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明晰夢中の白昼夢―2015滅亡論の地平で―  作者: にゃんと鳴く狐っ娘
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12/21新世界より

 ふと僕は目を覚ました。そこが早朝の電車内だと、僕には即座に認識する事が出来なくなっていた。

「なんだ夢か……」

 いつも通り居眠りをしていた様だった。寝過ごしていないか携帯で確認する。時刻は6時45分、特に問題は無い時間帯だ。車両数が少ないローカル線、その中でも廃線寸前な路線を使用して通勤している僕にはこの、学校に行くには早過ぎるし、かといって家で寝ているのには遅すぎる時間帯が一番安らげる場所だった。上司も居ないし先生も居ない、つまり僕を監視する目は何処にも存在しないからだ。

(ん? 何かが、おかしい……)

 ふと気付いた違和感に、僕は眉を潜めていた。携帯画面上のカレンダーは9月3日の木曜日を示していた。しかし、確か僕が居たのは12月20日だった筈だ。しかも僕はスーツを着ている、学校に行くのか会社に行くのか頭の中はごちゃ混ぜになっていた。まるで僕の意識だけが大人の自分へと乗り移ってしまった様にも錯覚してしまう。むしろ、本当にそうなってしまったのかも知れない。

 2012年の12月21日は金曜日だ、終末論が噂される週末だったが本当に週末が来たとでも言うのだろうか? 気付けば車窓の外には高いコンクリートの壁、その壁面には『旧世界より愛を込めて』とスプレーで書きなぐられた跡があった。その血文字にも似た字句の裏、世界地図が描かれていたのであろうか殆どが上からペンキで塗りつぶされている空間にはイギリスの島と喜望峰だけが唯一はみ出てその姿を晒していた。落書きが消せていないのは恐らくローカル線故の資金不足であろうが、字だけを残した消し方の意味、そしてそれを書いた者と上塗りした者の意図が読めないその構図がそこはかとない恐怖を僕として僕の肌を泡立たせた。

 ここは一体何処なんだ? 自分は今一体どうしているのだろうか、それすら全く僕は理解出来なくなってしまっていた。不自然だ。不自然な夢には不自然な現実が続いた。いや、夢かも知れない。淡い期待を抱いて頬を抓ったがそれは痛み以外何一つとして僕に答えを返してはくれなかった。

「お客さん、次で終点ですよ」

 僕がネットで情報を漁ろうとしたその時だ。懐かしくも感じてしまう聞き慣れた声が僕の耳へと飛び込んできたのだ。

「あ、はい。って、あ…………」

 僕は携帯から顔を上げ、その親切な車掌さん(業務だから声を掛けたのであろうと推測される彼)へと一礼してお詫びなりお礼を述べようとした時だった。聞き慣れた、その意味が夢を見る前からの物だったと気付いて僕は救われた様な気分になった。

 そこに居たのは友人だった。クラスが同じで似た者同士だと言われ続けてきたあの友人、その彼が車掌さん姿で気まずそうに苦笑いをしていたのだ。

「どうした? 今は仕事中だから私事は」

「今日は何年何日だ!? 何時何分、地球が何回廻った時だ!?」

 つい、混乱したまま喜びと焦りに任せて訊ねてしまった。すると友人は目を疑う様に、まさに目を丸くしながら僕の言葉へと反応を示した。

「普通に12月21日だろ!? お前、大丈夫か?」

「え……?」

 矛盾が生じている、早速だが携帯の日付と友人の記憶では数字がずれている様だった。すると、携帯と彼との間で視線を往復させていた僕を見て、友人はさも信じられないと言った様子で瞳を見開いている。そして僕から携帯を取り上げて彼はそれを覗き、やはりと小さく呟いてから僕へと冷たい視線を投げ掛けてきた。

「お前、テロリストだったのか……?」

「ちょ、ちょっと待ってくれ! それは一体どういう事だ!?」

 いきなり投げかけられた物騒な言葉、それに対して問い掛けた僕へと友人は大声で一喝してきた。

「シラを切るな!!」

「えっ…………」

「お前は旧暦を使っている、滅びの暦の信奉者なのは明らかじゃないか!! 今は確かに9月3日だ、しかし2013年の頭に暦は改定された筈だ。その古臭い暦、呪われたカレンダーを用いるのは日本を東西へと分断したテロリスト共の旗印なんだよ!!」

 唐突に明かされた事実。今告げられた言葉こそが映画や夢みたいな空想世界、或いは誇大妄想じみた嘘臭さの塊に思えたが、しかしセットとは到底思えない目前の景色はそれを如実なまでに裏付けていたのだ。

 不意に窓から覗いていた壁が途切れ、現れたのは地平まで続くフェンスの山と荒涼とした都市廃墟の摩天楼だった。つまり、これは見紛う事無く現実、どうした所で逃げられない真の意味での理不尽な世界なんだと証明されたと言っても過言では無いのだろう。僕の前に広がる光景はセットでも映像でも、ましてや夢でも無かった。現実、逃れようの無い真実の世界が其処には存在していた。東西日本を分断するフォッサマグナ上に存在していた僕の住む街、首都圏が良く見える眺めの良いローカル線が売りだった街並みは今廃墟群へと埋もれていたのだ。だからこれは真実だろう。

 最早、僕の現実はこちららしい。僕が元居た世界は既に終わり、その数年後の世界、未来として再構築されたのだろう。しかし僕はテロリストでは無い、もし投獄されたら敵わないので僕は友人へと訴えかけた。即座に携帯の言い訳を付け加える。

「本当に知らないんだ!! 俺は寝ていた、知らない合間に携帯を取り替えられたんだきっと! これは罠だ、僕達を陥れる罠なんだよ!!」

 我ながら上等だろう。即座に思いついたにしては筋が通っている言い訳に、友人は一瞬難色を示したが、次の瞬間には僅かにだが顔を綻ばせて頭を掻いていた。

「そ、そうか……なら、仕方が」

「ちょっとお待ち頂けます? ねえ車掌さん、ポケットからUSBケーブルがはみ出て居ましてよ」

 唐突に割り込んできた声。その声の主は仕切りを挟んで隣側の四人席へと腰掛けていたらしく、立ち上がって友人のポケットからそのケーブルをひったくって見せた。随分と行動力のある女性だ、そう思った瞬間、USBには2台の同型機種携帯電話が繋がっていたのが発覚したのだ。そう、それは僕が持っていた携帯と全く同じ携帯電電話だった。

「はぁー、やっぱりテロリストは狡猾よね。即座にスケープゴートを仕立て上げちゃうんだから」

 女性、長い金髪を下ろして右側だけから束ねたテールを垂らしている彼女は即座に友人の脚を払った。抵抗する間も無く、鮮やかな手際で床へと倒れた友人は捕縛される。手にはそのUSBを巻き付けられていた。後ろ目に友人は金髪の女性を恨みがましく睨んでいた。

「貴様……!!」

 鬼の様な形相で見詰める友人、彼に対して女性は前髪を払って涼しい顔で言い放った。

「ごめんなさいね。私達も彼へと用があるのよ、メシアにね?」

「救世主うぅ……、かはっ!!」

「五月蝿い男は嫌いよ。少しは紳士になりなさいよ狂信者」

 それは友人を指すのだろうか、つまりは彼がテロリストで僕はその身代わりにされかけていたという事だろうか。のっけから危なかった。突然すぎる超展開に僕は置いていかれていた。

「さて」

 そう呟いて、友人を縛り終えた女性は立ち上がって僕へと手を伸ばした。

「行きましょう、貴方に彼女は用があります」

「彼女……?」

 答えは予測できるが、僕は訊ねた。しかし、答えは全くもって予想と変わらなかった。


「もちろん、スアールです」

 まさかの此処でタイムアップ。でもまだ、シンデレラじゃないので続きます。

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