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作者: 翡翠

初投稿になります。

どうぞ、生温かかい目で見てやってください^^;

 

 携帯を弄る手をせっせと動かしながら中村美香は、駅のホームで下り電車を待っていた。いつもより早く家を出てきたせいか、電車までの時間には余裕があり、その分が携帯を弄る時間に向かっている。随分と早起きな友人から少し前にメールが届いていたのだ。気付いたのは駅のホームに着いたところで、早速メールを返すとまたメールが届くのだから、それが先ほどから続いている。美香はあまり本は好きではないのだけれど、その友人は本が大好きで、ゆったりと読書を楽しむ為に早めに登校しているらしい。難儀なことだ。


 またメールが届いた。どうやら今学校に着いたらしい。誰もいなくて一番乗り、とそんな呑気な事を嬉しそうに書いている。美香は友人が喜んでいる姿を思い浮かべて苦笑を零した。自然に思い浮かべれることが面白くもあったが、高校二年生にもなってそんなことで喜ぶな、と呆れてのことだった。自分だったらどうだろうと考えてみると、多少驚く程度だろう。何の面白味のない反応に友人のことが羨ましくもあった。なら、友人のように喜んでみるか、と問われると首を捻るものがあった。高校二年生にもなって、と友人を呆れる原因になった考えが浮かんでくる。そこで、ハッとなって携帯を弄る手が止まっていたことに気付いた。打ちかけのメールを焦って打って送信すると、送信した後で誤字に気が付いて、思わず「あっ」と零す。するとまたメールが届いて、その誤字のことを茶化して来た友人に若干の怒りを抱いた。これではらちが明かない。美香は友人とメールを止めることに決めた。友人も友人で学校に着いたなら本に集中したいだろうし、と勝手な理由を並べて。


 携帯があるから滅多に腕時計をしない美香は、やはり携帯で時間を確認して、座っていたベンチを立った。周りを見てみるとまちまちに人がホームに現れ始めている。座っているベンチの隣には自動販売機があった。美香はそこで何かを買おうかを悩んで、結局やめた。別段金銭に問題があるというわけではなかったが、それほど喉が渇いているわけでもなかった。それに一度千円札を自動販売機に吸われてから、どうしてか美香は自動販売機を使う気にならなかったと言うこともある。美香は自動販売機を後にして、そのままホーム際に寄って電車を待つことにした。


 美香は女性専用車両に乗っていると言うわけではなかった。そもそもこんな田舎町に通っているのかも疑わしいところであった。小学校、中学校は当然徒歩で、この電車を使い始めたのは高校に入ってからなので、二年になる。その間で満員電車なるものに遭遇したことのない美香にとって、痴漢とは別次元の存在であった。女性専用車両と同じで、存在しているのかが疑わしいところであり、たとえ存在していても遭遇したくないと思わせるほどには美香には女としての自覚と言うものがあった。


 そうしていると、いつの間にかアナウンスが入ってそろそろ自分の乗る電車が到着することを知り、美香は一先ず携帯を弄る手を止めた。その時に時間を見てみると、電車が来る時刻を丁度示している。いつもより早く来ているから遅れることなど、まずないのだが、それでも電車に乗り遅れたときは学校に辿り着くことが大変だった。都会と違って数分ごとに電車が来ることないので、自然とバスを利用することになる。普段バスを利用することなどなく、そのときはどこ行きに行けば学校に辿り着くのかを悩み悩んだ。親は共働きだし、祖父母とは同居していない。それ以来電車に乗り遅れたくはないと、頑なに誓ったのだ。乗り遅れたのが秋だったことが幸いだったのかもしれない。冬だったのなら、死ねると顔を真っ青にした。


 そういった経緯もあり、もう時間を確認するのは癖になりつつあった。学校でも時計をしょっちゅう確認している。大半の理由は、後どれくらいで授業が終わるのか、後どれくらい休憩時間が残っているのか、そんなもんだ。携帯をポケットにしまうと、遠くから微かだが電車の音が聞こえてきていた。


 電車のやって来る方向を見てみると、自分と同じように真っ先に電車に乗って席を確保しよう、そんな思惑を抱える人が多数見受けられた。四割方が学生で、残りの六割がサラリーマンと言ったところ。態々後ろを振り向かなくても老人がいることぐらいは想像できた。それでも美香に譲る精神は無く、それは全員が同じ事であった。


 その中で一人、ずっと俯いている同性代の女の子を美香は見つけた。着ている学生服は自分のとは違って、どこの学校のものかはわからなかったが、それよりも女の子の顔に目が行った。半開きになった目は眠たいのか、それとも別な理由なのか。下がった肩からは余計な気怠さを演出させている。彼女の隣にいる男の子は心配するどころか、気味悪そうに顔をしかめていた。心配しなさいよ、と怒る自分もいたが、その反面自分があの男の子だったらどうだろうと、考えてもいる。答えを知ると、その男の子を罵るわけにもいかなくなり、どこか気持ちにポッカリと穴が開いた。それ以来彼女から目が離せなくなっていた。


 とうとう電車がやって来た。たったの数秒から数十秒の短い時間だったが、美香には随分と長い時間に感じられていた。先ほどからずっと彼女を見ているが、その視線に気づいた様子がないまま、彼女は俯き続けている。その視線の先に何かがあるのだろうか。断然興味が沸いた。彼女に話しかけられないだろうか。無理だろう。美香はそう瞬時に決めつけていた。どうしてか、無理だと言うことがわかってしまったのだ。もう電車がやって来るとか、そんな物理的なことではなく、直感的にわかってしまっていた。


「あっ……」美香がそう口にしたときには遅かった。次の瞬間には、美香の言葉を何十にも上書きするような悲鳴がホームの中を駆け回っていた。


 電車が急停止する甲高い機械音もホーム内を駆け回る。別な悲鳴も電車内を駆け回っていた。


 ――飛び降り自殺。


 彼女がしたのはそれだった。彼女の死が、体臭や煙草に香水の匂いがうっすらと漂う、それでも清らかな朝のホームを――穢した。



 後にわかったことだが、彼女の遺書にはこう書かれていたらしい。


『友達が欲しい』


 それを知ったとき、美香の後悔は凄まじいものであった。


 あの時無理をしても話しかけていれば、と。


 後悔しても、もう彼女はいないんだから仕方がないよ、と言う友人の慰めの言葉を美香は思いっきり払いのけた。


 どこかで死神が、ケッケッケと笑う。


自殺ものを書きましたが、自殺は絶対に駄目です。

それに繋がるいじめなんて、もってのほかです。

もしも、いじめ現場を見かけたのならば、止めたあげてください。

その人の心の支えになるはずです。

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