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豊穣の女神と飢餓の魔女  作者: 水沢 流
フクと愉快な仲間達
34/35

お土産選びのカウントダウン

『フク、大儀であった』


 神々しい声は、突然でした。


「大儀とか、ちょ、待って。まだみんなに挨拶もしてなっ――」


 タイギもマタギもあったもんじゃないですよ! 勝手に招いて勝手に帰れとかひどすぎますよ!

 そりゃあ、来る時も突然でしたから。

 帰りもこうなるって可能性はあったんですよね。だけど、だけど!


『帰りたいと望んだのは御前だ、フク』

「そうやけど!」


 いきなり抱きついて来るキョウから、するっと身をかわしたりとか。

 夜な夜なこっぱずかしい愛の歌を窓辺で読み上げるナギに、誰宛やとジト目して、ウィンクで返されたりとか。

 人間とは仲良くなれないくせに、犬とは仲がいいヨミを尻尾や羽で釣ってみたりとか。

 手先が器用なシキに、縫い物教わってみたりとか。


 そう言う暮らしも悪くないなって、そう思った矢先だったのに!


「用が済んだらポイとか酷いわ! モミガラだって肥料になって終わるまで土に残る権利があるんやでー!」


 どんどん遠くなる郷を見ながら、大声を張り上げます。

 だけど悲しいかな、自力ではどうにもなりません。


「せめて土産ぐらい持ち帰らせてえええぇ!」

『よかろう』

「ふぁい!?」

『褒美に三つ、好きな物を持ち帰らせてやろう』

「み、三つ?」


 ぶわっと思い浮かんだのは、郷の美味しい食材の数々。

 いや無理絶対無理、あれ三つじゃ収まりません。


「え、ええと、ええとっ」


 カウントダウンが始まったクイズ参加者のように、ぐるんぐるん考えを巡らせる私。


「そ、それなら――」


 と、三つを叫んだか叫ばないかのうちに、どしん、と凄い音がしました。

 主に私の尻の辺りからです。痛いです。まあ大変、尻が割れてます。元からですが。


「……あ」


 さす、と尻の辺りを手でさすって、尻尾がない事を確認。


「あれ?」


 試しに背中を振り返ってみると、羽も綺麗になくなっていました。

 辺りだって見慣れた景色です。山の上の、神棚の前――


「……帰って、来た?」


 夢かと疑って頬を抓ってみます。が、口の中には煮豆味。

 

「夢、じゃなかったんや……」


 なんてことでしょう、現実でした。

 とたんに目頭が熱くなって来ます。さっきまで、さっきまであの郷にいたのに…と。


「天帝様のばかあああぁぁぁぁ!!」


 ぶわっとあふれ出した涙は、もう止めようもありません。

 願った三つは、どこを見渡しても見当たりません。


 私の願うのが遅かったのかも知れませんけど、土産もゆっくり選べないとか、渋滞に巻き込まれたツアーの最終日じゃあるまいし!


「ぶぁかああぁぁぁあ…!」


 しくしくめそめそなんて女々しい泣き方はいたしません。声を張り上げての男泣きです。


 そこに、


「おー、帰ってきたか」


 と空気を読まない祖父の声が割り込んで、


「……ただい、ま」


 びす、と鼻をすすってその方に顔を向け、私は「家」に帰る事になったのです。

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