出来たもの、残されたもの
木苺。
名前だけだと、木の上になるイメージが強いのですが、どっこいそうとは限りません。
赤いガラスのように透き通り、キラキラとその存在を自己主張している木苺は足元です。
地面を這う、トゲトゲした細い枝に実っているわけですね。
緑の葉の中に、きらめく赤が散りばめられている様子は、実に綺麗なのですよ。
「キョウの方はどう?」
ぷちぷちと摘んだ木苺を籠に放り、たまにつまみ食いしながら、キョウの方へと声をかけます。
その声に、ヒユを摘んでいたキョウが、くるんと振り返りました。
「沢山採れたわよぅ」
そう言うキョウの籠には、そりゃもう、もっさりとしたヒユの山が。
地面にへばりつくように赤い茎を広げ、まるっこい葉をつける草。ヒユ。
生で良しゆでて良し、元からある独特の酸味が、添え物としても良く合うのです。
ポーチュラカとか言う園芸名で売ってると知ったら、きっと郷のみんなは目を丸くする事でしょう。
だって、どっちかと言えば雑草ですから。畑に勝手に生えて来ますから。
エディブルフラワーとかオシャレな名前つけても、やっぱり雑草ですから。
籠いっぱいになった木苺を持って、よっこらせと立ち上がります。
太陽は真上。燦々と降り注ぐ日差しが…暑いです。
「…帰ろか」
「そうねー」
籠を手に、本堂へと戻る私達。
中に入る直前、木陰で丸くなる毛玉三匹の向こうに、ヨミが見えたのは気のせいだと言う事にしておきましょう。
* * *
「いただきまーす」
ヒユのおひたし、そして米。焼き魚。コンニャクと山芋の煮付け。
焼き魚の上に枝ごと添えられた木苺の赤が、葉の緑と相俟って、何とも美しいバランスです。
そして何より、アク抜きの終わった初コンニャクがとてもおいしい!
思えば、長い道のりでした。
「何気なく食べてたコンニャクが、ここまで破壊力あるとは知らんかったしなあ…」
「そうなの?」
私の半分ほどの量を、ほくほくと笑顔で摘まんでいるキョウが、箸を止めて首を傾げました。
「うん。何かこう、体にいいってイメージがあってな、ようけ雑誌とかにも乗るねん。んで、自然のものは自然のまんま食べる方がいいって話も仰山出とって、私もちょっとはそう思ってたんよ」
だから最初は、芋を生でガブっと行きました。
結果は惨敗でしたが。
…ええ。
ゆででてさらして、灰汁で固めて、ようよう食べれるものだとは思いもしませんでしたとも。
さすがに現代で灰汁は使わないでしょうから、おそらく似た成分の薬品で固めているのでしょう。
でも本当に、先祖は良くぞ食う気になったものです。固まりかけの芋とかちょっと不気味ですし。スライムみたいで。
普通、芋が固まったらビビると思うのですよ。なのに食べようとかね。
その根性がすごいです。コンニャクも大好きな私としては、ご先祖様に拍手喝采です。
「…ん」
ほんのりと味の染みたコンニャクをかみしめつつ、郷の方へと目を向けます。
コンニャク製造が達成できた今、残る目標はたった一つ。
味噌!
「味噌が出来れば醤油もできるし一石二鳥やろ? 味噌って、確か昔は保存食だったって聞くしさ」
ただし、麹カビがまだ分けられてないんですがね!
納豆菌なら、藁ゆでておけば納豆菌だけ残るって言うお手軽さなのに。
「米麹買って作るのが普通だったしなあ。ま、頑張ってみるわ」
ごちそうさまでした、と。
両手を合わせまして――
「…ちょっと、コメ産んで来る」
主食は大事ですからね、ちゃんと自然に帰さなきゃ。