こんにゃく七変化
見た目は煮込んだ芋、そのもの。
それにも関わらず、鍋の中の芋が粘りを増していたのです。
ゆでて柔らかくなるのはわかるけど、固まるとかびっくりだよ!
そう思って他の鍋をのぞき込むと、他は固まっておりませんでした。
「…なして?」
もくもくと立ち昇る蒸気に顔面サウナされながら、くるりと後ろを振り返ります。
と、調理に当たっていたシキとキョウが、そろって首を傾げました。
後から駆けつけてきたヨミも、ナギも、不思議そうな顔をしております。
改めて鍋の中を見て、ついでに、ちょんちょんと木べらでつっつく私。
「何か入れた?」
「灰汁を」
答えてくれたのはシキでした。
なんでも、あのピリピリを抜くために、灰汁を足してみたんだとか。
確かにタケノコゆでる時には定番ですもんね、わかります。
となると隣は米のとぎ汁か何かでしょう、それっぽい匂いもいたしましたし。
「これ、もうちょっと固くなるまで捏ねてみて?」
「はい」
「他にもまだ芋あったっけ? ゆでて潰して、灰汁足しておんなじようにやってみてえな」
「いいわよぅ」
にこにことキョウがうなずいてくれます。
それにグッドサインを送って、私はヨミとナギの方に歩いて行きました。
不思議そうな顔をする二人の手をそれぞれ取って持ち上げて…と。
「こう言う時はな、平手一発ずつかましたらええねん。お互いに」
笑顔で解決策を出した私に、なぜか固まる二人。
え、私なにか間違った?
「いやそこは」
「普通、和解の握手を求める場所じゃないのか?」
ナギ、ヨミ、の順に問い返され、今度は私が固まる番でした。
「…そう?」
うちのじーちゃん含む自治体の面々、取っ組み合いしてから酒飲み交わしてた気がするんですが。
おっかしーな、私の知る男の友情ってそんなものだったと思うのですが…。
ううむ、と真剣な顔で悩む私の手を、それぞれ外す二人。
何が悪かったんかなあ、と私が眉間に皺を寄せていると、シキが声を上げました。
「フク、さまっ…。これ以上は無理ですっ…!」
「うん?」
どうしたどうした、と近付いて行くと、鍋の中に大きな塊がもりもりと。
固いゼリーも顔負けのブルンブルゥンになったそれが、木べらに動かされまいと鍋に張り付いておりました。
これは。
これは…っ!
「フク様?」
「いやっほおおぅ!」
こんにゃくだ! これ間違いなくなくこんにゃくですよ!
芋茹でて灰汁足したらコンニャクになりましたよ! 私偉い!
と言うわけで記念に一口――
「みょおおおおおお!?」
渋い! 辛い! これさらにアク抜き必要なんとちゃう!?
誰ですか、刺身コンニャクなんて生で食べられそうな名前つけたのは!
と、今は遠い元世界のコンニャク名称にケチをつける私の後ろで、ナギとヨミがくすくすと笑っておりました。
「……。」
ちょっと睨んだ私を見て、やっぱり笑い合う二人。
なんか腹が立ちますが、仲直りになったのなら良しとしましょう。
いやそれよりも水です水、この痺れをどうにかしないと!
そう思って外に歩き出そうとした所で、ふに、と唇に何かが触れました。
……。
………。
――何が起きました? 今。
ヨミの顔が間近です。
うわー、睫なっがいですね。いや違う、今はそうじゃなくて違う違うこの状況は!
「――!!??」
思考が沸騰寸前です。
爆発しろ私! と思わず脳内に叫ぶぐらいには、心臓が16ビートを突破いたしておりました。