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豊穣の女神と飢餓の魔女  作者: 水沢 流
フクと愉快な仲間達
31/35

天帝様の望むこと

「なあ、キョウ」


 日差しを避けられる木陰で、タラノキを結びつつ、隣のキョウに話しかけます。


「なぁにぃ?」

「キョウは、お役目終えたらどないするん?」


 私の代で終わるかは分からんけど、もし終わったら。

 そう聞きながら隣を見ると、珍しくキョウが手を止めておりました。


「そうねぇ」


 空を仰ぎ、遠い目をするキョウ。

 その綺麗な目元が、その瞬間だけ、ちょっと物悲しそうに見えました。


「あんまり考えた事ないわねぇ」

「そうなん?」

「考えたくないのかも。私の体なんて、もう残ってないし」


 そっと、自分の体を見下ろして笑うキョウ。


「キョウ…」


 なんにも、言えなくなってしまいました。

 お役目が終われば、私は元の世界へ帰ります。

 時間の流れが違う別世界だから、ちゃんと残っている体に戻れる事確定です。


 でも、元々この世界にいたキョウは――


「キョウ…」

「やぁねぇ、暗い顔しないでちょうだい。キョウになれなかったら、私、フクと出会えなかったんだからぁ」


 細い指先で紐を結び終え、くすくすと笑うキョウ。


「歴代のフクで、そんな事気にしたのは今のフクだけよぅ。後は、何百年も生きられるって事を喜んで、お役目が終わるまで楽しく神様やってたわぁ」

「ヨミやナギも?」

「ヨミ様やナギ様は別格ねー、天帝様が直接作り出した神様だから」

「へー」


 初耳です。

 まあ、聞かなかった私も私ですが。


「天帝様がね、この地に人を根付かせるぞって決められたのよ。それで、自分の欠片からナギ様やヨミ様を作る一方で、人の側から元々人である私やフクを選んだの。一緒に、郷を発展させるように、って。神の視点と人の視点、どっちも必要だからって」

「そうなんか…」

「そう。で、今までのフクは色々と成果を上げて、みんな帰って行ったのよねぇ。私はどうしたらいいかわからないから、フクにぜーんぶお任せしてたんだけどぉ…」


 そこまで言って、なぜか私をじっと見るキョウ。

 何かあったのでしょうか、と首を傾げていると、いきなりがばっと抱きしめられました。

 しかも全力で。


「いやあん、やっぱり初々しいー!」

「き、きききキョウ!?」

「中身変わるたびに、新鮮なフクに出会えるんだもの。あーもう、本当に神様になって良かったわぁ!」


 新鮮とか、どっかの生野菜ですか私は!

 そうツッコミ入れても、全く動じないキョウ。大物過ぎます。


 …でも。


「私も、キョウに会えて良かったかも知れん」


 そのほっそい背中をぺふぺふと叩いて、ぽそりと、そんな感想を。


 常に前向きなキョウといると、ちっぽけな悩みなんて消えてしまいそうになるんですよ。

 お役目を終えたら、もう会う事もないのかな、と思うと少し寂しくなるぐらい。


 それでも、元の世界には戻りたいのですけどね。

 やっぱりまだまだ、人生楽しみたいですし。


「キョウ」

「なぁにぃ?」

「木苺、摘みに行こか」

「いいわよぅ」


 ぱ、と私から離れて微笑むキョウに、にっこりと笑い返します。

 上を見れば、突き抜けるような青い空。


 今日は、暑くなりそうだなと思いました。

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