紅白キノコは奉納品
良く、働いたと思います。
土を耕したりよせたり、混ぜたり盛り上げたり、半人前ぐらいの働きはしたと思います。
ぼいっと掘り返された勢いで地上に出てしまったミミズが、あわてて土に潜った所をまた、掘り返す。
神様と言えども透視能力があるわけではないですから、どっせいどっせいと掘られる土と共に宙に舞い上がるダンゴムシやミミズは、横目でスルーいたしました。
ごめんよダンゴムシ、悪気があるわけではないんだよミミズ。
もう掘り返さないから、後は好きなだけ土の中でくつろいでおくれ。
そんな気持ちになったのは、やっとこさ畝が出来てからでした。
そうなると、後は――
「飯やー!」
お待ちかね、ご飯ターイムっ!
青々としげる草地に茣蓙を広げ、大根の芽を眺めながら、竹包みを広げます。
そこには、真珠色に輝く小さな宝石――
つまり、釜で良い感じに炊き上げられた、つやっつやの米の握り飯が並んでおりました。
具材なんて物はありません。
美味い米は、米の味を楽しむもんです。
それが粋ってもんです。
ほんのり焦げた部分の香ばしさもまた、最高に食欲をそそります。
「フク様」
「ん?」
ひとつめの握り飯をほおばりながら、百姓の旦那の方を見ると、彼が満面の笑顔で私を見ていました。
「菜の花畑から大根を遠ざけた方がいいと、はじめてききましたわ」
「あー…」
米の甘みを存分にかみしめて、こくりと飲み込みます。
「よう、それで困らんかったね」
「フク様がおりやしたんで」
…苦笑。
そのフク様、ただいま昔の記憶がないのですよ。
ですが、ここは華麗にスルーするのが、皆様のためってもんでございましょう。
なんか、フク様、昔から村人と一緒に暮らしてきたようですし。
私の記憶は多良家の娘、なのにところどころに、村人と知り合いだった覚えがあるのです。
この記憶が私なのか先代の神様なのか悩む所なのですが、まあ、今生きて行けるのでどっちでもいいです。
最も、親族である祖父は今ごろ、さぞや――
「気にしちょらんやろなあ…」
のんびりしている祖父の姿が、ばっちり思い浮かんでしまいました。
なにしろ私が迷子になっても、そのうち帰って来るだろうと、朝まで放置した人ですから。今は亡き婆さんに、箒でひっぱたかれていたのも懐かしい。
だから私のこの豪胆さは、きっと血筋なのでしょう。
「フク様っ」
ふと、明るい声の方を見ると、シキがキノコの乗った皿を差し出しておりました。
良い匂いがします、香ばしく焼かれたキノコです。
その表面は唐辛子のように赤く、そこに、白い斑点がまるで宝石のように点々と……
「――え?」
固まりました。
――食えと。
これを、食えと?
「フク様?」
「あ、いや、その……」
いわゆる毒キノコと呼ばれるものではないでしょうか、コレは。
そう思うと、嫌な汗がどっとふき出してきました。
「私の分なん?」
シキ達は食わんの? と視線でたずねると、シキがふるふると首を振ります。
助けて誰かっ! と百姓の旦那の方を見ると、同じく首を横に振られました。
それでも、まなざしはこう語っているのですよ。
「これはフク様のためにとってきたものです!」と。
…うわあ。
食べたら死ぬと思うのですよ! もしかして先代はキノコで死んだのでは!?
1UPどころか自滅フラグです、赤き神殺しの剣――いや、キノコです。
しかし悲しきは私の食い意地、もとい神としての使命感!
何ておいしそうなんだ……と言う誘惑が、ついにキノコへの恐怖を打ち負かしました。
――女神、キノコに死す。
そんなロールタイトルが、思わず頭に浮かんだのは内緒です。