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明晰夢中の白昼夢―2015滅亡論の地平で―  作者: にゃんと鳴く狐っ娘
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12/21彼女の話

「スアールとは何者なんだ?」

 揺れる軽自動車の後部座席から僕は訊ねる、どうやらこの世界の鍵を握っているらしい人物なのは確かだ。僕の疑問に対して助手を名乗った金髪の女性は答えた。

「そうね、言うならば我々の将来の姿よ」

「そういう事が聞きたい訳じゃない。僕が聞きたいのはもっと本質的なことだ」

「そう……」

 僕の問いに対し、女性は意味の分からない答えを返してきた。僕がこうして今の僕になってしまった様に、いずれ全人類が彼女にでもなってしまうと言うのだろうか。それはそれで珍妙な画面だが、やはり不気味な内容である事には変わりがなかった。むしろ僕はまだ、全てが夢だった可能性に賭けているのかもしれない。いつか目が覚めたら普段通りの毎日が待っていて、いつもみたいに友人と馬鹿やったりこの夢とは思えない世界の話をしたり出来る未来を心待ちにしているのかもしれない。まあ、諦めろという方が遥かに無理な話でもあるが、リアリティという奇妙な説得力によって僕のリアルはこの世界に落ち着きつつあった。不思議な引力を持つ世界だ、僕は今になってそう思っている。

「彼女は宇宙人よ」

 いきなり女性は僕にそう喋った。

「彼女は遥かな宇宙からやって来た我々へのメッセンジャーなのよ。彼女たちは遥か古代、紀元前に言語らしい言語が生まれた時から私達の文明へと介入をしていた、つまりはずっと私達を見守ってきた存在な訳ね。その見守ってきた文明には過去の私達へと通告が残されていた、それが《シフトアップ》の予兆だった訳。考えてもご覧なさい、彼女の名前はサンスクリッド語、全宇宙の記録であるアカシックレコードも変形はされているけど元はサンスクリッド語なのよ」

「シフトアップ?」

 僕は重ねて訊ねた。彼女の話いわく、スアールは過去から地球を見守ってきた宇宙人の1人だという事になる。そして彼女の話では、地球文明が外宇宙からの介入の末に成り立っていたという事になっている。地球滅亡論とかそれ以上にオカルトな話だ、それでも助手さんは淀みも無く答えてみせたのだ。

「人類は進化する、いやもう進化したのよ。誰もが夢という形で彼女達と交信できる力を得た、ただし彼女達から選ばれなければ会話だなんてできやしないわ。預言者エドガー・ケイシーは選ばれた存在だった訳ね、特例だったのよ貴方と同じ様に」

「誰だそれは? ノストラダムスとかの類か?」

「まあそんな所。アカシックレコードの存在を世に示した人物でね、催眠状態からのアカシックレコードへのアクセスを許可された彼女達からのメッセンジャーの1人よ。彼女達自身は私を含めて旧太陽暦2012年、つまりは君だけが覚えているその時代の最後に君を通じて世界を書き換える事で精神体から肉体生命へと進化できたのよ。これを退化と思うかもしれない、でも進化とは退化する事でもあるのだからおかしな話では無いのよ?」

 洞窟に住む生き物、それが目を退化させたという話を僕は思い出していた。にしても、僕が世界を変えたなどという話は到底信じがたい。1人の人間の脳味噌にアクセスした所で、世界が丸々書き変わってしまうだなんてどう考えても2つの規模が違いすぎると思ったからだった。それを察したのか助手さんは答えた。

「水槽の中の脳味噌ってお話を知っているかしら? 貴方たち人間が見ていた現実が実はバーチャルの世界で、貴方たち自身は培養液に満たされた水槽の中を漂う脳みそに過ぎない。昔にそう言った哲学者が居たのよ。信じがたいでしょうけど大方それが正解だったのよ。沢山の意識生命体が繋がり宇宙という概念が形成されていたのが真実、でも私達は個を求めて進化を繰り返してきたわ。実のところ、これはレコード内に記された貴方達の進化方向とは真逆の道筋を辿る訳ね。私達は気付いたのよ、都合の良い世界が無いなら作れば良いんだって。だから、私達は何も考えなかった単意識生命体である貴方達へと介入を始めて現実という夢を見させた。つまり、現実という概念をそこに作り出して住む事を志したの」

「結果がこの世界?」

「そうね、なにかと終末論に詳しかった貴方、その単体意識は意識連結シナプスの網に置いて最も共通意識への影響力が大きかった。だから貴方はこの世界を作る種として、スアールに選ばれる事になった訳。だから貴方は知っている、書き換えられる前の事も、貴方が基盤だった世界を書き換えた彼女自身の姿も。だから、私は彼女へと貴方を引き合わせたい。いいかしら?」

「はい……もちろんです」

 今更、断る訳にもいかなかった。断った所で変わらない、どうした所で現実という檻からは逃げ出せないのだと僕は知っている。夢物語のように改変されたこの現実、そこに放り出された唯一の過去を知る存在である僕にはもう逃げ道だなんて無いのだろう。むしろ逃げようとも思わなかった、問い質してみたいと思った。

 彼女、スアールを。

「ならば、彼女の居場所へと参りましょうか」

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