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豊穣の女神と飢餓の魔女  作者: 水沢 流
フクと愉快な仲間達
32/35

出来たもの、残されたもの

 木苺。


 名前だけだと、木の上になるイメージが強いのですが、どっこいそうとは限りません。


 赤いガラスのように透き通り、キラキラとその存在を自己主張している木苺は足元です。

 地面を這う、トゲトゲした細い枝に実っているわけですね。

 緑の葉の中に、きらめく赤が散りばめられている様子は、実に綺麗なのですよ。


「キョウの方はどう?」


 ぷちぷちと摘んだ木苺を籠に放り、たまにつまみ食いしながら、キョウの方へと声をかけます。

 その声に、ヒユを摘んでいたキョウが、くるんと振り返りました。


「沢山採れたわよぅ」


 そう言うキョウの籠には、そりゃもう、もっさりとしたヒユの山が。


 地面にへばりつくように赤い茎を広げ、まるっこい葉をつける草。ヒユ。

 生で良しゆでて良し、元からある独特の酸味が、添え物としても良く合うのです。


 ポーチュラカとか言う園芸名で売ってると知ったら、きっと郷のみんなは目を丸くする事でしょう。


 だって、どっちかと言えば雑草ですから。畑に勝手に生えて来ますから。

 エディブルフラワーとかオシャレな名前つけても、やっぱり雑草ですから。


 籠いっぱいになった木苺を持って、よっこらせと立ち上がります。

 太陽は真上。燦々と降り注ぐ日差しが…暑いです。


「…帰ろか」

「そうねー」


 籠を手に、本堂へと戻る私達。

 中に入る直前、木陰で丸くなる毛玉三匹の向こうに、ヨミが見えたのは気のせいだと言う事にしておきましょう。


* * *


「いただきまーす」


 ヒユのおひたし、そして米。焼き魚。コンニャクと山芋の煮付け。

 焼き魚の上に枝ごと添えられた木苺の赤が、葉の緑と相俟って、何とも美しいバランスです。

 そして何より、アク抜きの終わった初コンニャクがとてもおいしい!


 思えば、長い道のりでした。


「何気なく食べてたコンニャクが、ここまで破壊力あるとは知らんかったしなあ…」

「そうなの?」


 私の半分ほどの量を、ほくほくと笑顔で摘まんでいるキョウが、箸を止めて首を傾げました。


「うん。何かこう、体にいいってイメージがあってな、ようけ雑誌とかにも乗るねん。んで、自然のものは自然のまんま食べる方がいいって話も仰山出とって、私もちょっとはそう思ってたんよ」


 だから最初は、芋を生でガブっと行きました。

 結果は惨敗でしたが。


 …ええ。


 ゆででてさらして、灰汁で固めて、ようよう食べれるものだとは思いもしませんでしたとも。

 さすがに現代で灰汁は使わないでしょうから、おそらく似た成分の薬品で固めているのでしょう。


 でも本当に、先祖は良くぞ食う気になったものです。固まりかけの芋とかちょっと不気味ですし。スライムみたいで。


 普通、芋が固まったらビビると思うのですよ。なのに食べようとかね。

 その根性がすごいです。コンニャクも大好きな私としては、ご先祖様に拍手喝采です。


「…ん」


 ほんのりと味の染みたコンニャクをかみしめつつ、郷の方へと目を向けます。

 コンニャク製造が達成できた今、残る目標はたった一つ。


 味噌!


「味噌が出来れば醤油もできるし一石二鳥やろ? 味噌って、確か昔は保存食だったって聞くしさ」


 ただし、麹カビがまだ分けられてないんですがね!

 納豆菌なら、藁ゆでておけば納豆菌だけ残るって言うお手軽さなのに。


「米麹買って作るのが普通だったしなあ。ま、頑張ってみるわ」


 ごちそうさまでした、と。

 両手を合わせまして――


「…ちょっと、コメ産んで来る」


 主食は大事ですからね、ちゃんと自然に帰さなきゃ。

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