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黄色

今回長いっす。

 もし、今自分の思い描いている絵をこのキャンバスに描くことができたなら…。

 この世の中にまるっきり同じ絵は存在しない。だから、今描いている絵をもう一度描こうと思っても、絶対に同じ絵にはならない。だからこそ、今この絵に全力を注ぐ、今しか描けない絵を今描く。

 まぁ、これが今の私が絵を描くのが大好きな理由。

 ただ単に絵を描くのに没頭するといろいろなことを忘れられるからでもあるんだけど。

 自分の頭の中のイメージをちゃんとキャンバスに描けたときの達成感はとても気持ちがいい。

 だから私は、絵を描き続ける。



 小学校のころから絵を描くのが得意で、小学校の写生大会でも銀賞や金賞をとっていた私は、中学に入っても、美術部に入った。

 このころ絵が好きだった理由は、みんなが褒めてくれるから。単に友達とか親から、私の絵を見て、『すごーい』とか言ってもらえるととてもうれしくて、時間を忘れて私は絵を描いていた。

 でも、中学に入った私は早々に挫折を味わうことになる。きっと私のように粋がった、絵がうまいつもりの子たちが真っ先に味わう挫折だ。

 要するに、「何この絵のうまい子たち」ってこと。

 私は自分で自分の絵はそれなりにうまい方だと思っていたけど、それはこの美術部では並みだった。まぁ、これは当たり前だろう。ほかのみんなだって絵が得意だからこの美術部に入っているんだから。でもこのころの私はただただ劣等感ばかりを感じていた。

 それだけならまだ良かったのかもしれない。

 コンクールとかにその私よりも絵のうまい子が出した絵がかろうじて入賞だった、とかいう成績だったのを聞いて私はさらに驚愕した。


 信じられなかったのだ、この当たり前のことが。


 そしてきっとこのコンクールで金賞を取った子も絵を描いて生きていくことはとても難しい。

 画家として成功して、絵だけ描いて生きてますって人はごく少ないだろう。

 さらに、ミレー、モネらなど、私の尊敬するような画家たちほど有名になれる人はさらに少ない、どころかごくわずかだ。

 ましてや、才能がない自分は、日々の忙しさに遊ばれ、そしていつか絵を描くことをやめてしまうのだろうか。

 そう思い至った時に私はどうして絵を描いているんだろう、と思った。

 もう、私の絵を褒めてくれる人は少ない。

 私の絵が褒められることというのが絵を好きだった理由なので、私はだんだん絵を描きたくなくなってきた。


「もう、やめよう。この部活」

 劣等感しか感じない。その原因となった美術部をやめようと決めるのには、時間はかからなかった。絵が嫌いになってまでここにいたいわけじゃない。

 美術部を本当にやめてしまったのは中学一年生の七月。わずか、三か月の部活だった。親にこれでもか、というほど止められた。しりのけた。

 ただ、私が絵を描くことをやめることはなかった。

 美術部をやめてしまった自分はただのびのびと絵を描いていた。いつもお決まりの場所に来て、スケッチブックに風景画を描いて過ごした。


 成績が悪くなった。


 当たり前だ。勉強をせず、ずっと絵を描いているんだから。さすがに、今回は親は許してくれなかった。部活せず、成績も悪いんじゃ、どの高校にも行けない。

 分かってる。

 私は猛勉強をすることで、成績を学年中盤まで上げることができた。でも、まだ中盤だった。あれだけ頑張って中盤だよ?勉強にも才能がないとだめなのか。


 結局は才能だよ。


 才能がないから私は美術部で挫折を味わった。才能がないから勉強しても一番になれるわけじゃない。才能こそがこの世の中で一番必要なものだよ。

 

 久しぶりに描いた絵はへたくそになっていた。

 当たり前か、勉強に浮気している間に、まったく絵が描けなかったから。


 気付けば、二年の時が経っていた。


 『時は金なり』とはよく言ったものだ。絵の実力よりも、たくさんあった時間が無くなっていくことのほうがつらかった。

 周りはもう受験モードに入りつつあった。

「絵」か「勉強」か。考えるまでもなかった。両方行った。

 両方とも中途半端にしかならない。そういうことは分かっていた。でも、行った。絵を描いているときは、何も考えなくてよくなったから。…絵が好きになった。

 一枚一枚に魂を込めて描き、達成感を感じるこの瞬間が好きになった。

 絵が完成すると勉強した。

 勉強時間は一日二時間は確保していた。やっぱり、順位は上がらなかった。どの公立高校を受けるか決めてしまった。その方が勉強しやすかったからだ。


 夏休みに入った。


 毎日私はお決まりの場所に来ていた。実はここに来始めた最初の方はほかの人が座っていたりしたけど、最近になってくると私が来た瞬間にみんながその場所を空けてくれる。たまに小学生までもが場所を空けてくれる。

 迷惑だろうな。他人事のように思ってるけど…。


 ある日、私はいつものようにお決まりの場所に来ていた。

 先週から描き始めた絵は今日で描ききれそうだった。ごくありふれた風景を描いていた。

「下っ手な絵」

 後ろから聞こえた声に、私の神経は逆なでされた。

「はぁ、なんなのあんた」

 あまりにも失礼だと思うんだけど。

 私が後ろを向くと、そこには年は同じくらいで身長175cmくらいで長い脚、整った眉毛にきりりとした目、高い鼻をした、いかにもモデル雑誌に現れそうなイケメンがいた。

 あまりにもの美形で、私は少しひるんでしまった。

「遠近感が微妙だし、空の色も暗すぎる。何より、そんな遠くのものをはっきり描いてみたところで違和感しかねぇよ」

 うっ、痛いところを突かれる。

「そんな事言うんなら、自分で書いてみなさいよ」

「えー、いいけど」

 その少年はにやにやしながらそう言った。

 こんな奴にいい絵が描けるわけない。私はそう思っていた。


 そいつは鉛筆を取らずに、いきなり筆で描き始めた。

 その絵に私は息をのんだ。うまいのだ、私よりも明らかに。いや、それどころじゃない。私の学校のどの子よりも格段にうまい。

 空間把握力もそうだし、遠近感?大胆さ?どれをとってもすごいと思う。

 どっちにしろ、美術部を三か月でやめてしまった私には、その絵を「うまい」という言葉でしか表現できなかった。

「こんなもんかな」

 書き終わるまで約二時間かかった。とても、二時間の出来とは思えなかった。

 才能だ。私にはない圧倒的な才能が彼にはあった。

「うまい…。あなた名前は?ていうか誰なの?何者なの?」

 私は少し興奮していた。こんな、才能がある人とはあったことがなかったからだ。

「何者って…。名前は自分から名乗るのが普通じゃねぇの?…我生がしょう はくだよ。」

「私は…」

「あぁ、いいよ名乗らなくて。…覚える気ないから」

 私の神経は逆なでされた。待って、今こいつから名乗れって言ったんじゃないの?

「じゃあな」

 そいつはつまらないといった顔で去って行ってしまった。思ったより暗い顔をしていた。本当に私に興味ないんだと思った。

 そう考えると私は無性にこいつを見返してやりたくなった。

 私には美術の知識もなく、ちゃんとした先生もいない。だから、絵がどうしてうまくなれないかが分からない。

 高校に入ったら、また美術部に入ろう。

 

 これが、我生 白と私の初めての出会いだった。



 高校は適当に選んだところではなく、ちゃんとした美術部があるところを選んで受験した。しかし、もちろん落ちた。意外と無理して選んだつもりだったしな…。

 よって、西夏高校に進学が決定した。

 実は、西夏高校はよく知らない。『併願校は私の実力で絶対入れるところにしてくれー』という親のお願いを先生が受け入れ勝手に受けさせられたからだ。

 入学式の初日に行われた部活紹介において私は驚愕した。


「…え?美術部ないの?」


 美術部がない…。というか紹介されなかった。

 高校は美術部にしようと決めていた私にとって驚愕だった。すぐさま、私は担任の先生にかけあってみた。

「美術部…、美術部…。あ、あった。」

「ほんとですか先生」

 この先生は今年入ってきた新人みたいで、部活表を見て言ってくれた。何でも、部活棟二階の最奥にあるみたいだった。

 本当なら、部活紹介もされず、先生が部活表を見なければ知らない部活であるという時点で不思議に思うべきだったんだろうけど…。このときはなんだあるんじゃないかと、私は意気揚々と部室に向かった。

 始まる…。高校生活が。



「…あ~、えっとね潰れるんだよ、この部活」

 私は驚愕した。

 美術部の部室は部室棟の二階の最奥にあり、もっとも立地が悪いといっていい。それが起因してか毎年新入部員が少なく、今年はもう一人しかいないそうだった。

 この美術部の部長、葛飾かつしか 広重ひろしげと名乗っていた。部長が今の美術部の置かれた状況を教えてくれた。…どうして名前を北斎にしなかったのかは気になるところだけど。

 西夏高校は、部活を存続させるには最低でも部員が4名必要だということ。去年までいた三年生が抜けて一人になってしまったので、例年入っても一人か二人しか新入部員のいないこの部活は廃部濃厚だということ。

「でもそれって、新入部員をあと二人見つけてくれば廃部にはならないってことですよね」

「まぁ、そうなんだが」

「なら、見つけてきます」

「え?」

 よーし、同じクラスのまだ部活決まってなさそうな子に話しかけてみよう。行動力大事。燃えてきた。

「え、えーと。入ってくれるのかい?」

 そういうと部長は入部届を出してきた。西夏高校で部活に入るには、入部届をその部の部長か、担任の先生に入部届を出さなければならない。多くの生徒は五月初めに担任の先生から入部届をもらい、その場で出すことになっている。

 私は入部届を受け取り自分の名前を書いて渡した。

曾和そわ 美玲みれいって読むのかい。絵がうまそうな、いい名前だね」

「そ、そうですか」

 ちょっとうれしかった。…って。

「どうして名前からうまいとか思うんですか」

「え、だってジャン=フランソワ・ミレーと名前がかぶってるじゃないか。ミレーの絵は素晴らしいよね。自然や生活、労働に対して、真摯に向き合う心情が絵に存分に表れていて、…そうだ、農夫が汗してたくましく労働する姿は世界共通で郷愁の美を感じて来るし。僕的にはあの視点誘導が…」

「もういいです…」

 いつの間にか両手を天(井)に向けて広げ、熱く語りだした。部長はちょっと変人らしかった。



「はぁ、無理だー」

 無理だった。私の実力ではもうだれもつかまらない。

 自慢じゃないけど、私は友達が少ない。そんな私が誰かを部活に誘おうと思っても苦難があった。ちなみに中学の友達のほとんどはちゃんと試験に受かったみたいで、私は一人この学校にいる。

 ちなみに、勧誘はいいとこまで行ったことは記しておく。…ほんとだよ?


 まぁ、いいか今日の勧誘終わり!

 部室に行こうっと。

 放課後になり、部室棟へ向かう。ほんとはここでだれかを連れて部室に行きたいのになぁ。勧誘を始めて一週間。部室に連れてった人もいるけど結局入ってくれずとほほだよ。

 いつも通り部室に向かうと、部室棟二階の階段に人がいた。

 かなりの美少女。ここにいるってことはもしや…。

「美術部の見学希望者?」

 私は話しかけてみた。

「え?えっと…そうじゃなくて…」

 声が小さくてよく聞こえなかったけど、多分そうだと言っている気がする。

 でも、見れば見るほど清純派美少女ってかんじだなぁ、肩ほどまで伸びたストレート黒髪に赤いメガネがとてもかわいい。なんとなくリスとかで表現されそうな子だ。

「私美術部の部員なんだ。一緒に美術部行こう」

「へ?えぇ?文学部の入部希望なんだけど…」

「レッツゴー!」

 良かった~、これで後一人連れてくれば美術部潰れずに済むなぁ。フヒヒ、にやにやが止まらない。

「………(フヒヒ?)」


「部長新入部員連れてきましたよー…って、え~~~~~!」

 おかしい。今まではちゃんと美術部なんだなと分かるくらいには今までの先輩が描いた絵とかおいてあったのに、絵がなくなっている。

 絵具とか筆とかだけが唯一の美術部と言える品物だった。

「あぁ、美玲君。来たんだね」

「『来たんだね』とかじゃなくて、どうして絵がきれいさっぱりなくなってるんですか」

「それが…、この部活なくなる寸前だとか言ったじゃない?少しずつかたずけなさいって通達が来てたみたいでそれを無視してたら、強制的に処分されたみたいで…」

 そんな、あまりにもひどい。

「…なくなる寸前、美術部?(ますます新入部員じゃないって言いづらくなった…)」

「おや、誰だいその子は?」

「あ、新入部員の…、そういえば名前聞いてなかったね」

「え、えーと(新入部員じゃないのにな…)、黒田くろだ 萌音もねです…。」

「モネと来ましたか‼」

 部長はおもむろに席を立ちあがって興奮しだした。

「『光の画家』の別称があって、時間や季節とともに移りゆく光と色彩の変化を生涯にわたり追求した画家として有名だよね。自然の中で輝く外光の美しさに僕も強く引き付けられるよ。彼の代表作である『睡蓮』の連作も美しいけど僕としてはやっぱり…」

「もういいですから!黒田さん引いてますから!」

「ふむう、もう少しいろいろ話していたいんだが…」

 部長はまだ話し足りないようで、立ち上がったままくるくる回っている。


「ねぇ、黒田さんは中学の時美術部とかに入ってたの?」

「え、入ってなかったんだけど…」

 私たちはお茶をいれて一服している。

 絵がないのにティーセットがある美術部の部室はどうかと思うけど…。『新歓用に絶対一セット必要だよー』とせがんだ結果、購入が決定した。…最近は私のみが使っているので、なかなか贅沢していたと思う。

「じゃあさ、どうして入ろうと思ったの?どんな絵が好き?」

「モネっていいよね。僕はもう歌川広重とか葛飾北斎、どっちなんだよって感じだから…」


「あ、あの‼」


 黒田さんは机に手をついて立ち上がった。

「わ、私新入部員じゃなくて、あの、絵もそんなにうまくなくて。その、ほんとは、文芸部に入るつもりで、…ほんとにごめんなさい」

 少し静寂があった。

 開いた口がふさがらなかった。

「美玲君…、君という人は…」

 部長はやれやれといった表情をしている。

「黒田君…だったね。うちの部員が大変迷惑をかけたね…。うちの部に入ることは強制しないから、…もし、うちの部に興味が出たらまた来てくれ」

「あ、えっと、はい」

 そう言って、黒田さんは立ち上がって部室を出て行ってしまった。



 約二週間が経った。私はまだ部員を一人も捕まえられてなかった。

 高校生にもなって遠足なんてどうかと思うけど、この高校では新しいクラスとなじむためか、四月の最終日に遠足が企画されている。この機会に友達を作ると意気込んでる人がいる中、私は…。

「この機会に部員探すよ」

 実質これが最後のチャンスだった。

 五月の初めにはほぼすべての人が部活申請書を担任に出すことになっている。よって、この機会に後二人の部員を見つけなきゃ、うちは廃部決定だった。

「まだ、あきらめてなかったの?美玲」

「メア~、そう思うなら入ってよ…」

 笠木かさき 芽亜利めあり。ショートカットの元気いっぱいの女の子。

 この子は一番最初に私が勧誘した子だ。その時に美術室まで来てもらったんだけど…、結局絵に自信がないってことで入部を辞退した。でも、教室でよく話すようになった。

「うぅー、私たちの戦いはまだ始まったばかりだ…」

「それ前も言ってたよね」

 ヤバい、あと少ししかないし。ほんとヤバい。

「一人いいなぁ~って子はいたんだよ。もしうちに入ってくれたらマスコット的な感じになってくれそうな子。『絵は下手』って言ったメアとは違って、『絵はそんなにうまくない』って言ってたから多分ある程度は描けると思うんだけど…」

「マスコットってあんた…」

 やれやれといった表情をされた。この表情最近見たなぁ…。

「まぁ、そんなに気に入ったんならさ、また聞いてみればいいじゃん。まだ正式な入部はしてないんだったら。…ガンバレ、美術部再建するんでしょ」

「うん、そうだよね…。………よし、果然やる気出てきた~!」

 うぉーーーーー。やってやる。

「…………おし、やったれ(この単純な性格、あたし好きだな)」

「はぁっ、あそこにたたずんでいるのは。メアちゃんありがとう私行ってくる。愛してる~」

「安い愛だなぁ~」

 そうだ、私はあきらめない。


「いない…」

 急いできたつもりだったのに、黒田さんはすでにその場所からいなくなっていた。メアちゃんがガンバレって言ってくれたんだ。私はまだ頑張る。

「なにしてるんだ。へたくそ女」

「え?」

 後ろを振り返ると、モデル雑誌から抜き出てきたようなイケメンがいた。でも誰だろう。この人は私に会ったことがあるみたいだけど…。こんな美形の人に会ったら、たぶん忘れることはないと思うんだけどな…。

「おい、反応なしかよ。へたくそ女」

 私の神経は逆なでされた。…身に覚えがある。ものすごく身に覚えがある。

 そうか…。

「ショウガ ハクだ。夏休みに会った」

「……誰が生姜だよ。我生だ、我生 白だ。…何やってるんだ、こんなところで」

 おっかしいなどうして忘れていたんだろう。そうだ、我生くんと会ったことこそ、私が美術部に入った理由であり、ひいてはこんなにも部員探しに頑張らなくてはならない理由なんだった。そう考えると、我生君て呼ぶのもなんかいやだな。

「……美術部に入部決定ね。あんた」

「はぁ?どういうことだよ。後、あんたって呼ぶな」

 あんた呼びはだめみたいだ。となると呼び捨てか…。ハクだっけ?男子のこと名前呼び捨てって久しぶりだなぁ。

「じゃ、ハク。美術部に入りなさい」

「…まだ、絵を描いてたんだな。へたくそなくせに」

「なっ!」

「どうして、お前は絵を描き続けられんの?へたくそなのに」

「お前って呼ぶな!」

「じゃあ、美玲。どうして絵を描き続けんの」

 どうして名前を知っているのだろうか。私はハクに名乗った覚えはないし、確か初めて会った時も『覚える気はない』とか失礼なことを言っていた気がするんだけど。


「別に、ただ絵を描くのが好きだからじゃダメなの?」


「…そう。やっぱ、変わらないんだな」

「え?」

 そう言ってハクは振り返った。

「やっぱ、俺あんた好きだわ」

 二秒ほど時間に空きがあった。え?何?この人何を言っているの?今この人私のことを、す、す、す好きって言わなかった?いや、どこかで出会ったことあったの?…いやたぶん会ったのは二回目だと思うんだけど。ていうか何なの。話飛んだの?

「馬鹿だな…冗談に決まってるだろ。顔真っ赤だぞ」

「あ、あ、あ、あんたねぇ」

「じゃあな」

 ハクはそのまま去って行ってしまった。湯だった私を残して…。


 お昼時、先ほどの件でメアとはぐれてしまったので、お弁当を持ってメアちゃんを探していると、木の下で一人でお弁当を開いている子を見つけた。その子の顔をよく見ると黒田さんであると判明した。

 よって、私はダッシュで黒田さんの方へ向かって行った。

「…はぁ、はぁ、…黒田さん、はぁ、…はぁ。い…はぁ、一緒に…」

「きゃあ!……何?あれ?…曾和さん」

「…はぁ、黒田さん、一緒に、ご飯、食べよ!」

 最近、体力の低下が激しいんだ。これじゃあ、黒田さんに迫る変態みたいだな…。……あ、何も考えずに一緒に食べよって言ったけど、メアちゃんどうしよう…。


「まだ、美術部の部員探してるの?」

 黒田さんから話しかけてくれた!それだけで私はもう満足です…。とか言ってる場合じゃないな…。

「うん探してるよ。黒田さんはもう部活には入ったの?」

「あ~、ちょっと迷っててね。多分文芸部に入るんじゃないかと思うんだけど…」

 う、決めてたか…。でも迷ってるとか言ってるしな…。美術部交渉してみようかな…。

「曾和さんはどうしてそんなにも一生懸命なの?」

「え?」

「だって、曾和さんは別にこの高校の美術部に深い思い入れがあるわけじゃないんでしょ。まだこの高校に入って一か月も経ってないんだし。ただ、絵を描くのが好きなだけならさ、別の部活に入りながら趣味として絵を描き続けることだってできるでしょ?でもそんなに美術部にこだわる理由は何なの?」

 黒田さんはまっすぐ私を見ていた。

「夏休みのことなんだけどね…」

 私は話し始めた。あの時の出来事を…。


「……ってことがあってね、私はどうしても見返してやりたいんだよ」

「へぇー」

 うん、うまく話せた気がする。

 黒田さんは少し目を閉じて考えるしぐさをした後、

「私、美術部に入ってもいい?」

 と言った。…って、

「えぇ?入ってくれるの?いいの?どうして?」

「クエスチョンマーク多すぎだよ…、あと、手…」

 私は興奮のあまり黒田さんの手を握っていた。黒田さんはかなり引いていた気がする。いや、気のせいかな、そうだといいな。

「なんて言うか…、いいね、曾和さんは。そんなにまっすぐで。美術にはそこまで興味がないんだけど…、曾和さんと一緒な部に入ってみたいなって」

「‼‼‼‼‼‼」

 言葉にならなかった。なんという言葉を…。それは告白と受け取ってもいいんですよね?はぁ、こんなかわいい子から告白なんてぇ~。はぁ、はぁ。

 いや、落ち着け。わ・た・すぃ!

「あ、そういえば。文芸部はどうするの?」

「兼部かな。でももしかしたら、文芸部には入らないかもだけど…」

 正直、何がきっかけで美術部に入りたくなってくれたのかわかんないいんだけど、とりあえず一人目の新入部員獲得だ。

「よし、燃えてきた!あと一人だね。実はあと一人の候補はいるんだよね」

「へぇ、どんな人?」

「実はさっき話した人がさ、この学校に通っているのが分かったの。だから、その人を何とか勧誘するんだ」

「絵がうまい人…、それってもしかして我生 白君?」

「え?うん、そうだよ」

「そっか…、良かった。美術部に入って…」

 その声はよく聞こえなかった。

「頑張ってね、あと一人の勧誘」

「うん、頑張るよ!」

 いやー、美少女から応援されると気分がいいですなぁ。

「あ、いたいた。こんなところに。探したよー、美玲」

「メアちゃん聞いて!新入部員が、新入部員が入ってくれたよ~」

「オー、良かったなー。できれば涙をためながら私に抱き付くな~」

 私たちは、三人で昼食を食べた。



 昼食の後、私は二人と別れてまたハクを探していた。

 なんでかは分からないんだけど、あと一人はハクじゃないとダメなような気がした。多分それが後一色なんだ。美術部が完成しない気がした。

 ハクは意外とすぐ見つかった。

「ハク、お願い。美術部に入って」

「むぁ?」

 言葉になってない声を上げてハクはこちらを向いた。

「まだ、言ってんのか。そんなこと」

「部員があと一人必要なの。ハクなら絵がうまいし。美術部に入ってほしい人材なんだけど」

 必要な人材だ。どうしても。

「お願い、もう部室に来るだけでもいいから。寝てても怒らないから」

「んー、いいよ」


「………軽い‼‼」


 驚きの展開が発生した。

「え?いいの、ほんとに?何があったの?」

「いや、正直どの部活もしんどいなって…。でも部室行くだけでもいいんしょ?そんな好待遇なら入らない手はないって」

「………」

 そこまで喜ばしくない。

 …がこれでとうとう四人がそろった。

「よし!よし!これで美術部が廃部じゃなくなる」

「いや、なくほどうれしいか?」

 泣いてもいいじゃないか。つらいとき泣けないんなら、うれしいとき泣くんだ。



 こうして、美術部は存続することになった。

 曾和美玲、黒田萌音、我生白、葛飾広重という、のちの日本二君二姫にほんにくんにひめと呼ばれる芸術家が無名の美術部に集ったというのは、偶然だろうか。いや、必然だったのかもしれない。

 

長文失礼しました。


この作品は「黄色」「茶色」「白」の三部構成となっております。今回長かったのは一部分につき一話で書ききろうと思ったからです。


なお、杏戸自身は美術部に入ってなかったので、美術に関する知識はありません。なのでこの作品を描くにあたって、wikipediaなどのさまざまなところから勉強させてもらいました。違ってたら指摘してください。


感想・批評くれたら杏戸喜びます。

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