいのか悪いのか、不思議な感覚が俺を襲う。

 お姉さんの名前ぐらい聞いておけば良かったな。

 そんなことを考えながら闇の中をどこまでも落ちていった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ