神感覚は謎だらけ
硬直、してました。
唇が離れ、ヨミの顔が離れ、それでもまだフリーズしておりました。私が。
な、なななな何が起きたのでしょうか今!?
挙動不審になりまくる私とは正反対に、涼しい顔をしているのはヨミ。
整った顔を少しだけしかめ、その口元に手をやって言う事には、
「…なるほど、厳しいな」
言わんこっちゃない。コンニャク芋の破壊力はすっごいんですよ。
コンニャクは体に良さそうなイメージで定着してますが、何でも自然な状態が一番!とか言ってろくすっぽアク抜きもしないで芋を食べたらジ・エンドです。
自然、なめたらあきまへん。
それはさておき、必死で無表情を保ちながら、ふるふると痺れに耐えているヨミが、ひっぱたきたくなるぐらい可愛いです。
かく言う私も、コンニャクのダメージで唇がすごい事になっていますが、そこはそれ。生芋よりはマシってもんです。
「不意打ちは卑怯やで…」
そう言いながら、がしがしと袖で口元をぬぐっていると、ナギがすたすたとヨミの方に近付いて行きました。
「ヨミ」
耳聞こえの良い声で、ナギがその名を呼びます。
それから、ふっと指先に息を吹きかけたナギが、その指をヨミの唇に当てました。
ううむ、絵になりますね。すねてうつむくヨミも、微笑むナギも。
「無理はいけませんよ、ヨミ」
「兄上…」
「ヨミがやらなくても、私がいるんですから。ね?」
「兄上が出る幕でも、ないと思ったのです…」
ん? それって。
ヨミがやらなきゃナギがやるって事?
そんな予感に後ずさる私と、その私を見てにっこりと笑うナギ。
ゆ、指で触れるだけで足りるんじゃないんですか!? その笑顔は何ですか!?
「キョウーっ!」
「なぁにぃ?」
「日が昇り切る前に木苺とひゆ採りに行くから付き合ってー!」
「いいわよーぅ」
きゃっきゃと嬉しそうに駆け寄って来るキョウを盾にして、ヨミとナギの視界から隠れ…られない私。
残念、幅が違いました。
おのれ、スリム逆宝塚め。むしろ、キョウが細すぎるっちゅん。
「シキはアク抜き徹底しておいてっ、茹でたり干したり水さらししたりしりゃええからっ」
「はい。お戻りは? それと、キョウ様を連れて行くのはちょっと」
「戻りは夕方! あと、キョウには変なモン食わせたりせんって約束するから!」
「わかりました。行ってらっしゃいませ」
と、やっと承諾してくれたシキを残して、キョウを連れて本堂を飛び出す私。
途中で鳥避けのタラノキを持ち、縄を持ち、犬三匹も招いていざ山へ。
いいんです、頭が混乱した時は働くか動くのが一番だって、じっちゃんが言ってましたから!