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明晰夢中の白昼夢―2015滅亡論の地平で―  作者: にゃんと鳴く狐っ娘
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12/21スアール

「この扉の先にスアールが居ます。そうなる様に彼女が世界を構成しましたから、貴方の夢で鏡を見る事が無かった彼女のイメージは貴方によってこれから構成される事となります」

「それが、彼女の望みという訳か?」

 僕以外は誰も知らない。宇宙の真の概念も何もかも、スアールの姿を知っているのはこの地球で、この全宇宙で僕1人だと理解した途端、僕の胸はどうしようもない熱で一杯になってきた。緊張する、扉を開いた次の瞬間には向こうの彼女が此処、僕を基軸とした地球生命の現実、生まれ変わったイメージ世界内で取り得る肉体の形を決定づけてしまうというのだから。僕は、手を掛けた重苦しい観音開きの鉄扉を目を閉じて開く事に決めた。イメージだけに集中したかったからだ。

 不自然な話だ、本当に不自然な現実だ。まるでこれ自体が夢なんじゃないのだろうかと錯覚しそうになる。僕を悩ませる倒錯感、それを振り払うように瞳を閉じていく。目蓋の裏の暗黒、そこに黒から青への美しいグラデーションを思い浮かべた。

「スアール……」

 首を傾げる彼女、その可愛らしい姿を思い描いて呼びかける。今になって思う、美術が好きが良かった、必死に絵を練習しておいて良かったと心の底からそう思った。何故って、それだけ如実に彼女の姿を頭に空想できる想像力が身に付いていたからだ。これはラッキーだった、本当に神様に感謝したいと思った。

「スアール」

 白い肌、吸い込まれそうな藍色の瞳に柔らかそうな薄い桃色の唇。あの瞬間、一目惚れした瞬間に刻み込まれた全ての記憶を紐解くように思い出していく。そうだ、彼女はセーラー服が似合っていた。下に着ていた白いシャツの胸元から覗く鎖骨、靴下とスカートの間から覗く素足とどこをあげても完璧な容姿をしていた。

 最後に、声を思い出す。優しそうな声、柔和な眼差しと共に心を溶かすような温かい声だった。彼女は目を細める笑顔が素敵だった、小首を傾げる仕草がたまらなく愛くるしかった筈だ。思いだせ、思い出すんだ全てを。夢の様な今に繋がる、それこそ今を作り出す夢を、今ここで描き出すんだ!

「……スアールっ!!」

「うん?」

 叫んだ時、黒く閉ざしていた僕の視界を光が埋め尽くした気がしていた。その時、僕の天使は僕の声に小さく答えた。スアールだった。

 目を開く。そこには想像通りに首を傾げて女の子座りをするスアールがそこに居たのだ。想像と全く変わらない姿、夢とも差異は見受けられないが一段と美しく僕には彼女が見えていた。そんな彼女に僕は訊ねた。

「スアール?」

 こくり、小さく頷きながら彼女は立ち上がった。すると殊更にその均整の取れたボディバランスや頭身が明らかになった。扉の奥、そこは天井が壊れて大穴が口を開いたプラネタリウムとなっていた。彼女にぴったりに思えた、その神聖な空気、神さびた場所にも見える其処へとそびえ立つ映写機と上に起立した彼女の神々しさ、それに僕が目を見張った時、僕が信じていた過去の宇宙を移す機械は崩壊した。彼女は、潰れる様に崩れたその残骸を此方へと歩んできた。

「そだよ、迎えに来てくれたんだよね?」

 また首を傾げたスアール、じっと此方を見詰める少女は1メートルほどの距離を置いて歩みを止め、モジモジと指先を擦り合わせるようにクルクルさせていた。僕はもう一度彼女を呼び、そして告げた。

「スアール、君を迎えに来た。助手さんも一緒だよ」

「うん、私は全部知っているよ? ありがとうね、本当にありがとう」

 そう言ってスアールは涙目になっていた。彼女たちにとっては長い道のりだったのであろう。こうして個体となり肉体を持つまで、彼女達の夢であったそれを成し得るまでは相当長い月日を要したのだろうなと僕は思いを馳せてみた。しかし、彼女達に時間だなんて尺度があるのかだんて分かる筈もなく。

「ねえ、スアール」

「何……かな?」

 お互い、気まずそうに目線をそらしながら会話をする。スアールが答えた時、彼女は上目遣いで此方を見つめていた。そして気づけばお互い30センチも合間がない程に歩み寄っていたのだった。

 僕は、胸に秘めていた言葉をスアールにぶつけた。


「スアール、僕は君の事が大好きだ。付き合って下さい!!」


「うん、いいよ?」


 即答だった。お互い顔が真っ赤に染まっていた。恥ずかしさに助手さんへと視線をそらすと、僕の頬へとプルンとした弾力のある物が当たった。どうやらスアールがキスをしてくれたらしく、視線を戻すとスアールが背伸びしたまま頬を膨らませていた。

「……浮気、それは私は嫌いだよ?」

「勘違いするな、恥ずかしかっただけだ」

 脇で助手さんが笑っていた。気恥かしくなって僕があたふたしていると、意外にも積極的なのかスアールが僕の手を引き扉の外へと駆け出したのだった。プラネタリウム跡地を飛び出す間際、助手さんが此方に手を振っていたのが僕らには見て取れた。


「終わる世界のボーイ・ミーツ・ガール、素敵じゃあなくって? ……ねえ?」


 どうにか夢でないように、彼女がくれた現実が終わりません様にと、この時僕はリアルも知らずに願っていたのだった。新しい世界、隣に現れた僕のヒロインと一緒に空の下へと駆け出す。誰も居ない街はまるで貸切みたいで、廃墟といえどもそれらが生きている様に僕達には思えた。この先に待つ苦難を僕はまだ知らない、僕は預言者でもなければ彼女達でもないからだ。それが現実、どうしようもなく理不尽で不可思議な僕達の生きる世界だった。それを探り、確かめる様に走る彼女に呼びかけた。

「スアール……?」

「何かな?」

 振り向く彼女、僕の言葉は意図せずもとも口を出ていた。


「好きだよ」


 その声に彼女が歩みを止め、スキップを踏んで目前でターンをして振り向いた。青い髪の裾野が広がり、彼女がまるで踊る妖精の様に見えた。そして彼女は言った、夢の中よりも何倍もクリアで、それでいて何倍も心地良い声で。


「私は愛してる、世界も、君も」


 スアール、彼女の名前は『輝く』と。夢心地の後に僕はそれ習った。

 はい、完結となります短いですね本作品。企画は夢を物語にするという訳で、実際は美術の時間のくだりまでしか作者の夢じゃないです。それを無理矢理にボーイ・ミーツ・ガールなSF作品へと仕立て上げました。


 まあ、SFなのかは読者様に任せます。取り敢えずはSFにさせて置いてください、名前出てませんがタイターさんの予言の世界なんかも盛り込んでいますし、楽しんでいただけましたら幸いです。実は火種満載な世界に変わっているんですよね、スアールさんは激しいのがお好き?


 ともかく、この物語はこれで完結です。続きはおそらくは無いでしょうけれども、皆様の反応次第では続けさせていただいても良いのかなと思っています。しかし、本作品にはスアール以外の登場人物名が登場しないのですよね。世界観解説の助手さんの話には有名人が出ていますが、まあ設定としてお名前だけをお借りしましたが。


 まあ最後に余談ですが、実はこの作品世界、意識世界の中に存在する物ですからそれも夢でも可笑しくないのですよね。つまりはスアールとのハッピーエンド(?)以外にも途中で目が覚めて悶絶したり、普通な世界で気が狂ったりそれこそ狂信者になる話だってありえちゃうんですよね。まあそこは読者様に今は委ねておくとしましょう。


 それではおやすみなさい。また逢いましょう……ね?


P.S.SF風味ファンタジー長編『裸天使にバスタオル、僕には生きる意味を下さい。』の方もよろしく!!

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